Green Day - 21 Guns

 最近、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの第9部『ジョジョの奇妙な冒険 Part9 The JOJOLands』の連載開始が話題となりましたね。ハワイ・オアフ島にて、麻薬売買や窃盗などの犯罪行為によって財を成し、富豪になることを夢見る今回の主人公・ジョディオ・ジョースターのスタンド能力『November Rain』は、前回紹介させて頂いたGuns N' Roses屈指の名曲としても知られています。多種多様な洋楽のアーティスト名や楽曲・アルバムタイトルを登場人物や能力の名称として用いることで有名な、ジョジョ・シリーズならではの計らいといったところでしょう……!


 「そんな漫画読んだこともなければ、物語の内容も知らないんだけど……」という方は、退屈させてしまい申し訳ありません。何故このような前置きをしたかというとですね──この度、久しぶりのリクエストを頂きました! リクエスト主様によりますと「ジョジョつながりでFoo FightersやGreen Day辺り」を御所望とのこと。ジャンルは違えど、どちらも90年代USロック・シーンを牽引した最高峰のバンドです。いずれ必ず紹介していたであろう伝説的グループに違いありませんが、折角のリクエストとあらば、いつも以上に気合を入れて筆を走らせていこうではありませんか!


 そこで、僕がチョイスしたのは、1987年に結成されたカリフォルニア州バークレー出身のパンク・ロックバンド──Green Dayから『21 Guns』です! そう、Gは"6"という数字によく似ているので、前回(第61回)のGuns N' Rosesに引き続き、今回(第62回)紹介するのにうってつけではないかと、そう考えた訳です……!


 下らない冗談はここまでにして、本題へと入って参りましょう。Green Dayは元々、親友同士であるリード・ボーカリスト兼ギタリストのBillie Joe Armstrongと、バッキング・ボーカリスト兼ベーシストのMike DirntことMichael Ryan Prichardが15歳だった当時、Sweet Childrenという名で活動を開始しました。80年代後期から90年代初頭にかけ、サンフランシスコ・ベイエリア東部にて流行した所謂イーストベイ・パンクの先駆けとして名を馳せ、Bad Religion, The Offspring, Rancid, NOFX, Pennywise, Social Distortionといった錚々たる同郷パンク・バンドと肩を並べ、アメリカ国内のパンク・ロック全体のメインストリームにおける地位向上に寄与しました!


 既に地元・ベイエリアでSweet Babyを名乗るバンドが存在していたことから、混同を避けるために改名し、Green Day名義の活動が始まったのは、米・Lookout Recordsとの契約を果たした1989年に遡ります。メンバーの大麻好きが高じて、ベイエリアで使用されていた「大麻の使用で丸一日を無為に過ごす」ことを意味するスラング"Green day"をそのまま当て嵌めただけのバンド名は、あるいは「世界最悪の名前」であるとBillie Joe Armstrongは語っています(笑)。


 翌1990年には、デビュー・アルバム『1,039/Smoothed Out Slappy Hours(旧題:39/Smooth)』がリリースされます。当時から既にGreen Dayとしてのアイデンティティを確立していた彼らの音楽性は広く受け入れられ、矢継ぎ早に発表された1992年の2ndアルバム『Kerplunk』においても商業的な成功を収め、欧州全土を巡る海外公演が行われた結果、数多のメジャー・レーベルの間で争奪戦が勃発しました。


 1993年、最終的に、米・Reprise Recordsとの契約に至ったGreen Dayは、3rdアルバム『Dookie』でメジャー・デビュー──全米モダンロック・チャートでそれぞれトップの座を奪取した『Longview』『Basket Case』『When I Come Around』など、バンドの代名詞とも言うべき名立たる楽曲が詰め込まれ、必然、空前絶後のロングヒット作となりました……!


 その後、1994年にボストンにて開催された公演中、セット中に突如として暴動が起こり100の負傷者と50弱にも及ぶ逮捕者を出したり、有名ロックフェス・Woodstock '94に出演した際には演奏中、観客から泥を投げ込まれまくった挙句ステージに多くの乱入者が現れ、途中からバンドメンバーと観客との泥合戦が始まり、ならず者の一般人と勘違いされたMike Dirntが警備員に殴り倒され数本の歯を折られたりなど、多くの災難に見舞われます……。それでも、一連の事件は、結果的にGreen Dayの知名度を一層高める方向に働き、翌1995年には名盤『Dookie』がグラミー賞・最優秀オルタナティヴ・アルバムに輝くなど、清濁を併せ呑むうつわの大きさを見せつけます……!


