Alanis Morissette - All I Really Want

 本作もいよいよ25回目を迎えました。長かったようで、意外と1ヶ月も経っていないんですね。ほぼ1日1回のペースで書いているとは思いもしませんでした……。番外編を含めるともっとですよね。まあ、ただでさえ適当なことを書いている本エッセイの番外編は一層適当なんですが。本当は22作目にTaylor Swiftの『22』、24作目には僕の好きなヒップホッパー・24kGoldnか、Bruno Marsの『24K Magic』を紹介するという小ネタを挟む予定だったのですが、全て忘れていました! どうでもいいですね、別に作品自体にナンバリングしている訳ではないですし……。


 余談はさて置いて、今回は僭越ながら、リクエストを頂いたカナダ出身の女性シンガーソングライター・Alanis Morissetteから『All I Really Want』を紹介したいと思います! 1974年生まれの彼女は、3歳の頃から両親と共に西ドイツで過ごしていて、6歳でカナダへと帰郷するとピアノを弾き始め、10歳を迎えた時には既に曲を書き始めていたというような天才肌でいらっしゃいます!──いやぁ、僕が10歳の頃は一体何をしていたんだっけか。感服いたします。


 『All I Really Want』は、1995年にリリースされた3rdアルバムにして世界デビュー作『Jagged Little Pill』の第1曲目に収録されたもの──すなわち、彼女の伝説の始まりと言っても過言ではないでしょう!


 Alanis Morissetteは当初、1991~92年にリリースされた『Alanis』『Now Is the Time』といった初期のアルバムにおいて、ダンスポップに傾倒したサウンドを中心に詰め込んでいました。ですが、彼女は高校卒業を機に、単身アメリカ・ロサンゼルスへと移住した際にGlen Ballardというプロデューサーに出会ったことを契機として、共同作詞と音楽性の実験を試みたようです。そのようにして完成された『Jagged Little Pill』は、それまでのダンスポップ寄りの音楽からは一転して、ポストグランジやポップロックの影響を受けたものとなり、ギター、キーボード、ドラムマシン、ハーモニカをフィーチャーした、独自のオルタナティブ・ロックを体現させてみせました。歌詞はAlanis Morissette本人の経験による、失恋や攻撃性をテーマとしたものが主となっているようです。


 ですから、Alanis Morissetteの初期と現在では音楽性が大きく異なっていて、好みも人によりけり、といったところでしょうか。僕の選曲がこれで正しかったのかどうか、不安が残るところですが、続けていきましょう……!


 表現力豊かな歌声を持つAlanis Morissetteの音楽性は様々な批評家から賞賛を受け、これまでにグラミー賞を7回も受賞しています。そのうち『Jagged Little Pill』は、"Album of the Year"の他4部門を含む、計5つの賞を受賞しています。当時、弱冠21歳にして栄えある賞に輝いたAlanis Morissetteは、史上最年少での受賞だったようです。また、売り上げの面でも驚異的記録を残していて、カナダにおいて史上初のダブルダイヤモンドを記録したのだとか。──なんか、色々と凄すぎて笑うしかないです……。


 色々とAlanis Morissetteの略歴や功績を述べてきましたが、まあまずは聴いてみるのが手っ取り早いでしょう。何故、彼女が現代音楽において最も影響力のあるシンガーソングライターのうちの一人として数えられているのか、すぐに理解することができるでしょう! 


