Metallica - 72 Seasons
第72回は、1981年にアメリカ・カリフォルニア州で結成された、スラッシュ・メタルのパイオニアとして今日に至るまで各国でカルト的な人気を博している世界最高峰のメタルバンド──Metallicaの今年4月にリリースされた最新アルバムから、タイトルチューン『72 Seasons』を紹介させてください!
フロントマンとしてギターを担いでマイクを握る傍ら、バンドのメイン・ソングライターとして働くJames Hetfieldと、楽曲製作において重要な役割を担うデンマーク出身のドラマー・Lars Ulrichによりロサンゼルスで結成されたMetallicaは、ラテン語で「金属」を意味する言葉。その命名に至った理由は、Larsの友人であるRon Quintanaが新しくメタル関連のファンジン(同人誌)を創設しようとしていたため、誌名の候補として"MetalMania"か"Metallica"を提案したところ、Larsは自身のバンド名につき後者を使いたいと考えたため、Ronの雑誌には前者を選ぶよう勧めたからだとか。
先日紹介したScorpionsの回でも説明した通り、当時は70年代末のイギリスから海を渡って波及してきたN.W.O.B.H.M.ムーブメントが影響して、HR/HMバンドの数が爆発的に増加しました。疾走感のある激しい曲調にアグレッシブな音楽性を特徴とするMetallicaも、そんなベビーブームの最中に生まれた寵児と呼ぶべき存在で、アメリカにスラッシュ・メタルの旋風を巻き起こした始祖として崇められています。僕も信者のひとりです(笑)。
また、Metallicaといえば、かつて血みどろの暴力沙汰の末に解雇された元メンバー・Dave Mustaineが新たに立ち上げたMegadethに加え、同時期に発足したAnthrax, Slayerに並び立ち、同国を代表するモンスター・グループとして"BIG 4"の称号でも有名です。こうして同系統のバンドでカテゴライズされるほどまでに、当時のアメリカでは空前のブームによりメタル・バンドが乱立していたのです。
そんな強豪犇めく当時のメタル・シーンにもかかわらず、今日に至るまで長年にわたり愛されてきたMetallicaですので、当然ながらその実力も折り紙付き。これまでに11枚のスタジオ・アルバムをリリースしてきたMetallicaですが、そのうち「ブラック・アルバム」の通称で知られる1991年の5thアルバム『Metallica』から、2016年の10thアルバム『Hardwired... to Self-Destruct』まで、米・Billboard 200における首位の座を獲得し続けた偉業に始まり、グラミー賞においては23のノミネートと9の受賞経験、2018年には「音楽界のノーベル賞」との呼び声高いスウェーデンのポーラー音楽賞を受賞、そして2009年には米・Rock and Roll Hall of Fameへの仲間入りを果たしており、全世界で1億2000万枚超のセールスを誇る、史上最も商業的に成功したグローバル・バンドとしての地位を今なお堅持しております!
そんなMetallicaは、米・Rolling Stone誌の選出する「史上最も偉大なアーティスト」にてSex Pistolsに次ぐ61位にランクインし、その読者により選出された「最高のメタル・バンド」では堂々の首位に輝いております。2013年末には、なんと南極大陸でライブを敢行するという奇想天外な試みにより、たったの1年間で世界7大陸を巡って、それぞれの地で公演を行った史上初のアクターとして、ギネスブックに登録されています。2017年には、バンドを力強く支え続けてくれた地域住民への恩返しとしてAll Within My Hands財団を設立し、キャリア養成・職業訓練プログラムや食糧支援、災害救助活動に尽力しつつ、楽曲の売上やライブを通じて精力的に運営資金を募るなど、模範的な活動が称賛を集めています。業界全体を見渡してみても珍しい、メタルの垣根を越えて熱烈な支持を受けている最高のバンドのひとつとして数えられているのも納得ですよねぇ……。
Dave Mustaine脱退後、Kirk Hammettが加入してからレコーディングされた1983年のデビュー作『Kill 'Em All』から、1988年の4thアルバム『...And Justice For All』までは、スピーディーでハードコアな、ある意味でMetallicaらしい強烈なサウンドの系譜が連綿と受け継がれてきました。ですが、Metallicaの地位を一気に押し上げる契機となったブラック・アルバムこと名盤『Metallica』では、90年代に隆盛を極めた後のニューメタルにも通ずるようなグルーブメタルの萌芽とも言うべきサウンドが詰め込まれ、その大成功に味を占めてか、後継作品にも作風が継承されていったために、旧来のサウンドを好む原理主義的なファンから批判を受けるなど、賛否両論といった結果に落ち着きます。
それからも試行錯誤を重ねて、アルバム毎に特色のある音楽で世間を魅了してきたMetallicaですが、2008年の9thアルバム『Death Magnetic』では、爽快感のあるギターサウンドによるスラッシュ・メタルへの原点回帰が見受けられ、8年振りのアルバム『Hardwired... to Self-Destruct』に至るまで、シンプルながらキャッチーで耳馴染みの良いリフが多用され、Metallica初心者にも受け入れやすい作品になっているのかなと個人的には思います!
