The White Stripes - Fell In Love With a Girl
第8作目を飾るのはアメリカ・デトロイト発のロック・デュオ──The White Stripesから『Fell In Love With a Girl』です! 21世紀のロック・シーンを代表するThe White Stripesのメンバーは、ギター・ボーカル担当のJack Whiteとドラム担当のMeg Whiteのおふたり。
──えっ? 「ファミリーネームが一緒じゃないか」って……?
そうなんです。彼らは当初、兄妹ユニットだと目されていましたが、実際には夫婦であったことが判明しています……。女性ながらもパワフルで逞しい印象を与えるMegのドラムに、特徴的なハイトーンボイスと米・Rolling Stone誌の史上最も偉大なギタリストのランキングにおいて17位を獲得するほどのギターテクニックを併せ持つJackの阿吽の呼吸によって完成されるブルース、カントリー、ハードロックを基礎にしたガレージロック・リバイバルは、世代を超えて絶大な人気を博しました。
──なんて素敵なおしどり夫婦だろうかと思ったそこの貴方、残念なお知らせです。
実はThe White Stripesが名声を得る以前の2000年の時点で、MegとJackは既に離婚していたことが後に判明しています。しかも、彼らが実は結婚していたということが発覚したのも、彼らの婚姻届・離婚届がネット上に流失したからだそうで、Jack自身もそれがきっかけで2人が元夫婦であったことを認めたといいます。人生、何事も順風満帆とは行かないんですねぇ……。
いや、それでもやっぱりThe White Stripesが残した功績を振り返れば、そのキャリアは順風満帆だったと言えるかもしれません。2011年2月に発表した解散までの間、バンドは多数のアルバムをリリースしましたが、そのうち『Elephant』『Get Behind Me Stan』『Icky Thump』はグラミー賞の栄冠に輝いています。バンドの結成年は1997年ですから、その短期間に複数回の受賞とは、先日紹介したBon Joviが苦難の末にようやく一度受賞したという背景を鑑みれば、どれだけの偉業かが分かると思います(楽曲単位での受賞を含めればもっとありますので、末恐ろしいほどの偉業ですね)。
──いいや、そんないつも通りの陳腐な紹介ではThe White Stripesの凄さを伝えきれません……!
何が凄いのかって、The White Stripesはドラムとギターという、ロック・バンドとしては最小単位と言っても良い規模にもかかわらず、そのことを聞き手に全く感じさせない洗練されたテクニックと情熱的なパフォーマンスにより、信じられないほどの功名を打ち立ててきたことです! 「シンプルイズベスト」という言葉がこれほど似合うバンドを、僕は知りません。
恐らくですが、The White Stripesを知っている人ならば最初に思い浮かべるのは『Seven Nation Army』でしょう。サッカーなどのスポーツで祭典が催される度に、この楽曲をアンセムとして聞いたことがあるというスポーツファンは多いはずです。僕も本来であれば『Seven Nation Army』を紹介したかったのですが、ねぇ……。
──今回で洋楽の歌詞紹介は第8回目を迎えるのに"Seven"とついた曲を扱うのはなんか……。
そんな僕自身の謎の拘りによって、今回紹介するのは『Fell In Love With a Girl』になりました。でも安心してください。『Fell In Love With a Girl』は上記のグラミー賞受賞アルバムの収録曲ではありませんが、テクニカルなギターサウンドと力強いドラムのコラボレーションがたった2分間で貴方のテンションをぶち上げてくれること間違いなし。かなりの中毒性があります!
