Foo Fighters - The Pretender

 大変お待たせしました。それでは参りましょう。前回のGreen Dayに引き続き、同じ読者様から頂戴致しましたリクエスト第2弾! アメリカはワシントン州、1980~90年代を彩るグランジ・シーンの立役者・Nirvanaで活躍していたドラマー・DaveことDavid Eric Grohlを筆頭に、1994年より発足したポスト・グランジの雄──Foo Fightersから『The Pretender』でございます!


 今回は、そんな各時代の寵児たる有名バンドで、一度ならず二度までも規格外の成功を収めた伝説的アーティスト・Daveの視点から、彼のバンドマンとしての半生と共にFoo Fightersの経歴を紹介していくことに致しましょう。


 1990年、当時の米音楽ファンを席巻していたグランジ・シーンを象徴すべき存在たるNirvanaの一員として加入したDaveは、ドラムス担当であったにもかかわらず、当該バンドでのツアー中、ギターを片手に単独で作曲活動を行っていました。しかし、Nirvanaを代表する稀代のカリスマ・Kurt Cobainの作曲センスに畏敬の念を抱いていた彼は、自身の制作した楽曲を「Nirvanaとして」発表することに戸惑い、躊躇していました。そこでDaveが取った行動とは、時たま密かにスタジオを予約してはデモやカヴァーを録音し、1992年にはLate!名義でデモ・アルバム『Pocketwatch』をリリースすることでした。彼のシンガーソングライターとしての類まれなる才能、何より、そこに掛けられた熱意と衝動は決して抑えられるものではなかったんですね。


 Kurt Cobainの急逝後(詳細は本作第7回を参照)、Nirvanaは程なくして解散を余儀なくされます。非凡な音楽的才覚の持ち主であることが既に音楽ファンの中で周知の事実となっていたDaveの去就は注目され、同年代のグランジ・ブームの中で生まれた名バンド──Pearl Jamから加入の打診があったとか、Tom Petty and the Heartbreakersと合意寸前まで漕ぎ着けたとか、様々な噂話が実しやかに囁かれました。


 Daveは当時の心境について「自分は一生、誰かのバンドのドラマーとして活動するはずだったが、誰にも期待されていないようなことこそ挑戦したいと思った」と語り、1994年、The Afghan WhigsのGreg Dulliにより演奏された『X-Static』のギター・パートを除き、予てから制作に励んでいた15にも及ぶ楽曲を全て独力でレコーディング──アルバム1枚分の音源を完成させるのに彼が費やした期間は、僅か5日間でした……。


 そんな、あらゆる楽器の扱いに精通しており、情熱的な歌声と稀有な作詞・作曲センスを併せ持っていたDaveのセカンド・キャリアに多くの仲間が関心を寄せたのは、言うまでもありません。Daveは、第二次世界大戦時下において未確認飛行物体を意味するスラングとして用いられた"foo fighter"から取った、Foo Fighters名義で音源をリリース。彼はこの複数形で表されたハンドルネームによって、リスナーが複数の人間によって作られた音楽だと思い込むことを期待していたそう。なので、当初Foo Fightersという名前は、Daveが匿名性を守りつつ限定的にレコーディングした音源をリリースするためだけの突発的なアイデアだったというのです。現に、当の本人はFoo Fightersという名前について「世界で一番くだらないクソバンド名──これがキャリアになると実際に考えていたら、おそらく他の名前にしていただろう」と後に語っているようで……。


 何にせよ、Daveが手掛けたデモ・テープは業界内に出回り、レコード会社の関心を呼ぶきっかけとなりました。それを受け、ようやく彼はFoo Fightersとしてバンドを結成する意向を固めます。まず声を掛けたのは、Nirvana時代のベーシスト・Krist Novoselicです。しかし、この勧誘は破談に終わったため、その代わりとして、直近に一時解散を表明していたロックバンド──Sunny Day Real EstateからNate Mendelを加え、同時にドラマー・William Goldsmithをも獲得します。さらに、Nirvana時代にツアー・ギタリストを務めていたPat Smearをも参加させ、盤石の体制でバンドを発足させると、1947年にニューメキシコ州ロズウェルで発生したUFO事件にちなんで名付けられたRoswell Recordsを設立して、セルフタイトルのデビュー・アルバム『Foo Fighters』が1995年に正式リリースされます。


 アルバムカバーに描かれた銃のイラストも、何処かカオスでコズミックな雰囲気が意図的に演出されているようで、Foo Fightersというバンド名や設立したレコード会社名の由来からして、やっぱりDaveの未確認飛行物体(UFO)に対する興味は隠し切れていませんね(笑)。「クソバンド名」とか言っちゃってますけど、本当はDaveもFoo Fightersというバンド名、気に入ってるんじゃないですかね……?


