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Disclosure, Aminé, slowthai - My High

 以前、僕は本エッセイのどこかで、取り沙汰する個々のアーティストの個性を最大限余すことなく紹介するために、複数アーティストによる共作はリクエストでもない限り、極力紹介しない方針を取ると言っていましたね。でも、実際はAvicii(第11回参照)の『Wake Me Up』におけるAloe Blacc、Gorillaz(第66回参照)の『Feel Good Inc.』におけるDe La Soulなどのように、各回でメインとして紹介しようとしたアーティスト以外にも、しれっとスポットライトが当たることがありました。やはり、どうしても他アーティストをフィーチャーする機会が多い音楽プロデューサーを紹介する際は、選曲の都合上、仕方のないことと言いますか……。


 ですので、これから暫くは単独で紹介することが難しいアーティストたちについて、才能溢れる天才たちがタッグを組んで制作された音楽を中心として、一挙に取り上げていくこととします。


 試験的な形となりますが、トップバッターとして選んだのは、イングランド南東部・サリー州出身のLawrence兄弟によって結成された、パーカッシブなUKガラージを特徴とするダンスミュージック・デュオ──Disclosureが、アメリカ・オレゴン州出身のラッパー・Aminéと共に作詞し、帰国後にノーサンプトン出身のラッパー・slowthaiを招いて完成させた楽曲『My High』です!


 2010年、イギリスのインディーレーベル・Moshi Moshi Records(日本語の「もしもし」が由来で、ちょっと名前が可愛い)から、シングル『Office Dexterity』でダンスミュージック界に彗星の如く現れたDisclosureは、Sam Smith(第50回参照)をボーカルに招聘して2012年にリリースされたシングル『Latch』で一躍有名になった注目株です。同曲も収録されている、米・Pitchfork誌により選出された2013年のベストアルバムで堂々の3位にランクインしたデビュー作『Settle』を皮切りに、2015年にリリースされた2ndアルバム『Caracal』では、Sam Smithに加え、The Weeknd(第9回参照), Miguel, Lordeといった錚々たる面々がゲストボーカルとして参加しており、業界内での存在感は増すばかりです。


 そんな、今最もアツい兄弟ユニットによる『Caracal』以来、およそ5年振りとなる2020年にリリースされた通算3作目のニュー・アルバム『ENERGY』に収録された、2021年開催の第63回グラミー賞において最優秀ダンス・レコーディング賞にノミネートされた楽曲──それが今回紹介していく『My High』です。国内外に強固なファンベースを確立した2ndアルバム『Caracal』の成功に起因して、ある種のセカンドアルバム症候群(※)に苦しめられていた中で生み出された『ENERGY』は、同賞の最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバムにもノミネートされているファン待望の作品だったこともあり、Disclosureの現在地を解説する上では格好の教材でしょう!


(※成績優秀な新入生が進級して難しい課題に直面したとき、背負った期待による重圧から本領を発揮しにくくなることを指す"sophomore slump"と同義的に用いられる音楽業界あるある)


 有色人種のアーティストだけで構成されたゲストリスト(ほとんどが黒人アーティスト)が非常に大きな特徴で、ヒップホップ、R&B、そして西アフリカにおけるポップ・ロックの長い歴史から着想を得て制作されたと言われる『ENERGY』は、数多くの批評家から絶賛を受けています。伝統的なヨルバ族のパーカッションから抽出されたジュジュ・ミュージック、南アフリカ由来のハウスから派生したアマピアーノ、その他フジ、アフロビート、ハイライフ、マコッサ、キゾンバなどなど、信じられないほど多岐にわたるアフリカン・ミュージックの系譜的作品とも言えるアルバムで、とにかく沢山の楽曲を素早く作詞して、数多くの候補から良い物だけを選ぼうというプロセスがあったらしいです。──何というか、セカンドアルバム症候群に陥っていたとは思えないほどの熱意がひしひしと伝わってきますよね……。