 それでは、いつも通りテーマとなる音楽をループ再生しながら、はたまた歌詞の原文を見ながら、僕の和訳と解釈を楽しんでいただけると幸いです――。


「私は貴方を苛立たせたの?」

「私のセーターは裏返しになっているのに」

「貴方は言うの『とても似合ってるね!』って」

「今日は些細なことまで荒立てたくはない」

「貴方を悪く言うつもりもない、けど見て」

「仕方ないじゃない」


 歌詞の意味する内容について、先に言及しておきますと、これはAlanis Morissetteが自身とイギリス作家・Charles Dickensの小説『Great Expectations』に出てくるキャラクター・Estellaを対比させて、パートナーとの対立やうまく行かない人間関係について表現したものだとされています。要するに、俗っぽい言い方をすれば、本人の経験談を含む失恋ソングといったところでしょうか。プロデューサー・Glen Ballardとの共同作詞とはいえ、21歳でこのような歌詞を描けるなんて素晴らしいですよね。


 ここでは、互いの気持ちのすれ違いと、彼の関心が主人公から離れて行ってる様子が見て取れます。些細なことの積み重ねでうんざりしているとはいえ、細かいことに目くじらを立てていたら、またいつものような言い争いに発展してしまうかもしれない。だから、今日くらいは何も言わないつもりでいたのに、貴方のせいで仕方ないでしょ!的な意味でしょうか。


「銃声が鳴り響く前に私から飛び掛かるの」

「割れた物差しの破片で私を引っ叩いてみればいいわ」

「私は既にそこには居ないだろうから虚しく床を叩くだけだけど」

「私がハンターを迎え撃ってやれれば良いんだけど」

「私が本当に望んでいるのは少しばかりの我慢強さ」

「怒声を落ち着けるための方法」

「もう本当に解放してほしいだけなの」


 この辺りは比喩表現の塊ですね。先述の小説『Great Expectations』は僕自身見たことも聞いたこともないのですが、このようなフレーズが出てくるのでしょうか。知っている方が居れば、是非教えていただきたいです。


 まあ、推察するに、銃声とはパートナー同士による喧嘩の合図でしょうね。主人公から彼に言いたいことを言ってやるけど、彼は物差しという正論で主人公を殴りつけようとする。けれど、そんなことをしているうちに主人公はもう鬱陶しい彼のもとを去っていく。後を追いかけてくるハンターのような彼を懲らしめる力が私にあればなぁ、的な願望が最後に表現されているとか……。どうでしょう。なんだかんだ関係の修復を望んでいる彼と、もう既に冷め切ってしまって一刻も早く解き放たれたい主人公との温度差が読み取れます。


 続いて2番です。


「貴方を疲れさせちゃったかしら」

「私のことを冷酷で無神経な奴だと思ってるんでしょ」

「孤独の冷たさに浸ってるのよ」

「Estellaみたいにね」

「惹きつけてから突き放すのが良いのよ」

「それなのに貴方は無関心で嫌になる」


 出てきましたね、Estellaさん。一体どんな人なのか、小説を読んで見ないことには分かりません。でも、主人公のパートナーが無関心であるという点は先程の歌詞とも一致しますね。主人公はパートナーとの関係において主導権を握りたいけど、中々思い通りに行かなくて苛立ちを覚えているということでしょうか。Alanis Morissetteの恋愛遍歴が気になるところです……。


「この世界の堕落っぷりは恐ろしいわね」

「親の顔が見てみたいわ」

「信心深い人って素敵だわ」

「彼の謙虚さには本当に頭が下がること」


 いきなり世界と来ましたか。まあ、僕もこの世界の創造主に会えるものなら会ってみたいものです。そんな堕落しきった世の中(あるいは2人の関係を世界に例えて?)を作った創造主(もしかして彼への当てつけ?)を肯定する「信心深い彼の謙虚さ」に辟易しているといったところでしょうか。


 要するに、私たちの関係という名の世界をめちゃくちゃにしたのは貴方なのに、それを良い物だと信じて疑わない貴方の性格にはうんざりだ、ということを皮肉たっぷりに言っているのかな……? いや、全然違ったらすみません。


「私はソウルメイトを見つけるためなら犠牲を惜しまないわ」

「誰かが捕まえてくれるまで」

「血の繋がりを持っても良い人のためなら」


 いまさらですが、Alanis Morissetteの家族は皆敬虔なローマカトリック教徒らしいので、宗教的な比喩が多分に含まれているのは、その点も大きく関わっていると思われます。『All I Really Want』の他にも宗教的な意味合いのある歌詞の楽曲はいくつかあったはずです。ですので、その点も理解していないと、この歌詞を完璧に理解することは難しいかもしれませんね。うーむ、色々と準備不足のまま、見切り発車で当該楽曲を選定してしまいましたが、これで大丈夫でしょうか……。


 ええい! ここまで来たら最後まで一気に行きましょうか!


