The Libertines - Don't Look Back into the Sun

 前回、またしても言いそびれてしまいました。読者の皆様の応援によって支えられている本作のPV数が2,000を突破しました! 平素よりご愛読くださいまして、誠にありがとうございます!


 最後に節目のご報告をしたのが第4回目の番外編だったので、ありがたいことに、実は途轍もないペースで多くの方にご覧になって頂いている拙作です。偶にとんでもなく私的な雑談を交えたり、貧弱な英語力故に歌詞の翻訳・解釈のセンスが低レベルだったりと、まだまだ改善の余地が多い拙作をご愛顧頂いている方々には頭が上がりません。重ねてお礼申し上げます……。


 そして第56回目となります今回は、イギリス・ロンドン出身のボーカリスト兼ギタリストであるCarl BarâtにPete Dohertyという2人のカリスマ的フロントマンによって1997年に結成された、ガレージロック・リバイバルの旗手──The Libertinesから『Don't Look Back into the Sun』を紹介して行きたいと思います!


 同年に結成されたThe White Stripesがアメリカにおけるガレージロック・リバイバルを象徴する存在だというのであれば、まさにThe Libertinesはその英国版として対になる存在だと評価することができるかもしれません。


 1990年代のブリットポップ・ムーブメントが衰退の一途を辿っていた2002年は、The Libertines躍進の1年になりました。同郷のパンクロックバンド・The Clashのギタリスト・Michael Jonesを招聘して制作された1stアルバム『Up the Bracket』は、死に体となっていたブリットポップ・ムーブメントそのものに"Up the Bracket(喉仏にアッパー)"するかのような硬派な作品として、米・Rolling Stone誌が選出する「歴代最高のデビュー・アルバム100選」において58位に見事ランクイン! 英・NME誌の新人賞"Best New Band"を受賞するなど、快挙を果たします。しかし、バンドはこれらの栄光に慢心することなく、同2002年は年間を通して、同郷アーティスト・Sex PistolsやMorrissey(The Smithsのフロントマン)のサポートアクトとして100本以上のギグに出演するなど、努力と苦労の1年でもありました……!


 斯くして、The Libertinesが2002年に打ち上げたUKロック・シーン復興の狼煙は、飛ぶ鳥を落とす勢いで彼らの存在を全世界に知らしめる契機となりました。ですが、ここでバンドは苦境に立たされます。クラック・コカインとヘロインの常用者として知られていたPete Dohertyの薬物乱用が過激化したことにより、なんと2004年にリリースされたセルフタイトルの2ndアルバム『The Libertines』での大成功を最後に、バンドは解散の憂き目に遭うのです。その後Pete DohertyはBabyshambles、Carl BarâtはDirty Pretty Thingsというそれぞれのバンドを立ち上げ、The Libertinesとしての活動は終焉を迎えたのだと誰もが考えました。


 しかし、運命の時は2010年3月29日に訪れました。この日国内フェスに参加を表明したThe Libertinesは8月27日にリーズのBramham Parkで、8月28日にレディングのLittle John's Farmでヘッドライナーとして参戦していたカナダのインディーロックバンド・Arcade Fireのスペシャルゲストとして凱旋! 世界中のファンとメディアから、その圧巻のパフォーマンスについて好意的な評価を受けると、当初は再結成の意向を示していなかったCarl Barâtが考えを改め、2015年にはPete Dohertyのリハビリ治療も無事成功裏に終わり、11年ぶりとなる3rdアルバム『Anthems For Doomed Youth』がリリース──以降、世界各国を股にかけて精力的に活動を継続しております!


 なんと波乱万丈なバンド生命でしょうか……! 薬物乱用やメンバー同士の不仲など、その破天荒ぶりは何処か同国出身のバンド・Oasisを想起させます。決定的な違いは、再結成の有無ですが……。


 以上のThe Libertinesのバックボーンを受けて、僕が今回紹介するに相応しいと考えた題材は、Carl BarâtとPete Dohertyの不仲が最高潮に達し、緊張状態が続いていた2003年の名シングル『Don't Look Back into the Sun』です。ちなみに、当該曲名はOasisの『Don't Look Back in Anger』と米・The Velvet Undergroundの『Ride into the Sun』を掛け合わせたもので、コード進行にも似通った部分が見受けられます。


