Five Finger Death Punch - Welcome To The Circus

 雨風強まる梅雨の季節──台風も散発的に訪れ始めているようですが、皆さん如何お過ごしでしょうか。僕はといえば今日、10年以上使い続けてきたぼろぼろのSuica(JR東日本の交通系ICカード)を、ズボンのポケットに入れたまま性懲りもなく何度も洗濯機にぶち込んでしまったせいで遂に壊してしまったので、みどりの窓口の長蛇の列に加わって再発行してきました。悲しいかな、僕のSuica君は、洗濯機という暴風雨には耐えられなかったようです……。


 これ、僕の住んでいる地域周辺に限った話なのかもしれないですけど、何故みどりの窓口って受付が1つしかないんですかね。おかげで列の進行は亀の歩み、手続自体には1分と掛からないのに、30分近く待たされる始末で、どうにも納得いかないんですよね……。


 僕のSuicaは彼此5回以上も洗濯機ダイブを繰り返したのですが、しぶとく改札のリーダーには反応していたんですね。だから今まで通り使い続けることができるだろうという甘い考えで、ぼろぼろのカードを片手に今日も電車に乗ろうとしました。しかし、ここで1つの問題発生──そう、残高がなくなれば当然チャージが必要になるので、券売機にカードを通そうとしたんです。すると、けたたましい機械音と共にエラーメッセージが。どうやら機械を詰まらせてしまったようで、その場で対応してくださった駅員さんにこっぴどく叱られてしまいました……。


「困るんだよねぇ、こういうの。(くどくど)」

「本当にすみません……。(アセアセ)」

「君、急いでいるの?(ニコニコ)」

「は、はい……? お手数をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。(ペコペコ)」


 以上のようなやり取りが数分間繰り返された挙句、僕は電車を何本も逃して遅刻確定の絶望に打ちひしがれました。年配の駅員さん──貴方は何故、不敵な笑みを浮かべながら僕が急いでいることを確認した上で、何分も説教を続けるのでしょう。迷惑を掛けられた分、僕にもしっぺ返しをということですか。カードを壊したことも、駅員さんの手を煩わせてしまったことも、遅刻ギリギリに家を出たことも、全て僕が悪いのですが、この仕打ちは。ぐぬぬ……。


 そんな日常のフラストレーションを抱えてやって来ました第52回ですが、今回はアメリカ・ネバダ州ラスベガス発のヘヴィメタル・バンド──Five Finger Death Punchから『Welcome To The Circus』をお届け致します! 日頃の鬱憤は音楽で発散するに限りますよ、うん。


 おっとその前に、まずは恒例バンド紹介から。2005年に結成されたFive Finger Death Punchのオリジナルメンバーは現在、同国のロックバンドであるU.P.O.の元ベーシストで現ギタリストのZoltan Bathoryのみとなっており、メンバーの入れ替えが激しいバンドですが、その人気は衰えるところを知りません。2007年にデビュー・アルバム『The Way of the Fist』をリリースすると、まずは本国アメリカで50万枚以上のセールスを記録して、その名を全米に轟かせます。2年後、続く2ndアルバム『War Is the Answer』は100万枚以上を売り上げ、さらに2年後リリースされた3rdアルバム『American Capitalist』と共にプラチナ認定を受けるなど、コンスタントにファンを獲得していきます。


 そして、2018年の7thアルバム『And Justice for None』に至るまで、全てのアルバムがゴールドないしプラチナ認定を受けるなど、その実力は折り紙付き。Five Finger Death Punchが10年間で最も成功したヘヴィメタルバンドの1つだと称される所以ともなっております……! 要するに、どのアルバムから、どの楽曲を掻い摘んで聞いてみても全くハズレがないということです。Five Finger Death Punchを初めて知った方も、そうでない方も、聞いたことがない楽曲に挑戦してみてください!


 では、音楽を人にお勧めする立場として、偶にはなるべく誰も聞いたことのない曲をチョイスしてみようと思い立って選んだのが、昨年リリースの最新アルバム『AFTERLIFE』に収録されたトップバッター『Welcome To The Circus』でございます。──いや、むしろFive Finger Death Punchをこよなく愛する人にとって、最新アルバムはかえって積極的に聴こうとするのかも……。


 見切り発車ではございますが、もう電車を逃すのは懲りごりなので飛び乗りましょう! でも、安心してください! 『AFTERLIFE』は、Zoltan Bathory曰く「これまで作ってきた中でも断然好きなアルバム」とのことですよ。さらにZoltanは「自分たちにとって9枚目のアルバム──つまり現時点で俺たちは大勢のファンに恵まれ、独自のサウンドを確立できてるってこと。だからアルバムを作り始めたときは、目の前に広がる音楽の冒険に心が躍った。好きなだけ逸脱しても構わないと思ったし、やりたいことをぶつけられる自由があった。そして完成した作品は、これまでのレコードに比べて遥かに多彩でありながら、より統一感のあるものになっていたんだ。コンセプトアルバムを目指したつもりはないけど、メンバーの描いた絵が一体になって、いつの間にかそういう作品になってたんだ」と述べており、やりたい放題の大暴れの果てに最高の作品が出来上がったことを示唆しています!


