Scorpions - Speedy's Coming
ロック不況の時代と謳われた昨今における新世代の開拓者・Måneskinの活躍をお伝えしてきた通り、むしろ現代は新たなるロックの黎明期であると言えるのかもしれませんね。
皆様の応援に支えられ、無事に第70回を迎えることとなった今回は、そんなMåneskinも愛した70年代に活躍したアーティストから。旧ドイツ連邦共和国(西ドイツ)ニーダーザクセン州出身、1965年の結成以来、半世紀以上にわたって今もなお後続に多大なる影響を与え続けている世界的HR/HMバンド──Scorpionsの『Speedy's Coming』です!
同じくドイツのヘヴィメタル・バンドであるVIVAでキーボード奏者として活躍していた故・Barbara Schenkerの実兄にして、音楽家一本で生計を立てると志すまでは重電技術者やサッカー選手など、異色の経歴を積んできたギタリスト・Rudolf Schenkerにより結成されたScorpionsですが、本格的な始動は1970年代からでした。
というのも、最初期に在籍していたメンバーの一人・Karl Heinz Vollmerが軍務のため脱退を余儀なくされ、Led Zeppelinやアイルランド発のバンド・Tasteなどのカバーバンドとして知られるCopernicusで活動していたRudolfの弟・Michael及び、ボーカリストとしてKlaus Meineを招聘し、デビュー・アルバム『Lonesome Crow(邦題:恐怖の蠍団)』がレコーディングされたのは1972年だったのです。
同年には、イギリスのロックバンド・UFOのサポートアクトとしても活躍していたScorpionsの転機は、思わぬ形で訪れます。当時、日本での公演後、ドイツ国内でツアーを行っていたUFOですが、ギターを担当していたMick Boltonが突如として失踪したため、途方に暮れたバンドは急遽、代役としてMichaelを起用します。その場限りのピンチヒッターとして招かれたはずのMichaelですが、Mick Boltonの正式なUFO脱退が決定打となり、そのままScorpionsから移籍してしまいます……。
これが災いして、Scorpionsは存亡の危機に陥りました。Michaelは70年代初頭に結成されたDawn Roadというバンドのフロントマンにして友人でもあるUli Jon Rothを、自身の代役としてScorpionsに推薦──デビュー・アルバムのお披露目ツアーは彼の活躍もあり、何とか乗り切ることができますが、その後に提示された移籍オファーは断られ、Uli自身もDawn Roadへの残留を希望していました。
実弟Michaelの唐突な脱退とUli Jon Rothの慰留に失敗してしまったRudolfは、もはやScorpionsとしての活動継続は難しいと判断し、なんと自らがUliのバンドであるDawn Roadへの加入を決心します……。ところが、当時のドイツにおけるハードロック・シーンではScorpionsの方が比較的知名度が高かったことから、メンバー構成はほとんどDawn Roadのもの置き換わったにもかかわらず、Scorpions名義での活動が再開されるという珍事に発展……! 死んだはずの蠍団は、文字通り奇跡の生まれ変わりを果たしたのです!
1974年になると、新体制の発足以降初となるニュー・アルバム『Fly to the Rainbow(邦題:電撃の蠍団)』がリリースされます。後世に伝わる人気曲『Speedy's Coming』からタイトルナンバーで締め括られる名盤と呼ぶべき一作は、粗削りながらも表現力豊かなギター・サウンドが織り成すハード・ロック色が前面に押し出されており、Scorpionsとしての音楽の基礎が
ここから度重なるメンバー変更もありましたが、Scorpionsは怒涛の快進撃を繰り広げていきます。1975年にリリースされた3rdアルバム『In Trance(邦題:復讐の蠍団)』は、ヘヴィメタル・バンドとしてScorpionsにおけるある種の方程式を確立させたものとして、国内外に多数のファンを獲得。続く1976年、矢継ぎ早にリリースされた4thアルバム『Virgin Killer(邦題:狂熱の蠍団)』は、オリジナル版のジャケットこそ物議を醸したものの、こと音楽性の面では批評家やファンの間で概ね好意的に受け止められ、彼らの商業的成功を後押しする結果となりました。
さらに1977年の5thアルバム『Taken By Force(邦題:暴虐の蠍団)』がリリースされた翌年、満を持して来日公演が行われ、我らが日本においてもScorpionsの人気は最高潮に。ただし、当時所属していた米・RCA Recordsの猛プッシュにより、この頃からバンドはプロモーション活動に一層精を出すようになります。そんな商業化傾向に密かな不満を抱いていたUliは、バンド初となるライブ・アルバム『Tokyo Tapes(邦題:蠍団爆発!! スコーピオンズ・ライヴ)』の発表を待たずに、自身のバンドとしてElectric Sunを結成し、Scorpionsに別れを告げます……。
紆余曲折ありながらも、70年代後期から80年代にかけては、イギリスを震源地として勃興したN.W.O.B.H.M.ムーブメントが追い風となり、Scorpionsのヘヴィメタルはますます勢いを増していきます!