 彼らにとって『Dookie』での成功は序章に過ぎず、2004年には米英でチャート1位を独占した7thアルバム『American Idiot』をリリースし、翌2005年の第47回グラミー賞にてパンクロック・バンドとしては史上初となる最優秀ロック・アルバム賞を受賞するなど、何年経っても人気は増していくばかりのGreen Day──そんな最高のアーティストによる、上述したような沢山の名作群を避けて、一体何を紹介しようというのか。その問いに答えるべく取り出したるのは『American Idiot』に次ぐ、2009年の8thアルバム『21st Century Breakdown』に収録されている『21 Guns』です。


 選曲理由ですが、これは前回のGuns N' Rosesに続き、プロテストソングとしての側面があるということ。まずGreen Dayは、2004年にNOFX主宰の反戦オムニバス『Rock Against Bush(当時のブッシュ政権に対する当てつけ的意味合いの強いコンピレーション・アルバム)』にも参加しているなど、バンド全体として政治的意見を表明することに躊躇がなく、その後リリースされた『American Idiot』は、その題が示唆している通り、ベトナム戦争による傷が癒えない米国の状況にもかかわらず、イラク戦争を起こしたブッシュ大統領、それを許した国民らへの痛烈な批判が籠められた内容であるということが背景にあります。


(ちなみに、Green Dayは当該アルバムの売上金の一部をインド洋大津波の被災地に寄付し、ツアー中にもかかわらずボランティア活動にも参加するなど、パンクロッカーとしての反体制的イメージとは裏腹に社会貢献への関心度が非常に高いです。また、精力的なチャリティー活動を行っていることで有名な、以前本作でも取り上げたU2との共同カバー『The Saints Are Coming(英・The Skidsの楽曲)』による、ハリケーン被害者への支援を行っています。)


 イラク戦争自体は、米軍の完全撤収によりオバマ大統領が終結を正式に宣言した2011年12月14日まで続いており、2009年にリリースされたアルバムの収録曲である『21 Guns』は、まさに当時の情勢を風刺する内容が含まれている「反戦バラード」と考えることができるものなのです。前回、前々回に引き続き「戦争」という深刻なテーマを取り扱うこととなり大変恐縮ですが、以上を踏まえた上で歌詞和訳の方も参照して頂ければと思います。それでは、どうぞ……。


[Verse1(0:17~)]

「どんな大義があって戦っているのかお前は分かってるのか」

「命を捧げる価値などあるのか?」

「息を呑むように驚き慄いて」

「息苦しさを感じちゃいないか?」

「それだけの苦痛を味わえば誇りが護れるのか」

「そんで逃げ場所を必死に探し求めて?」

「何者かに心が打ち砕かれたんだろう?」

「お前ももうおしまいだな」


[Chorus(1:04~)]

「ただ一度だけ、21発の礼砲を響かせよう」

「武器を下ろして、戦うのをやめるんだ」

「たった一度、21発の礼砲を」

「両手を空に突き出せ」

「俺もお前もな」


 作詞者・Billie Joe Armstrongが英・Q誌にて語るところによれば、当該楽曲の題『21 Guns』の意味とは「21世紀のブレイクダウン、そして戦火に倒れた兵士たちへの21発の砲撃による敬礼──しかし、それはアリーナ・ロックンロールのような方法で行われている」のだということ。


 要するに、この『21 Guns』というタイトルは、慣習的に"21-gun salute"とも呼ばれている「軍隊の礼砲」のことであり、ここでは戦没者へ哀悼と慰労の意を込めた儀式のことを指しています。これは、かつて空へ向かって発砲する事で敵意がないことを示したという海軍の慣行に由来し、元々海上にて7発の砲弾を礼砲として扱っていたところ、より火薬を保存しやすい陸上においてはその3倍──21発の礼砲を以て返すという習慣が起源であると言われているようで、現在では要人の葬儀や式典などで行われています。


 そのように考えると、この曲は戦争によって犠牲となった人々への鎮魂歌として制作されたものだと考えそうになります。あるいは、戦場から生還した兵士が壮絶な体験によって心的外傷を負ったことで、苦しみ続ける様子が描写されたものと取れる部分もあるかもしれません。


 確かに、そういう側面もあるのでしょう。しかし、僕が思う、作詞者・Billieが第一義的に主張したかったこと──それは、ベトナム戦争というアメリカ国民の間に深く刻み込まれた生傷から血が滴り続けている最中にもかかわらず、様々な政治的・経済的要因から米軍を投入して大規模な軍事衝突を招き、多数の死傷者を生じさせたブッシュ大統領に宛てたではないかということです……。


 歌詞の冒頭──これは、実際に大統領の命を受けて戦地に赴く兵士に戦争の愚かさを説き諭しているようにも聞こえますが、アメリカの大国としての体裁や面子を保つために苦痛を味わっているのは全ての国民であり、そんな苦痛から都合良く逃げ果せる場所など、彼らには残されていません。では、心が打ち砕かれて「おしまいだな」と見限られているのは誰なのか──その答えは、サビの一節「両手を空に突き出せ」にあります。


