Encore: AC/DC - Dirty Deeds Done Dirt Cheap

 謹賀新年、明けましておめでとうございます――って、睦月も中旬を迎えているというのに、遅ればせながら2024年一発目の挨拶となります。皆様は充実した年明けを過ごすことができましたでしょうか。


 しかしながら、新年早々にして日本海側の各県を襲った天災が巷を騒がせておりました故、地元住民や地方へ帰省中だったという人々を始め、心身共に休まらない時間を過ごされた方も多かったかと、察するに余りあります。被災者の中には、なおも避難生活を強いられ、停電・断水などライフラインの不調に悩まされている方々も少なくないかと存じますが、本稿を通じて被災地域における一刻も早い復興を願うと同時に、被災者及び、その家族・友人など関係者全員にとって少しでも心の安らぎとなれるよう、お祈り申し上げます。


 長くなりましたが、ここからが本編となります。アンコール企画第3弾――続いてのアーティストは、1973年より世界中のHR/HMファンを魅了してやまない、豪州シドニーから飛び立った不死鳥の名に相応しい長寿バンドであるAC/DCから『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』です!


 荒木飛呂彦先生のファンの方々であればご存じかと思いますが、D4Cの略称で親しまれる『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』は例の大統領が操るスタンドの元ネタですね。当該楽曲、邦題は『悪事と地獄』ですが、それよりも「いともたやすく行われるえげつない行為」という訳の方が、もはや一般的かと思われます(笑)。


 AC/DCという存在を「不死鳥」と表現した所以、それはおそらく『Back In Black』を取り上げた前回(第13回参照)を閲覧してくださった方には、既に十分伝わっているかと思います。


 結成以来、半世紀を越える時を経た今尚も名声衰えぬバンドの屋台骨を支えてきた兄Angusと弟MalcolmからなるYoung兄弟ですが、生まれはスコットランドのグラスゴー。実は四兄弟の三男坊と末っ子である彼らは、長兄Alexanderのみを母国に残して、次男George含む一家でオーストラリアへ移住すると、高校在学中、我先にとギターを手に取って音楽の道へと飛び出したGeorgeがThe Easybeatsのリードギタリストとして成功を収めた姿に触発され、The Velvet Underground(米同名ロックバンドとは別)を結成。これがAC/DCの萌芽期となります。


 AC/DC名義でのバンドが発足した1973年以降、暫くはバンドメンバーが中々定着せずに不安定な時期を過ごしますが、当時、機材車のドライバーなどでバンドに携わっていたBon ScottことRonald Belford Scottが正式にボーカリストとして加わり、わずか10日間でレコーディングされたデビュー作『High Voltage』がリリースされます。驚くべきことに、当該アルバムは当初、一部の批評家から辛辣極まりない酷評を受けたこともあるようで、米・Rolling Stone誌を始めとする大手音楽誌にも否定的なレビューが掲載されました……。とはいえ、そのような雑音は米英を中心とする主要な音楽市場での売り上げ、それに起因する1976年の米・Atlantic Recordingによる大型契約というビッグニュースがあっという間に掻き消してしまいます!


 豪州の地から欧米へと一気にその名を轟かせてみせたAC/DCの快進撃は、1979年にリリースされた6作目『Highway To Hell(邦題:地獄のハイウェイ)』まで止まるところを知らぬばかりか、硬軟織り交ぜ、自らのロック魂を真っ直ぐに体現してみせるバンドのスタイルと、リードギタリストのAngusによる奇抜なスクールボーイ風ファッションが得も言われぬAC/DCの魅力を最大限に引き出しているため、どの作品を取ってみても「これがAC/DCの出世作ではないか」と言えるほど、バンドは更なる飛躍を遂げてきました……!


 しかし、悲劇の訪れはあまりに唐突でした。前回もお伝えした通り、1980年、Young兄弟と一緒にAC/DCの躍進を実現してきたBon Scottが急逝し、2017年には予てから長きにわたる闘病生活を送っていたMalcolmの訃報が届きます。いずれも活動初期からバンドの行く末を見守ってきたAC/DCの代名詞とも呼ぶべき存在ですから、そんな彼らがこの世を去るという知らせは、事実上、AC/DCに対する死刑宣告でもあったと、僕は思います……。


 しかし、幾度となく死刑宣告を突き付けられようとも、決して膝を突くことなく『Back in Black』を果たしてきたのがAC/DCというバンド。もはや結成初期の苦難と栄光を知る者はAngusただひとりとなってしまったものの、Bonの後任を務めるBrian Johnsonのグラムロック畑出身とは思えない気迫の籠ったボーカル然り、現存のメンバーはまだまだ現役。パンクブーム真っ盛りだった70年代イギリスにおいてでさえ、硬派で骨太な「着飾らないロックンロール」を鳴らしてきた彼らならば、ロック不況と叫ばれる現代ですらしぶとく生き残ってみせることでしょう……!


