脇役剣聖、再び呼び出し

「あー……」


 俺のテンションは下がっていた。 

 執務室で手紙を読み、そのままリビングに戻る。ソファでだらけていると、風呂上がりのサティが髪をごしごし拭きながら現れた。


「ふぁー!! お風呂、最高でした!! あれ……師匠、もう入ったんですか?」

「まだ。アルムート王国から届いた手紙見てテンションただ下がり。マジでかったるい」

「え? まさか……呼び出し、ですか?」

「……ああ」


 俺は手紙をテーブルに放る。

 するとサティが俺の対面に座り、手紙を読み始めた。

 それにしてもこいつ……いい香りするな。ああ、ケインくんがサービスで、王都で流行している石鹸や髪用石鹼を大量にくれたんだっけ。

 俺もこの後、同じやつ使うが……たぶん、こんな匂いしない。

 それに、風呂上りで薄着だ。しかもコイツ下着付けてないのか、大きな胸の存在感がすごい。ガキっぽいくせに、身体はしっかり大人だな。


「王都に呼び出し……上級魔族に関して、報告せよ? え、報告書送ったんじゃ……しかも、一か月くらい経過してるし」

「たぶん、フルーレとかが気を利かせたんだろ」


 あいつも報告書出すって言ってたしな。そこで『怪我で療養』とか上手いこと書いてくれたんだろ。そういや、フルーレとか元気かな。

 まぁ……絶対、呼ばれるとは思ってたしな。仕方ないか。

 すると、屋敷のドアがノックされた。やって来たのはケインくんだ。


「夜分遅くに申し訳ありません。ラスさん」

「いやいや、どうぞどうぞ。ささ、お茶の支度を……」

「師匠、立派なお風呂作ってもらってから、ケインさんへの気遣いハンパじゃないですね……」

「あ、あはは……おかまいなく」


 ケインくんは、護衛のマルセイくんと一緒に来た。

 何をしに来たのか聞くと。


「一度、王都に戻ります。復興は順調ですし、公衆浴場もあとは建設するだけ。田畑、水源も回復しましたし、もう大丈夫かと」

「そうか。と……グレムギルツ公爵代理ケイン殿。改めて感謝申し上げます」

「いえ。こちらこそ、貴重な物を頂きましたし……あなたに会えてよかったです」


 ケインくんはニッコリ笑った。うん、やっぱりいい人だ。


「あれ、帰るのは王都? それとも、グレムギルツ領地?」

「王都で溜まった仕事を片付けてから、領地で溜まった仕事をします。三か月くらいは仕事をしなくても大丈夫な感じに仕込んだんですけど、そう上手くはいかないですねえ」

「そ、そうか……」


 さ、三か月分の仕事をしてから、こっちに来たのか。

 俺なんて、その日その日で精いっぱいなんだが……うむむ、すごい。


「あ、それとお願いがあって来たんです。ギルハドレット領地に、うちの商会の支部を置いていいですか?」

「え? ああ、そんなことか。村は俺が管理してるけど、ギルハドレットの方はホッジとフローネに任せてる……まぁ、ダメとは言わんだろ」

「ありがとうございます。ああ、うちの商会を置くと言っても、ギルハドレットの秩序を乱すつもりはありませんので、ご安心ください」

「……おう!」


 すまん、商会とかに関して俺はわからん。

 ケインくんは書状を懐から出した。この書状と、俺が『ケインくんがギルハドレット領地に商会置くぜ。領主の俺が許可したぜ』って書状を書いて、フローネに届ければいいらしい。

 ま、その辺はギルガに任せる。

 するとサティが言う。


「あれ? ケインさん、王都に戻るんですよね?」

「うん、そうだけど」

「だったら師匠、一緒に行くのはどうですか? 師匠も、王家に呼び出しですもんね」

「呼び出しとか言うなよ……悪いことしたみたいだろうが」


 俺、何も悪いことしていない……はず。

 団長にちょっとキレたけど、何もないし。

 復興で忙しくて、団長のことすっかり忘れてたってのもある。

 ケインくんは嬉しそうに言う。


「じゃあ、一緒に行きましょうか。マルセイ、道中の魔獣はラスさんに任せて大丈夫そうだ。むしろ、ラスさんの剣をよく見ておいた方がいいぞ」

「そりゃいいな。オレも興味ある」


 いや、魔獣俺が戦うの決定かい……いいけど。

 あ、一応確認しておかねば。


「おいサティ。お前はどうする?」

「え?」

「王都。王城に入れるのは俺だけだし、お前は宿で待機してもらうことになるが……王都、あんまりいい思い出、ないんじゃないか?」

「…………えへへ」


 と、なぜかサティはニヘッと笑った。


「師匠が、あたしを気遣ってくれるの、うれしくて」

「あ、ああ。そりゃどうも」

「でもでも、大丈夫です。確かに辛い思いでありますけど……いい思い出もいっぱいあります。パン屋のおばちゃんとか、武器屋のおじさんとか、飴ちゃんくれるおじさんとか」


 おい、最後のなんだ。

 でもまぁ、思い出があるなら大丈夫か。それに……今のサティはけっこう強い。


「わかった。じゃあ、一緒に行くか」

「はい!!」

「ふふ。ではラスさん、サティさん。王都までの護衛、お願いします」


 というわけで、ケインくんたちと一緒に王都へ行くことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺、サティ、ケインくん、マルセイくん。そしてケインくんの商会の人たち十名が集まった。

 人間が乗る馬車が二台、荷物を運ぶ荷車が三台ある。けっこうな大所帯だ。

 マルセイくんは、商会の人たちに指示を出し、ケインくんは俺の元へ。


「あの、ラスさん。先ほど仕入れた情報なんですけど、どうやら近くで盗賊が出たらしいです」

「ほう」

「うちは見ての通り、けっこうな荷物を運ぶので、もしかしたら」

「ああ、大丈夫。その時は俺が……いや、俺とサティで戦う」

「……大丈夫なんですか?」


 この『大丈夫』は、俺じゃない、サティに対する『大丈夫』だ。

 サティをチラッと見ると、商会の女性と一緒に、運搬用の馬に水を与えていた。女性がニンジンをサティに渡し、馬に食べさせては笑い合っている。


「あいつは優しい。でも、強くなるには『一線』を超えなきゃならない時が必ず来る」

「…………」

「ま、大丈夫だろう。いざという時は、俺が助ける」

「……はい」


 ギルガたちに見送られ、俺たちは王都に出発するのだった。

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