Sex Pistols - God Save the Queen

 突然ですが、海外の通販サイトって面倒臭いですよね。支払いの手続も煩雑で、何かトラブルが起きようものなら担当者と英文でメールのやり取りをしなければならない……。僕はつい先日、セールで20ドルほど安売りされていたNirvanaのデニムジャケットを公式サイトで購入したのですが、相次ぐトラブルで到着が遅れ、ようやく届いた頃にはなんかもう関東近郊は暑くなってきてるし……。


 はい、つまらない日常の愚痴はさて置いて、第39作目となる今回ご紹介するのはイギリス・ロンドン出身のパンク・ロックバンドであるSex Pistolsから『God Save the Queen』です。MLBで大活躍中の大谷翔平選手の投球のように緩急の利いたチョイスに驚かれた方も居るでしょう。敢えて理由を述べるなら、本作もめでたく次回は第40作目。某イタリア人によれば4って数字は縁起が悪いので、Sex Pistolsを紹介するなら今のうちということです。


 久しぶりのジョジョネタをぶち込んだところで、バンド紹介です。とはいえ、Sex Pistolsの破天荒な強烈エピソードの数々は言わずもがな、とても有名ですよね。英国王室や政府を攻撃するような歌詞が特徴の反体制的パンク・ロックミュージックは、左翼を中心に絶大な人気を博し、彼らの奇抜な身形は後のファッション業界にも影響を与えるなど、その評判は色々な意味で折り紙付きです。もっとも、右翼からの印象は非常に悪く、デビュー当初からバンドメンバーを敵視していた保守層によってライブの中止運動が勃発したり、ボーカリスト・Johnny RottenことJohn Lydonやドラマー・Paul Cookの襲撃事件が発生したりなど、偏った思想が色濃く反映された音楽性に異議を唱える層からの妨害行為は枚挙に暇がありませんでした……。


 それでも、米・Rolling Stone誌の「史上最も偉大なアーティスト」で60位に選出され、2006年に米・Rock and Roll Hall of Fame入りを果たすなど、バンドとしての実力は疑いの余地もありません! しかし、後者についてSex Pistolsは公式サイトにて直筆メッセージを公開して賞そのものをぼろくそにこき下ろした挙句、史上初めてロックの殿堂入りを拒否したアーティストとなりました……。


 そんなSex Pistolsを象徴する楽曲として、今回ご紹介する題材として選ばせて頂いたのは、ほとんどの英連邦王国及びイギリス王室属領で使用されている賛歌であり、英国国歌として位置づけられているものと同名の曲でもある『God Save the Queen』です。Sex Pistolsを語る上で、避けては通れない1曲でございます。


 例えば、イギリスの大手レーベル・EMIと契約したSex Pistolsは、1976年に『Anarchy In The U.K.』をリリースした際に、メディアのインタビューでF・S・Cワードを連呼したことがきっかけで契約を破棄されたのですが、その後契約した米・A&Mレコード在籍時にレコーディングしたのが『God Save the Queen』です。しかし、発売前に彼らを待ち受けていたのはなんと2度目の契約破棄。それによって、バンドは巨額の違約金を手にしました。また、エリザベス女王在位25周年祝典の日に、ロンドンと海を繋ぐテムズ川のボートでゲリラライブを行った際に演奏されたのもこの『God Save the Queen』で、メンバーは警察当局に逮捕されています……。また、先述の襲撃事件のきっかけになったのもこの出来事で、『God Save the Queen』は奇しくもSex Pistolsにとって切っても切れない因縁のある曲なんですね。


 色々な出来事が重なり合って大きな話題を呼んだ『God Save the Queen』は、本国国内にて放送禁止措置が取られるなどもありましたが、全英シングルチャートでは2週目に2位を獲得しています。しかし、エリザベス女王在位25周年に沸く英国国内で当該楽曲のシングルチャート1位獲得は計画的に阻止されたという陰謀論も渦巻き、チャートにおける当該楽曲は空欄で表示されるという異例の事態に。我が国においても日本民間放送連盟によって「要注意歌謡曲」なるものの指定を受けて放送禁止扱いをされていたようです。──なにそれ、聞いたことない……。


 そんな賛否両論を呼んだ『God Save the Queen』を紹介することに一抹の不安を感じますが、ここまで書いてしまったんだ、ええいままよ! Rolling Stone誌の"The 500 Greatest Songs of All Time"で175位に選ばれたこの曲の素晴らしきロック精神を信じて、歌詞の和訳に移っていきますよ……!


