Encore: Queens of the Stone Age - The Way You Used To Do

 ところで、音楽をこよなく愛する読者の皆様はこの頃、良く眠れておいででしょうか。前回もお伝えしましたが、地震大国たる日本の国民として平時より災害対策にかける意識はここ十数年で飛躍的に高まっているはずの我々でさえ不可逆的な被害と二次災害の恐怖に晒され続けている件の天災に始まり、国際交通の要所である空港の滑走路上で発生した飛行機衝突事故、未だ止まるところを知らない政界・芸能界を渦巻く黒い噂と著名人のスキャンダル、果てはおよそ50年にもわたる、警視庁が重要指名手配に指定する容疑者の中では最長となる逃亡生活の末、死亡が確認されたとされる男性のニュースなど、音楽という素晴らしい趣味に生き、生かされている我々の眠りを妨げる雑音ノイズは新年早々、日毎に大きくなっていくばかりですね……。


 斯く言う僕も最近全く眠れていない人間のひとりでして、ベッドに横になって目を閉じてみても、安眠効果のありそうなさざなみの小気味良い音に心を落ち着けてみても、頭の中で俺TUEEE系の妄想を展開しながら自己陶酔に浸ってみても、気がつけば天辺越えて数時間ってことが多々あります。困ったものですよねえ。そこで、僕はつい最近、自身の健康管理を兼ねてスマートウォッチなるものを購入したんですよ。これが凄くてですね、腕に巻いておくだけで自分の心拍数をリアルタイムで計測してくれるものですから、心機能から持ち主の動作を関知して一日の活動時間、休息時間を割り出すことができるため、日頃の運動管理は勿論のこと、ストレスの数値化も併せて自身の健康状態が全て可視化されるのです。当然、寝る時は睡眠の時間、質の両面から分析してくれるので、僕の睡眠習慣のどこに問題があるのかも分かりました。


 まだスマートウォッチ購入から数日しか経っていませんが、どうやら、僕は自分が感じていたよりも遥かにストレス数値が高く、平均睡眠時間も推奨される時間よりも遥かに短かったということ、そして長く眠れている日でも睡眠の質が極端に悪く、眠りが浅い時間が全体の7割近くを占めるなど、決して身体を休められているとは言えない状況にあったようです……。また、以上の難点を改善するためには就寝前の水分摂取量を減らし、スマホ・PCなどの液晶ディスプレイから発せられるブルーライトを極力避けることが必要だと。いずれも頭では理解できていることですが、案外しっかりできていないものだなあと、改めて認識するきっかけとなりましたね。もし日頃から睡眠に問題をかかえつつ、その原因がいまいち良く分かってないなーという方は、是非購入を検討してみては……!?


 あ、全然ステマとかじゃないですから。僕にそんな宣伝力はないので(笑)。前置きが長くなりましたね。夜は寝つきが良い方だという人も、そうでない人も、今宵の子守唄に選ぶのは、今年2月におよそ6年振りとなる単独来日公演が決定しているUSオルタナティブ・ロック界の重鎮――Queens of the Stone Ageから『The Way You Used To Do』でどうでしょう!


 前回(第27回)は、Queens of the Stone Ageというバンド本体というよりも、彼らの代表曲『No One Knows』の魅力にスポットを当てて紹介してしまったので、今回はバンドの音楽的特徴から設立経緯までを、余すことなくお伝えすることができたらと思います。


 味わい深くも荒々しいブルース・ロックの潮流を継承した、所謂ストーナー・ロック界の草分け的存在に等しいQueens of the Stone Ageの前身たるKyussの中心人物のJoshことJoshua Michael Hommeは、バンドが解散に至った1995年まで、エレクトリック・ギターをベースアンプで鳴らすことにより重厚感のあるダウンチューニングを実現し、サイケデリックかつグルーヴィーなギタープレイによって名を馳せた人物です。その翌年、ツアーギタリストとしてScreaming Treesに帯同した後、新たにGamma Rayというバンドを結成しました。


 しかし、実は既に同名のバンドがドイツで活動していたため、訴訟問題に発展することを恐れたJoshは1997年、すぐさまQueens of the Stone Ageと名を改めることになります。このバンド名は、ストーナー・ロック界のゴッドファーザーとして知られる、Masters of Realityのオリジナルメンバーにして、Kyuss時代からバンドのプロデューサーを務めてきたJoshの旧友・Christopher Allen Gossによる発案でした。


 1998年、再出発したバンドは、Pearl Jam(第58回参照)のギタリスト・Stone Carpenter Gossardが設立したレーベルである米・Loosegroove Recordsから、セルフタイトルのデビュー作『Queens of the Stone Age』をリリース。この直後、Joshの盟友・Nick Steven Oliveriがベースを担いでやってきたことで、バンドのラインナップはKyuss時代のメンバーのみで構成されるようになっていました。しかし、何事も順風満帆とはいかず、2ndアルバム『Rated R』がレコーディングされるころには頻繁にメンバーが変更されてきました……。