「私のことはもういいから、少しは貴方のことも教えてよ」

「やっぱり貴方のことももうたくさんだから、人生についてでも語りましょう」

「葛藤、狂気、そして偽りの世界が崩れる音が」

「ほら、そこら中で」

「何で黙ってるの?」

「ねぇ、ちゃんと聞いてるの?」

「請求書、元カノ、それとも締め切りのことでも考えてたのかしら?」

「それとも死について?」

「はたまたもう他のことに興味が向いたの?」

「私はより理性的な肉体関係が必要なの」

「もっと深いところまで私の魂を貫いてほしい」

「私の中で時間が飛ぶように過ぎ去っていくわ」

「死の概念すら殺すことができれば」

「私が本当に欲しているのはある種の平和よ」

「分かり合える場所を見つけたいの」

「波長が合えばそれでいいの」

「私が本当に欲しているのはある種の安らぎ」

「縛られた両手を解くための手段」

「私が本当に欲しているのはある種の正義」


 どうやら主人公は、魂の深くまで繋がり合えるようなスピリチュアルな運命を感じたいと思っている一方で、理性的な関係を求めているという葛藤があるようですね。色々と興味の移り変わりが激しい飽き性の彼に愛想を尽かして、偽りの関係を解消して開放や安らぎを求めて羽ばたいていったのだということまでは、何とか理解することができました! その解釈が合っているのかは分かりませんが、まあ僕なりの答えとして、お納めください……。


 はい。過去最長レベルで長くなりましたが、歌詞紹介は以上になります。お疲れ様でしたー!


 いやぁ、やはりリクエストで、なおかつ権威あるアーティストの紹介となると気合の入りようが違います。僕なりに、丁寧にAlanis Morissetteの魅力を伝えることができたのではないかと自負しておりますが、万が一ご満足いただけなかった場合は申し訳ありません。


 改めて彼女が当該楽曲を21歳の時に制作したのだと強調しますが、そんなAlanisが20代だった時、彼女はうつ病や摂食障害に悩まされていたといいます。そんな過去の苦しい経験から、2009年に彼女は、全米摂食障害協会(NEDA)のチャリティーマラソンを走ったのだとか。自身の経験を歌として伝え人々を魅了するだけではなく、チャリティー活動にも参加するその精神性、見習うべきところがありますね。


 ええ、そんなAlanis Morissetteは今年のFUJIROCK FESTIVAL '23にて来日予定です。見に行くチャンスですよー。ちなみに、Alanisが出演する7月29日はFoo Fightersも出演予定でして、50歳という若さで無念にも逝去してしまった元ドラムス担当・Taylor Hawkinsは、Alanisのバンドでの成功をきっかけにFoo Fightersへと加入したというちょっとしたエピソードがあります。そんな切っても切り離せない関係があるAlanisとFoo Fightersが同時来日する7月29日、両者は何かを語り合うんですかね。


 長くなりましたが、次回予告です。とはいっても、次回もリクエストにお答えする形でアイルランドのフォーク・ロックバンド・The Corrsを紹介いたします。こちらのバンド、僕はあまり詳しく知らないので少々お時間頂くことになりますが、リクエスト頂いたバンドは何が何でも絶対に紹介いたしますので、読者の皆様は遠慮せずにじゃんじゃん送ってきてください! 


 まあ、僕も紹介したいバンドのネタが尽きる気配は全くないので、たまに個人的趣味を全開に発動しますが、その際は温かい目で♡だけ押してくださると喜びます。ではでは。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はAlanis Morissette - All I Really Wantから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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