U2 - Stuck In A Moment You Can't Get Out Of

 それでは皆さん、お待たせ致しました! 記念すべき第20作目を飾るのは、世界で最も権威ある音楽賞であるグラミー賞に46度のノミネート──うち22回の受賞を果たした、アーティスグループとしてのグラミー賞世界最多受賞記録保持者、アイルランド発の究極的ロックバンド・U2から『Stuck In A Moment You Can't Get Out Of』です!


 彼らの偉業を考えれば20回目の節目に題材として選ぶのには相応しいかと思いますが、一応説明すると、U2ってバンド名、逆から読めば2Uですよね。──ほら、20と似てるし……。


 おっと、冗談です。ここでU2を紹介するのは、ロックを語る上で彼らの存在を避けて通ることはできないからです。U2の活動開始は1976年ですが、1980年のデビュー以来メンバーの脱退・変更はなく、活動休止期間をも一切設けることなく現在に至るまで第一線を走り続けてきた最高のロックバンドのひとつです。


 U2の楽曲にはある一貫性があって、それはこの世界に蔓延る宗教紛争や反核運動、アパルトヘイトなどの人権問題、薬物依存症といった社会問題に対するメッセージ性に富んだ歌詞を含む楽曲を作っているということです。U2はチャリティー・イベントにも積極的に参加していることで知られ、バンドのフロントマンであるボーカリスト・"Bono"ことPaul David Hewsonは、アフリカの貧困救済やアムネスティ・インターナショナル、ジュビリー2000、ONE Campaignなどの多岐にわたる慈善事業に携わっていて、2006年にはアフリカの後天性免疫不全症候群──通称・AIDS対策プログラム支援ブランドであるREDを設立するなど、人徳に満ちた人権擁護者として精力的に活動しています。


 そんなU2のキャラクターや音楽性が社会に受け入れられないはずもなく『Vertigo Tour』で2005年のコンサート収益1位。『U2 360°Tour』でも2011年のコンサート収益1位を記録するなど歴史上で最も成功したアーティストグループツアーとして認定されており、コンサートの規模や動員数でも世界最大・最高の地位を確立しています。


 ちなみに、バンド名のU2の意味については、アメリカ空軍の偵察機・U-2、あるいは第2次世界大戦時代のドイツ海軍が使用した潜水艦・UボートII型を指しているなどといった憶測が飛び交いましたが、ギタリストの"The Edge"ことDavid Howell Evansは「数ある候補の中でマシだったものを選んだに過ぎない」と言っています。BonoもU2の魅力はそんな曖昧さであると語り、色々な解釈を歓迎しているようです……!


 名実共にを総嘗めにしているU2ですが、そんな最高のバンドから僕が紹介したいと思うのは『Stuck In A Moment You Can't Get Out Of』です。はい、題がめちゃめちゃ長いですよね。U2の楽曲タイトルは基本的に長い傾向はあるのですが、その中でもかなり長いです。『Stuck In A Moment You Can't Get Out Of』は、U2の10thアルバム『All That You Can’t Leave Behind』の2ndシングルとして収録された名曲で「お前はあの時に取り残されたまま」という意味です。


 Bonoは当該楽曲の意味について、1997年に首吊り自殺でこの世を去った、豪ロックバンドのINXSのボーカリストとして活躍した親友・Michael Hutchenceへの哀悼の意を込めたものとして語っています。しっとり感のある感傷的な歌声とは裏腹に、自殺してしまった親友の顔を引っ叩くように(Bonoが実際に語った言葉です)辛辣な言葉を交えながらも、若き天才の死を憂い、彼の功績を讃える素敵な歌となっています。こういう作曲センスの端々に、Bonoの人柄の良さが表れているとしみじみ思います……。


 それでは、そんなBonoの愛に満ち溢れたU2屈指の名曲を口ずさみながら歌詞紹介へと移って行きましょう。皆さん、準備はよろしいですか……?