そして今回皆様と一緒に聴いていきたいのは、そこからさらに7年の時を経て、バンドが運営するレコードレーベル・Blackened Recordingsより2023年にリリースされたファン待望の11thアルバムから、同名のオープニング・ナンバー『72 Seasons』です。
翻訳に入っていく前に、もう少しだけ余談にお付き合いください。先程も述べましたが、Metallicaといえば、全米アルバム・チャートにて直近の6作品が連続で首位に輝いており、今回リリースされたアルバムでもその偉業が継続するのか否か、コアなMetallicaファンにとっては決して小さくない関心事でした。しかしながら、ニュー・アルバム『72 Seasons』は世界15ヶ国のチャート首位を総嘗めにした一方で、全米チャートでは惜しくも2位に甘んじる結果に……。
僕もアルバムに収録された全ての曲に目を、いや耳を通しました(?)が、普通にすごく良かったですよ。オールドスクールなN.W.O.B.H.M.サウンドを踏襲しつつ、Metallicaが大切に育んできた伝統的なスラッシュ・メタルを主軸としていながら、重厚で味のあるギター・リフが最高にイカした聴きごたえ抜群の一枚だと素直に感心しました。
ただひとつだけ、強いて指摘する点があるとすれば、それは楽曲の長さでしょうか。基本的に、Metallicaの楽曲はどれも長い傾向にはあるのですが、他作品と比べて大きな曲調変化や静と動の切り替わりもなく、一定のリズムを守った『72 Seasons』の曲を6~7分もぶっ続けで聴いていると、途中で飽きが生じてくると言いますか……。
極め付けは、Metallicaとしても史上最長となる11分10秒の超大作『Inamorata』です。正直なところ「一度聴いたらお腹いっぱい大満足」という方は、一定数居ると思います(笑)。今回の全米2位の背景には、そんな僕と同じ感想を抱いた方が多かったのではないかなーと分析しました(それでも十分凄いことです)。そういう意味では、一気にテンションをぶち上げて、最高の状態で幕切れを迎えてくれる『Lux Æterna』くらいが僕には丁度良いかもしれません。
これから魅力をお伝えしていきたい楽曲について批判から入っていくのは如何なものかとも思いましたが、Metallicaらしさが最大限に発揮されている『72 Seasons』は良曲であることに間違いはありません。お察しの通り、少々長くなるかと思いますが、James Hetfieldのアツい歌声と腹の底から響くようなLars Ulrichのドラムプレイに酔いしれつつ、最後までお付き合いくださればと思います!