 Disclosureの底知れぬ熱意に触発されて『My High』の制作に参戦したのは、エチオピア系移民の息子としてのルーツを持つ、ラッパーのAminéでした。常にラッパーとは共作を手掛けてみたいと考えていたDisclosureでしたが、界隈に詳しくなく、連絡先も限られており、Lawrence兄弟の地元であるサリー州のライゲイトと呼ばれる地方ではコラボに適したラッパーも見当たらないと嘆いていたところ、白羽の矢が立ったのがAminéなのです。兄弟曰く「コメディアンになった方が良い」と称されるほど、人を喜ばせる才能に長けたAminéの作詞はとても素早く、まさにDisclosureがアルバム制作において求めていた人材としてもベスト。結果的に、彼ら自身も大きく首を縦に振れるようなアッパーでエネルギッシュな曲が完成したそう。最高のタッグが生まれてしまった訳ですね!


 また、兄弟は完成した楽曲に適したコラボレーターを決める際、それはバルバドス人とイギリス人のハーフである10代の母親から生まれたという凄まじいバックボーンを抱え、パンクロックの要素を取り込んだアグレッシブなグライムを主軸とする若手ラッパー・slowthaiを置いて他に居ないと考えていたとか。確かに、アップテンポな『My High』のイメージと合致するアーティストとしてslowthaiよりも適した人物を挙げてみろと言われたところで、僕には皆目見当もつきませんから、最高の人選だったと思います!


 ちょっと各アーティストの紹介文の比重が偏っている気もしますが、当該楽曲はあくまでもDisclosureの曲だということで、ご容赦くださいませ。それでは、皆様の期待が最高潮まで高まってきた気配を感じるので、そろそろ『My High』のビートに乗って歌詞の翻訳へと移っていきましょうかね──。


[Pre-Chorus: Aminé(0:16~)]

「一晩中そこに突っ立ったまんま」

「光に揺られて鼓動が高まる」

「あんたのボーイフレンドは滅茶苦茶に束縛気質だな」

「勝ち組になりたいからって俺に寄生しようってのか」


[Chorus: Aminé(0:29~)]

「おいビッチ、台無しにしてくれるなよ、今ちょうど良いところなんだ」

「頼むからぶち壊さないでくれ、最高なんだ」

「放っておいてくれ、気持ち良いんだ、俺の──何だって?」

「台無しにしてくれるなよ、最高の気分を」


[Verse 1: Aminé(0:45~)]

「毎日のように、Aminéはヤッてる」

「つまり尻軽にヘイって鳴かせるお遊戯をだ」

「ビートに乗るまで(Nワード)と一夜の過ち」

「良い女ほど危ない目に遭わないと分からない」

「クラブのプロモーターは俺の知り合いみたいに振舞いたがる」

「そんでダチみたいに絡んでくるんだ」

「バッドニュースだ、(Nワード)よ、あんたは俺のダチじゃない」(×2)

「ビッチ、俺はお前を連れていかない」

「嘘吐きは孤独のままで居るこった」

「俺とヤッてからお前は所構わず盛ってやがる」

「あの男だけに飽き足らず今度は金までほしがるのか」

「面白味もない(Nワード)は愛されない」

「つまらないビッチも愛されない」

「俺の方が間違ってるのは知ってる、多分ドラッグのせいだ」

「冗談、今度はお前が俺と一緒にクラブで歌う番だ、こんな風に」


[Pre-Chorus: Aminé(1:14~)]

繰り返し


[Chorus: Aminé(1:27~)]

繰り返し


[Break: Aminé(1:43~)]

「良いとこなんだから邪魔してくれるなよ」

「頼むから」(×2)

「お前のやってることは」

「最底辺」(×6)


[Verse 2: slowthai(1:56~)]

