11-20

Avicii - Wake Me Up

 番外編を挟んで閑話休題、第11作目として選びましたのは前回同様スウェーデンから、28歳という若さでこの世を去った鬼才──EDM界の最先端をひた走ったAviciiことTim Berglingから『Wake Me Up』です!


 このエッセイのどこかでも言及しましたが、21歳で急性膵炎、24歳で胆嚢と虫垂を切除している彼は、過剰な飲酒によって健康面に問題を抱えていたようで、2018年にガラス片による自傷行為に起因する大量出血が死因となり、自らの手で生涯の幕を閉じました。──ここに改めて、彼の冥福をお祈り申し上げます。


 本人は生前、健康面での不安や成功者としてのプレッシャーが精神的負担となっているという旨の心境を吐露していたため、自殺説が有力視されており、彼の遺族もそれを黙示的に認めています。ですが、その一方で他殺説や事故死説などもまことしやかに唱えられています。


 そんな稀代のダンスミュージック・アーティストであるAviciiの名前の由来は、サンスクリット語で「無間地獄」を意味する"avīci"を文字っているようです。彼は幼少期から兄の影響を受けて様々なジャンルの音楽に精通していたといいますが、FL StudioをはじめとするPCの音楽制作ソフトに出会って以降はEDM制作に心酔。18歳で音楽家としてのキャリアをスタートさせ、ティーンエイジャーにしてスターDJとしての地位を確固たるものにしました。


 また、彼の手掛ける楽曲は、前回も紹介した同郷のDJユニット・Swedish House Mafiaの影響を強く受けているそうです。Swedish House Mafiaがお気に召していただけたのなら、必ずや今回紹介するAviciiも貴方のプレイリスト入り間違いなしです!


 彼が抱える前述の健康面での不安によって、来日予定があった2013年のSPRINGROOVEに始まり、2014年、2015年の単独公演は全て中止となったことで、続く2016年に企画された来日公演では「頼むぜ、AVICII! 僕らは君を諦めない!」と銘打って大々的な宣伝がなされたことは、記憶に新しいと感じる方も多いのではないでしょうか。 


 故人の紹介となると、どうしても重苦しい空気が漂ってしまうので簡潔に纏めようかと思いますが、ダンスミュージック・アーティストとして過ごしたたった10年のキャリアの中でAviciiは、音楽界に未来永劫決して色褪せることのない莫大な遺産を築き上げていきました。各国の多士済々にわたるアーティストとのコラボ曲を数多くリリースし、グラミー賞ノミネートも2度経験しました。アメリカのソウルシンガー・Aloe Blaccを共作者としてボーカルに迎えたヒットシングル『Wake Me Up』は、韋駄天の如く全英チャートで首位の座を掻っ攫いました。


 今回紹介するのは、まさにその『Wake Me Up』です。YouTube上では22億回再生という天文学的数字を叩き出している名曲に酔いしれ、皆さんもうぃくみーあーっぷ!(?)と叫びながらその歌詞に注目して、和訳を楽しんでいただけると幸いです。さあ、準備はできましたか……?


「暗闇の中で自分の進むべき道を感じる」

「心臓の鼓動に導かれるまま」

「旅の終着点なんて分からないけど」

「どこから始めるかは僕の自由だ」


 恐らく、人生を「旅」と表現して、心臓の動く限り歩み続けなければならない人生における先の見えない道を嘆いて葛藤する若者の苦悩を表現しているものと思われます。Aviciiこと本名Tim Berglingも、このような葛藤を経験していたのでしょうね。


