Coldplay - Paradise

 半年以上、コンスタントに更新を続けて参りました本作も読者の皆様のご好評に支えられ、遂にPV数が3,000を超えました。今回はとうとう第80回目。長いようで短かったと感じるのは、僕だけでしょうか。ただ自分の愛してやまない音楽という文化について、好きな事を好きな時に語っているというだけで、これほど沢山のファンの方と繋がれたという事実。嬉しく思います……!


 夢見心地のまま、これから紹介しますのは1997年に結成されたイギリス・ロンドン出身のオルタナティブ・ロックバンド。衰退したブリットポップの後継者として、21世紀の世界に英国伝統の音楽を新たな形として轟かせたポスト・ブリットポップを象徴する存在──Coldplayの『Paradise』は如何でしょうか?


 1996年、英・University College London(UCL)の学生寮にて、新入生オリエンテーション期間中に知り合うこととなったChristopher Martin (Vo.)とJonathan Buckland (Gt.)によりバンド結成の構想が練られたColdplayですが、最初期に同じくUCLで出会いを果たしたGuy Berryman (Ba.)を加えてからはBig Fat Noisesを名乗り、本格的な作曲・レコーディングを開始。1988年にWilliam Champion (Dr.)が参加して現在のラインナップが出揃ってからは、親友同士、四人五脚で活動を共にしており、メンバーの変更は一度も経験しておりません。バンドの運営方針を巡って喧嘩をする日もありましたが、彼らが尊敬するU2(第20回参照)などの先達を見習い、メンバー同士のリスペクトやドラッグを持ち込まないといった明確なルールの徹底によりトラブルを回避してきた、模範的グループとしても知られています!


 Williamはバンドへの加入数日後、早々にして初ライブの計画を立案しましたが、まだ正式な名称が確定していなかったバンドは当時Starfishとして表舞台に。しかし、数週間後、最終的にUCLにおける学友・Tim Cromptonの提案により、詩人・Philip Horky著の詩集『Child's Reflections, Cold Play』から着想を得たColdplayの名を喜んで受け入れたのだそう。


 今日、世界中の誰もが知ることになる8つのアルファベットを引っ提げて、同年5月、マネージャー兼クリエイティブディレクターとしてバンドを影から支えている幻の5人目──Christopherの昔馴染みにして気の置けない竹馬の友・Philip Christopher Harveyが出資したインディーズEP『Safety』を500枚限定で制作。最初の1枚がPhilipのルームメイトに£3(現在のレートでおよそ550円)の格安で売られ、残る多くはバンドの売り込みのためにレコードレーベル各社へと送付された結果、市場に出回ったのはたった150枚という超プレミア。伝統的なブリットポップ文化の流れを踏襲しつつも、様々な音楽ジャンルを分野横断的に取り込んでおり、そのボーダレスな作風でポピュラー音楽の潮流を牽引しているColdplayによる第一歩とも言うべき作品ですから、入手された方は一生の自慢になりますねえ……。


 その後もいくつかリリースされてきたEPの収録曲がイギリスのラジオ番組にて紹介されるなど、公共放送の電波に乗せられて英国全土にファンを獲得し始めてきたColdplayの知名度を高めることとなった決定打としては、2000年に発売されたデビューアルバム『Parachutes』と、先行シングル『Shiver』『Yellow』の存在があったことはChristopherも認めるところ。イギリスのアルバム・チャートにおいて初登場1位を記録した勢いそのままに、発売元である英レーベル・Parlophoneが見込んでいた販売枚数を遥かに上回るセールスを年内に国内のみの集計で達成! 一方で、ブリットポップ衰退の背景からも分かる通り、当初はアメリカにおける市場開拓に悪戦苦闘していたColdplayですが、蓋を開けてみれば2003年の第45回グラミー賞で2ndアルバム『A Rush of Blood to the Head』が最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムの栄冠に輝くなど、世界的大成功の証明を得ています。


 21世紀に突入してからというもの、Coldplayは今世紀最大にして最高のバンドとしての呼び声高く、以降も3rdアルバム『X&Y』から『Fix You』に、4thアルバム『Viva la Vida or Death and All His Friends』から『Viva la Vida』など、継続的に後継作品を発表していく中で、数多くのヒット曲を世に送りだしてきた逸材としてカルト的な人気を博していくことになります。また、メンバー全員がその莫大な収入のうち10%を人権保護、自然保護、貧困撲滅、銃廃止など、様々な活動に携わっている多くの慈善団体へと寄付していることでも知られ、その利他的な精神性はどこか本当にU2と重なるものがありますね……!


