Clean Bandit - Stronger
ここ数回にわたって、内省的でネガティブな印象を受ける歌詞を持った楽曲を多く取り上げて参りました。そろそろ純粋にポジティブで元気がもらえるような音楽を聴きたいですよね。では、第55回目となる今回は「清潔な盗賊(公式和名)」の異名(というか直訳)でも知られるイギリス出身の超高学歴エレクトロニック・ユニット──Clean Banditから『Stronger』をチョイス致しました!
まずは、いつも通りグループのバイオグラフィーから順を追って紹介して行きましょう。2008年に結成されたClean Banditの歴史は、世界的に最も知名度が高い欧州屈指の名門・ケンブリッジ大学在学中にGrace Chatto, Neil Amin-SmithとPatterson兄弟の4人が運命的な邂逅を果たしたことに端を発します。なお、幻の5人目として元はボーカルを担当していた Ssegawa-Ssekintu Kiwanukaは、詳細については不明ですが、世界的な化学技術者協会賞で史上最年少の候補者となったようで、レーザー解析の博士号を取得するべく博士課程へと進むためにバンドとは別の道を歩んだそうです。──その規格外の知能に驚きを隠せません……。
ロシアに1年間の留学経験があるGrace Chattoは、彼女の妹が付けたロシア語の仇名の英訳からバンド名のヒントを得たらしく、意味的には"complete bastard(完全な人でなし)"と訳すのが近しいところ、実際には"utter rascal(奇天烈な悪戯者)"というより親しみやすい言葉であると解釈して、最終的にClean Banditという名前に落ち着いたとのこと。
2011年にPatterson兄弟とGraceが映像制作会社Cleanfilmを設立し、音楽活動の傍ら、こだわり深いMVを自ら制作するという二足の草鞋に挑戦する決意を固めると、バンドの活動は本格始動──2012年12月にデビューシングル『A+E』をリリースしてから、全ての楽曲が本国でチャートインを果たします。そして2年後、同国の歌手Jess Glynneをフィーチャリングして、日本でMVが撮影されていることでも知られる4thシングル『Rather Be』がバンドとして初めてチャート1位の座に輝くと、翌年2015年の第57回グラミー賞にて最優秀ダンスレコーディング部門で初受賞!
スウェーデン出身の人気女性歌手・Zara Larssonをボーカルに招いた名曲『Symphony』などで顕著に表れている通り、Clean Banditの音楽性はエレクトロ・ダンスポップを主軸としていながらも、MozartやShostakovichに代表されるような交響曲や弦楽四重奏曲などのクラシック・ミュージックの要素を多分に取り入れた画期的なメロディーが、ファンの心を鷲掴みにするひとつの要因となっています。
そして、今回紹介する2014年リリースの『Stronger』は、クレジットに記載されてはいませんが、ノンバイナリー・アクターとして初めてアメリカ演劇界で最高の栄誉とされるトニー賞を授与されたことで有名な米シンガー・Alex Eugene Newellと『Extraordinary』という別のシングルでボーカルを務めたSharna Bassの双子の兄弟・Seanがボーカルとして参加している最高のシングルです(リリース当初はYears&YearsのリードシンガーOlly Alexanderが歌っていたところ、2015年に再リリースされています)。特に、マイノリティとしての立場から世界中の人々を勇気付ける発言を積極的に行っているAlexだからこそ生まれる説得力のある歌詞に、きっと貴方も共感できる部分があるはずです。さあ、そろそろ行ってみましょうか……!
[Verse1(0:13~)]
「皆が口を揃えて慎重になれと言う」
「己を厳しく律するべしと」
「失敗は決して許されないんだと」
「変化を望んではならいんだと」
[Pre-Chorus(0:30~)]
「本当は納得なんてできないんだ」
「思うに全てはただの一風変わったゲームなんだよ」
「間もなく目が覚めればすぐに何もかも忘れて」
「そして誰もが新しい私を知ることになる」
[Chorus(0:47~)]
「ずっと強くなりたかったんだ」
「貴方にとっての全てになりたかった」
「もし強くなれたら、貴方は信じてくれるかな」
「貴方が私に望んだ通りに愛してあげられるってことを」
[Post-Chorus(1:03~)]
「私のことも愛してほしい」(×2)
「貴方が私に望んだように」(×2)
月並みですけど、素敵な歌詞ですよね。世間の風当たりは強く、人々は他者に完璧であることを求めます。でもまあ、人生はゲームに例えられるように、プレイヤーである私たち人間は必ず多かれ少なかれミスを犯しますよね。人生なんてものはとどのつまり、楽しんだ者勝ちですから、気負わずやってこうぜといった感じの気楽なメッセージが根底にあると思います。
ただ、それだけでは『Stronger』という曲は説明できません。主人公──つまり人生というゲームのプレイヤーは、強くなることを望んでいるんです。ただ楽しむというだけでなく、目的という刺激がなければ人生は退屈です。RPGでいうところの魔王のようなラスボス、恋愛ゲームでいうところのカップル成立というイベント、アクションものでいうところのやり込み要素などがこれに当たりますよね。
つまり、誰しもが自分を磨き、努力の果てにある種の「強さ」を求めています。でも、目的がなければ努力はできません。この楽曲の主人公の目的は「愛」です。それが友愛なのか、恋愛なのか、親子愛なのかは定かではありません。あるいは、その全てかもしれません。努力の果てに、誰かに褒められ、受け入れてほしい。他人に指図されるがままなのではなく、自発的な努力の結果として自分なりの「強さ」を見つけて、それを認めて愛してほしい。そんなところでしょうか。
[Verse2(1:19~)]
「いつも息を潜めていた」
「できるだけドライな態度で」
「それでも求めすぎだったのかな」
「もしやり直せるなら」
「私が言ったことを信じてくれるかな?」
「まだ刺激を求めてるんだって」
[Pre-Chorus(1:34~)]
繰り返し
[Chorus(1:50~)]
繰り返し
[Bridge(2:22~)]
「貴方のために強くなりたい」(×2)
「私ならできる、私なら」
「もし貴方も私と一緒に努力するって約束してくれるなら」(×2)
「迎えに行って、傍に居るよ」(×2)
[Chorus(2:52~)]
繰り返し
[Outro(3:24~)]
「私のことも愛してほしい」(×2)
「貴方が私に望んだように」(×2)
愛する誰かのために強くなるべく努力する。簡単なように聞こえて、これが中々に難しいんですよね。人によって理想とする「強さ」は千差万別だと思いますし、そもそも愛すべき人が見つからないという僕のような寂しい人も中には居るでしょう……。でも、必ずしも愛を動機とする必要はありません。大切なのは、必要以上に自分自身を封じ込めず、できるだけ解放的になることで人生を謳歌すること──そんな明るいメッセージがありありと伝わってくる素敵な楽曲でした。先述の通り、Clean BanditはMVもひとつの映像作品として素晴らしいものばかりですので、これを機に興味を持ってくださった方は、是非そちらの方もご覧になってくださいな!
さて『Stronger』に元気をもらうことができたところで、次回はそのエネルギーを発散するためにパワフルな系統の楽曲を取り上げてみることに致しましょう。お楽しみに……。
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はClean Bandit - Strongerから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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