脇役剣聖、護衛する

 さて、ミルキィちゃんを護衛することになった。

 サティたちは休暇を満喫して、俺は護衛……うん、大人だしな、働きますよ、はいはい。

 ってわけでミルキィちゃんに挨拶した翌日。俺は地下へ。

 地下では、祭り最終日のステージに向けて、楽団員たちが練習していた。


「はいそこ声出してー!!」「半音ずれてる、やり直し!!」

「そこ、テンポ合わせて!!」「呼吸合ってないよ!!」


 すごいな、踊ったり楽器合わせたり歌の練習してる。

 さて、護衛対象のミルキィちゃんは……お、あれか?


「おいっす。ミルキィちゃ……」

「おっはようございまっす!!」


 声を掛けると同時に、勢いよく紙袋を被った……え、なにこれ。

 

「あ、ああおはよう。あの……紙袋」

「いやぁ、今日もお化粧のノリがいまいちでっ」

「そ、そうか……それで歌うのか?」

「ええ。オジサマ、今日はずっと地下で練習するから、護衛いらないよっ?」

「いやあ、そういうわけにはいかないよ。ささ、俺のことは気にせず、歌って歌って。ミルキィちゃん、楽団で一番の歌姫なんだろ? 俺も聞いてみたいな」

「え、えっと~……ちょっと待ってね!!」


 ミルキィちゃんはダッシュで衝立の裏に隠れ、一分ほどで戻ってきた。

 帽子、色眼鏡を被って顔を隠している……素顔見せたくないのかね。


「ふふ、じゃあ歌の練習するねっ!!」

「ああ、じゃあ俺は見てるから」


 冥狼斬月を外し、肩に担いで壁際に座る。

 さっそく、ミルキィちゃんは歌い出した……まずは発声練習。

 喉の調子を確かめたあと、歌い出す……専門的なことはわからんけど、上手いと思う。

 それから二時間ほど練習をすると、演劇指導をしていた楽長が来た。


「ミルキィ、そろそろ喉を休めた方がいい。せっかくだ、ラスティスさんと街でも散歩してくるといいよ」

「え、えぇ~? でもでも、わたし狙われてるんじゃ」

「まあ、俺がいるから大丈夫だよ。俺が『見張れば』問題ない」


 『神眼』で周囲を見張れば、路地裏にいる猫のクシャミだって察知できる。

 楽長はウンウン頷く。


「それに、気分転換に祭りを見るのもいい。ここに来てからずっと、練習漬けだろう? 他の団員たちはみんな気分転換してきたしな」

「う、うん……じゃあ、少しだけ」


 ミルキィちゃんは、俺をチラチラ見ながら頷くのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ミルキィは、自室で外着に着替えていた。

 帽子をかぶり、色眼鏡で変装……歌姫なので変装は必須だが、別の意味でも必要だった。


「ラスティス・ギルハドレット……ボクに気付くかな」


 つい、いつもの癖で『ボク』と言ってしまう。

 七大剣聖の時は無言、ミルキィの時は『わたし』で、素のロシエルの時は『ボク』になる。

 鏡を見ながら、ため息を吐いた。


「参ったなぁ……ラスティス・ギルハドレットとは何度か任務で一緒になったことあるし、ボクに気付くかもしれない。ミルキィに成り切ってどこまで誤魔化せるか」


 ロシエルは首をブンブン振り、部屋の片隅に置いてある細い包みを見る。


「……剣、どうしよ」


 七大剣聖の武器である剣は持ってきた。

 身元がバレないように、普段使っている剣ではなく、予備の予備の予備である鉄の剣だが。

 だが、歌姫が剣を持っているのはおかしい。


「……ラスティス・ギルハドレットに全部任せるしかないかな。それに、いざとなったらこっそり『神器』使えばいいか」


 そう呟き、ロシエルは目を閉じ……ゆっくり開けた。


「よしっ、ミルキィいっきまーっす!!」


 ニコッと鏡の前で笑顔を作り、部屋を出た。

 一階に降りると、玄関の前にラスティス・ギルハドレットがいた。

 欠伸をして、背伸びをしている。

 ミルキィを見ると、軽く手を振った。


「よし、じゃあ行こうか。ミルキィちゃん、お昼まだだろ? おっさんが奢るよ」

「やたっ、ありがと、オジサマ♪」


 ラスティスの腕を取り、ちょっとだけサービスするのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「っつーわけで、来たぜギルハドレットの街!!」

