Encore: Bon Jovi - Christmas Isn’t Christmas

 賑やかなクリスマスもあっという間に過ぎ去って、寒さ際立つ年の瀬を迎えた今日この頃。読者の皆様は如何お過ごしでしょうか……?


 ここ最近、健康と身体づくりの一環としてお酒の量を劇的に減らし、PFCバランスと摂取カロリー管理を中心としたプチダイエットを敢行している僕ですが、本稿執筆中、もう既にどこか口寂しさを感じてしまっている僕は冷め切ったコーヒーを相棒として、固く冷たいPCのキーボードに手を添えております。果たして、年末年始の甘い誘惑には打ち勝てるのか……。


 やはり、味気のない日常を耐え忍ぶ上で、音楽は強い心の味方! そして、今回のアンコールは、1983年に結成されたアメリカをレぺゼンする最高級のロックバンド──Bon Joviより、先月17日にリリースされたばかりのホリデーシーズン・アンセム『Christmas Isn’t Christmas』でいきましょう!


 老いてますます健在と、どこぞの波紋使いの台詞がこれでもかというほどに似合ういぶし銀の歌声で、今なお世界中を魅了し続けているバンドのフロントマン・Jon Bon JoviことJohn Francis Bongiovi Jr.が音楽活動を開始したのは、遡ることおよそ50年前――彼がまだ齢13を数えたばかりの1974年でした。Razeというバンドを結成し、ギターとピアノで学校のタレントコンテストに参加したというのが、彼にとって全ての始まりだったのです。


 ――前回(第5回)は話の流れで少しだけ言及するに止めたかと思いますが、実は、若くして音楽を愛し、至極楽観的にアーティストとしての道を歩み始めたJonの行く手には、おそらく読者の皆様の想像を絶するほどの苦労話があったのです……。


 16歳を迎えたJonは、後にキーボード・プレイヤーとしてバンドへと加わるDavid Bryan Rashbaumとの出会いを機に、一緒になってAtlantic City Expresswayを結成すると、地元ニュージャージー州のクラブなどを舞台に活動。その後もJohn Bongiovi and the Wild OnesやRestなどとバンドを二転三転させながら、Southside Johnny and the Asbury Jukesを始めとするニュージャージー州出身アーティストの前座を務めながら、1980年、いとこのスタジオを借りて後のデビュー・シングル『Runaway』をレコーディングしていました。


 転機を迎えたのは1982年半ば。学校を卒業して婦人靴店でアルバイトをしていたJonは、いとこのAnthony Carmine Bongiovi Jrが共同経営者を務めるレコーディング・スタジオであるPower Stationに就職すると、アメリカのミュージシャンにして80年代ロックミュージックの擬人化とも称される凄腕BillyことWilliam Haislip Squierのプロデュースなどを受けながらデモを製作し、レコード会社に送ります。ですが、いずれも音楽業界のトップに君臨する御偉方に見初められることはありませんでした……。中々如何して、うだつが上がらなかったJonのプロとして初めてのレコーディングは、彼のいとこが共同プロデュースした『Christmas in the Stars』という、スター・ウォーズをテーマとしたクリスマスソングなどが収録されたアルバムの収録曲『R2-D2 We Wish You a Merry Christmas』のリードボーカルとしてだったのです。


 それでも、母国アメリカで無名の時期を脱却することができず、医の道を志してバンドを脱退してしまった盟友Davidをも失ったJonはいよいよ万事休す。そこで彼は、ニューヨーク州のラジオ局WAPP The Apple 103.5FM(現・WKTU)を訪れ、同局のラジオジングルを書いて、自ら歌います。そして彼はラジオDJとプロモーション・ディレクターを説得し、同局が地元の才能を集めて制作するコンピレーション・アルバムに、お蔵入りも同然だった『Runaway』を収録してもらうべく当該楽曲を再レコーディング。


 結果的に『Runaway』はニューヨーク地域でオンエアされ、他の姉妹局でも放送されるようになると、Jonのバンドが地元タレントのオープニングアクトなどを通じて注目を集めていたこともあり、米・Mercury Recordsとの契約が現実味を帯びてきます。透かさずかつての盟友に電話を架けたJonの夢に共感し、満を持して帰ってきたDavidと、彼の伝手により集まったベーシスト・Alexander John Suchとドラマー・TicoことHector Samuel Juan Torres、そして彼らの推薦によって参加したリードギタリストのRichard Stephen Samboraを引き連れ、Bon Joviが正式にデビューを飾ったのは1984年でした。