 それでも、尻切れ蜻蛉のような形で幕切れを迎えてしまったKyuss時代の無念を晴らすかのように、前回も説明した通り、当該作品は少なくない反響を呼びました。その結果、Nirvana(第7回参照)及びFoo Fighters(第63回参照)といった世界最高峰のロックバンドを股にかけたカリスマ・David Grohlが参加してレコーディングされた3rdアルバム『Songs For The Deaf』は大ヒット。各収録曲の中でも、取り分け『No One Knows』は音楽史における重要な文化遺産と称するに相応しく、また『Go with the Flow』も、人気ビデオゲーム『Guitar Hero』と『Rock Band』においてフィーチャーされたり、最近だとTPSの大流行から人気を博している『Fortnite』のゲーム内イベント曲として採用されたり、当該アルバムはメインストリームにおけるQueens of the Stone Ageの知名度を一段と押し上げた出世作なのです!


 ようやく軌道に乗ってきたかと思われたバンドですが、ここで予期せぬ事態が。『Songs For The Deaf』のお披露目ツアーが一段落した後のこと、Joshが最も厚く信頼を寄せていたはずの相棒Nickが当時のガールフレンドに暴行を働いていたとして、彼を解雇するという苦渋の決断を迫られることになってしまいました。竹馬の友を失い、一時は解散をも考えたと語るJoshですが、それでもめげずに4thアルバム『Lullabies to Paralyze』を2004年にリリース。


 Josh自身、信じていたはずの友を自らの手で切らざるを得なかったという喪失感からか、後にバンドが最も低迷していたのはまさにこの時期だったと語っています……。ですが、Kyuss時代から音楽家として酸いも甘いも噛み分けてきたJoshは決して折れず、来たる2007年、5thアルバム『Era Vulgaris』を復活の狼煙とばかりに打ち上げました。


 しかし、その直後に『Songs For The Deaf』のレコーディングに参加し、後継作『Lullabies to Paralyze』のサポートツアーにも帯同していた、ラトビア生まれのロシア系アメリカ人キーボディスト・Natasha Shneiderが肺癌のため、52歳という若さでこの世を去ったという訃報が届きました。流石のJoshにもこの頃には疲弊の色が隠し切れず、バンドは活動を小休止しました。


 活動休止中、直近に加入していたベーシスト・Michael ShumanはMini Mansionsへ、マルチ奏者・ Troy Van Leeuwenは新たにSweetheadを立ち上げ、Dean FertitaはThe White Stripes(第8回参照)で活躍した伝説的ギタリストであるJack Whiteの主宰するThe Dead Weatherへ、そしてJoshはかつての仕事仲間であるDave Grohlと、Led Zeppelin(第23回参照)のJohn Paul Jonesと共に、スーパーグループ――Them Crooked Vulturesを結成。バンドメンバーは、それぞれが思い思いに活躍の場を広げていました。


 ところが、ここでまたしてもJoshに試練が。膝に問題を抱えていた彼はなんと手術に失敗してしまい、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症と呼ばれる合併症を引き起こし、一時は窒息に起因する心肺停止状態となったことも。友のスキャンダル、Natashaの死、そして追い打ちをかけるかの如く、4ヶ月間の寝たきり生活を強いられたJoshの健康状態は芳しくなく、重度の鬱を患い、その間に音楽活動を完全に断念することも考えたそうです……。


 十分過ぎるほどに試練を味わったJoshですが、これぞロックスターの性と言うべきか、転んでもただでは起きないのが彼の凄いところ。これらの壮絶体験は、2013年にリリースされることとなる6thアルバム『...Like Clockwork』を制作する上で貴重なインスピレーションになったと後にJosh自身が語っており、当該作品を「退くか進むか、これは前進の旅を描いたドキュメンタリーだ」と表現しております。


 アルバムの制作背景、Joshのエピソードには彼を応援してきたファンの関心も集まっていたため、この『...Like Clockwork』はQueens of the Stone Ageとして初めて全米初登場首位の快挙を成し遂げます。また、バンドを去って久しいNick Oliveriも当該作品から復帰しており、Joshにとっては最高の転機を迎えることのできた時期といえるでしょう……!


 紆余曲折ありながらも、不屈の精神で輝かしい黄金のロック魂を燃やし続けているQueens of the Stone Ageですが、その魅力の最たるものはやはり何といっても、その唯一無二のギターサウンドかと思います。今回もまた、そんなQueens of the Stone Ageならではの純粋かつ情熱的なギターソングをお届けしたい――その一心で選びましたのは、2017年にリリースされた7thアルバム『Villains』からのファースト・シングル『The Way You Used To Do』です!