弟Michaelのカムバックと再脱退を含め、数え切れないほどのメンバー入れ替えがありつつ、1979年の6thアルバム『Lovedribe』から1988年の10thアルバム『Savage Amusement』まで、ほぼ1~2年毎に名作を世に輩出してきました。皆様ご存じの通り、その当時はまさに世界中を巻き込んだ東西冷戦の真っ只中。しかし、80年代末期、冷戦終結の気運が高まりを見せる中で作曲されたという『Wind of Change』は特にScorpionsを代表するモンスターヒットを記録し、変革や平和を象徴する名曲として人々の心に刻まれました。また、当該楽曲が収録された11thアルバム『Crazy World』がリリースされた1990年には、英・Pink Floydの元メンバーでもあるGeorge Roger Watersにより主催された、ベルリンの壁崩壊に伴うドイツ東西統一を記念するライブが開催され、Scorpionsはドイツを代表する名バンドとして平和の歌を披露したのです。
(もとは冷戦終結後のソ連において実施されたペレストロイカ(変革)の一環である重要な情報政策・グラスノスチを祝う歌詞であり、Scorpionsは当時のソ連の為政者であったミハイルゴルバチョフへと『Wind of Change』の特別なシングルレコードを謹呈したという逸話もある一方で、2022年より続くロシアによるウクライナ侵攻を考慮して、バンドは当該楽曲をライブで演奏する際には歌詞を一部変更して歌っているそうです。)
その後も、コンスタントにいくつかのアルバムをリリースするも、長年にわたりScorpionsを献身的に支え、"Sixth Scorpion"の異名で親しまれてきたドイツのレコードプロデューサー・Dieter Dierksとの別れがきっかけとなってか『Wind of Change』を最後に、バンドは安定期を迎えます。そして2010年、17thアルバム『Sting In The Tail(邦題:蠍団とどめの一撃)』がリリースされますが、その邦題が示す通り、Scorpionsは公式サイトにて、これが最後のアルバムとなり、それに伴うツアーがバンドとして最後の活動となることを表明──ファンは一時代の終焉を目の当たりにし、さぞ悲嘆に暮れたことでしょう……。
しかし、米・Rolling Stone誌に「ヘヴィ・メタルの英雄("heroes of heavy metal")」とまで言わしめた伝説が、こんなところで終わるはずがありません。2015年に結成50周年を迎え、これまでに三度のWorld Music Awardsに加え、ドイツ音楽作家賞ロック作曲賞など、数々の権威ある音楽賞に輝いているScorpionsは引退を撤回──2016年に日本の大型HR/HMフェス・LOUD PARKに出演する中で盟友Uliとの再会を果たし、2022年には19枚目となる最新作『Rock Believer』をリリースしています。彼らの胸で煌々と光り輝いているロック魂の炎は、まだまだ燃え尽きてはいないのです……!
歴史あるバンドの紹介となると、やはりどうしても長話になってしまいますね。それでは改めまして、今回の題材とさせて頂きたいのは、迷いに迷いましたが、やはり70年代から──ジャーマン・メタルの原点とも言うべき至高の一作で、今年リマスター版が解禁された『Fly to the Rainbow』収録のオープニング・ナンバー『Speedy's Coming』です。
既に業界においても一目置かれる存在だったとはいえ、リリース当時のScorpionsはその長いキャリア全体から見れば、まだまだ駆け出し。しかも、一時は空中分解となりかけていたRudolf 率いるバンドがUliの城であるDawn Roadのもとで再起を誓い、それぞれが一丸となって作り上げた復活の狼煙とも言うべき作品ですから、Scorpionsの歴史を語る上でこの曲は避けて通れないでしょう。
実際に『In Trance』『Virgin Killer』などの後継作品にあるような攻撃性と硬派なサウンドに惹かれ、こちらを評価する見方も強いですが、美しい音色を奏でつつも激しいロックへと昇華させていくプログレ色を前面に置いた『They Need A Million』から、ゆったりとしたバラード調の『Fly People Fly』まで、その後のScorpionsに通ずる様々な音楽的要素を詰め込んだ『Fly to the Rainbow』は、よりメロディアスで抒情的なUliの泣けるギターが好評で、これをScorpions屈指の名盤として推す声も強いです! そんな中、断腸の思いで選んだ『Speedy's Coming』は豪快でストレートなハードロックがウリの、シンプルイズベストな一曲──大変遅くなりましたが、一緒に聴いていきましょう!