 当然、Nirvanaで一時代を築いたDaveの鮮烈なカムバックが話題にならない訳もなく、それからと言うものFoo Fightersはアメリカ各所で引っ張りだこ。ツアー三昧の忙しない日々を過ごしていく中で、翌1996年には早くも2ndアルバムの制作に着手。今度はDave単独による作品ではなく、あくまでFoo Fightersというバンドとしてのアレンジをも加えつつ、アイデンティティを確立していきます。


 ──しかし、作詞作曲から楽器演奏に至るまで、全てをワンマンで熟していたDaveにとって、バンドメンバーの働きは満足のいくものではなかったようです……。


 特に、Nirvanaではドラムス担当として活躍していたDaveは、アルバムのレコーディングでWilliam Goldsmithが演奏したドラム・パートの出来栄えに納得が行かず、別所で録音をやり直すという、Williamの立場からしてみれば自身の存在意義を疑われているかのような所業に打って出ます……。当たり前ですがWilliamはこれに憤慨し、Daveは「レコーディングは俺がやるけど、バンドには残って」と意味不明な説得を試みるも、慰留は失敗。これに続くようにして、Pat SmearもDaveのプロフェッショナリズムとツアー三昧の毎日に疲弊し、燃え尽きたかのように脱退(彼は一応2006年に戻ってきます)──Daveさんや、自身の理想と違うことがあったとしても、せめて一言メンバー同士で相談するとか、できなかったんですかね……。


 取り急ぎ、ドラマーの後任を探していたDaveですが、Alanis Morissette(第25回参照)のツアー・ドラマーとして活躍していた故・Taylor Hawkinsに白羽の矢が立ちます。そしてリリースされた2ndアルバム『The Colour and the Shape』のレコーディングに合流したTaylorは『Monkey Wrench』『Everlong』『My Hero』といった名曲の収録でデビュー。Screamというグループで、かつてはバンドメイトだった幼馴染・Franz Stahlも加入させ、再出発は順風満帆かのように思えました。


 しかし、DaveとFranzは、ソングライターとしては馬が合わなかったようで、すぐに解雇してしまいます。この決定の直後、 Nate MendelはSunny Day Real Estateの再結成に向け脱退の意向を示しますが、Daveとの電話で何とか踏み止まり、以降は故・Taylorを含むトリオ体制が続きます。Daveの自宅スタジオで数か月にわたりレコーディングされた3rdアルバム『There Is Nothing Left to Lose』が完成したのも、丁度この頃。いやはや、まさに典型的なワンマン・バンドって感じがして、僕は結構好きなエピソードです(笑)。


 その後、Foo Fightersは解散寸前の危機を何とか乗り越えたり、メンバーの入れ替わりを経たりなど、他にも紹介したいことが山ほどあります……! でもこの調子で話を続けていくときりがないので、一先ずこのくらいにして。有名バンドは必然的に書きたいことが沢山できてしまうので、読者様方からの要望があれば、いずれPart2のような形で続きを書いても良いかもしれませんね!


 とにかく、今回紹介するのはFoo Fightersが数々の名声を獲得し、大御所バンドとしての地位を盤石なものにしてから発表された、2007年の6thアルバム『Echoes, Silence, Patience & Grace』に収録されているオープニングナンバー『The Pretender』です!


 『Echoes, Silence, Patience & Grace』は、なんと2008年に年間最優秀アルバム賞を含むグラミー賞5部門にノミネートされており、うち最優秀ロック・アルバム賞に輝きます。これはFoo Fighters名義による、3度目のグラミー賞受賞となりました。その他、特に『The Pretender』は、この名盤に収録されたファースト・シングルとして、米・Billboradのモダンロック・チャートにて19週連続で首位の座をキープしただけでなく、年間最優秀レコード賞と最優秀ロック・ソング賞にノミネート、うち最優秀ハードロック・パフォーマンス賞を獲得した名曲中の名曲──つまり、世界で最も権威ある音楽賞の太鼓判を以て、僕も自信を持って紹介することができるというもの!


 Nirvanaの遺したグランジの系譜を受け継いだDaveによるポスト・グランジ最高傑作のひとつとも言うべき名曲──これを機に皆様も、とくとご堪能ください!


[Intro(0:11~)]

「お前を闇の中へと葬り去って」

「なお奴等は何でもないように振舞ってやがる」

「お前が闇に包まれている間」

「間もなく全ては解き明かされる」


[Verse1(0:36~)]

「お前に送り込まれた奴は皆が屍と化した」

「骨のマーチに合わせて歌ってみたらどうだ」

「奴等はお前を土に埋めて欺くつもりだ」

「もう秘密を守り続ける必要はない」

「準備は整っただろ」


「正直者が馬鹿を見る」

「知らぬ存ぜぬで罷り通る自己保身、もうたくさんだ」

「振り回されちまってるよな、俺たち」

「運命の歯車に翻弄されて」

「いつまでも、いつまでも」

「いい加減にしやがれ」


[Chorus(1:23~)]

「俺はそこらの有象無象とは違うと言ったら?」(×2)

「お前のお遊戯に付き合わされる操り人形ではないと言ったら?」(×2)

「お前は醜い欺瞞者だ」(×2)

「俺は決して屈しないと言ったらお前はどうする気だ?」(×2)


 ゆったりとしたイントロから徐々にギアを上げていき、弾け飛ぶようにピークを迎えるのDaveの歌声は圧巻の一言。何度聴いても飽きることがない情熱的でアップテンポな曲調は、どんな時でも気分をリフレッシュさせてくれますね!


