Carly Rae Jepsen - Emotion

 続きまして第57回──カナダはブリティッシュコロンビア州生まれのシンガーソングライター・Carly Rae Jepsenから『Emotion』を聴いていきたいと思いますー!


 1985年に3人兄妹の2番目として生まれたCarly Rae Jepsenは、学生時代にミュージカル・シアターに熱中し、数々の学生プロダクションに参加する中で、高校時代の演劇教師の勧めによって、音楽関連の道を模索──大学卒業後、北米有数の世界都市・バンクーバーの西側に移り住み、バリスタ、アシスタント・パティシエ、バーテンダーなど多種多様な仕事を経験する中で、夜はソファで眠り、暇さえあれば曲を書いていたといいます。ざっと経歴を聞く限りですと、何だか羨ましいくらいに華々しい青春を謳歌しているように思えますが、その裏には血の滲むような努力があったのでしょう……。


 2007年より活動を開始したCarly Rae Jepsenは、こちらも高校時代の恩師のアドバイスを受けて応募したイギリスの音楽オーディション番組・Pop Idolのカナダ版に当たるCanadian Idol(Season 5)にて、オリジナルソング『Sweet Talker』を披露して3位入賞を果たしたことがきっかけで、その存在を世に知らしめます。インディー時代の2008年にはフォーク・ミュージックに傾倒したデビュー・アルバム『Tug of War』をリリースして弾みをつけると、2010年にはカナダ版グラミー賞として呼び声高いジュノー賞で、最優秀ソングライターと最優秀新人賞にノミネート──彗星の如く現れたカリスマミュージシャンの実力は瞬く間に盤石な支持を得ます!


 Carly Rae Jepsenの本格的なブレイクは、2012年のシングル『Call Me Maybe』が契機となりました。その年のベストセラーを記録した同シングルは、1,800万枚以上を売り上げ、19カ国以上で1位を獲得すると、同年末にリリースされた2ndアルバム『Kiss』にはOwl Cityとの共作『Good Time』が収録され、カナダとアメリカでトップ10にチャートインするなど、活躍の場を全米へと拡大します。


 迎えた2015年には、80年代ダンス・ポップ、シンセ・ポップに影響を受けた3rdアルバム『Emotion』をリリース。『I Really Like You』『Your Type』『Run Away with Me』などの名立たる名曲を輩出します。その他、米・ミュージカル『Cinderella』で主人公のElla役を務めたり、米・テレビ番組『Grease Live!』に出演したり、本国カナダやフランスで上映されたアニメーション映画『Ballerina』にてOdette役で声優業にも挑戦したりなど、多彩な才能は折り紙付きです……!


 そんな誰もが目を奪われていく完璧で究極のアイドルであるCarly Rae Jepsenから、本日取り上げさせて頂くのは3rdアルバムのタイトル曲『Emotion』でございます。キャッチーな歌詞にポップなリズムが組み合わされた古典的な大衆音楽を踏襲しながらも、時流に沿った流行り廃りを正確に反映させたメロディーラインにはCyndi Lauper, Madonna, Princeといった80年代アーティストへのリスペクトが感じられ、それらがJepsenの独自の解釈によって巧みにアレンジされています。彼女の美しいソプラノボイスにより調和された21世紀のポップシーンを代表する名曲を、どうぞご鑑賞ください……。


[Verse1(0:01~)]

「私のことを想って悩んでよ」

「一体全体、私はどうすれば良いのかな」

「天気はどう? 私うまくやれてるかな?」

「貴方が居なくなってしまった今の方が?」

「私を想ってテキーラを呑んで」

「取り乱してよ」

「そして貴方が押し殺した気持ちを曝け出したら私のことを忘れられなくなるわ」


[Pre-Chorus(0:18~)]

「つまらない女なんかじゃない」

「今は成長期なの」

「貴方の頭の中で大きくなり続けてやるわ」

「貴方が私のことを忘れない限りずっと」


[Chorus(0:33~)]

