Claire Rosinkranz - Never Goes Away

 ──皆さんはSNSを通じて新たな音楽に触れるという経験をしたことがありますか?


 昨今はYouTubeのShort動画やTikTokをはじめとする、短時間で満足感を得られるショートムービー系SNSの利用者が増えていますね。誰もが簡単に他者が作った音楽に乗せて、思い思いの動画を気軽に投稿できるものとして若者を中心に大人気です。SNSで話題を呼んだことをきっかけに名声を得たというアーティストも少なくないというのは、今まで紹介してきた通りです。


 ただ、僕はこのような風潮にいささか懐疑的です。例えば、以前も紹介した親子の絆を表現したAerosmithの名曲『I Don't Want to Miss a Thing』が、男女の恋愛に関する動画に使用されていたり、売春という薄暗いテーマを風刺するArctic Monkeysの人気曲『When The Sun Goes Down』が明るいテーマの動画で流されていたりすると、他者の楽曲の間違ったイメージを世間に対して発信していることになるので、ややリスペクトに欠けているなと思わざるを得ません。──考え過ぎでしょうか。


 「嫌なら見なければ良いじゃん」というご指摘を受けそうですが、僕は実際にそのようなSNSは利用していません。でもまあ、SNSによって新たな音楽と出会うことができたファンの方々、活動の場を広げることができたアーティストという"win-win"の関係があることもまた事実なので、必ずしも悪い事ばかりではないのも確かです。やっぱり僕の違和感は、そっと胸にしまっておくことにしましょう。どうでも良い日常の「つぶやき」はさておき──。


 非常にありがたいことに、今回はリクエストを頂いております。もっとも「何か特定のアーティストから1曲紹介してください」という旨のリクエストではなく、SiaやTones and Iといった「個性的な歌声の女性ボーカリスト」から、執筆者である僕(yokamite)のおすすめを題材としてくださいという変化球を頂きました。──なるほど、このような方法のリクエストは想定していませんでしたが、非常に面白いですね! そろそろマイナーアーティストを紹介したいと言っていた前回の予告通りの選曲ができますし、僕の音楽好きとしての守備範囲の広さが試される訳です(ドキドキ)……!


 AdeleやBillie Eilishのように、有名女性歌手の中にも個性抜群で男性ボーカリストとは一風変わったカッコ良さのある歌声を以て世界を魅了しているアーティストは、枚挙に暇がありません。もっとも、彼女たちのような超人気シンガーを紹介したところで、それが果たしてであるかと問われれば何か違う。


 なればこそと、脳内の引き出しを手当たり次第に漁ってみました。さながら、お目当ての秘密道具を中々引っ張り出すことの出来ないドラえもんの如く、肩で息をしながら取り出したるは、アメリカ・カリフォルニア州出身の19歳にして、2019年から正式に音楽活動を開始したばかりの麒麟児・Claire Rosinkranzから『Never Goes Away』です。


 8歳の頃から作曲を始め、弱冠16歳にして米・Republic Recordsと契約して以来、SNSを中心に活動の幅を広げてきたシンガーソングライターである彼女は、実父に音楽のプロデュースを一任しながら、2020年にデビューEP『BeVerly Hills BoYfRiEnd』を発表。すると同EPから、コロナ禍の憂鬱をテーマに歌われた、こちらも新進気鋭の同国出身シンガー・Jeremy Zuckerとのコラボ・シングル『Backyard Boy』が主にTikTok上で脚光を浴びて、一躍注目の的となりました!


 そんな稀代の天才歌手であるClaire Rosinkranzは、クセのある若者らしい語り口調(?)の歌詞と澄み渡るような透明感抜群の裏声が特徴的で、一度聴いたら中々頭から離れないほど強烈な印象を残してくれると思います!


 『Backyard Boy』もさることながら『don't miss me』『Frankenstein』『Hotel』などなど、病みつきになること間違いなしの良曲揃いなので、貴重なリクエストを承ったということもあり、何を紹介しようか非常に迷いました……。そこで、新たな試みとして2023年──今年リリースの最新曲『Never Goes Away』を選びました!


 マイナーアーティストを紹介する時は、多くの方にそのアーティストの良さを知ってもらうため有名曲を選びがちなのですが、敢えて一番新しい曲を紹介することで、インターネット上の歌詞紹介Webサイトを見渡しても決して見つけることができないような、最新情報をお届けすることができるのではないかと考えました。これを機に、Claire Rosinkranzの知名度向上に少しでも貢献できると良いなと思います。それでは、行ってみましょう……!