しかも、当該楽曲のMVに登場する演奏模様は何故かレゴブロックで再現されていて、視覚的な楽しみもあります。お時間のある方は是非見てみてください。面白いですよ。
さあ、歌詞の和訳に入っていきますので当該楽曲をループ再生するなり歌詞をお手元の端末で表示するなりして、どっぷりと洋楽の世界に浸かる準備をお願いします──。
「ある女の子に恋をしたんだ」
「ほぼ完璧な初恋だった」
「彼女は世界に惚れているんだ」
「だけど時折この感情は誤解を招きかねない」
「彼女は振り向いて『大丈夫?』と言った」
「僕は言った『大丈夫だよ、だって僕の心臓は動いているから』」
「『川岸で僕にキスしてよ』」
「『ボビーは浮気にはならないと思うから良いって言ったよ』」
ここまでイントロ含めて30秒も経っていません。結構なハイテンポです。
歌詞自体はこれまでに比べたら比較的理解しやすい内容ですが、世界観が分かりませんね。ある女の子に恋した主人公だけど、彼女は自分を意識していない。ここまでは分かります。その後、彼女に声を掛けられた主人公は平静を装って彼女にキスをせがんだ……? そしてボビーという人物は「浮気じゃないから良いよ」と言ったと……。ボビーという人物が彼女の恋人で、彼女とキスしたいがために主人公がボビーの発言を騙ったということですか……? 前言撤回します。全然理解しやすくないです。
「赤い巻き髪」
「メロロールアイスのようなフレーバーに瞳が覗く」
「離れることはできない」
「右脳と左脳で会議する必要があるな」
「何も考えられないよ」
「僕の左脳は束の間の恋だってわかってるんだけど」
「彼女は目新しいものに興味があるだけ」
「前にも一度言ったことだけど改めて言おうか」
実は、歌詞はこの後既出のフレーズを繰り返すのみなので、翻訳は以上となります。
でも、前述の歌詞と内容を照らし合わせてみると、なんとなく内容を理解できますね。恐らく主人公が恋に落ちたという彼女は相手をとっかえひっかえして奔放な恋愛を楽しむ飽き性のある女性であるようです。主人公はそれを理解していながらも、恋は盲目と言うように、何も考えられていない様子で彼女に夢中なようです。ちょっとダーティーなテイストのラブソングですね。多分。
ちなみに、歌詞に登場した"Mello-Roll"とは数十年前にアメリカ国民の間で親しまれていた、トイレットペーパーに取っ手が付いたような見た目のヘンテコなアイスクリームのようです。香水か、はたまた頭髪からそんな懐かしいアイスに似たフレーバーの香りがしたという表現でしょうか。土着的なカントリー・ミュージックの波動を感じます。面白いですね。
翻訳は以上ですが、ちょっと短くなったので余談です。実はThe White Stripesの解散後、ギタリスト・Jack Whiteは俳優業を営む傍ら、ミュージシャンとしての活動を継続しています。その類まれなる才能は47歳を迎えた今も健在で、昨年はFUJI ROCK FESTIVAL'22にてヘッドライナーとして10年ぶりの凱旋を果たすなど、精力的に活動を継続しています。
──僕も見に行きましたよー! いやぁ、相も変わらず圧巻の歌唱力とパフォーマンスでした。何より印象的だったのは、出演時間も終盤を迎えた頃、最後の最後に観客のアンコールに応えるようにThe White Stripes時代の伝説的ナンバー『Seven Nation Army』を演奏し始めたことですね。突然のサプライズに魂が震えたのを今もありありと覚えています。昨年はコロナウイルスによる新型感染症拡大の影響を受けて、マスクを外したり大きな声を上げたりするのは禁止されていたのですが、その場にいた観衆は皆がギターのサウンドに合わせておーおーおー(?)と叫んでいました。気持ちは大いに理解できますが、ルールは守りましょうね……。
その他にも、Jack Whiteは面白いパフォーマンスを用意していました。彼の足元には無数のギター・エフェクターが配列されていたのですが、そのうちのひとつに、ギターのピッキングに合わせて初音ミクが歌いだすという特殊なペダル『MIKU STOMP』なるものがあったようで『Hi-De-Ho』のアウトロ部分の演奏で実際に使用されたようです。
──ようですって? 「貴方も実際にその場で聴いたんじゃないのか」って……?
恥ずかしながら、歓喜と興奮の渦に酔いしれていた僕は全く気が付きませんでした。そんな面白いパフォーマンスを取り入れていたなんて……。聞き逃してしまった自分を暫く恨み続けることにします。
さて、ここまでロックバンドを中心に洋楽を紹介してきた本作品ですが、次回から暫くは趣向を変えて、ロック以外のジャンルの音楽を取り扱っていきたいと思います。基本的に僕の趣味嗜好によって題材が決定されますが、リクエストも承っておりますので、面白いと思ってくれた方はコメントで感想を添えつつ希望する楽曲を指定してくれれば、喜んで紹介します。それでは次回もお楽しみに!
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はThe White Stripes - Fell In Love With a Girlから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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