 ──と、言いたいところなんですが。既にお気づきのとおり、歌詞の内容は何処か不穏な雰囲気を漂わせていて、何やら只事ではない様子……。


 はい、種明かしをしましょう。英ラジオ局・Radio Xへと、実際にDaveが語ったところによれば『The Pretender』には「隠された真実を暴く」テーマがあり、当の本人は言葉を濁しながら「当時の政情不安を憂う反体制的な側面」があると仄めかしています。前回も言及した通りですが、当時のアメリカはイラク戦争の真っ只中であり、当該楽曲がリリースされた2007年8月の翌月からは、サブプライム住宅ローン危機が発端となったリーマン・ショックと、それに伴い連鎖的に発生した一連の国際的な金融危機に揺れていました。


 「おいおい、流石に4回連続でアメリカ政治の話はもういいよ」と思われた皆さん、申し訳ありません。何を隠そう『The Pretender』は僕のお気に入りソングトップ100には余裕でランクインするほど大好きな楽曲のひとつ。避けては通れませんでした。


 屍と訳した"skeletons"について──これは、まさに当時のベトナム戦争に次ぐイラク戦争にて、戦地へと送り込まれた兵士たちを指しているものかと推察します。そして、彼らを死地に赴くよう指示した指導者は、国民に戦争の正当性を主張する欺瞞者("the pretender")であるとの皮肉、そのようにして隠された真実は必ず暴かれるのだというメッセージが含まれていそうだというのは、考え過ぎでしょうか。


[Verse2(1:48~)]

「俺もやがては言われるのだろう」

「魂を売り捌いた他の奴等と同類なんだって、上等だ」

「それでも歴史は刻まれる」

「確かに俺たちは永遠じゃない」

「仮初の儚い存在だ」

「そんなことは今更だがな」


[Chorus(2:13~)]

繰り返し


[Bridge(2:43~)]

「俺は心の声の代弁者だ」

「お前は耳を貸そうともしないがな」

「お前が向き合っている顔が誰だか分かるな」

「俺はお前の映し鏡だ」

「俺は置き去りにされた」

「されど正義でもある」

「見方を変えれば敵ともなろう」

「お前を引き摺り下ろして」

「跪かせる手ともなれるぞ」

「お前は誰だ?」(×4)

「お前を闇の中へと葬り去って」

「なお奴等は何でもないように振舞ってやがるんだぞ」


[Chorus(3:28~)]

繰り返し


[Outro(4:14~)]

「お前は誰だ?」(×3)


 Daveによる魂の叫び、しかと聞き届けさせて頂きました。


 もうね、彼は作詞センスが抜群ですよ。ブリッジ・パートの一節──"I’m what’s left, I’m what’s right, I’m the enemy"なんて、初めて聞いた時は心が打ち震えましたもんね。


 彼がこのフレーズについて、どのような意味を込めているか答え合わせをすることは叶いませんが、"left"と"right"は単に「左」と「右」という方向的な意味にとどまらず、政治的なテーマに絡めて「左翼」と「右翼」という解釈もできますし、あるいは「棄てられた("leave"の過去形として)」「正義(あるいは権利?)」とも解釈できます。要するに「どんな人物でも、見る人の立場よっては正義でもあり、悪でもあり得るのだから、一面的な情報だけで判断するのではなく、しっかりと現実を直視して正しいと信じるもののために頑張ろう」と、そのようなメッセージ性がありそうだなと僕は感じました。


 あるいは、自分すら見る人によって評価の分かれる存在であるのだから、常に「お前は誰だ」と自問自答を繰り返し、他者の意見に振り回されず己の信じた道を突き進めよという前向きなメッセージである可能性もありますね。いずれにせよ、反体制的なメッセージが一部あること以外Daveはこの歌詞について言及していることはないので、自由な解釈を歓迎しているということでしょう。皆さんも僕の解釈は、あくまで音楽をこよなく愛するだけの、いちの戯言だと思って、話半分に聞き流してくださいね。正解なんて、あろうはずもないのですから!


 今回も期せずして長話となってしまいましたが、お疲れさまでした。リクエスト主様も、ご満足頂けたかどうか、いまいち自信はありませんが、このように大好きな有名バンドを紹介する機会を設けてくださったこと、心より感謝申し上げます!


 戦争だの政治だの、重苦しいテーマにうんざりしてしまった方も、ご安心を。次回こそは明るく楽しいポップ・ミュージックで気分転換と洒落込みましょう。とはいえ、誰を紹介するのかまだまだ思いついてないので、良いアイデアがある方はコメントお待ちしておりますね!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はFoo Fighters - The Pretenderから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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