[Intro(0:00~)]

「消え去ることはないのよ」

「だって本当に──」


[Verse1(0:17~)]

「何だか身体がズキズキするの(すごく痛い)」

「やる気はうに底をついて(空っぽ)」

「退屈なドラマに飽き飽きしてる」

「でも彼が彼女に対して『尻軽女だ』と罵ったのを聞いて」

「正直かなり最悪だと思った(マジで最悪)」

「彼の口の利き方には絆創膏が必要かもね」

「感受性に乏しいって感じ」

「無神経な物言いだわ」


[Chorus(0:32~)]

「あぁ、どうして口に出す前に良く考えることができないの?」

「だから、何で? だっては一生消え去ることはないの」

「貴方の一挙手一投足、口に出すこと全てよ」

「だから精々口には気を付けることね」

「貴方の言うこと成すこと全てを覚えておくわ」

「だって消え去ることはないのだから」


[Post-Chorus(0:56~)]

「消え去ることはないのよ」

「だって本当に──」


 順を追って歌詞の意味を紐解いていきましょう。主人公(歌い手:Claire)が、何らかの事象を目の前にして心身を疲弊させている様子が描写されています。その事象というのは、歌詞中の「彼」が「彼女」に対して口汚く罵ったということ。退屈な毎日を過ごしていて自分自身にも余裕がなかった主人公ですら、その光景を目の前にして声を上げずには居られなかったのでしょう。酷い物言いによって「彼女」がどのように感じるのか、自分自身の言葉が他人を傷つけ得るということを考えられない無神経な「彼」に対して、サビに入って主人公の説教が始まります。


 当該楽曲の題名でもあり、歌詞中にも頻繁に登場する"Never Goes Away"というフレーズは、永久不滅を意味しています。つまり、デジタルタトゥーという言葉が生まれたこのインターネット社会において、根も葉もない噂話や誹謗中傷など、一度口に出してしまった発言はそれがどのような内容であれ決して取り消すことはできないから、十分に気を付けるべきだという忠告であると解釈できます。時代に関係なく、言葉によって害された人のココロの傷は二度と消えて無くなることはないという暗示も含まれていそうです。


[Verse2(1:12~)]

「貴方の言葉は接着剤みたいにしつこく纏わりつくの(しつこい)」

「靴の裏にガムがへばりつくみたいに」

「本当にべたべたしててかなりウザったい」

「そんなことも知らないで貴方の脳内はどうせお花畑(胸にしまっておけよ)」

「全部ぶちまけて永久に汚点を残すよりは良いでしょ」


[Chorus(1:28~)]

繰り返し


[Post-Chorus(1:53~)]

繰り返し


[Outro(1:28~)]

「永久不滅なの」

「絶対に、永遠に」

「本当に、消え去ることはないんだから」


 何気なく発した一言も、誰かにとっては靴で踏んずけてしまったガムのようにしつこく纏わりつく一生物の傷になり得る。そんな示唆に富んだ内容の社会風刺を、分かりやすい比喩表現と若者らしいワードセンスで面白おかしく伝えているClaire Rosinkranzの作曲センスは、10代の少女とはとても思えませんね!


 今回紹介した『Never Goes Away』の歌詞の内容から着想を得て、少々ダークに仕立て上げた掌編小説『Joke?』という僕の拙作がありますので、もしよろしければ、そちらの方もよろしくお願いします。露骨な宣伝で締め括ってしまい申し訳ありませんが、今回は以上です。お疲れさまでしたー!


 果たして「個性的な歌声の女性ボーカリスト」というリクエストに無事お応えすることができたのか、不安な気持ちもありますので、一応他のアーティストを挙げておくと、EASHA, Arlo Parks, Snail Mail, Cady Grovesなどもおすすめですね。もしよろしければ……!


 そんなこんなで、次回予告を。次回も引き続きマイナーアーティストにスポットを当てていきたいので、お付き合いくだされば嬉しいです。ただでさえいつも「分かりにく過ぎるor分かりやす過ぎる」下手くそなヒントしか出せていないので、クイズ形式は一時中断で……。


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はClaire Rosinkranz - Never Goes Awayから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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