 ――とまあ、このようにJonの下積み時代というのは10年間にも及び、おそらく皆様が予想していたよりも遥かに長かった訳です。その裏には間違いなくJon本人の弛まぬ努力があったことは間違いありませんが、Bon Joviが念願のデビューに漕ぎ着けたことについては「ロックンロールの父」の異名で知られるChuck Berryを始め、大御所との共演経験もあるTicoの加入が決定的だったのではないかと、個人的には思います……。


 『Runaway』もトップバッターとして収録されたデビュー・アルバム『Bon Jovi(邦題:夜明けのランナウェイ)』がリリースされると、上々の滑り出しで、Scorpions(第70回参照)を始めとする大御所の前座を任されるなど、Bon Joviの知名度はじわじわと高まっていきますが、今日に至るまでの圧倒的地位を確立したとまでは言えない状況。それにもかかわらず、意外にもBon Joviはデビューから間もない1984年8月、HR/HM系アーティストによるロックフェスティバル・SUPER ROCK '84 IN JAPAN出演を以て初来日を果たしました。1975年の来日以来、本国イギリスにおいても絶大な人気を誇った伝説的バンドQueen(第3回参照)よろしく、日本人ファンのハートを鷲掴みにして去っていったBon Joviの大成功は、もはや秒読みの段階に移っていきます……!


 翌1985年、2ndアルバム『7800°Fahrenheit』は、岩(ロック)が熱によって液化するとされる温度の7800℉から着想を得たキャッチーなタイトルと、前年の来日公演に際して熱烈な歓迎をしてくれた日本ファンへ捧げられた収録曲『Tokyo Road』なども相俟って、世界中のファンのロック魂をメロメロに融かしてしまいましたが、残念ながら、バンドが期待した通りのセールスとはなりませんでした……。しかし、この頃から日本や欧州を股に掛けるツアーの大舞台でヘッドライナーを務めると、1986年、皆様ご存じの3rdアルバム『Slippery When Wet(邦題:Wild In The Streets)』が前代未聞のヒットにより一躍スターダムにのし上がります!


(ちなみに、当該アルバムのタイトルには当初、別の候補としてGuns N' Roses(第61回参照)という名前が挙がっていましたが、直前の1985年に同名のバンドが発足したために現在のタイトルに落ち着いたそう。)


 『Slippery When Wet』が単なるまぐれ当たりでないことは、以降の後継作品を聴いたことのある方には解説の必要もありませんね。アリーナ・ロックにおける強烈なギターサウンドへの依存を徐々に減らしつつも、原点であるハード・ロックを否定することなく、メロディとバラードの調和を実現させ、ソフト・ロックやカントリーの要素も取り入れながら、時代に合わせてサウンドを巧妙かつ繊細に変化させたことこそ、バンドの成功の秘訣だったかと思います。


 こうして世界最高のロックバンドのひとつに名を連ねたBon Joviですが、2010年に開催された東京ドームでの凱旋公演の際には「俺たちを最初に評価してくれたのは、日本のみんなだ」と感謝の意を表明したんだとか。Bon Joviをデビュー当初から見守っていたという日本人の方にとっては、涙腺崩壊ものの一言だったのではないでしょうか。


 義理人情に厚く、2011年には東日本大震災の復興支援を目的としたチャリティー・コンピレーションアルバム『Songs for Japan』にも参加するなど、慈善活動にも積極的なBon Joviからもう一曲。またしても難しい選択ですが、前回のOasisにおける名盤『(What’s the Story) Morning Glory?』のように、Bon Joviの最高傑作『Slippery When Wet』は是非とも各自一聴することを強くつよーくお勧めします!


 僕の更新ペースが遅いばかりに、いつの間にかクリスマスは過ぎてしまいましたが、Jonのプロとして初めてのレコーディングがクリスマスソングだったこと、そして2020年にリリースされたアルバム『2020』以来となる最新シングルがあったとあれば、もうこれは運命的な何かを感じてしまいますよね。ということで、今回ご紹介致しますは何かとクリスマスに所縁のあるBon Joviの『Christmas Isn’t Christmas』です。どうぞ──。

 

[Verse1(0:09~)]

「華やかな包装紙に、可愛らしいリボンを結んで」

「ひとつずつ新しいプレゼントを包もう」

「そしてこの素晴らしい季節を彩る音が夜に響くのさ」

「火を灯し、祝福のメッセージを贈ろう」

「祝祭の歌を歌うんだ」

「しかし何が悪いって訳じゃないが今年のクリスマスは少し物足りないな」


[Chorus(0:40~)]

