Nirvana - Lithium
──いやねえ、悩みに悩みましたよ。
USロック好きを豪語してしまった以上、僕が取り上げるべきUSバンドは一体誰なのか。Metallica? GN'R? RHCP? QOTSA? The Killers? FF? Aerosmith? The Beach Boys? それとも──。
思いついた順に書き出してみても、紹介したいバンドがこんなにも沢山……! でも全てを紹介していては、題材がロック・ミュージックばかりになってしまいます。僕はこの後、ロック以外のジャンルの音楽も紹介していきたいと考えているので、慎重な選択を迫られております。
それでも苦渋の決断によって、これだけは外せないだろうと思った今回紹介する楽曲に選んだのは、Nirvanaの『Lithium』でございます。深夜のドライブ中に大音量で流すと最高なんですよねーこれ。勿論、窓は締め切って法定速度です……。
Nirvanaは米・Rolling Stone誌が選ぶ史上最も偉大なアーティストで30位に選出されているようで、それまでヘヴィメタル・ロックが主流だった1970年代以来のアメリカにおいて、商業主義的なロック・ミュージックの潮流に風穴を開けるように、オルタナティヴ・ロック──特にグランジ・シーンにおいて、多大なる成功を収めた功績が讃えられています。
今回紹介する『Lithium』は、Nirvanaがメジャーデビューした1991年に発表された2ndアルバム『Nevermind』の収録曲です。当時、Nirvanaの画期的なアルバムは社会現象を引き起こし、その人気ぶりは産業的ヘヴィメタルの終焉として後世に語り継がれているようです。
そんな楽曲のタイトルともなっているリチウムは、主に躁うつ病と呼ばれる双極性障害の治療に有効な再発予防効果の高い気分安定薬のようですね。リチウムは微量ながら水道水にも含まれていて、水道水を飲むだけで自殺する人の割合が減るというデータもあるほど、精神安定作用が実証されているものだそうです。なるほど、だからこの曲を聴くと気分が──いや、どちらかと言うとノリノリで興奮してしまうから安定とは程遠い気が……。
まあそんなことはどうでも良いですよね。さあ、気を取り直して歌詞の紹介へと移りましょうか。皆さん、歌詞の原文はご用意できましたか? 順に和訳していきますから、しっかりと付いてきてくださいませ──。
「俺は幸せだよ」
「だって今日は友達を見つけることができたんだから」
「想像上のな」
「俺は醜い奴だ」
「でも良いのさ、お前らだってそうだから」
「俺たちは鏡をぶっ壊したんだ」
「日曜の朝が毎日続いたっていい」
「怖くはないよ」
「朦朧としながらも蝋燭に火を灯すよ」
「神を見つけたからな」
──ちょ、ちょっと待ってください。『Lithium』という曲名は何だったんだと言わんばかりに暗く淡々とした口調で歌われる歌詞に、この曲を初めて聴いた僕はそうツッコミを入れたものです。
種明かしをすると、この楽曲はNirvanaのリードボーカル・Kurt Cobainの死に関係していると、一部では囁かれています。1994年4月に、Kurt Cobainはワシントン州・シアトルに位置する自宅にて、27歳という若さでショットガンによる銃身自殺に及んでしまいました。どうやら彼は、重度の双極性障害による薬物依存に悩まされていたようで、死後の彼の身体からは、検死によって薬物の痕跡が見つかったようです。
先述した通り、リチウムは双極性障害の治療薬です。Nirvanaが『Lithium』をリリースしてから数年で迎えることになってしまったフロントマンの死は、曲の歌詞の薄暗い内容も相まって、根拠薄弱な無数の憶測を呼ぶのに十分すぎる材料でした。つまり、生前のKurt Cobainは実際にリチウムを服用していて、当該楽曲はそんな彼の頭の中を表現した体験記なのだと。
ですが、生前のKurt Cobain本人はこの楽曲の歌詞はフィクション──すなわち架空のストーリーであると、再三にわたり主張してきました。「この曲はガールフレンドを失った男の失恋ソングで、精神を病んだ男が自殺に走らないように宗教的概念に救いを求めるというストーリーである」と。一方でKurt Cobainは、ガールフレンドとの関係性が悪化していたという自身の心境を歌詞に一部反映させたということも認めており、彼の死には妻であるソロシンガー・Courtney Loveの関与も疑われました。結局、真相は分からず仕舞いなんですがね。
この場では偉大なミュージシャンの死について、無闇にあれこれと憶測を広げるつもりはありません。ただただ、天賦の才と弛まぬ努力によって全世界を魅了する音楽を最後まで届けてくれたKurt Cobainに、謹んで哀悼の意を表します。
歌詞の内容につられて暗い話を長々としてしまいました。続いて、2番の歌詞に移って行きたいと思います!
「孤独だ」
「でもいいよ、頭を丸めてみたんだ」
「悲しくなんかない」
「多分俺が聞いてきたことについて咎められるだろうな」
「知らないけど」
「興奮しているよ」
「お前と会うのが待ちきれない」
「でもどうでもいい」
「ムラムラするな」
「でも大丈夫だ」
「我慢できるよ」
毎回恒例となってまいりましたが、謎タイムです。一気に歌詞の内容が複雑になりましたね。孤独で悲しくないと自分に言い聞かせる主人公が、次の瞬間誰かとの対面にうずうずした様子で、さらにその次には性的興奮を自制している様子が描写されています。あれ、翻訳間違えてるかな。とにかく進みましょう──。
2回目の"yeah~"の後に、似たようなフレーズが連続する場面があります。
「そいつが好きだ。壊れたくない」
「お前が恋しい。壊れたくない」
「愛してるよ。壊れたくない」
「お前を殺す。壊れたくない」
いずれも2回ずつ繰り返すフレーズです。ここで"crack"という単語が出て来て、これがコカインを指しているという解釈もあるようですが、一先ずここでは執筆者の解釈を優先させます。いずれにしても、何かに依存して喘ぎ苦しむような主人公の憂いが描かれていることは間違いなさそうです。でなければ、こんなたった数行のうちにあべこべで矛盾した歌詞になりませんよね? 恋しく思うのに、愛しているのに、殺すだなんて……。
後は既出のフレーズの繰り返しになります。今回はここまで。お疲れさまでした!
いやあ、図らずもNirvanaを語るうちに少し内容が重たい感じになってしまいましたね……。強く逞しく、音楽ファンの憧憬の的であり続けなければならないという苦悩が、アーティストにはあったりするんでしょうか。無神経なファンやメディアがバンドを神格化していく度に、彼らが助けを求めたくともそうできない、特殊な環境を知らず知らずのうちに作り上げてしまっているんだとしたらと想像するだけで、申し訳ない気持ちで一杯になってしまいます。考え過ぎでしょうか……?
それでも、若くして謎の死を遂げる著名アーティストに自殺が多いのも事実です。今ぱっと思いつくのはElvis PresleyやMichael Jackson、Aviciiなどでしょうか。もっとも、前二者は自殺ではないとの見方もありますが。
さて、重苦しくなってしまった雰囲気を払拭するため、次回は明るい曲でも取り上げてみましょうか! UKから4曲取り扱ったので、次回の4曲目を以てUSバンドからの紹介は一先ず以上とします! さて、誰にしようかなー。
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はNirvana - Lithiumから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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