 今回皆様と一緒に聴いていきたいのは、そんな清らかなイメージそのものを体現したかのように美しいメロディーが印象的な、2011年リリースの5thアルバム『Mylo Xyloto』より『Paradise』でございます。The BeatlesとOasisしか成し遂げていなかった「デビュー以来5作品連続での全英初登場1位」という金字塔を打ち立て、Coldplayという存在をまたひとつ上の次元へと押し上げる契機となった伝説的名盤における、最高のヒット曲。まだ聴いたことがないという方は勿体ない! 早速僕と一緒に、神秘的な楽園のファンファーレへと身を投じていきましょう──。


[Verse1(1:01~)]

「彼女がまだ幼かった頃」

「世界は希望に満ち溢れていただろう」

「だがそれも彼女の手の届かないところへと飛んでいった」

「そうして彼女は現実から目を背けた」


[Chorus(1:14~)]

「楽園を夢見て」(×3)

「いつだって目を閉じればそこに」


[Verse2(1:42~)]

「彼女がまだ幼かった頃」

「世界は希望に満ち溢れていただろう」

「だがそれも彼女の手の届かないところへと飛んでいった」

「そして辛酸を嘗めさせられようとも」


[Pre-Chorus(1:56~)]

「それでも人生の歩みは止められず、重責がのしかかるばかり」

「運命の歯車は蝶を噛み殺し」

「涙が流れる度、それは滝のよう」

「夜が訪れ、嵐に包まれ、彼女は目を閉じる」

「夜が訪れ、嵐が去ると、彼女は飛び去った」


[Chorus(2:20~)]

「楽園を夢見て」(×3)

「いつか夢想に耽った楽園へ」(×3)


 1分間にもわたる壮大なイントロに迎えられ、紡がれるのは何処か寂寥感漂うメッセージ。そのギャップがとても心に響くと言いますか、これまでの楽曲で培われてきたChristopherによる「感情表現の巧さ」が表れている良作だと、しみじみ思いますねえ……。


 『Paradise』の魅力はその美しい旋律にとどまらず、映像作品としてのMVにも一見の価値ありです。というより、当該楽曲のMVは歌詞の内容を理解する上で必見と言っても過言ではなく、僕としては個人的に数ある作品の中でもColdplay史上最高とも感じられるものだと思っています。


 詳しいことは是非ともMVをご覧になって頂きたいので省きますが、映像は終始、象の着ぐるみに扮したChristopherに焦点を当て、物語が進行していきます。象として、自由を欲していた彼は軽快な動きで動物園と思しき施設を脱し、南アフリカの地を一輪車で横断して仲間を探し求めるといった内容のストーリーなのですが、登場人物が人ではない(という設定)である以上、歌詞中の主人公("She"の代名詞で語られている人物)も同様に、人であると解釈すべきではないかもしれません。


 幼き日、無垢なる「彼女」は自身を取り巻く世界を希望に満ち溢れていると信じて疑いませんでした。しかし「彼女」も成長を遂げるにつれ、厳しい現実というものに直面することになります。それはある種の運命であるとも言えますが、そうした「運命の歯車に噛み殺された蝶」という存在が、この歌詞における主人公的存在なのではないでしょうか。


 生きている限り、時間は進み続けますし、歩みを止めることはできません。でも、休みなく翼を動かし続けていれば、あるいは重苦しい非情なる現実に翼を押さえつけられてしまえば、蝶も飛ぶことは叶いません。同じことが、我々人間にも言えますよね。嵐の日、蝶はじっと耐え忍ぶことでしか命を繋ぐ方法はありませんが、嵐が過ぎればまた、自身が理想とする楽園へと翼を動かすことができる。単純な話なのです。辛ければ休み、苦難が過ぎればやりたいようにやれば良い。象だろうが、蝶だろうが、僕たち人だろうが、生きたいように生きて良いのです。──そんなメッセージが、この歌詞と楽曲のMVから垣間見ることができませんか……?


[Bridge(3:01~)]

「そんな嵐の空の下で横たわって」

「彼女は言った『太陽はまた昇るために沈むんだ』と」


[Chorus(3:21~)]

「ここが楽園なのかな」(×4)


[Chorus(4:03~)]

繰り返し


 「太陽はまた昇るために沈むんだ」──この言葉を聞くためだけでも、このアルバムを手に取った価値があるというもの。そう、太陽のように、どれだけ偉大な存在であろうと常に最高の状態で居られる訳ではないのです。眩いほどの輝きを放つためには、それだけ休む時間も必要だということ。無駄な事なんて、きっと世の中にはないんでしょう……。そんなことを考えながら、明日も僕はぐーたら──いやいや、創作活動に邁進していきたいと思います(笑)。


 さて、今回もこんなところでしょうか。お楽しみ頂けましたら何よりでございます。


 最近のColdplayは、最新アルバム『Music of the Spheres』におけるリードシングル『Higher Power』や、今を時めく韓国のボーイズバンドであるBTS(Bangtan Boys)とのセカンドシングル『My Universe』などに見られるように、よりシンセポップに傾倒したこれまでのスタイルとは一線を画す音楽性が表れていて、初めて聴いた時は「何か違う」感もありました。とはいえ、アルバムリリース後、宇宙的なコンセプトで統一された一連の楽曲群を通して聴くと、これもまた一興かとすんなり受け入れることができました。Coldplayと聞いて、皆様が思い浮かべる最高の一曲は何でしょう。多岐にわたる音楽ジャンルに造詣が深く、作品毎にそれぞれの味が出ているバンドですから、色々な声が聞けそうで楽しみです……!


 さあ、これにて本作も一段落ということで、次回は邦楽ファン待望(?)、恒例の番外編でお送りしていきますので、よろしくお願いします!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はColdplay - Paradiseから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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