「は、はあ……」


 スレッド、マッソンの二人は、偵察としてギルハドレットの街に来た。

 現在、町は祭り一色。マッソンは周囲を見渡す。


「いや~……すごい人だ。ボス、マジでこん中でミルキィちゃんとクレッセント商会の商会長を誘拐するんすね」

「大馬鹿。往来で誘拐とか言うんじゃねぇ。まあ……やるけどな」


 スレッドはニヤリと笑う。

 どこか怪しい笑み。だが、スレッドを見ていた女性たちが、キャアキャア言いながら顔を赤らめていた……そう、スレッドは普通に見れば、誰もが認める美青年なのだ。

 マッソンは言う。


「とりあえず、クレッセント商会の下見、行きますか。シェリーの調査は信頼できるけど、やっぱ現地でナマで見ておかねぇと」

「おう。オレはミルキィちゃん、お前はクレッセント商会長……頼むぜ、マッソン」

「はいよ。まあ、ボスは派手にやってくださいよ。その隙に、オレらが商会長を……って手筈ですから」

「ああ、ハデなのは大好き───……」


 と、スレッドが急に立ち止まった。

 いきなりのことで驚くマッソン。


「ぼ、ボス? どうしたんすか」

「…………」

「ボス?」

「…………嘘だろ」


 スレッドがあらぬ方向を見ていたので、マッソンもその方向を見る。

 そこにいたのは……。


「ん~おいしいっ!! 肉串最高ですっ!!」

「あなたね……女の子なんだから、もう少し見栄え気にしなさいよ」

「あ、あはは……でも、サティらしいですね」


 銀髪の少女、青髪の少女、緑髪の少女が並んで歩いていた。

 銀髪の少女は両手に肉串を持ちモグモグ食べ、青髪、緑髪の少女は飲み物片手に歩いている。

 スレッドの視線は───……銀髪の少女、サティに向いていた。


「ぼ、ボス?」

「……かわいい」

「え」

「マッソン、オレ……見つけちまった。ミルキィちゃんと同じ、運命の子を……」

「え……う、運命の子?」

「あの銀髪の少女……オレ、惚れちまった」

「…………冗談ですよね、って!?」


 スレッドは一瞬で、サティの前へ。


「ヘイ美しい銀髪のお嬢さん!! 祭りを楽しんでいるかい?」

「はい、すっごく楽しいです!!」

「サティ。怪しい男の質問に答えないの」

「あの……何か御用ですか?」


 青髪の少女ことフルーレがサティを背に隠し、緑髪の少女ことエミネムが質問に答える。

 スレッドは、髪を掻き上げ、歯をキラっと光らせた。


「失礼。オレはスレッド……お嬢さん、キミに惚れちまった。どうだい、オレと一緒に、美味い焼き肉でも食べないか?」

「焼肉!! いいですね!!」

「だから、怪しい誘いに乗らない!!」

「あう」

「……申し訳ございませんが、急いでますので」

「おいおい、待って待って。怪しいモンじゃあないって。よく言うだろ、イケメンに悪人なし、ってな」

「「…………」」

「うーん、お兄さん悪人には見えませんけど。フルーレさん、エミネムさん、奢りみたいだし行きません?」

「話がわかるね!! もちろん奢りだ。どうだい?」

「フルーレさん、エミネムさん……焼肉、行きたいです」

「……はあ。わかったわよ」

「まあ、いざとなればどうにでもなりますしね……」

「よし決まり。サティちゃん、行こうぜ!!」

「はいっ!!」


 サティは、スレッドと並んで歩き出し、楽しそうに笑っていた。

 すると、頭を押さえたマッソンが近づき、フルーレに言う。


「あの……申し訳ないっす。うちのツレが、その」

「……あなた、苦労してそうね」

「あ、あの、二人、行っちゃいますけど」


 こうして、サティとスレッド。エミネム、フルーレ、マッソンの五人は、焼肉へ行くことになった。

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