Paper Idol - Clouds

 ここ最近はどっしり腰を据えて著名アーティストを数々紹介してきたので、そろそろ気分転換も兼ねて肩の力を抜きつつ、マイナーアーティストにもスポットを当てていきましょう。


 今回紹介するのは、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動するマルチインストゥルメンタリスト──Paper Idolより『Clouds』です!


 2018年よりPaper Idol名義での活動を開始し、米・Lowly、蘭・Spinnin' Recordsなどから多数のシングルをリリースしてきたMatan KGの本名でも知られる彼は、歴史あるアメリカの名門・ウエスレヤン大学で聴覚神経科学の学士号を取得し、音楽知覚と感情の関係について研究していた秀才です。一方で、EDM、ロック、インディーポップ、ヒップホップ、トラップレコードのミキシングに15年以上の経験を持つ、ベテランのミキシング・エンジニアとしての顔も併せ持ちます。


 そんなPaper Idolだからこそ、アーティストとしての経験は、他のミキシング・エンジニアとは一線を画しています。異色の経歴を辿ってきた彼は、楽曲の背景にあるプロダクションや芸術性を深く理解することで、技術的なサウンドだけでなく、感情的に響き渡る充実したミックスを提供することができるという訳です。凄いでしょ……?


 もっとも、Paper Idolとしてデビューアルバム『The Playground』をリリースしたのはつい昨年の2022年で、知名度はまだそれほど高くありません。しかし、ダンス・ミュージックとインディー・ロックの間に新たな架け橋を築き上げようとしている彼の音楽性は、既にその方面へ造詣の深い批評家の間では注目の的となっています。アルバムは、慣れ親しまれてきたインディー・エレクトロニックを再構築したものとして高評価。彼の歩んできた子供時代の様々な局面、特に「失われた純粋さ」がテーマに描かれた、ファンキーでノスタルジックな全8曲のインディートロニカを通じて、例えば『CNTRL』のグランジナイズされたギターリフに『The Playground』のヴィンテージ感溢れるエレクトロ・サウンド、そして『Bright Side Baby』の捻くれたファンク・シンセまでが味わえる、聴き応え抜群の一枚となっています!


 その他、これまでリリースしてきたシングルもファンの間で軒並み好評です。例えば『Feel Real Pretty』は、Spotify上で730万回以上の再生を記録し、同国のDJ・Yung Baeによる2019年のアルバム『Bae 5』にてフィーチャーされたことでも知られます。

 

 そこで、今回取り上げたい2020年のシングル『Clouds』は、グルーヴィーなギター・リフと彼の滑らかなボーカルが魅力的で、Paper Idol特有のスタイルがシンプルに体現されています。曲の盛り上がりは一瞬まろやかに聴こえるものの、ドロップでは雨粒のようなひらひらとしたプラックと分厚いローエンドでガツンと満足感のある余韻を残してくれるんですねー! 総じて『Clouds』は、Paper Idolのファンキーなサウンド・デザインをひとつの強力な武器へと進化させた、今まで積み上げられてきた作品の延長線上にあるもののように感じられるので、彼を追いかける上で聴いておいて損はない一曲です!


 さて、読者の皆様の期待値を最高までぶち上げたところで、早速歌詞の方を見ながら、空に浮かぶ一筋の雲のようにふわふわしたメロウな歌声に耳を澄ませていきましょう!


[Verse1(0:10~)]

「甘美な夢、でも良い心地はしないみたい」

「新しい場所に心を向けた方が良さそうだ」

「失恋、過ちを犯したんだ」

「心機一転やり直せないかな僕たち」

「彼女の話、僕はたじたじ」

「一言一句、説明もなく」

「震える唇、彼女もまた間違いを犯した」

「どうしたら良いか分からないね」


[Bridge(0:31~)]

「君が自分自身の心の声をぶちまけるまでは君を愛するのは簡単だった」

「今や君は僕の頭にかかった曇り空さ」


[Chorus(0:49~)]

「君は僕の頭にかかる曇り空」

「ずっと頭が曇ったままなんだ」


[Verse2(1:02~)]

「雨粒と山の頂」

「間違った決断で泥沼に沈む僕たちを止めてくれるものはなかった」

「天の恵み、降っては落ちる」

「今僕たちは自らの意思でここに居る」

「君の肌、業が深いね」

「まるで織姫と彦星だ」

「震える唇、彼女もまた過ちを犯した」

「でも彼女は僕を放っておかない」


[Bridge(1:23~)]

繰り返し


[Chorus(1:41~)]

繰り返し


[Break(2:03~)]

「(ずっと頭が曇ったままなんだ)」(×2)

「君は僕の頭にかかる曇り空」


[Outro(2:37~)]

「ずっと頭が曇ったままなんだ」

「君は僕の頭にかかる曇り空」


 実に現代的ですねー。歌詞のイメージも、登場人物の悲恋をテーマとした憂鬱な感じで、今時の若者にウケそうな予感がびんびんしてきます。どうやら主人公は、何か過ちを犯したことがきっかけで交際中の女性と破局してしまったみたい。だけど、その彼女も言葉足らずが原因でか、何らかの非がある模様。まさに喧嘩両成敗といった様相を呈してますね。


 ここで出ました"thinking out loud"です。Ed Sheeranの回をご覧になってくださった方は、もう僕がこのフレーズをどう訳したのかはご存じですね。もっとも、Edの曲ではこのフレーズがもっぱら良い意味で、甘酸っぱく歌われていましたが、今回はその真逆……。


 でも、織姫と彦星の逸話にかけて訳した"star-crossed lover"というフレーズが示す通り、二人はやむにやまれぬ事情があって別れを決断したらしき描写もあります。うーむ。良く分かりませんが、ハッピーエンドではなさそうです。残念……。


 はい、ちょっと短くなってしまいましたが、今回はここまで。これを機にPaper Idolのことを好きになってくださった方が居れば幸いです! 次回もまた、少しマイナーなジャンルのアーティストから掘り出し物を探して参りましょうかね?



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はPaper Idol - Cloudsから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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