Rainbow - Man On The Sliver Mountain

 およそ1週間ほど前からでしょうか。何だか最近、寝ても覚めてもくしゃみと鼻水が止まらないんですよね。ティッシュの消費がマッハでヤバいです。これから僕の愛してやまない秋の季節が訪れるというのに。はっ、もしかして台風に花粉が飛ばされてきたんですか!? 僕の平穏な生活を害するとは恨めしや……。


 ティッシュの空箱をゴミ入れ代わりに、鼻に詰め物をしながら紹介しますはリクエスト第2弾! 第75回目となります今回は、前回取り上げたDeep Purpleにてカリスマギタリストとして活躍していたRitchie Blackmoreが、1975年に同バンドを脱退してソロ転向したことがきっかけで結成したグループから。イギリス発、7色に輝く異色のハードロック・バンド──Rainbowの『Man On The Sliver Mountain』でお届けして参ります!


 少し前回の続きも含めた話をしましょう。Deep Purpleでは、1968年の結成から終焉の1975年まで、オリジナルメンバーとして黎明期~黄金期を支えてきたRitchieですが、ハードロックを志向する彼に対し、当時新加入のGlenn Hughes (Ba, Cho.)やDavid Coverdale (Vo.)がソウルやファンクといった相容れないスタイルを持ち寄ったことにより、方向性の相違が原因となって徐々に亀裂が深まり、脱退に至ります。


 そして同年、独立したRitchieによるソロ作品の制作過程で、当時Deep Purpleの前座として活躍していたボーカリスト・Ronnie James DioことRonald James Padavonaを共同作曲者として起用し、Ronnieが在籍していたElfを吸収合併する形で、まずはRitchie Blackmore's Rainbowを名乗るバンドが発足しました。バンドは名実共に、Ritchieによるワンマン・プロジェクトという位置付けで、1975年のデビューアルバムもセルフタイトルの『Ritchie Blackmore's Rainbow』でした。しかし、Ronnieの伸びのあるソウルフルな歌声と、英・The Jeff Beck Groupでも名を上げたCozy PowellことColin Flooksによるパワフルなドラムプレイが認められてか、2ndアルバムのリリース以降はよりバンドとしての体裁を強調してBlackmore's Rainbowを、3rdアルバム以降はRainbowの名義で活動しましたので、少々呼称がややこしいです。今回は便宜上、バンド名の表記はRainbowで統一させて頂きますね。


 一方、Ritchieを失い、誰もが解散を予想していた中で発表された、Deep Purple起死回生の10thアルバム『Come Taste the Band』で顕在化した商業化傾向と音楽性の大幅な方向転換は、Ritchie不在の喪失感を強く植えつけただけでなく、古参ファンの間で大きな物議を醸した問題作として今なお賛否の嵐に晒されています。意外にも、当時のセールスは失敗と言い切れるほど悪いものではありませんでしたが、ジャカルタで年末に行われたツアーでは、スタッフ側に死者が出る惨事に発展する暴動が起きるほどの大波乱。同年の3度目となる来日公演では、Ritchieの後釜として加入したTommy Bolinの薬物乱用が原因で腕が動かず、最高潮に達していた日本ファンの期待していた水準には遠く及ばないパフォーマンスに終始します。そんな彼らの異変を本国イギリスのファンやメディアが見抜けないはずもなく、大バッシングを受けた「Deep Purple」は空中分解──1976年、正式な解散発表と相成りました……。


 しかし、アメリカを震源地とした世界的なヘヴィメタル・ブームが巻き起こっていた1984年、およそ8年のブランクを経て、伝説の黄金期とも呼び声高い「Deep Purple」のメンバーが集結し、再結成を果たすというサプライズが待っていました。勿論、そこにはRitchieも名を連ねております。それと同時に、RitchieはDeep Purple再結成に合流するため自身のバンドを休止すると表明しており、Rainbow名義での活動は一時停止します。


 残念ながら、Deep PurpleにおけるRitchieのセカンドキャリアは、およそ10年で幕を閉じることになります。というのも、予てから噂されていた、前回も名前を挙げた以来の古株・Ian GillanとRitchieとの確執が現実のものとなってしまったのです。それはメンバー同士の技術的な見解の相違であるとか、マネジメント戦略への不満であるとか、過密スケジュールによる疲労の影響であるとか、様々な形で憶測を交えつつ説明されています。とはいえ、においてRainbowからボーカルとして参加していたJoe Lynn Turnerすら、Ritchie同様に他のメンバーとの衝突が原因で脱退していたこと、その後任としてバンド結成25周年の名目で再加入したIanにより、当時ほぼ完成していた14thアルバム『The Battle Rages On...』の収録曲に口出しされたことなどから、対立が決定的なものとなってしまったと言われています。音楽性の相違が原因でDeep Purpleから分裂したバンドであるRainbowですが、十数年の時を経ても両者の関係は水と油だったようです……。


