Alan Walker - Faded

 The Chainsmokersからバトンを受け取りました今回は、ノルウェー人の母とイギリス人の父の間に生まれた、今を時めく意気盛んな26歳のビートメイカー──Alan Walkerより、モンスターヒットを記録した超有名曲『Faded』でお送りします。


 イングランド中東部に位置するノーザンプトンにて産声を上げたAlan Walkerは、家族に連れられて2歳の頃にノルウェー西部のベルゲンへと転居し、現在に至るまでプログラミングやグラフィック・デザインなどのコンピューター技術へと興味を寄せ、積極的に学んできました。


 そんなAlan Walkerのアーティストとしてのキャリアの起源は、2012年に遡ります。弱冠15歳にして、独学で音楽プロデュースの基礎を覚えていた彼は、当時のゲーム仲間だったオンライン上の友人らによる助力もあり、初めて自分のPCで音楽を制作することに。同時期、DJ Walkzz名義でYouTuberとしてデビューしていた彼は、オンライン上での楽曲リリースをスタートするため、現在4,400万人以上の登録者数を抱える自身のYouTubeチャンネル"Alan Walker"にて、デビューシングル『Celebrate』を公開。ハンズアップ系の一風変わったスタイルでファンの心を惹きつけると、その後もコンスタントに新曲を披露していきます。


 しかし、精力的に音楽制作を続けていたAlan Walkerは『Flying Dreams』のリリースを最後に、ひっそりと活動を休止してしまいます。もっとも、彼の音楽への熱意が失われた訳ではありません。休止中、Alanはフランス人トラックメーカー・DJ Snakeの創る楽曲に心酔し、彼の音楽制作に係るノウハウに興味を抱いて連絡を取ります。その他、Alanは後に『Ignite』『Play』などの共作を手掛けることとなる同国ノルウェー出身のEDMプロデューサー・K-391や、共作『End of Time』で知られるオランダ出身のプロデューサー・Ahrixに多大なる影響を受けたと明かしており、2014年になると、音楽性を刷新してよりハウスに傾倒したシングル『Dennis 2014』をリリースしました。


 『Dennis 2014』がリリースされた直後、著作権フリーの音楽を扱うイギリスのレコードレーベル・NoCopyrightSoundsを通じてYouTube上に公開された『Fade』は、ネット上で現象的なヒットを記録します。これを機に、ノルウェーのレーベル・MER Musikkとの契約を果たすと、同国出身の女性シンガー・Iselin Løken Solheimを招いて製作された名曲『Fade』のリマスター・バージョン『Faded』が2015年に満を持してリリース! 母国ノルウェーのみならず、ドイツやスウェーデン、スイス、オーストリアなどの年間チャートで首位をマークした他、全英週間シングル・チャート、及び全米ホット・ダンス/エレクトロニック・チャートでもトップ10入りを果たします。


 今回はそんな、Alan Walkerにアーティストとしての活動に専念するため大学中退を決意させ、彼の人生を大きく変えた名曲『Faded』の歌詞を和訳していきたいと思います。2018年のデビューアルバム『Different World』にも収録されたベストヒットにつき、既にご存じの方も多いかと思いますが、今一度改めてAlan Walker伝説の原点とも言うべき楽曲を深堀りしてみませんか……?


[Verse1(0:00~)]

「貴方は光り輝く私にとっての影だった」

「一心同体だと思ってたのは私だけだったの?」

「欠けた双子星の如く、堕ちていく貴方」

「二人の目的を見失ってしまうことが恐ろしいの」

「二人で居たい、生きて」


[Pre-Chorus(0:21~)]

「どこに居るの?」(×3)

「全ては私の幻想だったというの?」

「どこに居るの?」

「貴方の存在は幻だったというの?」


[Chorus(1:06~)]

「どこに居るの?」

「アトランティスのように、海の底へと、堕ちてしまったの?」

「どこに居るの?」

「夢の中では」

「モンスターが私の中で暴れ回っているというのに」

「褪せていく、ぼやけていく」

「失われ、褪せていく、ぼやけていく」

「迷子になって、消えていくの」


 もともと、Alan Walkerは当該楽曲のオリジナル・バージョン『Fade』の制作にあたって、トロピカル・ハウスに寄ったサウンドを主軸にするべく試行錯誤を重ねていましたが、ドロップにはエレクトロ・ハウスの要素を挿入したかったがために、両者を上手く融合することができなかったことから、後者に統一したサウンドが確立したといいます。その際にインスパイアを受けたのが、先述したAhrixの手掛けた楽曲『Nova』であったり、K-391による独特のメロディックなスタイルだそう。


 また『Faded』のボーカルを募集するに際して、Alanは最初にIselin Løken Solheimから送られてきたデモを聴いて、一目(耳)惚れ。すぐにレコーディング作業に移るため急いでコンタクトを取ったほどで、そんな彼の慧眼に見初められたIselinは後のヒット曲『Sing Me to Sleep』でもフィーチャーされており、相性は抜群。前回紹介したThe Chainsmokersの『Sick Boy』同様に、ある意味でハウスらしさのない独自路線が体現されていて素晴らしいですね。


 そろそろ歌詞の内容に話を戻しましょう。歌詞中には頻りに「貴方」と「私」という代名詞が登場するので、そのまま素直に解釈すれば、ありがちな失恋ソングの類であろうと思ってしまいます。しかし、当該楽曲の題である『Faded』という単語、そして「光」と「影」などの対比表現で強調されていることから推測するに、歌詞中には解離性同一性障害──所謂「多重人格」に悩むひとりの主人公の独白が綴られているものと考えます。


 主人公にとって、自分の中に潜むもうひとりの人格は、光と影に形容されるように一心同体の存在だと思い、受け入れていた。しかし、ある日突然に消えてしまったもうひとりの自分を探し求め、何度も「どこに居るの?」と繰り返します。二人一緒に生きていくことが主人公の望みであったのにもかかわらず、かつて古代ギリシアの哲学者プラトンの著書『ティマイオス』及び『クリティアス』の記述中にその存在が提唱された伝説上の大陸・アトランティスに例えたように、海に沈むように消えてしまった、もうひとりの自分。これまでは、光と影という相容れない概念そのもののように、主人格と別人格との境界線は明確に存在していたというのに、別人格が主人格へと統合していくことで、その境界線がぼやけて失われていく。『Faded』という題には、まさにそのような意味があるのではないかというのは、発想が飛躍し過ぎているでしょうか……。


[Verse2(0:42~)]

「こんな浅い水底で私の必要としていたものは見つからない」

「もっと深くまで、自分を解き放つ」

「永遠の静寂に包まれた深海だけど」

「私は息をして、生きている」


[Pre-Chorus(0:21~)]

「どこに居るの?」(×2)

「眩い光もいずれは褪せていく」

「貴方だけが私の心に火を灯してくれる」

「どこに居るの?」(×2)


[Chorus(1:06~)]

繰り返し


 本当にハウスらしからぬ、哀愁漂う雰囲気に詩的表現が盛り込まれた歌詞、面白いですね。きっと、別人格を失った主人公は自分の深層心理を海に例えて、自らを解き放つことで奥底までもうひとりの自分を迎えにいった。そこで息をすることはできないはずだけど、主人公にとって何よりも大切な存在が近くに居るので、彼女はそこで生の実感を得ることになると。


 うーん。ちょっと無理やりな線ですかねえ。皆様も是非Alan Walkerを代表する名曲につき、面白い歌詞の解釈の仕方が思いつきましたら教えてくださいね。それでは今回は以上になります。お付き合いくださり、ありがとうございました!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はAlan Walker - Fadedから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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