脇役剣聖、ニヤニヤする
時間はちょっとだけ巻き戻る。
会議が終わり、俺はサティと合流すべく立ち上がった。
いつもならラストワン、アナスタシア、フルーレ辺りが近寄ってくるんだが、喧嘩を売ったせいか来ない。三人ともバラバラに会議室を出た。
そのまま部屋を出ようとすると、団長とランスロットに引き留められる。
「待て、ラスティス」
「少しお話が」
「んん? 団長とランスロット……ははは、いがみ合ってたのに、なんか仲良しに見えるな」
「「…………」」
「に、睨まないでくださいよ。冗談冗談……で、何か用事っすか」
団長に言うと、頷く。
そして、ランスロットが説明。
「先日、兵士入隊試験がありまして、そこで『神スキル』に目覚めた少年が現れました」
「へえ、そりゃすごい」
「剣も握ったことがない、戦いとは無縁の生活を送って来た少年だ。母親に楽をさせたいという、ありがちな理由での入隊……ワシか、ランスロットの預かりか少し悩んだが、ラスティス……お前に預ける」
「え、俺?」
「ええ。あなたは、ラストワンとアナスタシアという、七大剣聖を育て上げた実績があります。彼……ルシオのことも、任せられるかと。それに、サティの神スキルを使えるようにした実績もありますしね」
「そういうことだ。ワシとランスロットは、別口で神スキル持ちを探す。いくつかアテもあるしな」
「その通り。ふふ、そちらはお任せしますよ、ラスティス」
「……それはいいけど、二人とも息ピッタリで会話してくるのな」
「「…………」」
よ、余計なこと言っちまった。
ルシオね、わかったわかった。弟子として迎えることにしますよ、はいはい。
◇◇◇◇◇◇
というわけで、資料をもらい軽く目を通し、ルシオを探すと……いた。
水色っぽいクセのついた白髪、顔立ちは少年だがどこか緩んだ顔をしている。身体付きは……ん~、可もなく不可もなく、かなあ。
微妙に頬を染めているし、エロいことでも考えてるのか? まあいいや。
「よっ」
「───っ!! お、お疲れ様です!!」
すっごく驚いてた……何だろう、挙動不審だな。
まあいいや。とりあえず挨拶だな。
「ルシオだったか。今日からお前は、俺の弟子だ」
「…………はい?」
「団長から聞いた。特別入隊した神スキル持ちの少年がいるってな。ふっふっふ……ルシオ、お前は俺が鍛えてやる!!」
「…………あ、ありがとう、ございま、す?」
そういや、男の弟子って久しぶり……ラストワン以来だな。
ちょっと困惑しているし、どっかでメシでも食いながら説明するか。
「あ、師匠!!」
「ッ!!」
「ん? おうサティか。会議終わったぞ、メシ食いに行くか」
「はい!! あれ? ルシオくん?」
「え、えと……さ、サティさん」
「……んん? ほうほう」
サティの出現に、ルシオは頬を染めた……ああ、なーるほどなあ。
こいつ、「ほ」の字か? くっくっく、若いねえ。
「ああ紹介しよう。俺の一番弟子のサティだ。サティ、今日からルシオは俺の弟子になったから」
「え、そうなんですか? えへへ、よろしくねルシオくん」
「は……はい」
緊張してる。若い若い、なんか俺まで楽しくなってきた。
「サティと一緒に修行、楽しみにしておけ」
「……」
さて、純情少年と一緒に、メシでも食いに行きますかね。
◇◇◇◇◇◇
「とりあえず、これからきみを強くするから、そのつもりで」
「ぼ、ボクの師が、な、なな、七大剣聖の一人『神眼』ラスティス様だなんて……か、母さんが知ったら腰を抜かすかも」
「ははは。俺、そんな大したモンじゃないぞ。気楽に行こうぜ」
「む、無理ですね……ははは」
ルシオは緊張していた……せっかく美味い大衆食堂に連れて来たのに、あまりフォークが動いていない。サティは美味しそうに肉と野菜の炒め物を食べているのにな。
ルシオは、サティをチラチラ見ていた。
「ん~おいしっ!! ルシオくん、師匠の訓練は厳しいから、いっぱい食べた方がいいよ。特に最初はあのツボ押しが……」
「潜在能力解放のツボはやらん」