「俺は恐れてない」

「この世界の何者にも」

「聞いたこともない話を吹っ掛けたって無駄さ」

「俺はただ気の利いたメロディーを探そうとしてるだけだよ」

「思わず独りで口ずさんでしまうような歌をさ」

「お前を愚か者だと思ったことはなかった」

「だがよ相棒、今の自分を見てみろよ」

「真っ直ぐ立つんだ」

「お前にしかできないことがある」

「そんな涙なんて何の価値もねえよ」


 Michael Hutchenceは本当に多くの人々に慕われ、敬われていました。当時恋人だったイギリスのテレビ司会者・Paula Yatesさんとの間に生まれた一人娘を残して亡くなったMichaelの影響かは分かりませんが、Paulaも2000年に薬物の過剰摂取で死亡しており、結果的に娘を置き去りにしてしまったMichaelを叱るような、そんな歌詞だと思われます。U2のドラマー・Larry Mullen, Jr.は、Michaelについて「本当にいい奴で、知り合った人間全てにとって魅力的で、素晴らしいポップ・スターだった」と語っています。世界中全ての人が、今なお惜別の想いに暮れていることでしょう……。


 ここから、コーラスに入ります。


「気をしっかり持てよ」

「お前はあの時に取り残されたまま」

「抜け出せないでいるんだな」

「時間が解決してくれるなんて甘えたこと言うな」

「つまらないことに囚われて」

「抜け出せないままでいるくせに」


 Michael Hutchenceがどんな事に思い悩み、自殺するに至ってしまったのか僕には分かりませんが、まるでBonoはその理由を詳しく知っているかのような歌詞ですね。どうやら、彼の自殺は一人娘の親権争いが原因だったのではないかというのが定説だそうですが、Bonoはこの歌詞を通じて世間に何かを訴えたかったんですかね……? 社会問題を歌詞に取り入れ、人格者として社会貢献に携わってきたBonoのことですから、何か意味がありそうです……。


 それでは、2番に入っていきましょうか。


「忘れもしない」

「お前が見せてくれた色」

「お前が花火で彩った夜」

「お前にとってはどうでもいいことだったかもしれない」

「俺はまだ魅了されてるよ」

「お前が放ったその輝きに」

「お前の耳を通じて聞き」

「お前の目で見て感じるんだ」

「お前は本当になんて愚かなんだ」

「そんな風に悩むなんて」

「辛いのは分かるぜ」

「お前が手に入れられなかったってことは」

「本当は必要ない物だったんだ」

「ああ、なんてことをしたんだ」


 ──つ、辛すぎる……。


 亡くなったMichaelが見せてくれた景色は、Bonoにとって本当に価値あるものだったのでしょう。けれど、Michaelが追い求めていたものは、もっと別のところにあった。でも、それが手に入らなかったことで自殺を選ぶくらいなら、そんなもの初めから必要なかったんだと割り切ってくれていれば──という、Bonoのやるせない気持ちがありありと表現されているようです。


 このあとサビが2回挟まれますが、既出のフレーズなので飛ばして、曲調変化の部分とアウトロの歌詞を一挙にご紹介します。


「俺は茫然自失として、半分寝ているみたいだった」

「水は温かかった、その深さに気が付くまでは」

「飛んだ訳じゃない、落ちてったんだ」

「全てを失うまでの長い道のりだった」

「もし夜が長くても」(×2)

「もし昼が続かなくても」(×2)

「石ころだらけのこの道で俺たちが躓いたとしても」(×2)

「それはほんの一瞬だ」

「時は過ぎるものなんだよ」


 歌詞は以上になります。お疲れさまでした。いやあ、悲しい内容でした。どれだけ辛く過酷な時を過ごしていても、それはいつか過ぎゆく一瞬なのだから、少しだけ我慢して、過去に囚われずに生きて行こうぜ──というポジティブなメッセージ性を強く感じることのできる最高の名曲だと、僕は個人的に思いました。皆さんはどう感じましたでしょうか……?


 しんみりとした終わり方で恐縮ですが、U2の楽曲は良曲揃いで最高ですので、知らなかったという方が居ればこれを機に是非ともハマってくださいね。次回は番外編として僕の数少ないお気に入り邦楽アーティストを三組紹介するので、邦楽好きの方も、そうでない人もお楽しみに!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はU2 - Stuck In A Moment You Can't Get Out Ofから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る