[Verse1(0:19~)]

「女王陛下万歳」

「ファシスト政権」

「それがお前らをバカにする」

「水爆みたいなもんさ」

「女王陛下万歳」

「あの女は人間じゃねえよ」

「お先真っ暗だ」

「イングランドが見てる夢にはな」


[Pre-Chorus1(0:44~)]

「お前らの望んでることを他人に教わるな」

「自分が必要とするものを他人に教えられるな」

「お先真っ暗、将来性皆無」

「お前らに未来はないんだ」


[Chorus(0:57~)]

「女王陛下万歳」

「俺たちはマジだぜ、なあ」

「俺たちの女王様を愛してるんだ」

「神の御加護を」


 ──ひえぇ……。僕はこんなこと思ってませんから! イギリスを愛する皆様、どうか僕のことは見逃してください!


 冗談は置いといて、これは右翼的な全体主義的政治形態に批判的な態度を取った歌詞から繰り出される痛烈な皮肉が印象的な歌詞ですね。その是非を論じることは避けさせて頂きますが、サビ前のフレーズである「お前の望みやニーズを他人に植え付けられるな」という旨のフレーズは刺さりますね……! 一貫して「自分で考え、行動すべきだ」というメッセージが直球で伝わってくるので、僕は好きです!──ちょっと過激ですけどね……。


[Verse1(1:10~)]

「女王陛下万歳」

「観光客を金蔓かねづるにできるからな」

「俺たちのお飾り女王様は」

「見てれほど偉いもんじゃねえよ」

「神の名の下に歴史は正当化される」

「お前の狂ったパレードもな」

「おぉ神よ、お慈悲を」

「勝てば官軍ってとこか」


[Pre-Chorus2(1:35~)]

「未来がなければ罪も成立しないもんな?」

「俺たちはゴミ溜めに咲く花」

「お前ら心無い人間にとっての毒」

「俺たちが未来、お前らの未来だ」


[Chorus(1:49~)]

繰り返し


[Chorus(2:16~)]

「女王陛下万歳」

「俺たちはマジだぜ、なあ」

「お先真っ暗だ」

「イングランドが見てる夢にはな」


[Outro(2:30~)]

「お先真っ暗」(×2)

「お前らにとっても」

「お先真っ暗」(×2)

「俺たちにとっても」

「お先真っ暗」(×2)

「お前らにとっても」

「未来なんてないぞ」

「お前らにとってもな」


 「勝てば官軍」と訳したフレーズである"All crimes are paid"ですが、ここに言う"crimes"はかつてイギリス政府が民衆に対して行ってきた搾取などを指しているのではないでしょうか。「そんな犯罪の成果が割に合うもので良かったね」といった皮肉が込められていると思われ、その裏に隠された本音とは「そんな犯罪的行為も、今のイギリスがあるなら正当化されるのか?」ということではないでしょうか。あまり深読みしすぎて、仮に見当はずれなことを言っていたら後が怖いので、今日はこのくらいで……。今回もお読み頂き、ありがとうございましたー!


 次回はいよいよ節目となります。よくもまあ洋楽ファンがどれだけ居るかも分からないカクヨム上で、物書きとしても音楽ファンとしても素人の僕が40回も歌詞紹介をしているものだと、自分で自分にドン引きです。それでも、大切な読者の方が1人でも居るうちは必ず更新し続けるので、どうか末永くお付き合い頂けると幸いです!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はSex Pistols - God Save the Queenから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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