[Verse1(1:34~)]
「人間の怒りを糧に」
「拒絶され、トラウマとなる」
「今も過去に囚われているのだ」
「教条的な論理は、もはや通用しない」
「賽は投げられたのだというのに」
「撃ち落とされ、火山の如し火柱を上げる」
「しかし過ぎ去ったことは後の祭りよ」
「後悔するほど、病んでいく」
「この命が始まる前にチャンスなどなかったろう」
[Pre-Chorus(2:04~)]
「昏き光に目を凝らせ」
「生まれながらの権利すら圧制するのだ」
[Chorus(2:14~)]
「怒れる人の子よ」
「水に溶けだすが如く、分裂しろ」
「怒れる人の子よ」
「見解の相違により衝突する」
「怒れる人の子よ」
「暴力、それは受け継がれていく」
「怒れる人の子よ」
「それが糧となり、育まれていくのだ」
「72にも及ぶ季節が過ぎ去った」
およそ1分30秒にも及ぶイントロは圧巻の一言。これぞMetallicaの代名詞でしょう。歌詞もシンプルで覚えやすいのが良いです。単語はいちいち難しいですが……。
ここで注目したいのが、曲の題でもある『72 Seasons』ですよね。春夏秋冬をそれぞれ1つの季節と数えれば、1年で4つの季節が巡る訳ですから、72を4で割って、答えは18となります。つまり、察するにこの曲の歌詞は、アメリカにおいても成年年齢となっている18歳を迎えた若者に宛てたものであるという解釈ができそうです。
「命が始まる前にチャンスはなかった」とか「生まれながらの権利すら圧制する」というフレーズから、おそらく主人公の若者は、想像を絶するような酷い家庭環境のもとで生を受け、人々の怒りに晒されながら思春期を過ごしてきたのだと推察できます。しかし「教条的な論理は、もはや通用しない」というように、これからの人生では自分で考え、判断していく力が求められるのだということが説かれ、最終的に「昏い過去にはさっさと蓋をして前を向くんだ」というメッセージが伝わってきます。──おどろおどろしい単語の羅列にちょっとビビってましたが、意外と前向きな内容なのかな……?
[Verse2(3:11~)]
「人間の怒りを糧に」
「反撃しろ、不意を突け」
「狂気的な季節を過ごしてきた代償だ」
「新しい仮面を被り、道化を演じろ」
「コントロールすることなんてない」
「反撃しろ、狂ったようにな」
「這い寄る影に隠されて枯れる」
「後戻りだ、麻薬に手を染めれば」
「過去が灰となって目の前を覆うのか」
[Pre-Chorus(3:41~)]
「昏き光に目を凝らせ」
「息が詰まるほど恐ろしい場所だ」
[Chorus(3:51~)]
繰り返し
もうこの歌詞の宛先が18歳の青年だと仮定して話を進めますが、そんな若者に助言をしていると思しき語り手の方は、一体どのような存在なのでしょうね?
「息が詰まるほど恐ろしい場所だ」というのは、壮絶な人生を歩んできた青年にとって、これから1人きりで放り出される社会という舞台のことを指しているのかな。そこで生き抜くためには、仮面を被って道化を演じながらも、時には反撃することが必要だと説いているのでしょう。人の言いなりになったり、麻薬に手を染めたり、灰となって降り注ぐ過去を払拭できなかったりするままではダメだぞという具体的なアドバイス。優しいですね。
[Bridge(4:49~)]
「突き抜ければ、真っ二つに」
「分極化が進む」
「視点が違えば衝突の火種となる」
「麻痺していくのだ」
[Verse3(6:04~)]
「人間の怒りを糧に」
「人は倒れる、実に野蛮だ」
「マシンガンのように研ぎ澄まされた思考」
「根強く刻み込まれた、汚名」
「持つ者と持たざる者」
「また人が倒れる、悪魔的だ」
「内なる亡霊に慈悲はない」
「また後戻り、催眠剤でな」
「息を吐いても、吸い込めないだろう」
[Pre-Chorus(6:36~)]
「昏き光に目を凝らせ」
「永遠の闇夜が訪れる」
[Chorus(6:46~)]
繰り返し
[Outro(7:31~)]
「人間の怒りを糧に」
「持つ者と持たざる者」「対立する意見」など、グローバリゼーションの影響により少しずつ歩み寄っているように見える人間社会でも、様々な理由によって互いにいがみ合い、怒りに身を焦がしている。そんな負の感情を糧として、今日も何処かで人が倒れているのだという社会問題を皮肉っているような、そんな歌詞にも思えてきました。意味を知った後だとより深みが増してくるというか、音楽に感情移入がしやすいような気がして、またアルバムを初めて聴いた時の感動が蘇ってくるようでした。
作品が長くて単調だーとか難癖つける前に、まずは楽曲それ自体を余すことなく味わい尽くしてから批判するべきだったかなと反省の弁を述べたところで、今回はここまで。ありがとうございました!
「Metallicaの紹介をするなら、もっと優先的に取り上げるべき名曲がいくらでもあっただろう」とお叱りを受けそうなものですが、また機会があればパート2のような形で違う曲を紹介してみるのも良いかもしれません。まだまだ語りたいことが沢山残っている、最高のバンドですからね。
それでは……!
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はMetallica - 72 Seasonsから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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