「ああ、美しい日だな」

「感謝を忘れず祈りを捧げよう」

「叶えられた夢と与えられた神の恵みの全てへ」

「ああ、美しい夜だな」

「だけど夜明けが待ち遠しくもある」

「大空がまた違った青さで輝いてくれる時を」


[Verse2(1:12~)]

「降り頻る雪と、友の呼び声」

「自然と笑いが込み上げては元気が湧いてくるよ」

「飲み干したワインのように一年はあっという間に過ぎ去った」

「代り映えしないように思えたって人生は絶えることなき紆余曲折なんだ」

「誰かがハローと声を掛ければ、また誰かとはグッバイさ」

「そんな思い出たちが今宵も俺を慰めてくれる」


[Chorus(1:43~)]

「ああ、美しい日だな」

「感謝を忘れず祈りを捧げよう」

「叶えられた夢と与えられた神の恵みの全てへ」

「ああ、美しい夜だな」

「だけど夜明けが待ち遠しくもある」

「大空がまた違った青さで輝いてくれる時を」

「お前が居なくちゃ今年のクリスマスはじゃないんだよ」


[Bridge(2:25~)]

「俺はどうすればお前を忘れられる?」

「俺にはお前しかいないのに」

「俺が何とかやってこれたのはお前のお陰だってのに」

「今誰が強くて誰が臆病者かって?」

「明日は昨日とは違う」

「明日は昨日のようにはいかないんだよ」


[Outro(2:57~)]

「華やかな包装紙に、可愛らしいリボンを結んで」

「すぐに帰ってくると約束してくれ」

「お前なしじゃクリスマスはになりえないんだから」

「ああ、お前が居ないクリスマスなんてじゃないんだよ」


 来年にはデビュー40周年を迎えようというBon Joviによる『Christmas Isn’t Christmas』のMVには、温かみのあるレトロなパブで雪の降る夜にお酒を嗜みながら、カラオケで盛り上がりつつホリデー・シーズンを祝っている現バンドメンバーの姿が映っています。バーカウンターの傍に腰掛けながら爽やかな笑顔を浮かべて歌うJonの若々しい姿には驚かされました!


そして、当のJonは『Christmas Isn’t Christmas』について、これは家族について書いた曲だと述べています。「お前が居なくちゃ今年のクリスマスはクリスマスじゃないんだよ」という感情は、人々に多くの思い出を呼び起こす。逆に言うなら「お前が居るお陰でクリスマスはクリスマスなんだということを伝えたい」と。要するに、クリスマスというのは単なるキリスト教の記念日でも、万国共通に祝われる年に一回の祭事でも、年齢に関係なく思わず浮足立ってしまうようなイベントでもなく、その素敵な一日を一緒に過ごしてくれる大切な人が傍にいてこそ成立する日なのだということですね。──あれ、こんなに寒いのに目から汗が……。


 冗談はさて置き(あながち冗談でもないですが……)。「今年のクリスマスは少し物足りないな」「夜明けが待ち遠しくもある」と歌詞にあるように、Jonにとって今年のクリスマスは大切な人がいないせいで、とても実感の湧かないものだったと。その原因が果たして何なのか、死別、離縁、破局、疎遠、そのどれでもないのかもしれませんが、確かに独りで過ごすクリスマスほど味気ないものはありませんね。


 「代り映えしないように思えたって人生は絶えることなき紆余曲折なんだ」と訳しましたが、以前のBon Jovi回で紹介した『The More Things Change』を覚えておいででしょうか。「変化が起きれば起きるほど、変わらないものもある」と繰り返していたあの曲のように、今年も変わらず訪れたクリスマスを過ごして「代わり映えしない」と感じた人は多いでしょう。ですが、大切な人が傍にいて、平和な一年をまた共に過ごすことができたという何物にも代えがたい事実こそ、大人だけが味わえるクリスマスプレゼントではないでしょうか。


 なんて、Jonのようにクサい台詞を真似てみたところで、ティーンエイジャーのJonの苦労話にフォーカスした今回はここでお別れとなります。今年も残すところあと数日、きっと息吐く間もなく過ぎ去ってしまうのでしょうが、せめてこんな夜は温かい炬燵の中で、しみじみと音楽を聴いているだけのゆったりとした時間を過ごしたいものですね……。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はBon Jovi - Christmas Isn’t Christmasから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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