 というのも、この『Villains』というアルバム、実はDavid Grohlであったり、Arctic Monkeys(第29回参照)のフロントマン・Alex Turnerなどといった錚々たる面々を招いて製作した前作などと打って変わって、Queens of the Stone Ageとしては史上初めてスペシャルゲストなしに完成されたアルバム。そのため、どこかKyuss時代を彷彿とさせるJosh特有のギタープレイが存分に引き出され、聴きごたえ抜群の一枚となっているのではないかと思います。また、米英での圧倒的なセールスは勿論のこと、我らが日本でも過去最高となるオリコン洋楽チャート4位を記録するなど、今までよりも一層幅広いファンに受け入れられている作品であることは確かです!


 中でも、今回の『The Way You Used To Do』は一度聴き出したら曲が鳴り止んでも心躍り止まないといった我々のロック魂を擽り起こすかのような名曲。前回の『No One Knows』同様に、Queens of the Stone Ageを知らない方にも強くおすすめしたい楽曲になっておりますので、対戦よろしくお願いします――。


[Verse1(0:14~)]

「俺が初めて会った時彼女はまだ17歳だった」

「たったの17だ」

「放火魔の如く運命の相手を探し求めては」

「生きたまま燃え尽きたのさ」


[Pre-Chorus1(0:33~)]

「誰にも見つからないところまで走るんだ」

「お嬢さん、誰も彼も振り切ってしまえば良いさ」


[Chorus(0:43~)]

「だが今やもう関係ない」

「ただ俺の手を取って愛しておくれ」

「かつてのように」


 曲を聴いて「あれ、意外とノリノリだな」「Kyussというか、ストーナーっぽくないよな」と思われた方も多いかと思います。それもそのはず、Joshが位置づけた当該楽曲が収録されたアルバム『Villains』のコンセプトとは「より気楽に」ということ。その点、最近の流行であるダンスミュージックに関心を示していたJoshは、Bruno Mars(第42回参照)との共作『Uptown Funk』で知られるイギリス出身プロデューサー・Mark Ronsonを招聘しているというサプライズがありました。力強くもしなやかなサウンドが主体となって、疾走感のあるメロディーがこれまでにない感覚を、ストーナーロックの新境地を見せてくれているような感じがします……!


[Verse2(0:58~)]

「愛ってのは精神病か熱に浮かされた時の幸せな夢みたいなもんか?」

「まあ何だろうが構いやしない」

「平常を脅かすモンスターを産んでしまったよ」

「奴等は手に負えないな」


[Pre-Chorus2(1:26~)]

「もし世界が俺等の背から吹き飛んだとしても」

「その衝撃に気がつくことは決してないだろうな」

「俺たちの行く手を阻むような輩はいないさ」

「そんな奴がいたら俺が葬り去ってやる」


[Chorus(1:46~)]

繰り返し


[Bridge(2:01~)]

「今となっては」

「かつてのように」


 正直なところ、歌詞の意味に関してはあまり良く分かりませんよね(笑)。「今はもう関係ない」「かつてのように愛してくれ」とあるように、歌詞中のエピソードは過去と現在の対比によって繰り返されているものと思われます。登場人物は語り手である主人公と、最初に現れた「彼女」のふたり。


 「愛」という不確かな概念について思い悩む主人公ですが、そんな彼はある日、運命の相手を探し求める恋愛に狂った一人の少女と出会います。そこで「愛」の正体などどうでも良いと思えるくらい、直感的なものを感じ取ったのか、主人公は「彼女」を連れて駆け落ちしていくといった描写が見受けられましたね。


 正真正銘の愛の前には、世界が終末を迎える衝撃すら塵芥の如く。行く手を阻む者は全て捻じ伏せるといった主人公の気概――この曲の全体的なテーマは「盲目的な愛欲に溺れた二人の男女」といったところでしょうか……。


[Verse3(2:28~)]

「俺の心臓、それは祝福の鐘の音」

「操り人形だったとしても」

「これが運命なのさ」

「だからそっと手を置いて俺の鼓動を感じてくれ、愛する人よ」


[Pre-Chorus2(2:54~)]

繰り返し


[Chorus(3:14~)]

繰り返し


[Outro(3:33~)]

「かつてのように」(×2)

「今は俺の手を取って愛しておくれ」

「かつてのように」(×2)


 間奏が終わり、まるで愛する人との別れを名残惜しむようなアウトロによって幕切れを迎えるこの曲の構成というか、演出力がたまらなく好きですね。また、Joshのような超絶ハンサムが生き生きとして熱唱しながらギターを掻き鳴らしているところが良いんですよね……。


 はい、そんなQueens of the Stone Ageですが、昨年6月にリリースされたニューアルバム『In Times New Roman…』を引っ提げ、冒頭でもお伝えしました通り2018年以来およそ6年振りの来日公演が間もなくとなっております。個人的に『Paper Machete』や『What The Peephole Say』はライブ映えしそうだなーと感じておりますが、参戦される方も、そうでない方も、コメントでニューアルバムの感想等を共有してくださると、いちファンとして素直に嬉しいですね!


 ――ちなみに、僕個人としての評価は10点満点中100万点です(激甘)。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はQueens of the Stone Age - The Way You Used To Doから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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