「気は確かか? 狂ってるに違いないな」

「悲しそうな顔だな、マリファナでも吸って、ハイになれよ」

「彼女もしょんぼり、ああ、もう10本目までいっちまってるみたいだ」

「俺と一緒にしようか」

「頼むから誰も俺の良い気分に水差さないでくれよ」

「俺の歩き方にケチつけるなよ」

「あの男はダンスしない、プライドが高すぎる」

「俺たちが乾杯すると、奴は目にグラスを突っ込んでくる」

「『目には目を』って感じで世界を盲目にするんだ」

「俺のハイな気分を台無しにするなよ」

「お前のYSL(イブ・サンローラン?)で盛り上がって」

「イカした感じの、マドモアゼルになった気分で」

「可愛らしいピンク色、くすぐってみても良いかな?」

「まるで、キャラメルを舌で転がすみたいにどうかな?」

「ボーイフレンドに伝えておいて、『今日は遅くなる』って」

「税金の還付金みたく金を浪費するんだ」


[Pre-Chorus: Aminé(2:27~)]

繰り返し


[Chorus: Aminé(2:40~)]

繰り返し


[Bridge: Aminé & slowthai(2:55~)]

「がっかりさせないでくれよ」


[Chorus: Aminé(3:52~)]

繰り返し


[Outro: Aminé(4:06~)]

「あー、ぶち壊さないでくれよ」

「エナジー全開だ」(×2)


 歌詞中に所々Nワードが含まれていますので、そこは流石に伏せ字で対応させて頂きましたが、概ね意味はこの通りかと。ヒップホップらしさが全面的に現れたアグレッシブな歌詞で、聴く人によっては不快に思われる方もおられるか分かりませんが、あくまでもひとつの創作物として受け止めてくださると助かります……。


 どの箇所をどのように翻訳したのかをある程度分かり易くするため、使用されているスラングやヒップホップ的文化特有の単語の意味をざっとまとめた早見表を作っておきますので、以下ご参照くださいませ。


・fuck up=歌詞中に頻出する。意味は「水を差す」「がっかりさせる」

・ball=動詞の場合、暗に性行為を意味する俗語としての意味もある

・hoes=whoreという単語から派生した、性的サービスを生業にする女性(売春婦)を揶揄して、広くbitch(尻軽)と同義に用いられる。"ho"と略されることも。

・Shawty=魅力的な女性を指す

・homie=ツレとか、ダチみたいなノリで使われる

・sike=嘘だよーん、的な

・spliff=大麻(マリファナ)の葉を巻いたジョイントの意


 こんなところですかねえ。もし疑問点などあればコメントくださればお答えしますので、よろしくお願いしますね。


 ちなみに、この楽曲もMVが結構凝っていて面白く、視覚的にも楽しめる一曲となっています。あ、肝心の歌詞の内容解説ですが……。もう敢えて言及しなくても皆様お察しの通り、当該楽曲は『My High』という題が若干ネタバレしていることからも分かるように、これまたヒップホップ名物である薬物がテーマとなっているみたいですね。我々日本人の感覚からすると「ええ……」って感じですが、海外では大麻程度の薬物より酒類(アルコール)の方がよっぽど依存性が高く、身体への負担が大きいとされている研究データもあるので、薬物に対する捉え方というか、価値観が全く異なるのでしょうねえ。僕的には、音楽が滅茶苦茶カッコ良いので、どんな歌詞でもオールオッケーです(笑)。皆様がどうお考えになるか分かりませんが……。


 ヒップホップ系統の音楽は、往々にして歌詞中のメッセージが分かり易いため、解説することも少なく取り上げにくい傾向にあるのですが、今回は如何でしたでしょうか。そこそこボリュームがあったのではないかなと思います。次回もこんな感じで、通常であれば本稿の題材として選びにくい複数名による共作を持ってきて、もっぱら楽曲そのものに焦点を当てつつ、個々の類まれなるアーティストのバイオグラフィーなどについても触れていくので、楽しみにしていてください!


 勿論、皆様からのリクエストも承っております。本作を通じて、自分のとっておきのおすすめを他の洋楽好きと共有したいという思いのある方、特定の思い入れあるアーティストについてアカデミックに深掘りしたいという方、その他どのような目的でも、自由にコメントくだされば幸いです!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はDisclosure, Aminé, slowthai - My Highから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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