Maroon5 - Moves Like Jagger

 そういえば、所謂ポップ・ロック系統からは未だひとつもピックアップしていないなと思ったので、今回はアメリカ・カリフォルニア発の大人気バンド―─Maroon5から『Moves Like Jagger』を紹介したいと思います。


 Maroon5は、ボーカル兼ギタリストのAdam LevineとキーボーディストのJesse Carmichaelが中学生時代、一緒に音楽を始めたことがきっかけで、1994年から2001年までフォーピース・バンドとして結成されたKara’s Flowersが前身となっております。その後、五人編成となった2001年より改名。現在のMaroon5の形となっております。


 2002年リリースのデビュー・アルバム『Songs About Jane』は驚異的なロングセラーを記録して、2005年の第47回グラミー賞にて最優秀新人賞を受賞するなど、数々の栄冠を総なめにして一躍有名バンドとしての地位を確固たるものに。我らが日本においては『She Will Be Loved』や『Sunday Morning』がCMソングとして起用されたことで、空前のブームを引き起こしました。


 2006年には、グラミー賞でシングル『This Love』が最優秀ポップ・パフォーマンス賞を受賞する一方で、ドラムス担当だったRyan Dusickが野球少年時代に負った腕の古傷の痛みが原因で脱退することに。2004年から表舞台を退いていた彼の負傷は、手術をするほどのことでもないので医師にも成す術はなく、自然と痛みが和らぐのを待つしかなかったと後のインタビューで語られています。Ryanは演奏はできないもののバンドのツアーには帯同しており、初来日公演があった2004年にはアンコールでステージに登場した際に、Adamが代役としてドラムを演奏する中、以前も紹介したAC/DCの名曲『Highway to Hell』を熱唱するなど、バンドメンバーの絆が垣間見えるエピソードもあります……!


 その他、2007年リリースの2ndアルバム『It Won’t Be Soon Before Long』は全米アルバム・チャート初登場首位、当時の週間デジタル・セールスの最高記録をマークしました。シングル『Makes Me Wonder』は、第50回グラミー賞最優秀ポップ・パフォーマンス賞を再び受賞。破竹の勢いはとどまるところを知りません。


 2012年にリリースされた4thアルバム『Overexposed』からは、前回も名前を出したラッパー・Wiz Khalifaをフィーチャリングした『Payphone』を中心に話題を呼びました。まだヒップホップ・シンガーは取り扱ったことがないので、次回はWiz Khalifaを紹介しても良いかもしれませんね。


 余談はさておき、そんな順風満帆という言葉がお似合いのMaroon5から、今回歌詞の意味を紐解いていきたいのは『Moves Like Jagger』なのですが、冒頭でポップ・ロックを紹介しようと言ったのにもかかわらず、当該楽曲はどちらかというとダンス・ポップに傾倒しているような気がします。重ねて言うようで恐縮ですが、執筆者の音楽知識はにわかの領域ですので、悪しからず。


 それでも『Moves Like Jagger』を題材としてみようと思ったのには理由がありまして、当該楽曲はMaroon5史上屈指の人気曲にしてちょっとした面白い逸話があります。『Moves Like Jagger』は、2011年4月に放送開始されたオランダ発のタレントオーディション番組『The Voice』のアメリカ版で、同国出身のシンガー・Christina AguileraがボーカルのAdamと番組審査員として共演した際に、コラボ曲として番組内で初披露された直後にリリースされるというサプライズがあったようです。


 楽曲タイトルや歌詞に出て来る"Jagger"とは、イギリスの伝説的長寿バンド・The Rolling Stonesのボーカル・Mick Jaggerを指していて、MVにも昔の映像が使用されています。Mick本人はというと、当初の映像では登場シーンが多いと感じたため、カットしてもらったと語っているとか(笑)。


 また、2012年にインターネットのミュージック・コンシェルジュ・サービスを展開しているSongza社が行なったアンケートの結果、何故か『Moves Like Jagger』がアメリカの労働者の生産力を最も高める曲だと発表したんだとか……。「どんなアンケートだよ」と思わず突っ込みたくなるところですが、気になるのはその統計方法ですよね。どういう質問で、誰を対象に聞いたらそのような結果が出るのか、2位や3位に選ばれた生産性の高い曲は何なのか、僕は気になります……。


 彼らの目覚ましい功績故、長くなりましたがいよいよ歌詞紹介です。皆さんもテーマとなる楽曲をループ再生しながら、お手元に歌詞を用意して僕の独自の解釈をお楽しみください――。


「高望みしたっていいじゃないか」

「それが正しいと感じるなら、俺のハートを狙ってみてよ」

「君がその気ならね」

「俺を連れ去ってくれ」

「構わないよ」

「お行儀良くしてるからさ」


 前回紹介した歌詞とは対照的に、今回は男性優位的な性愛表現が多分に含まれている内容だと僕は感じました。ちなみに、前回から頻りにラブソングの歌詞に現れる登場人物を男女として置き換えておりますが、これはボーカルの方の性別やPVの出演者などから多角的に考察した上で、想像できる最も自然な解釈として、便宜上そのように表現しているのであり、恋愛=男女同士のものとして観念している訳ではありませんということを、念のため書き添えておきます……!


