【番外編】邦楽好きとも繋がりたい - 7

 HR/HM、EDM、ヒップホップ、ポップ、ハウスなど、多様なジャンルから多彩なアーティストを満遍なく紹介してきた第71-80回も遂に完結。早速本編の続きを──とその前に、番外編として普段は僕の口から語られることのない邦楽アーティストにもスポットライトを当てつつ、一休みして参りましょう。


 ところで、今年も残すところあと3か月となってしまいましたね。10月に突入したというのに、東京近郊は残暑厳しく、昼の外出は未だに半袖、夜は扇風機がないと眠れないという異常事態です。


 先日とあるアウトレットモールにて服を買いにいった時のこと、一番人目につきやすい店頭には、まだまだ夏物の半袖シャツやハーフパンツが沢山並べられていましたねえ。冬物の商品は在庫が限られており、まさかの品薄状態。80%オフの格安で売られていたオーバーサイズのトレーナーを買って退散しました。ほんと、恐ろしいですね地球温暖化というものは……。


 雑談もほどほどに、今回のラインナップをどうぞ。


1.Yikiki Beat

2.DYGL

3.ego apartment


 大文字小文字、大文字だけ、小文字だけ、とややこしいですが、いずれも正確な表記です。今回は、そんなちょっと癖のある邦楽(?)バンド3選でお届けして参ります。


 トップバッターは、2010年から明治学院大学の同級生である秋山信樹(Vo, Gt.)、嘉本康平(Gt.)、加地洋太朗(Ba.)、野末光希(Syn.)、関口瑞紀(Dr.)が集い在学中に結成され、2017年に公表された活動休止まで、英・Summer Campや豪・Last Dinosaursなど、多数の海外バンドとの共演歴もあり、国内外問わず評価されてきた東京発のインディー・ロックバンド──Yikiki Beatです!


 大学生バンドということで、結成当時はメンバー全員が20代前半だったYikiki Beatは、その音楽性も時代の最先端をひた走っていました。所謂という大袈裟な道具に頼らず、野末は練習も本番もギタリストの嘉本に借りたシンセを使うだけで、フロントマンの秋山も、安物のマルチエフェクターを5年以上にもわたって愛用するほど。機材が良いものであるのに越した事はないというのが前提にありつつも、バンド全体のスタンスとして「まず良い曲を作る事」──その一点に心血を注いでいるのだと語る職人肌です。


 2012年夏から本格的な活動を開始したバンドは、2013年12月のEP『Tired of Dreams』が評判となって早々に名を上げます。フランス・パリの有名セレクトショップColletteとBonjour Recordsによるコンピレーション盤に参加し、ファッション界からもその存在が認知されるように……!


 Yikiki Beatというバンド名は、米・ハワイの州都ホノルル南東に位置するリゾート地・Waikikiのスペリングを文字ったものだとされていますが、まさに南国のビーチを想起させるような軽快なビートに乗せて歌われる英語の歌詞が印象的な『Forever』がヒットして、2015年に『When the World is Wide』でアルバム・デビュー。メンバー全員がそれぞれ異なる領域において外国のアーティストにインスピレーションを受け、ポップスの力強さとインディー・ロックの知的なアプローチに共感する「海外志向」的なスケールの音楽性を特徴とするYikiki Beatならではのサウンドは、世界中で一定の支持を得ていました。


 あ、そうです。またしても「邦楽紹介」と銘打っておきながら、英語で歌われる音楽を取り沙汰してしまいました。でも仕方ない。僕が好きになった音楽がたまたまそういう傾向にあるというだけで、他意はありません故……。もう「邦楽」の定義とは何なのかって感じですが、ここではっきりさせておきましょうね。本作において「邦楽」とは、ボーカルの使用言語如何にかかわらず、日本国内に拠点を置く、日本人アーティストにより制作された音楽であるということで……。ここはひとつ、よろしくお願いします(笑)。


 そんなYikiki Beatから、日本語で歌われる音楽が好きなのだという純粋な邦楽ファンの方にも是非おすすめしたいのは、先述しましたバンド唯一のアルバム『When the World is Wide』の収録曲『Forever』です。一時期は日本テレビ系列のバラエティ番組『ぐるぐるナインティナイン』でEDテーマともなっていた当該楽曲は、どこか有名な海外アーティストに提供すれば世界中にその名が轟いていたであろう良曲だと思います。決してYikiki Beatの力不足だと言いたい訳ではなく、日本市場におけるインディーバンドの肩身の狭さというか、マーケティングの難しさというものが垣間見える現象なのかなあと……。とにかく、元気がないときにはついつい聴きたくなってしまうような、個人的に大好きな楽曲です。ご鑑賞ください!


 続きましては、そのYikiki Beatが活動休止を報告した2017年より、秋山信樹(Vo, Gt.)、嘉本康平(Gt.)、加地洋太朗(Ba.)の3名に下中洋介(Gt.)を加えたフォーピース・ロックバンド──DYGLです!