 とはいえ、ここまでアツくAC/DCについて語ってきた手前、初期の楽曲にもきちんとスポットライトを当てなければバンドの礎を築いてきた今亡きメンバーらへ失礼というもの。そこで今回紹介するのは、1976年にリリースされた3rdアルバムから、お馴染みのタイトルナンバー『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』です。それではどうぞ――。


[Verse1(0:28~)]

「ハイスクールの先公にはうんざりかい」

「うざったいったらねえよな」

「野郎との寝技、それを必修科目にしたくないなら」

「やるべき事はひとつだ」

「電話を取れよ、俺はいつも家で暇してるから」

「いつでも架けてきな」


[Pre-Chorus(0:49~)]

「3-6, 2-4, 3-6, そうだ」

「処世術の授業を始めようか」


[Chorus(0:57~)]

「汚れ仕事(格安で)」(×3)

「いともたやすく行われるえげつない行為だ」(×2)


 当該楽曲の発案者は他ならぬAngusだそうで、サビで繰り返される『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』とは、彼が子供時代に見ていたカートゥーンアニメ作品『Beany and Cecil』に登場するDishonest Johnというキャラクターが持っていた名刺に書かれた"Dirty Deeds Done Dirt Cheap. Holidays, Sundays, and Special Rates."(汚れ仕事を格安で。祝祭日、日曜日、特別価格。)という言葉に由来するとか。


 では、ここで主人公が格安で請け負っているという「汚れ仕事」が何なのか、それは敢えて言及する必要もなさそうですね。くわばらくわばら……。


 ちなみに、そんな「汚れ仕事」の窓口として紹介されていた3-6, 2-4, 3-6,というナンバー、これは当時のオーストラリアで実際に存在した電話番号だそうですが、真偽は定かではありません。ただひとつ、面白い(?)エピソードを紹介すると、歌詞中の「ヘーイ!」という掛け声が数字の8(エーイ)に聞こえたという人が続出した結果、3-6, 2-4, 3-6, 8という番号にイタズラ電話が殺到。しかも、当該番号はなんと、当時アメリカ・イリノイ州リバティヴィルに住んでいたWhite夫妻のものだったようで、後の1981年、夫妻はAtlantic Recordsとそのディストリビューターに対して25万ドルもの大金を請求する訴訟を起こしたのだとか。


 無論、AC/DCは作詞に際してそのような他意を持っていた訳ではありません。おそらく、この番号は最初の歌詞の流れからして女性のスリーサイズを指すものかと思われ、長さの計量単位としてインチを用いるオーストラリアですが、36, 24, 36はそれぞれセンチに直すと大体91, 61, 91となりまして、およそ海外では理想的な砂時計型スタイルとして皆の憧れとされるものです。だったらどうしたって感じですが、この「汚れ仕事」の依頼人はよっぽどスタイルが良かったんですかね。それで、仕事のお代が「格安」っていうのはつまり……?


 邪な当て推量は脇に除けておいて、続けましょう(笑)。


[Verse2(1:15~)]

「今度は恋愛関係でお困りのようだね」

「差し詰め恋に破れたってところかい?」

「野郎はお前のダチと二股掛けてるのか」

「そりゃ泣きたくもなるよな、友よ」

「電話を取りなよ、俺はここだぜ」

「なんなら俺が出向いてやってもいい」


[Pre-Chorus(1:36~)]

「さっさと来な、浮気野郎のことなんか忘れて」

「俺たちだけで楽しもうぜ」


[Chorus(1:43~)]

繰り返し


 ここで歌詞に"fella"という単語が出てくるのですが、これはおよそ男性相手への呼び掛けに用いられるやや古い言い回しです。要するに、最初は女性に対して「汚れ仕事」の営業をかけ、誘い込むような言動を取っていた主人公ですが、今度は浮気の被害に遭った男性を慰め、招き入れるような態度を取っています。そういえば前回、AC/DCというバンド名には、どうやらバイセクシャルを指す隠語としての意味もあるとか言いましたけど、さては……?


 今日は気を抜くとすぐにハンドルが取られてしまいますね……。軌道修正します(笑)。


[Verse3(2:29~)]

「今の女とおさらばしたいってのに」

「そんな度胸もねえ」

「昼夜お前の悪いところしか見てねえ彼女に」

「気が狂いそうなんだろ」

「電話を取れ、女は置いてけ」

「白黒はっきりさせる時だ」


[Pre-Chorus(2:51~)]

「金のためなら、何でも御座れ」

「お前の慰み者にすらなってやれるぜ」


[Chorus(2:58~)]

繰り返し


[Bridge(3:16~)]

「コンクリートの靴」

「青酸カリ」

「T.N.T.(格安で)」

「ネクタイ」

「契約」

「高電圧(格安で)」


[Chorus(3:30~)]

「(汚れ仕事)お望みとあらば何であろうと」

「(格安で)」

「汚れ仕事」

「格安で」


 コンクリートの靴を履かせて、一体どうするつもりなんですかね……。ネクタイを締め、交わした契約の内容とは……。うーん、これは想像の範囲に止めておいた方が良いのかもしれません。ちなみに、同じ流れで歌詞中にでてきた『T.N.T.』『High Voltage』は、いずれも『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』以前に発表されたアルバム及び楽曲タイトルです。ご興味ありましたら、こちらの方も是非に!


 敢えて言及する必要もないかと思われますが、これは作曲者Angusがアニメからインスピレーションを受けて製作したフィクションに基づく楽曲ですので、どうか真に受けないでくださいね(笑)。長年にわたって世界中のファンに愛され続けているバンドの正体が、実はシリアルキラーのサイコパス集団でしたというオチはありません。


 それにしても、ほんのきっかけに過ぎなかったとはいえ、アニメが原案となった当該楽曲がまた日本のアニメなどを通じて世に広まってゆく。これほどまで興味深い現象は今日日珍しいですよね。もっともジョジョ7部はまだアニメ化していませんが。していませんが!


 こほん。今回も個人的趣味全開エッセイとなってしまい恐縮ですが、これにて閉幕となります。お付き合いくださいまして、ありがとうございました。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はAC/DC - Dirty Deeds Done Dirt Cheapから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る