Christian French - golden years

 第77回は、前回に引き続きアメリカ・ロサンゼルスを中心に活躍の場を広げるポップ・シンガー──Christian Frenchから『golden years』でよろしくお願いします!


 インディアナ州フィッシャーズで1997年に生まれ、YouTubeを通じて独学でピアノを習得し、高校時代に音楽ファイル共有サービス・SoundCloud上でカバーを投稿していたChristian Frenchは、2017年から本格的な作曲活動を開始したばかりの若き秀才。少年時代は地元インディアナポリスのトラベルチーム(勝つことに重きを置いた遠征の多いチーム形態)で、熱心なホッケー選手としてプレーしていました。2013-14シーズンには、北米4大プロスポーツリーグに数えられるNHLにて、カナダのOttawa Senatorsからエントリードラフト11位で指名された名手・Logan Brownを擁するIndiana Jr. Ice U16 AAAにてキャプテンを務めた経験もあるなど、文武両道っぷりを発揮しています。


 そんなChristian Frenchがオリジナル曲を書き始めたのは、インディアナ大学医学部予科(医学部進学希望の学生がそのために必要な科目を履修する予備教育課程)在学中のことでした。医師志望からアーティストへ、異色の転向を決意した彼の意思は固く、大学を中退するとロサンゼルスに移り住み作曲活動に専念します。


 早くも2018年、同国を代表するR&BアーティストであるMiguelの右腕として、2ndアルバム『Kaleidoscope Dream』におけるアイコニックなギターワークとプロデュースで、第55回(2013年)グラミー賞より新設された最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を見事受賞したことで知られるプロデューサー・Dru DeCaroことAndrew Philip DeCaroの強力な後ろ盾を得て、デビューEP『natural colors』とシングル『sweet home』をリリース。上々の結果を残すと、同い年の米女性シンガー・Chelsea Cutlerによるツアーに帯同したり、米ラッパー・Hoodie Allenのシングル『Come Around』に参加したり、Quinn XCIIことMikael Temrowskiと共にツアーを行ったり、数多くのアーティストたちと良好な関係を築いていきます。


 2019年、米・Disruptor Recordsとの契約を果たすと、メンタルヘルスとロマンスの物語をつづった6曲入りEP『bright side of the moon』で、晴れてメジャーデビューを飾ります。特に、リードシングル『head first』は現在、Spotify上での再生回数が億の大台に届きそうな勢いで、Christian Frenchの知名度は鰻登り!


 これからが楽しみな前途ある気鋭のアーティストにつき、今回紹介するのは2022年のシングル『golden years』で決まり。今を時めく若者らしい独自の視点から描かれた人生観が、物憂げでメロウな歌声により巧みに表現されており、中々考えさせられる内容となっております。


[Verse1(0:02~)]

「休むことができないんだ」

「部屋の天井を見つめながら」

「胸にのしかかる重みを想って」

「いつでも将来のことが心配なんだ」

「考えては忘れての繰り返し」

「どうすれば自然体で生きていけるのかをね」


[Pre-Chorus(0:27~)]

「なあ、思うに僕は人生の最盛期にいるはずなんだ」

「でも目に映るものといえば格闘を強いられている悪魔のような存在だけ」

「明るい兆しがあるんだって信じたくても」

「見つからないよ、僕は嫌なんだ」


[Chorus(0:40~)]

「全盛期を全て費やすのは」

「頂きへと登り詰めるためだけに」

「どうしてこんなところにいるんだろう」

「自分ではない何者かになろうとしたのか?」

「昔はそれほどすさんではいなかったのに」

「今僕は迷い苛立ちを感じるばかりだ」

「幸福が涙となって流れ落ちる」

「そして老後を迎えるのだろう」


 どこか心地良いビートに乗せられて歌われるのは、未来のことに頭を悩ませるあまり、現実にうまく向き合うことのできない若者の葛藤だと思われます。


 Christian French本人の心境を投影したものなのか分かりかねますが、歌詞中にて独白を繰り広げる主人公は同様に20代で、人生の全盛期をどう定義するのかにもよりますが、絶頂の時を迎えているものと考えられます。しかし、不安定な社会情勢を前に将来の自分の姿が想像できず、心配事も尽きない中で、時間を無為に消費している己に嫌気が差していると。


 誰しもが何かを極め、特別な存在になりたいという野望を抱いている訳ではありませんよね。今だけを精一杯、楽しく生きていければそれで良いと思っている方も多いはずです。それなのに、社会という枠組みは人々に競争を促し、蹴落とし合うようにプレッシャーを与えます。そうして荒んだ競争社会に全盛期の身("golden years")を投じ、気付いた頃にはリタイア("golden years")を迎えている。当該楽曲の題には、そうしたダブルミーニングが含まれているのではないかなと解釈しました。うーん、何だか悲しい……。


[Verse2(1:06~)]

「今頃はもう1マイル先に進んでいたかもしれない(もっと良いところに)」

「でもどうすればそこへ辿り着けるのだろうと考えては日中の時間を無為に過ごすんだ」

「太陽のもとで過ごす日々なんて数えるもんじゃないな」

「だけど瞬きして見逃したくはないし目を覚ました時に消えてしまっていたら」

「なりたい自分には本当になれなくなってしまうのだから」


[Pre-Chorus(1:31~)]

「自分が正しく生きているように感じられるのは」

「気のせいなのかな? それとも時間の無駄?」

「明るい兆しがあるんだって信じたくても」

「見つからないよ、僕は嫌なんだ」


[Chorus(1:44~)]

繰り返し


[Bridge(2:14~)]

「人生の黄金期よ」

「僕は嫌なんだ」


[Outro(2:23~)]

繰り返し


 正しい生き方というものは何なのでしょう。果たして、そのようなものは存在するのでしょうか。早くから競争社会で全てを勝ち取り、豊かな老後を過ごすのが良いのか。はたまた若いうちに青春を謳歌して人生を楽しみ、将来のことはその時々で考えるのが良いのか。正解は無いように思いますが、せめて後悔のないよう生きていきたいものです。


 僕の場合、まさに将来への不安や焦燥感からか、時間を無駄にしている感覚に苛まれ続けているので、とても共感できる歌詞の内容でした。1年後の自分の姿すら想像できない、二進も三進もいかない世知辛い世の中とそんな社会を嘆いてばかりで自ら行動できないでいる情けない僕ですが、このような創作活動を通じて新たなを発見できないものかと、日々試行錯誤しております……。


 うまくいかない時もありますし、そのような時は決まって「今自分がやっていることは時間の無駄かもしれない」というネガティブ思考に囚われることもしばしば。ですが、めげずに1マイルずつ進んでいった先に、なりたい自分が見つかるかもしれないという一縷の望みに賭けています。こんなどうしようもない若輩者ですが、今後とも応援してくだされば幸いです!


 あれ、もしかして締めが重くなっちゃいましたかね。申し訳ない。お次はChristian Frenchが在籍している米・Disruptor Recordsにおける先輩アーティストより。それではまた次回まで……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はChristian French - golden yearsから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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