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Guns N' Roses - Civil War
それでは閑話休題、番外編を終えて迎えました第61回となります今回は、アメリカ・カリフォルニア州発のハード・ロックバンド──Guns N' Rosesから『Civil War』です!
──それではまず、ゆっくりとバンド結成の経緯からご説明しましょう。
むかしむかし(?)あるところに、1983年よりHollywood Roseなるグラムメタル・バンドで活動していたIzzy Stradlinが、時を同じくして結成された同系統のバンドであるL.A. Gunsのフロントマン・Tracii Gunsとひとつ屋根の下に住んでいました。そこで、ひょんなことからL.A. Gunsが新たなボーカリストを探していた時、IzzyはHollywood Roseでのバンド仲間・Axl RoseことWilliam Bruce Roseを話題に挙げたそうな。
これがきっかけで、Hollywood RoseがL.A. Gunsへと吸収合併される形で、1985年3月、ドラマー・Rob Gardnerとベーシスト・Ole Beichを引き連れ、両バンドの名前を組み合わせたGuns N' Roses名義での活動が始まったようです。
しかし、活動初期にもかかわらずTracii GunsとAxl Roseという両バンドを代表すべき二大巨頭による仲間割れが勃発──直前に計画されていたEPのリリースは見送られ、元L.A. GunsのメンバーはTracii Gunsの後に続くようにして次々と脱退し、元Hollywood Roseのメンバーがその後釜に据えられるなど、Guns N' Rosesは結成当初からメンバー間の不和に揺れます。
紆余曲折を経て3か月後、Guns N' Rosesは初ライブを敢行します。バンドは2日間のリハーサルを終え、カリフォルニア州サクラメントから、Ole Beichの代わりに加入していたDuff McKaganの故郷であるワシントン州シアトルまで、西海岸を巡る短期間のツアーに乗り出しました。しかし、ここで思わぬアクシデントが。バンドは車での移動の最中、シアトルへ向かう途中で車両が故障したため機材を放棄せざるを得なくなり、仕方なくギターだけを担いで海岸沿いをヒッチハイクで帰路に就いたという逸話もあります。
喧嘩別れに初ライブの失敗──踏んだり蹴ったりのスタートを切ったGuns N' Rosesですが、その実力は今や世界中の人々が知るところ。全米で4,200万枚、全世界で1億枚以上のアルバムセールスを記録しただけでなく、米・The Wall Street Journal誌の「史上最も人気のある100のロックバンド」にてMetallicaに次ぐ9位にランクインするなど、Guns N' Roses初期のしくじりは、その後の快進撃の序章に過ぎなかったのです……。
その時からThe TroubadourやThe Roxyといった有名な老舗ライブハウス(バー)でのライブを重ね、ハリウッドのクラブシーンで存在感を増していたGuns N' Rosesは、大手レコード会社の注目を集めます。1986年に契約した米・Geffen Recordsからは$75,000(現在のドル換算で$200,228)もの前金を受け取っていたなど、彼らの魅力は既に業界人からも一目置かれていたことは間違いありません。ちなみに、英・Chrysalis Recordsからは倍近くのオファーも届いていたそうですが、バンドのイメージとサウンドに対する変化を求められたことから決裂──金ではなく、あくまで自由な音楽性を探求しようという彼らのロック魂にリスペクトです!
そして、1987年にリリースされたデビュー・アルバム『Appetite for Destruction』は米・billboardチャート初登場182位を記録。リードボーカル・Axl Roseの右腕に彫られたタトゥーがモチーフとなっている、バンドメンバー5人の頭蓋骨と十字架が描かれたジャケットは今や非常に有名です。しかし、当初は米漫画家・Robert Williamsにより描かれた、ロボットが女性をレイプし、短剣のような歯を持つ怪物がロボットの強姦魔に復讐するといったシュルレアリスム的風刺画が採用されていたところ、あまりにも物議を醸すと判断されたため、変更を余儀なくされた過去があります。バンドはオリジナル版のジャケット・デザインについて「ロボットが我々の環境(女性)を汚(強姦)しているかのような、腐敗した産業システムを象徴している」と説明しています。──なるほど、少々過激ではありますが、環境問題が現在ほど深刻に受け止められていなかった当時としては先鋭的な思想を抱いていたことが分かりますね……。
また、その当時はメンバーのアルコール・ドラッグ依存の問題から、米・MTVにMVの放映を拒否されるという事態に波及します。ですが、Geffen Records上層部による決死の説得が実を結び、アルバムのオープニングナンバー『Welcome to the Jungle』が放映されると、火がついたように人気が爆発──50週間後には、チャート1位まで昇り詰める快挙を果たします。玉石混淆とした当時のアメリカにおけるロック・シーンにもかかわらず『Appetite for Destruction』は、全米史上7番目に売れたアルバムとなり、最も売れたデビュー・アルバムとして記録されております。