[Verse1(0:16~)]
「ポスターを見上げるお前は」
「壁を見つめて」
「君が住んでいる部屋の壁を」
「君の憧れのスターたちと共に住んでいるところで」
「彼のレコードを聴いて」
「彼の言葉に耳を澄ませて」
「『愛してるよ、お嬢さん。今日会いにきておくれ』」
[Chorus(0:42~)]
「ビビっときただろ」
「君は彼に魅了されてる」
「あっという間に」
「魅入られていくんだ」
その一般的な認知度とは裏腹に、70年代Scorpionsライブのセットリストには必ずと言っていいほど載せられていて、バンド初のライブ・アルバム『Tokyo Tapes』にも収録された、歯切れの良いリズミカルなメロディーに飾り気のないストレートな歌声が評価されている『Speedy's Coming』──その歌詞が意味するところは単純で、自室にて大好きなロック・アイドルのレコードを聴きながら、愛するアーティストの姿が映されたポスターを眺め、想いを馳せているファンの憧れを表現しています。まさに今現在の僕のことですね(笑)。
[Verse2(1:09~)]
「Alice Cooperが好きかい」
「それともRingo Starrかな」
「David Bowieもきっと気に入る」
「Royal Albert Hallの友人たち」
「写真、映画、テレビに閉じ込めて」
「お嬢さんのためにショーを御覧に入れよう」
「会いにきておくれ」
[Chorus(1:35~)]
繰り返し
[Verse3(2:14~)]
繰り返し
[Chorus(2:41~)]
繰り返し
70年代初頭におけるグラム・ロックの代表格として有名なアメリカのミュージシャン・Alice Cooperに、同時期に台頭したイギリスにおけるグラム・ロックの先駆者で、独・ベルリンで生活していた時期もあるDavid Bowie、そして60年代に一世を風靡したあのThe Beatlesでドラムを叩いていたRichard StarkeyことRingo Starrなどなど、錚々たる面々を登場させていて、時代を感じますね!
Royal Albert Hallというのは、1871年に英・ロンドンに建てられた由緒あるコンサートホールです。戦後の著しい経済成長とグローバリゼーションにより、上記のような偉大なるアーティストたちのコンサートに足を運ぶことができなくとも、その様子が写真、映画、テレビで世界中に放送され、いつでも誰でも簡単に音楽と触れ合える時代になったということを喜ぶような歌詞は、その時の情景を鮮明に呼び起こしてくれるようです……。
はい、またしても駄文乱文ご愛嬌でお送りして参りました今回も、これにて終了となります。第70回目もお付き合いくださいました読者の方々、本当にありがとうございます!
キャリアも長く、数々の来日公演を行い、リリースされたアルバムの多くには邦題が付けられているなど、我らが日本にも所縁のあるScorpionsですが、実際のところ、どれほどの方がご存じでしたでしょうか。存在自体は知っていたとしても、実は事実上一度バンドは消滅していたということや、メンバーの入れ替わりが非常に激しかったなどの諸事情までは詳しくなかったという方も多いのではないでしょうか……?
まさに何度死んでも生まれ変わる不死鳥の如きロック・ミュージックそのものを体現しているような長寿バンド・Scorpionsは、まだまだ活動継続中! 激動の時代を生き抜き、ロック不況の現代においても持ち前の雑草根性で
えー、それではいつも通り、次回は番外編となります。邦楽アーティストについて書くのは何だか久々な気もしますが、おそらく僕の更新ペースが急激に鈍化してしまったことが原因でしょう……。次はなるべく間隔を空けずに投稿したいと思いますので、何卒よろしくお願いします!
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※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はScorpions - Speedy's Comingから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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