Arctic Monkeys - When The Sun Goes Down
お待たせいたしました。予告通り、北極の猿たちを連れてきましたよ。今回は2002年にイギリス・シェフィールドで当時まだ10代だったメンバー4人によって結成された若き秀才ロックバンド――Arctic Monkeysから『When The Sun Goes Down』を紹介してみたいと思います!
Arctic Monkeysは、1960年代のオールディーズなバロック・ポップに傾倒した音楽性を持つThe Last Shadow Puppetsとしても活動しているバンドのボーカリスト兼ギタリスト・Alex Turnerの幅広い音楽ジャンルへの造詣の深さによって、これまで紹介してきたThe White Stripesのようなガレージ・ロックやQueens of the Stone Ageのようなストーナー・ロックの要素を綯い交ぜにした、唯一無二のロックバンドです。ブリットポップ全盛期、90年代前後のイギリスにおいて流行していたコード進行主体のメロディから一線を画して、オーセンティックなギターリフを前提としたソングライティングで人気を博してきたバンドなので、その手の音楽を好む方にはぶっ刺さること間違いなし!
Alexの他、彼の親友でバンドの共同発起人ギタリスト・Jamie Cookに加え、Bang Bang時代にLed Zeppelinのカバーを演奏していた際に加入したドラマー・Matt Helders、旧ベーシスト・Andy Nicholsonと現・Nick O'Malleyの全員が同い年。デビュー当時の写真はどれも学園ものの海外ドラマに出てくる学生のような風貌で、その若さに驚かされます。
Arctic Monkeysが鮮烈なデビューを飾るきっかけとなったのは、当時まだ駆け出しだった頃の彼らのファンによってネット上にデモ音源が公開されたことでした。現代の情報通信技術の発達と急激なグローバリゼーションによってインターネットの影響力が指数関数的に拡大していく中で、彼らの存在はたちまち世界中に知れ渡りました。その結果2005年には、漸く二十歳を迎えようかという彼らと、インディーレーベル・Domino Recordingが契約して、デビュー・シングル『I Bet You Look Good on the Dancefloor』をリリースすれば、あっという間に全英初登場1位に輝きました。超新星の如く破竹の勢いで名声を得たArctic Monkeysについて、当時の英各種メディアは挙って「Oasisの再来」と称賛を惜しみませんでした……!
そんなArctic Monkeysの数ある名曲の中から、今回取り上げるのは『I Bet You Look Good on the Dancefloor』も収録されている2006年の1stアルバム『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』より『When The Sun Goes Down』です。無骨で荒々しいサウンドが若さを溢れるエネルギッシュさを演出する持ち味となっていて、ヒップホップにも理解のあるバンドの作詞家・Alexによるライムの利いたシニカルでスリリングな歌詞も最高です。このデビューアルバムは、個人的にArctic Monkeysの良いところを端的に表した、最もお勧めすべき名盤だと思ってます……!
もう既にお気づきかもしれませんが、全体的にアルバムの題名や曲名が長いですよね。正直に言って、もし僕がArctic Monkeysの曲でイントロクイズとかやっても聞き覚えがあるだけで歌詞の名前が出てこないです……。まあ取り敢えず、これよりテーマの楽曲をループ再生しながらメロディーを覚えて(思い出して)、僕の拙い英語読解力による歌詞の和訳と解釈をお楽しみいただきながら、Arctic Monkeysの曲は素晴らしいんだぞということだけ覚えて帰ってもらえればそれで大丈夫です!
それでは、行ってみましょう――。
[Intro(0:00~)]
「だからあそこに居る女の子は誰なんだって」
「何を間違ったら彼女はこんな通りを彷徨うことになるんだ」
「彼女のところに行ったってクレジットカードはもちろん、領収書だって出ないぞ」
「そんなの違法だからに決まってるだろ」
「それに何なんだあのクソ野郎は」
「少しでも隙を見せれば、きっと奴はお前から大切なものを奪い取るに違いない」
「目を見りゃ分かるんだよ、ああ、だって奴は免停喰らってるしよ」
「どうせ他にも色々やってる」
「それにこの前奴が夜中に女の子たちを
「そんで奴はロクサーヌに売春を
「全員奴の犠牲になって性病に侵されたってのに奴は平然としてんだ」
「だって奴はとんだ卑劣漢だからな、分かるだろ?」
「クソ野郎だって言ってんだ、分かるだろうが!」
──はい、イントロとは思えないほどに過去一で重たい内容の歌詞ですね……。もしこの辺りで気分を害してしまった方が居ましたら、先んじて内容を伝えておかなかったことを謝罪すると共に、ブラウザバックを推奨します。
今更ながら言及しておきますと、この曲の歌詞はArctic Monkeysの出身地であるイギリス・シェフィールドのニープセンド地区における売春を風刺する内容が含まれていると言われています。登場人物は大きく分けて三人ですね。売春婦と思われる女性と斡旋業者(あるいは単純に客)である男、そしてナレーター(作詞者・Alex)です。売春婦の女性の他にロクサーヌという女性名が登場しますが、これは売春婦と恋に落ちる模様を描いた歌詞が印象的な同国のロックバンド・The Policeの楽曲『Roxanne』を意識しているものです。
これらを踏まえた上で考察すると、当然ながら現金対応しかしていない売春婦の女性が不自然にも薄暗い路地を彷徨っているところ、裏社会では有名な売春斡旋業者ないしは客の男が現れます。経済的に困窮していて、その日暮らしを余儀なくされている女性は金銭目的で男に付いていこうとしますが、男による過去の狼藉を知っていた目撃者(ナレーター)は、女性に対して「碌なことにならないから止めておけ」と必死に制止するという様子が描かれていますね。
さて、ここから強烈なギターサウンドと共に曲調が一変します!