「え……な、なんでです? あれやるとすっごく動けるのに」
「???」
サティは首を傾げ、ルシオは疑問符を浮かべていた。
俺はフォークを置き、ジョッキを掴んで水を一気飲みする。
「っぷは。お前の場合、神スキルが使えないことを差し引いても、アロンダイト騎士団での訓練である程度の『下地』ができていたから使えた。でもルシオの場合、特に訓練もしていない、平均的な十六歳の少年のままだ。そんな状態で潜在能力を解放したら、身体が耐え切れずに壊れちまう」
「そ、そうなんだ……」
「えっと、よくわかりませんけど、危険ってことは何となくわかりました」
「ああ。とりあえず、しばらくは基礎的な体力向上と、神スキルを実際に使用することだな」
食事を終え、俺とサティとルシオは、使っていない騎士の訓練場へ。
いつもは賑わっているが、騎士と兵士は外で訓練をしてしばらく戻ってこないので使わせてもらう。
目の前には、ドキドキと心音が聞こえそうなくらい緊張しているルシオ。
そして俺の隣にはサティ。
「さて、これから訓練を始めるか。では最初に……」
「質問!! ルシオくんの『神スキル』って何ですか?」
「……それを今から言おうとしたんだよ」
ルシオは少し苦笑い。
俺はルシオに言う。
「とりあえず、今の段階で何ができるか見せてくれ」
「は、はい。その……全然なんですけど」
ルシオが五指を開くと、親指に火が灯った。
「おお、火!! イフリータと同じ『神炎』ですか……って」
だが、人差し指に水の玉が、中指に風が渦巻き、薬指に地面から土が飛んでくっつき、小指に小さな氷の結晶が浮かぶ。そして左手の人差し植物の蔦が渦巻き、親指に電気が爆ぜた。
これには、サティも驚いていた……いや、俺も驚いた。
「えっと、『
「……すご」
「七属性。地水火風、氷草雷を操る神スキルか。こりゃ鍛えたらかなりのモンになるな」
嘘じゃない。マジですごいことになる。
七属性……それを極めたら、サティ、フルーレ、イフリータ、ロシエルの属性を一人で使うことができるようになる。
「鍛えがいがある。でもまあ、まずは筋トレ、体力づくり、剣の基礎からだな。ルシオ……厳しくいくけど、耐えられるか?」
「が……頑張ります」
「サティ、お前も姉弟子として鍛えてやれ」
「はい!! ルシオくん、一緒に頑張ろうね!!」
「は……はい!!」
うーん、純情少年には女の子の声援が一番効くかもしれんな。
◇◇◇◇◇◇
というわけで、まずはルシオの体力測定をする。
「ふんっ、ぎぎぎぎぎ……!!」
「ルシオくん、がんばれがんばれ!!」
「は……っはぃぃぃ!!」
「うーん……」
腕力を見るため、筋トレ用の砂袋を持たせようと思ったが、持ち上げられない。
俺が十六歳の頃、ギリで盛り上げられた重さだが……無理か。
魔力を身体に流して身体強化すれば持てるだろうけど、ルシオはそこまで精密な魔力操作はできないようだ。
サティの応援に応えようとするけど、あまり無理されてギックリ腰にでもなったら悪い。
「そこまで。腕力は年相応ってところか」
「うう……」
「大丈夫? お水飲む?」
「あ、い、いただきますっ!!」
サティに「ルシオくんの世話をしろ」って言ったら、かいがいしく世話をする。くくく、いいねいいね、というかサティが全く意識していないけど。
サティが水を飲むルシオの頬を手ぬぐいで拭い、ルシオが赤くなって照れている……う~ん、若いねえ、青春だねえ。
「よし、次は持久力、その次は柔軟性をチェックするぞ」
「は、はい」
「あの師匠、あたしは?」
「お前はルシオの補佐。姉弟子として、かいがいしく世話してやれ」
「姉弟子、お世話……よーし、お任せください!! ルシオくん、あたしにできることはなんでもしますので!!」
「は、はいっ……」
サティは、顔をズイッと近づける。
ルシオは目を逸らす……ふふふ、このまま二人がくっつくのもいいかもしれんな。
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