また、アルバムのラスト『Rocket Queen』の間奏中にはなんと、女性の嬌声が収録されています。これはAxl Roseが、当時のドラマー・Steven Adler(後にドラッグ中毒で解雇)と交際していた女性とスタジオで性行為に及び(多分普通に浮気です)、その場で録音したとされるものです。しかも、その後女性は罪悪感と恥辱感に苦しみ、数年間にわたって後遺症に悩まされるなど、僕のような常人にとっては理解の及ばない逸話もあります……。
これまで熱心に解説してきたバンド結成からデビュー・アルバムの成功までを知って、読者の皆さんはGuns N' Rosesについてどのような印象を抱かれましたか。破天荒とか、型破りとか、常識外れとか、色々な声が聞こえてきそうです。でも、このエッセイを最後まで読み終わる頃には、彼らに対する印象もまた全く違った形になっているかもしれませんよ。
今回紹介させて頂きたい8分弱にも及ぶ大作『Civil War』は元々、1989年末に発生したルーマニア革命による共産主義崩壊後、見捨てられた国立孤児院の子供たちを救済するため、The Beatlesの元ギタリスト・George Harrisonの妻・Oliviaによって企画された、1990年のチャリティー・コンピレーション・アルバム『Nobody's Child: Romanian Angel Appeal』に収録されていたところ、後に翌年のGuns N' Rosesによる3rdアルバム『Use Your Illusion II』のオープニングナンバーとして収められました。この曲は前回取り上げたBob Dylanの『Knockin' On Heaven's Door』に続き、武力紛争に対するプロテストソングであると目されています。ちなみにGuns N' Rosesは『Knockin' On Heaven's Door』のカバーを同アルバムに収録しており、これすなわちBobの楽曲を反戦の意思表明と受け止め、それに賛同するという意味合いが込められているのではないかと思われます。
一口に"civil war"と言っても、狭義には「内戦・内乱」を意味している一方で、ことアメリカにおいては1861~65年にかけてアメリカ北部と合衆国から分離した南部アメリカ連合国との間で行われた紛争を指しているなど、その内容は解釈の分かれるところです。しかし、Guns N' Rosesの名曲『Civil War』では、特に限定することなく、この世に蔓延る全ての戦争を"civil war(市民の戦争)"と呼び、Axl Roseは曲中にて「戦争の何が市民的なんだ?」というメッセージを問い掛けているのだと解されています。
以上の内容を踏まえた上で、ようやく歌詞の内容を見ていきたいと思います。準備はよろしいでしょうか……。
[Intro(0:05~)]
「俺たちはこれまで対話を怠ってきたのかもな」
「どうしたって、分かり合えない奴も居る」
「そんな風に勝手に諦めたりするから先週と同じことの繰り返しなんだ」
「それが奴の望んでることなのか」
「まあいい、奴もいずれ分かるさ」
「俺だって好きでこんなことやってる訳じゃないってな」
[Bridge(0:37~)]
「戦火に身を捧げる若い男たちを」
「涙に暮れる女たちを」
「そして死にゆく若者たちを見ろ」
「こうして歴史は繰り返される」
「俺たちが生んだ憎しみを」
「俺たちが育て上げた恐怖を」
「その中で繰り返される俺たちの生活を見ろ」
「昔から何も変わっちゃいない」
[Verse1(1:24~)]
「俺の両手はもう自由が利かない」
「何十億って金が右から左へ」
「そして戦争は続いていくんだ」
「神の寵愛と人権とかいう洗脳的な大義名分のために」
「結局そんなものは口実に過ぎない」
「血塗られた手に全ては棚上げされるだけ、時の流れは否定できないだろ」
「皆殺しにすればすべてが綺麗さっぱりってか」
「歴史は俺たちの戦争に嘘を隠すんだ」
[Verse2(2:26~)]
「『永遠の平和』を謳った男が撃たれた時、黒い腕章を見なかったか?」
「記憶に新しいのはケネディの暗殺だよな」
「自分の目で見て知った時、俺は愕然としたよ」
「だからベトナムの話にも俺は
「ワシントンの慰霊碑が俺たちに思い起こさせる」
「誰もが自らにとっての約束の地のために戦っていたとて」
「手の届かない場所にある自由など信用に値しないということを」
[Chorus(2:56~)]
「お前らの戦争を押し付けるなよ」
「富める者を養い、貧しい者を葬るだけのな」
「兵士の命を物のように売り捌くお前は、まるで権力欲の権化だ」
「そんなに大層なもんなのか?」
「少なくとも俺たちにそんな戦争は要らない」
めちゃんこに長くて申し訳ありません……。それでも、生半可な気持ちで踏み込んで良いテーマではないがために、慎重かつ真剣な翻訳が求められること、執筆者である僕も誠心誠意この歌詞に向き合っていることをご理解ください。