 1993年にDeep Purpleを再脱退したRitchieは、メンバーもほぼ一新した上でRitchie Blackmore's Rainbowを再始動させます(自らの名前を冠したバンド名を復活させたのは、Ritchieがバンドとして認めているのは最初期におけるユニットのみであることの表れでしょうか)。


 とはいえ、ブリティッシュ・ロックバンドにもかかわらず、もともとイギリス出身者はRitchie含め少数派で、Ronnieをはじめアメリカ出身者メンバーが多かったこともありますが、音楽性の相違はここRainbowでも顕在化していたため、いずれにせよオリジナルメンバーは既にこの時Ritchieのみでした。Deep Purple在籍時に培ってきたブルース寄りのハードロックに、持ち前のクラシックやバロック音楽における中世的な様式美を重視したRitchieによる独特なスタイルは、所謂ゴシック・メタルとも称されますが、最大規模の市場を抱えるアメリカでのマーケティングを意識して、より現代的な路線へと舵を切ってからは異を唱える者も多く、面子はRitchieの意向に沿うプレイヤーが集まるようにと、アルバム毎に刷新されてきたのです。


 しかし、結局のところRainbowの復活は1997年の解散までとごく短期間のうちに、特に大きな話題を呼ぶこともなく終了します。Ritchieはその後、アメリカのミュージシャンにして、自身4度目の結婚相手であるCandice Nightと共にBlackmore's Nightを結成し、フォークロックを探求します。同時進行で、Rainbowはその後またしてもメンバーを総入れ替えし、2015年に再々結成を果たしますが、僕も彼らの近況についてはほとんど知りません……。


 Deep Purple(1967~75)→Rainbow(1975~84)→Deep Purple(1984~93)→Rainbow(1995~97)→Blackmore's Night(1997~), Rainbow(2015~)といった感じで、3つのバンドを忙しなく行ったり来たりしていたRitchieは、その独特で耽美的ともいえるプレイスタイルで場所を選ばずにヒットを連発していましたね。そんな彼のRainbow時代における名作の数々から一曲だけを選ぶのは忍びないですが、ここは安定のデビューアルバム『Ritchie Blackmore's Rainbow(邦題:銀嶺の覇者)』におけるオープニングナンバー『Man On The Sliver Mountain』を。


 やけにカッコ良い邦題がついてますけど、それはこのリードシングルの訳を当て嵌めたものでしょう。『Man On The Sliver Mountain』を銀嶺の覇者と訳すセンス、僕も欲しいです(笑)。


[Verse1(0:26~)]

「我は歯車、私は歯車」

「回ることで、感じるのだ」

「我は決して止められない」

「なぜなら我は太陽、太陽でもあるのだ」

「動き、駆け巡る」

「だが決して燃え盛る我を止められない」


[Chorus(0:45~)]

「降り注げ炎よ」

「我が魂を浄化するのだ」

「誰かが我が名を叫んでいる」

「もう一度我を崇め奉るのだ」

「我は銀嶺の覇者なり」(×2)


 シンプルイズベストですね。よりアップテンポにアレンジを効かせたロングバージョンのライブ版も捨てがたいですが、やっぱりスタジオ版の方が僕は好きです。RitchieらしいリフにRonnieの若々しい歌唱力、どちらが欠けても成立しない、まさにRainbowだからこそ心が震える名曲です。歌詞は特に本質的な意味のないものだそうですが、ゴシック・メタルらしい哲学的思想が垣間見えるような謎深い歌詞が、メロディアスな雰囲気と見事に調和していて良いですねー。


[Verse2(1:18~)]

「我は昼、昼そのもの」

「導きの光を授けよう」

「見よ、我はお前のすぐ傍に」

「我は夜、夜そのもの」

「闇であり光でもある」

「お前の内なる本性を暴く目を持っている」


[Chorus(1:36~)]

繰り返し


[Chorus(2:48~)]

繰り返し


[Outro(3:21~)]

「救いの手を差し伸べよう、我の手を取るがよい」

「我は銀嶺の覇者なり」(×2)

「我を見つめ聞くがよい」

「我は、我こそが、救世主」

「我は銀嶺の覇者なり」

「降り注げ炎よ」

「彼の者の魂を浄化するのだ」

「我こそが覇者」

「銀嶺の覇者なのだ」

「我は闇夜、そして光」

「黒く、そして白くもある」

「銀嶺の覇者なのだ」


 改めて、不思議な歌詞ですねえ。登場人物は、変幻自在に姿を変える概念的存在のようですが、雪の降り積もった銀色の山で霞を食って暮らしているような仙人か何かなのでしょうか。何処かの国の神話に、似たような話がありそうです。


 特に語ることもないのでこれで終わってしまいますが、Ritchie Blackmoreはやはり今日のハードロック・シーンを語る上でも外せない偉人のひとりであることは間違いありません。そんな伝説的アーティストをDeep Purpleに続いて特集する機会を設けてくださったリクエスト主様には、この場を借りて改めてお礼申し上げます……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はRainbow - Man On The Sliver Mountainから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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