 酸いも甘いも噛み分けてきたバンド唯一のオリジナルメンバーからの太鼓判もあることですから、ここは自信を持って『Welcome To The Circus』を翻訳して行きたいと思います。メリケンサックを五指に嵌めて繰り出されるデス・パンチの衝撃を恐れずに、右頬を殴られた後はにこやかに左頬を差し出しましょう(笑)。


[Intro(0:21~)]

「サーカスへようこそ」


[Verse1(0:36~)]

「最悪のショーを御覧に入れよう」

「狂った見世物小屋らしくな」

「帽子は憎しみと一緒にドアに掛けておけ」

「拷問ゲームの開幕だ」

「俺たちの魂はオーダーメイドだからな」

「お前の望む全てを掛け合わせても足りない」


[Pre-Chorus(0:49~)]

「誰かを刺激したいなら誰かを犠牲にしなきゃな」

「血を流すにも理由が要るんだ」

「誰かを知りたいならそいつを犯してやれば良い」

「俺はそんなクソ野郎になれないけどな」


[Chorus(1:03~)]

「俺だけか?」

「嘘に靡かないのは」

「俺だけだってのか?」

「仮面を被らないのは」

「もし打ち砕けないなら」

「もし変えられないなら」

「教えてくれ、知りようがないだろ?」

「俺だけか?」

「ショーに身を捧げているのは」

「サーカスへようこそ」


 ──堪らんですな―! この訳の分からないカオス感が良いんですよ。


 ここからは僕なりの歌詞の解釈をば。「サーカスへようこそ」と言っている主人公は、不特定多数の人々に向けて何かを訴えているようです。サビのフレーズからも分かる通り、世の人々は仮面を被っているかのように嘘によって自らを偽り、知らず知らずのうちに見えない壁を隔てて共生している。その障害を打ち砕けず、その現状を変えられないのだとしたら、人の内面なんて知ることができない。そんなのはつまらないじゃないかと。


 有り体に言えば「お前ら、もっと解放的になっちゃえよ」的なメッセージが込められていそうです。「帽子は憎しみと一緒にドアに掛けろ」とは、このショー(音楽)において、ネガティブで邪魔臭い感情は持ち込み厳禁、ただ純粋に楽しめよと、そう言うことではないでしょうか。Fワード連発の過激な歌詞ではあるのですが、その内容を紐解いていくと、そこには意外と人情味があるような気がして、温かさが感じられます……!


[Verse2(1:37~)]

「好きな石ころを拾いな」

「奴等は骨を折るために来たんだ」

「お前が盲目的に全てを受け入れようとするから」

「言い訳は見苦しいぞ」

「誰も勝てやしない」

「死ぬ以外の方法ではな」


[Pre-Chorus(1:51~)]

「教訓を得るためには誰かを燃やすんだよ」

「誰もが内面にジキルとハイドを飼ってるからな」

「誰かを傷つけたいなら呪えよ」

「どいつもこいつも死にたがりさ」


[Chorus(2:05~)]

繰り返し


[Bridge(2:39~)]

「顔を隠さなきゃいけないんだもんな(奴等が買いたいものなんて売っちまえ)」

「(奴等に知らしめてやると良い)」

「生きてる証を隠さなきゃいけないもんな(これが奴等のやり方なんだ)」

「(やられる前にやるんだよ)」

「痛みすら隠さなきゃいけないもんな(醜く支配されてる)」

「(それが奴等のやり方だ)」

「怒りすら隠さなきゃいけないもんな(誰もが手にする)」

「(サーカスへようこそ)」


[Bridge(3:13~)]

「チクタク、タスケテ」

「棺桶を焼く時間だ」

「この畜生を焼いてしまえ」


[Chorus(3:22~)]

繰り返し


 止め頃が分からず、最後まで一気に翻訳してしまいました。2番からは"you"の他に、謎の存在"they"が登場します。思うに、真の自分を隠そうと仮面を被っている人々("you")に、そうせざるを得ない状況を生み出している要因(世間の同調圧力など)を示唆しているのではないでしょうか。"No"と言うことができず、まるで契約書を細部まで読まず盲目的にサインする("sign on the line")かのように何もかもを受け入れ、自分の足で立とうとしない"you"たちの骨を折りに来た存在──それこそが"they"なのです。


 歌詞中に登場したジキルとハイド(Jekyll and Hyde)は、スコットランド生まれの作家・Robert Louis Stevensonの代表作として非常に有名ですね。簡単に言えば、人には誰しも多かれ少なかれ、善と悪の二面性があるということでしょうか。


 ブリッジの部分では、人々に対して「顔を隠して、生きてる証である怒りや痛みすら隠して、そんなので良いのか」というメッセージが皮肉たっぷりに表現されている一方で、括弧の中では示唆に富んだアドバイスが囁かれているんですね。飴と鞭を交互に、気付きを与えてくれるツンデレメタル──そう解釈しても怒られませんかね……?


 最後の方、とある一節に"tasket"という単語が出てくるのですが、これって日本語の「助けて」であってますかね……? 次の「棺桶("casket")」で韻を踏んでいるところを見るに、スペルミスという訳でもなさそうですが、どうなのでしょう。もし全然違ったらすみません(笑)。


 長くなりましたが、今回もこれにて終了です。お疲れ様でしたー! Five Finger Death Punchのバトンを受け取って、次回はFive繋がりで"5"に所縁のある、あのアーティストを紹介させて頂きたいと思いますので、乞うご期待!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はFive Finger Death Punch - Welcome To The Circusから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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