 実践において降参の意思を示す方法として用いられる「武器を捨て、両手を上げる」行為ですが、これはあくまでも個々人がその場で投了するのみであり、それでも戦争は続きます。実際のところ、果てしなく続く戦争に終止符を打つことができる人物──それは大統領をおいて、他には居ないのです。


 すなわち、この『21 Guns』は、イラク戦争時において陣頭指揮を執っていたブッシュ大統領へ、婉曲的に戦争を止めるよう求める反戦的な意味合いが籠められたプロテストソングであると解釈できるのです。Green Dayが予てからブッシュ政権に対し難色を示していたこと、そして今や「軍隊の礼砲」として扱われる"21-gun salute"は、元々「敵意がないこと」を示すための慣習的行為、すなわち降伏の意を表するための措置だったことなど、その全てを偶然の一致と考えるのは難しいでしょう……。


[Verse2(1:35~)]

「遂に行き詰って八方塞がりのお前は」

「己を律する術を失ったんだな」

「お前の浅慮に多くの犠牲が伴った」

「自らの意思でお前は魂すら壊したんだ」

「お前の信仰には罰が下るだろう」

「負の遺産は受け継がれる」

「でも永遠に続くものなどはないさ」

「お前は終わりだがな」


[Chorus(2:22~)]

繰り返し


[Bridge(2:53~)]

「思うがままに生を謳歌してきたようだな」

「帰るべき家も故郷も燃やし尽くしやがったな?」

「お前はその戦火の傍に立ったことがあるのか」

「墓石に向かって後から許しを請うことしかできない偽善者め」


[Verse3(3:57~)]

「生きようが死のうが」

「どの道やり直しなんて効かないんだ」

「心の内が黒く染まる時」

「それがお前の終わりだ」


[Chorus(4:21~)]

繰り返し


 指導者もまた人間です。時に間違った判断をすることもあるでしょう。しかし、その間違いがこと「戦争」という暴力の極致において起きてしまったら、多くの犠牲が生まれてしまいます。その間違いは、時に信じるもののため、時に護るべきプライドのため、様々な理由によって引き起こされるのでしょう。実に難しい問題ですが、後世に負の遺産が受け継がれてしまったとしても、永遠に続くものなどないのだから、僕たち人間が目を向けるべきは、同じ過ちを繰り返さないための方法──そして、失われていった生命や財産を想い語り継ぐことなのかもしれません。そのための方法のひとつとして、音楽というものもまた、一役買っているのだろうと僕は思います。


 またしても歌詞の内容ばかりに注目して、その音楽全体の良さについて解説しきれていないので、少々補足を。当該楽曲はGreen Day屈指のバラードとして『Boulevard of Broken Dreams』を想起させるアコースティック・ギターから、かのQueenのギタリスト・Brian Mayを彷彿とさせるエレクトリック・リフまでがたった5分間に集約されており、その音楽的価値についても批評家の間では絶賛されています。


 Green Dayの真骨頂は『Dookie』にありと考えている方にとっては、少々違和感を感じさせてしまう選曲だったかもしれません(リクエスト主様、期待外れでしたら大変申し訳ありません……)。しかし、Billie Joe Armstrongの広い高音域から繰り出される巧みな歌声は、いつ聴いても思わずうっとりしてしまうほど。これを機に、皆様も是非、Green Dayの新たな魅力に気付いて頂けたらこの上なく嬉しいですね!


 ──締めの余談は、前回紹介したGuns N' Rosesとの逸話をひとつ!


 Guns N' Roses同様に、資格取得初年度となる2015年に米・Rock and Roll Hall of Fame入りを果たしたGreen Dayですが、2012年にGuns N' Rosesが殿堂入りを果たした際には、Billie Joe Armstrongがプレゼンターとして授賞式でスピーチを担当したというのは知っていましたか?


 ジャンルは微妙に違えども、同年代を代表するロックバンドにして、"Guns"繋がりがあって、資格取得初年度に快挙を果たした同士でもあり、プロテストソングの作詞・作曲にも長けている。まさか、こんなにも数多くGuns N' RosesとGreen Dayの間に意外な共通点があったとは──そう思われた方も、きっといらっしゃるのではないでしょうか……!


 今回はこれにて以上です。最近はテーマも重苦しいばかりか、一話分が長文化する傾向にあって読者の皆様に音楽の癒しを提供するどころか、むしろ疲れさせてしまっているのではないかと気掛かりです……。そこで次回は、冒頭でも触れた通り、ありがたいことにもう1つリクエストを頂いているので、第2弾として最強のハードロックをお届けして参ります。よろしければ見てやってください!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はGreen Day - 21 Gunsから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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