Aerosmith - I Don't Want to Miss a Thing

 その昔、1970年代はロックミュージックの黄金期と呼ばれていました(重ねて言いますが、僕はその時代を生きていた訳ではないので又聞きになります)。1970年代のUKロックシーンを代表するのがLed Zeppelinなのだとしたら、USロックにおいて双璧を成すのは、一体どのバンドなのだろう。──僕は考えました。そして、1つの結論に至ったのです。分からないと。


 「お前USロック好きを名乗るのをやめちまえ」だなんて言わないでください……! 僕は平成生まれで、にわか知識しか持ち合わせていないような浅学ですので、ただであることだけが原動力なのです! そもそも、僕の知る限りですと70年代のロックシーンはイギリスが強烈過ぎました! 以前紹介したQueenに加え、Sex PistolsやPink Floydなど多岐にわたるジャンルのロックバンドが一挙に脚光を浴び、全盛期を迎えた時代ですから。


 無論、USバンドがそれに比べて見劣りしていたと言いたい訳ではありませんよ! The EaglesやBoston、KISSといった強烈な個性を持ったロックバンドが数々誕生した豊作の時代です。その中から1つのバンドを選んで、そこからさらに紹介する楽曲を選定しようとなると、迷いに迷います。


 そんな中、今回紹介しようと思い立ったのは、米・東海岸出身のロックバンド・Aerosmithから『I Don't Want to Miss a Thing』でございます! 主にThe BeatlesやThe Rolling Stonesの影響で、1960年代半ばに米・Billboardのヒットチャートの大半が英国出身のバンドで独占されるという現象が起きたことで、アメリカの音楽業界はこれを"British Invasion"と称して大きな危機感を抱いていました。そんな中で、自国文化から影響を受けたブルースやR&Bに英国由来のハードロックの要素をうまく調和させた音楽性で1970年の結成以来、一度たりとも解散を経験することなく半世紀以上に渡って第一線を張り続ける長寿バンド、それこそがAerosmithなのです。


 要するに、UKロックシーン最強時代に未曽有の危機を感じていたUSロックファンにとっての希望の星的な存在だった訳ですね……! グラミー賞受賞歴4度を含む数々の栄冠に輝いてきた同バンドから、『I Don't Want to Miss a Thing』を選ぶのは簡単ではありませんでした。でも、当該楽曲は知名度の割に、しっかりと歌詞を知っているよって方は少ないと思うんですよね、個人的に。


 いやいや、流石に知ってるよって? 僕が言いたいのは、歌詞の意味を奥深くまで考えたことはないんじゃないかなってことです。『I Don't Want to Miss a Thing』の歌詞は中学生レベルの英単語や文法で、明快なものがほとんどなので、何処か分かった気になって敢えて調べてみようとはせずに「まあこういう意味なのだろう」と勝手に納得してしまっていることがあると思うんですよ──まさに、今の僕がそれです。


 だからこそ、今こそ『I Don't Want to Miss a Thing』という名曲の歌詞をもう一度おさらいして、その歌詞に秘められたる想いたるや何なのか、見て行こうじゃありませんか……! さあ、皆さん、お手元に歌詞の原文はご用意できましたか? 僕の和訳と解釈と共に、ボーカリスト・Steven Tylerの語り掛けるような優しい歌声とシャウトのギャップに酔いしれてください。


「君の寝息を聞いているだけで安心して起きていられるんだ」

「君が眠りながら微笑んでくれるのを見守ってる」

「君は遠い夢の中」

「この甘美なる宝物に人生を捧げても構わない」

「一生この瞬間を彷徨い続けたって良いんだ」

「君と過ごす全ての瞬間が」

「僕にとって大切な宝物なんだから」


 『I Don't Want to Miss a Thing』は、1998年のアメリカ映画『Armageddon』の終盤で俳優・Bruce Willis演じる主人公が死んでしまうシーンのため、米ソングライター・Diane Eve Warrenによって作詞・作曲されたものです。Aerosmithにしては珍しく、バンド外部のアーティストに作曲を任せたんですね。映画『Armageddon』のサウンドトラックに収録された当該楽曲は全米シングルチャート1位を記録するなどの大ヒットでしたが、その背景には映画のヒロイン役を演じたLiv Tylerがボーカル・Stevenの実娘だったことも関係しています。