「奴等は『お前みたいな若者には理解できない』と言う」

「俺を『夢に囚われた若者だ』とね」

「目を閉じていては寿命が過ぎ去っていくだけだ」

「上等だ、僕は構わない」


 若者の苦悩を「自分たちも経験したものだ」と勝手に決めつけてまともに取り合おうとしない大人たちの無神経な発言に怒りを露わにする様子が描写されていると感じます。人間の抱える悩みなんて人それぞれですし、時代背景も刻々と変化していくものなのだから、大人は若者の悩みを知ったように話すのではなく、毅然きぜんとした態度で相談に乗って、道標みちしるべのような存在になってあげてほしいものです。僕も大人と呼ばれる部類の人間になってから、未だに昔大人たちに言われた「そんな経験、俺たちにもあったよ!」という知ったかぶりに腹が立ちます。「あんたら、俺の何を知ってるんだよ!」とね。すみません、話が脱線しました……。


「だから全部終わったら起こしてくれ」(×2)

「僕が賢い大人になった時にね」(×2)

「ずっと自分のあるべき姿を模索してきた」(×2)

「そしたらいつの間にか迷子になってたんだ」(×2)


 サビに入ってダンスパートです。この弾け飛ぶようなドロップを聴いて「悩みが吹き飛んだー」とか「疲れが取れたー」って感じた人が全世界に何人居ることでしょう……。


 歌詞の内容は、若者が葛藤や苦悩の末に諦観の境地に達したという内容に思えます。大人たちのいい加減な助言に辟易して自分を見失った若者が「そこまで言うんだったら、俺が大人になるまで寝かせておいてくれよ!」と塞ぎ込む様子が描かれているように僕は感じました。


 一頻り身体をくねらせて踊ったら、続いて一気に2番を紹介して行きます。


「世界の重圧を一身に受けているみたいだ」

「でも僕には2本しか腕がないから」

「世界を旅する機会でもあれば良いけど」

「そんな計画はないよ」

「永遠に若さを保てれば良いな」

「そしたら目を閉じることも怖くない」

「人生は皆のために作られたゲームだ」

「クリアしたものにだけ愛が与えられる」


 多くのAviciiファンに聞くところによれば、1番は不安や苦悩に囚われた若者の諦念、2番は前向きな希望を表現した歌詞だという見方が強いようなのですが、生憎僕には2番も若者の後ろ向きな姿勢を表現した歌詞に思えてなりません。


 例えば人生をゲームと表現した一節ですが、クリアしたものにだけ愛が与えられるというのであれば、途中でドロップアウトしてしまったプレイヤーに救済はないということでしょうか。AviciiことTimの半生を知った後だと、この歌詞もどこか後ろ暗い印象を受けてなりません。こういう斜に構えて捻くれた解釈をしようとする僕に、EDMは向いていないんですかね……? 皆さんはどう思われたでしょうか。


 歌詞は以降既出のフレーズを繰り返すので、和訳紹介は以上になります。皆さん今回もお付き合いくださり、ありがとうございました!


 恒例の余談ですが、2019年4月に配信された彼の遺作は『SOS』と名付けられていました。言わずもがな、SOSというのはかつて無線電信で遭難を伝えるために用いられていたモールス電信符号のことであり、人生の路頭に迷ってしまった彼の最期の叫びだったのかもしれませんね。偶然にも『SOS』でボーカルを務めたのも『Wake Me Up』と同じAloe Blaccで、歌い出しは「俺のSOSが聞こえないのか?」でした。今となっては、その歌詞に込められたAviciiの真意を彼に問い質すことなど出来ませんが、せめて『Heaven』では安らかに眠っていてくれれば良いなと、切に願います……。


 次回は今のところ女性アーティストを一切取り上げていないので、そろそろ1曲くらい紹介してみたいと思います! 勘違いされては困るので先んじて言っておきますが、女性アーティストの曲も僕は大好きです。Taylor Swift, Carly Rae Jepsen, Adele, Sara Bareilles, Katy Perry, Sabrina Carpenterなどなど。ヒントとして、次回は以上のアーティストは除外します。さあ、どんな女性アーティストを取り上げるのか、皆さんも予想してみてくださいな……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はAvicii - Wake Me Upから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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