「空想に耽って、私のことを夢見て」

「それがこの感情に素直になるための秘訣かもね」

「空想で、私を思い浮かべて」

「私たちは心の声に耳を傾けるだけで良いの」

「この気持ち、私は感じてるよ」

「この気持ち、貴方も感じてるのかな」

「正直になれたら良いのにね」


 題の通り、この曲のテーマは"Emotion(感情)"です。歌詞中のフレーズは主人公の独白によるものと思われ、何やらあまり関係がうまく行っていない様子の相手を想ったラブソングであると解釈できます。確かに切ないのですが、既に破局した相手に向けた台詞と仮定すると少し未練がましいような気がします。僕が思うに、主人公とそのパートナーは破局寸前、ないしは、そのような危機に直面したことで一度距離を取っているというような、曖昧な関係性にあると予想します。


 そこで、パートナーと仲直りしてりを戻したいと考えている主人公は、ひたすら相手のことを思い浮かべています。「天気はどう?」というフレーズは、主人公とそのパートナーが現時点でそれぞれ別の街に住んでいる(遠距離状態)ことを示唆しており、それによって状況が改善したのかどうか客観的に判断できない主人公は当惑します。主人公がパートナーに求めていること──酒に溺れて取り乱し、片時も自分のことを忘れないでほしいというのは、現に主人公がそのような状態にあって、願わくば相手にもそうであってほしいと思う気持ちなのかもしれません。


 サビ前のフレーズ──"Not a flower on the wall(つまらない女じゃない)"とは。その昔、ダンスパーティーなどの社交場において輪に加わることなく、壁際でじっと孤独に過ごしている女性を表現する言葉として"a flower on the wall(壁際の花)"という造語が実際に用いられていたそうです。主人公とパートナーの出会いは、そのような場所だったのかもしれないと想像力を掻き立てられますね。そして、そのようにあまり印象的ではない出会い方だったかもしれないけれど、今となっては貴方の記憶の中で自身の存在が膨れ上がり、忘れ難き存在となっていれば良いなという願いが込められていそうです……。


[Verse2(1:08~)]

「私との将来図を描いてほしい」

「青空が果てしなく続くような風景を」

「私が望むもの全て貴方に用意できないものはないって言ってよ」

「私なしで眠れない夜を過ごして」

「また取り乱してよ」

「私のキスが恋しくなるって言って、また貴方は私を忘れられなくなる」


[Pre-Chorus(1:25~)]

繰り返し


[Chorus(1:40~)]

繰り返し


[Bridge(2:24~)]

「もし私が今すぐこの関係に終止符を打ったら?」

「私は怖い」

「照明のスイッチを消すように今すぐ終わらせてしまえば?」

「貴方もそうでしょ」

「今の私と貴方は真っ暗闇の中だけど」

「心は通じ合ってる」


[Chorus(2:40~)]

繰り返し


 1番で示した僕の解釈が正しいことを前提に、いつも以上に意訳が先行してしまいましたが、ご満足頂けましたでしょうか。結局のところ、主人公は現在のパートナーとの将来を考えているようです。そして、その将来図を共に描くことを相手に望んでいる。そのためにも、会えない時間を恋しく思うこのが「私」のものだけであってはならない。きっと「貴方」もそう感じているはずだと盲目的に強く信じ込む様が繊細に描写されています──恋煩いとは、何とも辛く切ないものですね……。


 この曲はブリッジ・パートが情緒的でとても素敵だと思います。この曖昧な関係を電気のスイッチを切るように今すぐ終わらせてしまうことを恐れている主人公。しかし、パートナーもそれを恐れているからこそ主人公との関係をぐだぐだと続けている。相手を心から想うが故の恐怖──それこそが2人を結ぶ素直で正直な感情となったために、ようやく心を通わすことができたというハッピーエンドだと、僕は解釈しました! 都合良過ぎますかね……?


 今回も長々とお付き合いくださり、誠にありがとうございました! 図らずも、結局またラブソングを紹介してしまいましたね。最近はかなり有名アーティストばかり紹介してきたので恐縮ですが、次回もまたビッグネームを挙げさせて頂きたいと思いますので、ご期待くださいな!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はCarly Rae Jepsen - Emotionから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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