 歌詞の繋がりが途切れてしまうので、サビの終わりまで一気に行きます。


「君が主導権を握りたがるから、待ってたんだよ」

「ショーをお見せしようか、丸裸になってね」

「君は俺を子供っぽいと言うよね」

「エゴの塊だって」

「構うもんか」

「ならこういう感じでやってみよう」

「舌を使ってイカせてくれたら君のことがわかるかも」

「俺に酔いしれるまでキスしてくれたら見せてあげるよ」

「ジャガーのように激しいのがいいんだろ」

「俺はジャガーのように動けるよ」

「ジャガーのようにな」

「君を支配しようというつもりはないよ」

「俺の目を見つめてくれればもう君は俺のものなんだから」

「ジャガーのように激しいのがいいんだろ」

「俺はジャガーのように動けるよ」

「ジャガーのようにな」


 ここで登場する一節に"Take me by the tongue"というフレーズがあるのですが、これは、皆さんお馴染みThe Rolling Stonesの舌出しロゴを意識したものだと言われております。Mick Jagger氏と密接な関係のある曲ですから、僕もそうだと思います。うん、それにしてもかなり直接的なエロティック表現ですよね……。出来れば本作をセルフレイティングの対象にしたくはないのですが……。


 続きまして2番へと突入していきます。


「ベイビー、難しいよね、君が例えば」

「失恋したり傷つけられたりしたら、気分は最悪だ」

「でも俺と一緒なら」

「裏切ったりしない」

「俺がになってあげるよ」

「だから車に乗って、何処へでも行こう」

「君の望むとこなら何処だって、だからおいでよ」

「ハンドルを握りたいのかもしれないけど、ギアチェンジだけは譲れないな」

「ここは任せな」

「こんな風に行ってみよう」


 どこか弱みに付け込んで女性と接近しようとしている、肉食系な男性の様子が描かれているような感じですね。それにしても、『Moves Like Jagger』はワードセンスが輝いていますね。歌詞の原文を見ながら本作を見ていただいている人は分かるかと思いますが、例えばここで出て来た"key"という単語は、打ちのめされている女性にとって解決策というか、悪いことも忘れさせてあげる存在として俺が特効薬になってやるよ──みたいなニュアンスの"key"と車の"key"というダブルミーニングになっていると思います(あるいは性的な比喩表現として、意味でも)。また、1番に出て来たような男女間のパワーバランスというか、どちらが主導権を握るかといった話を車で例えているところとか、かなりお洒落ですよね。あれ、そう思うのは僕だけでしょうか……?


 既出のフレーズが出て来るサビは省略させていただいて、Christina Aguileraによるパートです。


「どうすれば私を笑顔にできるか、知りたいんでしょう?」

「今晩だけは貴方のものになってあげる、来て頂戴」

「私の秘密を教えて欲しければ」

「黙ってるって約束して」

「誰にも教えちゃダメなんだから」

「だから見て覚えて、二度は言わないわよ」

「頭からつま先まで、早く触って」

「私の秘密を教えて欲しければ」

「黙ってるって約束して」

「誰にも教えちゃダメなんだから」


「わかった、じゃあ始めよう」


 最後の一行だけはAdamの歌声に戻ります。つまり、初めて出てきた女性側の歌詞から察せるように、男性側の誘いを承諾した女性は二人だけの秘密を共有します。そして、男性側の主人公は一通り聞いた後に「始めよう」と言って何かを始めるんですね。何とは言いませんが……。


 この後は既出のサビフレーズを繰り返して終わりますので、今回も歌詞紹介はこれで以上です。お疲れさまでしたー!


 いやあ、やはり何と言うか、素晴らしいバンドですよMaroon5は。ボーカルのAdamは2013年にアメリカの雑誌ピープル誌による「世界一セクシーな男」に選ばれ、2017年にはハリウッドの"Walk of Fame"のスター殿堂入りを果たすなど、人間としても万人に好かれているようですし。


 と、言いたいところなんですけどね。Adamは妊娠中の奥様を尻目に。インフルエンサーの女性にインスタグラムのDMで不倫のお誘いをしていたという記事が出回ったときに、周囲から「やっぱり」と言われてしまうほどのプレイボーイとしても知られているなど、良くも悪くも天才アーティストらしい一面があります。『Moves Like Jagger』の歌詞は、そんなAdamの実体験に基づくものだったりして。はは……。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はMaroon5 - Moves Like Jaggerから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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