 『Don't Look Back into the Sun』について──2007年には英・NME誌における「史上最も偉大なインディーアンセム50選」にて、自身のヒット曲『Time for Heroes』を上回る5位に位置付けられるなど、何の因果か、今も最高のシングルとして語り継がれる曲が生まれたのは、バンドの低迷期だった訳です。


 それでは、メンバーそれぞれが如何なる思いで当該楽曲の制作に携わっていたのかなど、色々なことに想いを馳せながら翻訳に移っていきましょう。皆さんも是非、ご自身の端末で『Don't Look Back into the Sun』をお楽しみ頂きながら、歌詞に対する僕の解釈が果たして適当なものかどうか考えてみてくださいね……。


[Verse1(0:38~)]

「過去の栄光に縋りつこうとするなよ」

「今こそ決断の時だろ」

「誰もお前がそんな状況に置かれるなんて思いもしなかっただろうけど」

「ああ友よ、お前は何も変わっちゃいないんだぜ」

「気負わずありのままの格好で面白おかしく生きる」

「そのことにお前も味を占めてたはずなんだがな」


[Chorus(1:00~)]

「誰もが決してお前を許してくれないだろうけどよ、放っておけやしないのさ」

「彼女だってそうだ、でもお前のことは忘れられない」


 この歌詞は、薬物乱用によって見放され、当時はほとんどレコーディングに参加していなかったPete Dohertyに宛てた、Carl Barâtの本音が赤裸々に綴られたものだと理解することができます。大学時代に出会った2人は音楽の話題で意気投合して中退──その後、北部ロンドンの家賃週1万円程度のボロ屋で寝食を共にした気の置けない仲です。しかし、2002年に味わった太陽のように燦然と輝く栄光に縋るあまり薬物に走り、盟友・Carlのアパートへと強盗に入り逮捕され、一時は半年間の禁固刑(結果として2か月に短縮)をも言い渡された経験もあるPeteに対して「改心か、解散か──今こそ決断の時だ」というメッセージを突き付けたのだと思います……。


 サビはそんなどうしようもない自堕落な生活を送っていたPete Dohertyへの愛を忘れていないことを、ありのままに表現していますね。人間として、決して許されないことをした彼の悪事は誰もが忘れない──しかし、それと同時に、アーティストとしての彼が持つ底知れぬ才能と情熱は誰もが放っておかないものであるから、どうか戻ってきてくれと。Carl Barâtは彼に対して、そのような心境を抱いていたのではないでしょうか……。


[Verse2(1:11~)]

「過去の栄光に縋りつこうとするなよ」

「真珠のように価値ある折角の才能をかなぐり捨ててでも、逃げたい場所があるのかよ」

「お前のつまらない欺瞞に、誰が救われるってんだ」

「Death Discoであの曲が流れてたよな」

「早めに始まったのに、終わるのは滅茶苦茶遅くて」

「その間ずっとお前のことばかり考えてたんだよ」


[Chorus(1:33~)]

「誰もが決してお前を許さないし、放っておこうとしないけど(放っておいてくれよ!)」

「彼女だってそうだ、でもお前のことは忘れられない」


[Chorus(2:05~)]

繰り返し


 Death Discoというのは、再三にわたって名前を挙げているOasisを自身のレーベル・Creation Recordsから輩出し、The Libertinesのマネジメントも手掛けていた敏腕・Alan McGeeが世界各地で開催していた伝説的なイベントのことかと思われます。Carl Barât自身の実体験に基づく生々しいストーリーでしたが、事実は小説よりも奇なりというべきか、彼らが如何なる紆余曲折を経て壮大なカムバックを果たしたのか、その偉大さが象徴された1曲であるように感じられます(もっとも、バンドが復帰を果たした今だからこそ言えることですが……)。


 歌詞の意味を知らなければ、ただ純粋にノリノリの楽曲としか思えない『Don't Look Back into the Sun』も、バンドの略歴と歌詞の意味を紐解くことによって、180℃違った見方ができたのではないでしょうか。やはり洋楽を知るということは、本当に意義深く楽しいものです!


 それでは、次回もこの調子で激しくエネルギッシュな楽曲を取り上げて参りましょう! ロックも良いですが、そろそろ心躍るようなポップ・ソングは如何でしょう──ということで、次は女性ポップシンガーの方から1曲紹介させて頂きますので、よろしくお願いします!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はThe Libertines - Don't Look Back into the Sunから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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