 バンド全体の目標が不明確であったり、追い求めたい音楽と求められる音楽とのギャップに喘いでいたメンバーたち全員の円満合意によりYikiki Beatが活動休止を迎えた後のこと。Cairophenomenonsという別バンドに活躍の場を移した関口瑞紀、ソロ活動へと転向した野末光希を除いたメンバーらで構成されるDYGLですが、実のところ、その設立経緯はYikiki Beat同様に明治学院大学在学中の出来事でした。そのため、DYGLというバンド自体はYikiki Beatと同時並行で存在していました。


 もっとも、当初バンドはDYGLではなくDe Nadaと名乗っており、その後も何度かの改名を経て現在の形に落ち着いています。


 DYGLとしての初作品となったのは、2016年リリースの6曲入りEP『Don't Know Where It Is』で、2017年にはアメリカのロックバンド──The Strokesでギタリストを務めるAlbert Hammond Jr.をプロデューサーに迎えたアルバム『Say Goodbye to Memory Den』をリリースしたり、Franz Ferdinand(第31回参照)による2022年の単独公演にてサポートアクトに抜擢されたりなど、相変わらず幅広い海外アーティストと親交を結んでいるようです!


 そんなDYGLですが、現在は海外での知名度向上もあるのか、日本での音楽イベントにも精力的に姿を現してはいるものの、イギリスを活動拠点として欧米でのツアーに明け暮れているようです。──え、ついさっき「邦楽」の定義は日本国内に拠点を置く日本人アーティストの音楽だって、自分でそう言ってただろうって……?


 光の速さで矛盾してしまい申し訳ございませんが、Yikiki Beatを紹介するならば、折角ならDYGLの方も取り上げておきたかったんです。このタイミングを逃せば今後一切触れる機会はないだろうと……。どうかご勘弁を!


 今や真のワールドクラス・アーティストとしての称号に手を伸ばさんとしている、我が国が誇る珠玉のバンドの名曲群から僕がおすすめしたいのは、2022年の最新アルバム『Thirst』から『Dazzling』です。──うーん、この「何かに似ているような気がするけど、何にも例えられない!」というもどかしさ。彼らの洋楽への理解と、それを自分たちの音楽へと落とし込む才覚を垣間見られるような気がします……!

 

 所謂「日本の音楽」を求めてこのエッセイをご覧になられた方々からのブーイングの嵐を覚悟しつつ、ラストバッターとして選んだのは、米自治領・北マリアナ諸島サイパン島出身のDyna(Ba.)、大阪市堺市出身のPeggy Doll(Vo, Gt.)、豪・シドニー出身のZen(Vo, Gt.)による、1998年生まれの多国籍ユニット──ego apartmentです。


 「おーおー、遂にアーティストでもなくなっちまったな」──そう思われた方、ここまで来たからには最後までお付き合いくださいませ! きっと後悔はさせませんので!


 英語が基本となりつつも、時折日本語を混ぜ合わせた歌詞が、変幻自在なツインボーカルスタイルにより表現力豊かに歌われるのが特徴のego apartmentは、Spotifyが2022年に躍進を期待するネクスト・ブレイク・アーティスト10組「RADAR: Early Noise 2022」に選出され、海外からのリスナーも多く、徐々に知名度を高めています。


 喜怒哀楽が同居しているかのようなDynaの魅惑的なトラックに、哀愁漂う独特なハスキーボイスで聴衆を魅了するZen、そんな彼とは対照的なファルセットを多用する歌唱法と非凡なメロディセンスがユニット全体の屋台骨となっているPeggy Dollが、それぞれのを持ち寄って活動していることから命名されたego apartmentは、2021年に本格始動したばかり。ソウル、R&B、ヒップホップ、ボサノヴァ、エレクトロニカといった豊かな音楽的背景をときにナチュラルに、ときに強引に織り交ぜていくことで生まれる、オリジナルなサウンドスケープやグルーヴなどを強みに、今後のポップ・ミュージック・シーンを席巻するであろう注目のバンドだと目されています!


 これからに期待大の3人組が手掛ける楽曲から僕がおすすめしたいのは、最新シングル『Call me』です。常に弛まぬ進化を続けている彼らのキャリアの行く末、今後とも目が離せませんね。


 さて、今回はもっぱら自由気ままに、僕自身もエゴ丸出しで自分の好きなアーティストについて語らせて頂きました。トレンドに迎合するでも、奇をてらうでもない、独自の路線をどこまでも貫き通そうとするカッコ良い日本人アーティストたちの魅力、その欠片でも伝えることができたでしょうかね……?


 今までのような番外編を求めてやってきてくださった方には、申し訳ないチョイスだったかもしれませんねえ……。何分、再三申し上げてきた通り、邦楽方面となるとにわか知識に拍車がかかる僕は番外編で話せるネタが尽きつつあるのです(笑)。最近は新たにネタを仕入れる機会もなく、洋楽の世界に入り浸っている僕にとっては痛恨の極み。次回までには少し勉強も兼ねて、近頃巷を騒がせているメジャーな邦楽アーティストの音楽を聴き漁ってみようと思いますので、その成果にご期待くださいませ。


 勿論ですが、洋楽アーティストに関するネタは、まだまだ尽きる気配がありませんのでご安心を。というより、現在は週2~3回のペースで更新している本作ですが、このままであれば多分僕の生きている限り話題には困りませんね。プラットフォームの発展とグローバリゼーション著しい現代においては特に、若くしてその才能を遺憾なく発揮してくれる気鋭のアーティストたちが次々と頭角を現していくので、未来は明るいなあとしみじみ思います……。


 何やらだらだらと引き留めてしまいましたが、今度こそ今回は以上となります。ありがとうございました。また次の番外編──いえ、願わくば邦楽にしか興味のないというそこの貴方も、本編でお会いできることを楽しみにしております!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回は何も引用しておりません。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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