戦争とは、対立する二者間(あるいはそれ以上)における外交・渉外が決裂した際に行われる終局的な解決手段です。要するに、言葉を尽くせば回避できる問題にもかかわらず、そのような暴力的行為が、国際法上戦争は「違法」であるとされる時代に突入した現代においても常態化している現状に一石を投じるものであると思われます。実際に戦地へと赴く戦闘員には未来ある若い男性が選ばれ、憎悪や恐怖が必要以上に煽られ、時の流れと共に風化していく戦争の歴史は、時に嘘が隠されて語り継がれていくことになる──そのように、戦争という現象の本質は、昔から何も変わっていないということを嘆いているようにも感じます。
「『永遠の平和』を謳った男」というのは、当時のアメリカにて盛んに行われていたベトナム反戦運動の旗手・キング牧師のことを指しているものと思われ、その5年前にはケネディ大統領も凶弾に倒れています。ケネディ大統領は、1965年までにベトナムから米軍を撤退させるという方針を掲げた反戦派でしたが、後任のジョンソン大統領はこれを撤回し、大規模な軍事作戦を強行します。歌詞中の「黒い腕章」とは、これらの事件の裏に「戦争を望む者」が居て、その黒幕によってもたらされた結末なのではないかという疑念の表れではないでしょうか(実際、当時のアメリカではそのような陰謀論が実しやかに囁かれていました)。また、ワシントンD.C.には現在ベトナム戦争戦没者慰霊碑が設置されており、歌詞中のフレーズは一部キング牧師のスピーチからの抜粋も見受けられるため、以上の歴史的背景を強く意識した内容であることは間違いなさそうです。
[Bridge(3:51~)]
「お前が座ったその後釜を」
「俺たちが流す血を」
「俺たちが壊す世界を見ろ」
「こうして歴史は繰り返される」
「俺たちの抱く疑念を」
「俺たちの従ってきた指導者を」
「俺たちが呑み込んできた嘘を見ろよ」
「言い訳はもうたくさんだ」
[Verse3(4:25~)]
「俺の両手はもう自由が利かない」
「今まで見てきたもの全てが俺の心を変えちまった」
「そんなことお構いなしに、何年も戦争は続いていく」
「神の寵愛だの人権だのってのは何時手に入るのかも分からない」
「そんな夢物語は目前で取り上げられるんだ」
「殺人の十字架を背負った」
「血塗られた操り人形の手によって」
「そして歴史にまたひとつ戦争の傷跡が刻まれる」
[Interlude(5:28~)]
「例えば、我々は市長や政府高官といった要人を選択的に抹殺し、政治的空白を作り、その空白を埋めるために民衆戦を進める」
「平和はもう間もなくだ」
[Chorus(5:39~)]
繰り返し
[Outro(7:12~)]
「戦争の何が市民的だってんだ?」
Guns N' Rosesは、まさに現代の出来事を予言していたかのようですね。そう、ロシアによるウクライナ侵攻です。実際に、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を繰り返し、暴力によってウクライナ国土を実効支配──国際的に承認されていない一方的な選挙という民衆戦によって領土の併合を推し進めようとしている。まさに「こうして歴史は繰り返される」という言葉が痛烈な皮肉となっています。
当該楽曲はあくまでルーマニア革命のチャリティー、そしてベトナム戦争へのプロテストソングとして制作されたものです。しかし、戦争という恐ろしく残酷な事象が決して他人事ではない21世紀の現代において生きる全ての人々に向け、今一度聴いてみてほしい名曲だと思います。
長い・重い・小難しいの三拍子で読者の皆さんを疲れさせてしまったかと思います! 癒しを求めに来てくださっている方には申し訳ございませんが、前回Bob Dylanを取り上げた手前、個人的にGuns N' Rosesは避けて通れませんでした! そもそも音楽全体について何のコメントもしておりませんでしたが『Civil War』はギターソロのパートや曲調変化のピアノパートなど、聴き手を飽きさせないよう長い時間の中でそれぞれ際立つ部分があり、その演奏も一級品です。是非、そんなところにも注目しながら何度もリピートしちゃってくださいね! でも、次回は少し明るい楽曲を持ってくることに致しましょう!
では、締めに代えて最後に恒例の余談をどうぞ。Guns N' Rosesはその後、程なくしてオリジナルメンバーはAxl Roseのみとなってしまいました。全体を通してメンバーの入れ替わりが激しく、ドラッグの影響もあり停滞期にも悩まされるなど、Bob Dylanと非常に似通ったキャリアを歩んできました。
それでも、先述してきた通り、Guns N' Rosesの功績はしっかりと世間に認められます。最初のレコードがリリースされてから25年後に殿堂入り資格が認められる米・Rock and Roll Hall of Fameへ、資格取得初年度となる2012年には早々に殿堂入りを果たすなど、時代が変わっても決して色褪せない彼らの音楽を、これを機に聴き漁ってみるのも良いかもしれませんね!
それでは……!
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はGuns N' Roses - Civil Warから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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