[Verse1(1:14~)]
「聞こえないようにしているつもりだろうが」
「目を背けて地面を見つめていようが」
「彼女はそれとなく誘って来るんだ」
「悪いけど、丁重にお断りするよ」
「分かってるだろうけど奴は間違いなく何か企んでるぞ」
「何がチャンスだ」
「まあ"likely"よりは望みがあるかもな」
「胃がムカついてきた」
「俺は奴の運命が気になり始めたよ」
[Chorus(1:38~)]
「皆言ってるよ、夕暮れ時には変わっちまうんだって」(×3)
「この辺りではな」(×2)
ヌルっとサビへと入って行くので、まとめて書き起こしました。
考察するに、どうやら先程の売春婦の女性はナレーターの忠告を聞き入れて、ナレーターが頻りにクソ野郎だと言っていた男に付いて行くことはやめて、今度は自分を制止したナレーターを誘ったんですね。それを丁重に断りつつ、さっきまで売春婦の女性にアプローチしていた男の危険性について、再三にわたって警告している様子が描写されている気がします。でも、経済的に苦しい立場にある女性は「どんな相手だろうと、近づいてきた男は金を稼ぐチャンスだ」と言ったのかな。
繰り返されるサビのフレーズは、登場人物たちの過ごしている場所であるニープセンド地区の売春街について言っていると思われます。昼間は何の変哲もない平和な街並みにもかかわらず、夕暮れ時には裏社会に蔓延る下種な人間が
[Verse2(2:03~)]
「見てみなよあのMondeo(米・Ford社の大衆車)を」
「全く冴えない奴だよ」
「だが奴にとっては何も言う必要はないんだろう」
「彼女はすっかり乗り気なんだから」
「奴に会えて彼女はご満悦さ」
「引き寄せられて目配せされて」
「だって彼女は死ぬほど寒そうだから」
「こんな夜空の下で薄着のまま」
「真冬だろうがお構いなしさ、全く」
[Chorus(2:26~)]
「皆言ってるよ、夕暮れ時には変わっちまうんだって」(×3)
「この辺りではな」
「皆言ってるよ、夕暮れ時には変わっちまうんだって」
「川を隔てた街外れで」
「皆言ってるよ、夕暮れ時には変わっちまうんだって」
「この辺りではな」(×2)
[Outro(2:53~)]
「救いようのないクズ野郎だな」
「少しでも隙を見せれば、きっと奴はお前から大切なものを奪い取るに違いない」
「目を見りゃ分かるんだよ、奴はえげつない事企んでるって」
「俺は願ってるよ、お前らが潔白だってことをな」
どうやら、季節は時を経て冬となってしまったようですね。売春婦の女性は相変わらず経済的に困窮したまま、ぼろぼろの服を着て、寒空の下で違法な商売に手を染めています。そんな中、冒頭でいなくなったはずの男が車に乗って女性を迎えに来ます。寒さに耐え切れなくなった女性は、抵抗することなく付いていってしまったようですね……。
歌詞の最後の行は非常に示唆に富んだものになっています。翻訳次第では、連れていかれてしまった売春婦の女性が無事であれば良いなというナレーターの落胆や希望的観測が綴られたものであるという理解もできるのですが、敢えて僕がこのように和訳したのは、Arctic Monkeysのリスナーである私たちの中に「まさか売春に関わっている奴なんて居ないよな?」という警告にも似た一文であると解釈したためです。生半可な気持ちでは語ることができないヘビーなテーマについて、責任感を持って音楽に乗せて社会へのメッセージとしているAlex Turnerの作曲センスはとても10代そこらの若者だったとは思えず、心の底から感服いたします。
さて、今回も以上になりますので、次回予告に入りましょうか。とはいえ、毎度のことながら何も決めていませんので、今から考えます……。そうですね、ちょっとシリアスなテーマが連続してしまったので、偶には思わず踊り出してしまうようなアメリカのポップ・ラップデュオからピックアップしてみましょう! ヒントは「光陰矢の如し」といったところでしょうか。前回とは打って変わって難し過ぎますけど、分かった人は凄いです。
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はArctic Monkeys - When The Sun Goes Downから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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