 何が言いたいのかと言うと、『Armageddon』という映画のストーリーに立脚して考えても、楽曲が制作された背景事情を鑑みても、この歌詞は親子の絆が表現されたものであるということです。ご存じでしたでしょうか……? 我が子の隣で添い寝してあげる優しい両親、頭を撫でてあげながら我が子がすやすやと微笑みを浮かべながら眠りに就く姿を見て、この宝物と過ごす時間を護るためなら我が身をも捧げんとする両親の心情が表現されていますよね……。


 感動のサビです。


「目を閉じていたくない」

「眠りに落ちたくないんだ」

「だって、君が恋しいんだよ」

「何1つ見逃したくはないんだ」

「たとえ君のことを夢に見ても」

「甘美なる夢の世界で出会ってもダメなんだ」

「どうしようもなく恋しくなるんだ、ベイビー」

「僕は何1つ見逃したくはないんだ」


 仮に映画のストーリーを基に作詞しているとしても、良くこんなにも心に響く歌詞を作り上げることができるものだと、畏敬の念を抱いてやみません。夢の世界では満足できないから、1分1秒でも長く愛する者の笑顔を瞳に収めておきたくてやまない。そんな親の気持ちがありありと表現されてます。今時というか、音楽業界全体を見渡してみてもこのような歌詞を歌うロックバンドは珍しいと思います。


 2番です。


「君の傍に寝そべって」

「君の心臓の鼓動を感じるんだ」

「それから君がどんな夢を見てるのかって考えるのさ」

「僕の夢を見ていてくれたらって」

「僕は君の閉じた瞼にキスを落として」

「共に居られることを神に感謝するんだ」

「ただ君と一緒ならそれで良い」

「この瞬間がこの先もずっと、永遠に」


 もう、かえって言うことがありません。直球で心を揺さぶられる内容ですから。この楽曲を映画『Armageddon』で初めて聴いたという1990年代を生きていた方々の中で、涙を堪えることができた方は居るのかなと思います。


 サビの重複部分は省略して、最後の曲調変化です。


「1つの笑顔でさえ」

「1つのキスも逃したくない」

「ただ君と一緒に居たい」

「この時、この瞬間のように」

「ただきつく抱き締めていたい」

「君と心を通わせたいんだ」

「この瞬間ただ君と一緒に」

「僕に残された時間全てを」


 ブリッジパートですらこの凄まじい迫力のボーカルと感動的な歌詞の内容、完全に涙腺を緩めに来ています……! いつか来る別れの時を惜しんで離れたくないと思う親は、その時が刻一刻と迫っていることに気が付いているのか、焦っているのか、そんな得も言われぬ気持ちが最大限表現されていて凄いですよね……。おっと、僕には語彙力がないようで凄いとしか言えないようです。


 歌詞の紹介は以上となります。今回もお付き合いいただきありがとうございました!


 さて、恒例の次回予告のコーナーですが、残念ながらヒントは用意しておりません。というのも、ありがたいことに先日リクエストを頂きまして、次回は現代音楽において最も影響力の強い女性シンガーの1人であるカナダ出身・Alanis Morissetteを取り上げたいと思います……! さて、数ある楽曲の中で僕が何をチョイスするのか、その選球眼が問われる訳ですが、リクエストの期待に応えられるように、大谷選手よろしくホームランを打つため、一球入魂、全力強振でやってまいりますのでよろしくお願いします(日本優勝おめでとう)。


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はAerosmith - I Don't Want to Miss a Thingから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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