七大剣聖『神増』ラストワンVS猛虎四凶『棘虎』トウテツ

 ラストワンは、舌打ちをした。


「チッ……めんどくせえ野郎だぜ」


 ラストワンの周囲には、無数の『牙』が地面から生えていた。

 そして、地面だけではなく、何もない場所からいきなり『牙』が生えてくる。

 狙いは、ラストワンの顎。ラストワンは首をひねって牙を躱す。

 すると、大きな『牙』の上に座っていたトウテツが笑う。


「きししっ、オレの『棘虎ノ森イバラコノモリ』はどうだい? オレの作ったこの世界には、オレの思うままに『牙』を生やすことができる。というか、アンタすっげぇよ。初見で『牙』を回避したヤツなんて、兄貴や親父以来だぜ」


 長い髪に隠れて顔が見えないが、ギザギザの歯が生えている口は楽しそうに避ける。

 ラストワンは、すでに『理想領域ユートピア』に捕えられていた。


「こいつが、魔族の領域か……自分に有利な世界って話だが、有利とかクソもねぇな。まさに必殺の空間だぜ」


 すでに、仲間の騎士は全滅した。

 騎士たちは決して弱くない。ボーマンダの訓練を受け、七大剣聖のお供にと選抜された騎士たちだ。だが、領域に囚われた瞬間、四肢に牙が突き刺さり、最後は頭部に牙が刺さって全員が死亡した。

 ラストワンは、騎士たちを見て舌打ちする。


「あれれ? 仲間死んで怒った? わりーね、オレの領域、マジ強いからさ」

「かもな。でも、チクチク《牙》を生やすだけの領域じゃ、オレは殺せないぜ」


 ラストワンは、両手に曲刀を持ち器用に回転させる。

 そして、さらに二本生み出しては投げて回転させ、投げては回転させるのを繰り返し、空中で六本の曲刀を回転させる。


「『SPIRALスパイラルCUTカット』!!」


 回転させた曲刀をトウテツに向かって投げるが、トウテツは牙に座ったままだった。

 どこからともなく現れた《牙》が、曲刀を叩き落した。

 そして、投げた瞬間、ラストワンの右腕に牙が突き刺さる。


「ぐっ、あっ……!?」

「今度は避けれないだろ。皮膚のスレスレに《牙》を生やした。絶対に避けれない」

「ぐっ……」


 ラストワンの腕から血が流れる。

 そして、何かを言う前に右足にも《牙》が刺さる。


「ぐぉっ、っぁ!?」

「右足~……次、どこがいい? 腕? 足? 腹? ああ、心臓と頭は最後にしてやるよ。アンタ、けっこう強いみたいだし、敬意を払ってやる」

「はっ……それの、どこが敬意だっつーの」


 ラストワンは考える。

 剣を大量に生み出し投擲しても無駄だった。近づいても無数の牙が進行を妨げる。敵は自分を舐めている。接近戦は牙に阻まれほぼ不可能。

 ここまで考え、舌打ちする。

 その舌打ちを、トウテツはしっかり聞いていた。


「あれれ、手はもうないのかな? あんた、物を増やすスキル持ってるみたいだけど、いくら剣を増やして投げても、オレには絶対に届かないよー」

「……かも、な」

「じゃー、オレそろそろ、別なの狩るから」


 パチンと、トウテツが指を鳴らす。

 それと同時に──……ラストワンは『切り札』を使うことを決めた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ズドン!! と、ラストワンの額に牙が突き刺さり、そのまま崩れ落ちる。


「はい、おしまい」

「ほほー、おしまいね」

「へっ?」


 聞こえてきたのは、ラストワンの声。

 思わず振り返ると、そこにいたのは……無傷のラストワン。

 ラストワンは、ラストワンの死体・・・・・・・・の傍にしゃがみ込み、自分の死体を指でツンツンしている。


「なっ……お前、まさか!! 自分を増やし・・・・・・やがったのか・・・・・・!?」

「正解。ざっと、こんな風にな」


 ラストワンが指を鳴らすと、どこからともなくラストワンが現れる。

 トウテツの《牙》と同じ、地面から、空中から、ラストワンが現れる。

 全員が同じ、そして、全員が曲刀を抜いてクルクル回転させる。


「わかるか?」

「こいつがオレの切り札」

「自分を増やす『UnlimitedアンリミテッドDopperドッペルlgangerゲンガー』」

「オレは、いくらでもオレを増やせる」

「さぁ、お前の牙とオレ、どっちが多く出せるか」

「いっちょ勝負してみるか?」


 ラストワンが現れる。ラストワンが現れる。ラストワンが現れる。

 そして、全員が曲刀を抜き、増やし、器用に回転させる。

 増やしたラストワンも『神増』を使えるのか。この場に曲刀が何百、何千と生み出されては回転する。


「く、くっ……お、おもしれえじゃん!! いいぜ、オレも本気出してやるよ!!」


 トウテツが立ち上がり、虎のように威嚇をする。

 すると、周囲に大量の『牙』が生み出された。

 ラストワンは、剣を回転させながら言う。


「じゃあ、やるか──……言っておくけどよ、オレはオレ自身でも、自分の限界なんてわかんねーんだ。楽しもうぜ」


 ◇◇◇◇◇◇


 何分、経過しただろうか。

 全身に曲刀が突き刺さり、心臓部分に曲刀を受け『核』が損傷したトウテツが、地面に倒れていた。

 周囲には、数百、数千のラストワンが倒れ……全員が、牙を受けて死んでいた。

 残ったラストワンは、七人。

 その内の一人が言う。


「すげぇなお前。オレの限界まで、あと一歩……ってところだぜ」

「……マージで? ははっ」


 ボロボロと、身体が崩れていくトウテツ。

 核が修復不能まで損傷し、もう助からない。

 ラストワンは、トウテツの傍にしゃがみ込んで言う。


「最後、何かあるか?」

「……はぁ? なに、同情?」

「ちげぇよ。命賭けて戦ったモンに対する敬意だって」

「…………はっ」


 トウテツは、残った全ての力を使い……右手を持ち上げ、中指を立てた。


「……アホ。馬鹿。死ね。カス。クソ野郎……でも、楽しかったかもね」


 それだけ言い、全ての力が抜け……トウテツは、塵となって消滅した。

 その様子を最後まで見守り、ラストワンは言う。


「悪口とはな。最後まで魔族らしかったぜ」


 そして、立ち上がり……七人のラストワンたちは、剣を抜く。


「じゃ、決めるか」

「ああ」

「この技使うと、こうなっちまう」

「誰が『ラストワン』になるか」

「最後、戦って決めるしかねぇんだよな」

「あーあ……ラスには言えないぜ」

「ま、いいだろ。じゃあ……やるか」


 七人の『ラストワン』たちは、誰が『ラストワン』になるかを決めるために、戦い始めた。

 ラストワンの切り札、『UnlimitedアンリミテッドDopperドッペルlgangerゲンガー』は、自分を無限に増やす。

 だが、増やした『ラストワン』は、全員が『ラストワン』本人なのだ。

 だから……全てが終わった最後、『最後の一人ラストワン』を決めなくてはならない。

 残った一人が、何食わぬ顔で『ラストワン』を演じなければならない。

 ラストワンが、ラストワンを殺し……『最後の一人ラストワン』が、ボロボロの状態で立っていた。

 同時に、数千あるラストワンの死体が、塵となって消えた。


「あーあ……だから使いたくねぇんだよな、この技」


 結局、ラストワンはボロボロの勝利となり……仰向けに倒れるのだった。

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