Easy Life - Nightmares

 第4回に選ぶのは、イギリス・レスター出身のオルタナティブ・ロックバンド──Easy Lifeから、代表曲『Nightmares』です! ちなみに、4作連続でUKバンドの楽曲を取り上げていますが、特別これといった他意はありません。もしかしたら、最近(と言っても半年前くらい)行ったUKバンド限定のナイトクラブで、UKミュージックをこれでもかと聴きまくったからかもしれません。でも、あくまで個人的にはUSロックの方が好みに近いので、次に取り上げるのはアメリカ出身のバンドかも……。


 Easy Lifeは、2017年にボーカリスト・Murray Matraversを中心に結成された、新時代の寵児です。それもそのはず、彼らはイギリスにおける新人バンドの登竜門として知られる、英国放送協会BBCが毎年初めにその年のブレイクが期待される新人バンドを紹介する"Sound of"シリーズの2020年版で、2位を獲得しているのですから。結成後3年足らずという驚異的なペースで栄えある賞に輝いたニューカマーの人気は、本国イギリスに止まらず、我らがSUMMER SONIC 2022にて昨夏初来日を果たすなど、国内外で熱心に活動の幅を広げた成果が表れている模様です。──凄い!


 これまで紹介してきた伝統的なUKロックバンドとは一線を画す、ヒップホップ、ジャズ、R&B、ポップ、エレクトロニカ、アフロ・ビート、スロウ・グルーヴなど多岐にわたる音楽ジャンルが見事に調和した、独特な世界観を持つサウンドとメロウなボーカルが彼らの特徴です。作詞者Murrayによる不眠症や金銭問題、捻じれた人間関係等を題材とした少々重苦しいように感じられる歌詞も人気の一因となっているようで、まさに時流に乗った、次世代を背負って立つバンドらしい楽曲センスだと感じます。


 前回の反省を生かしてバンド紹介はこのくらいにして、歌詞の意味を一緒に見ていきましょうか! 何と言っても曲名は『Nightmares』ですから、直訳すれば悪夢、しかも複数形。なんだか早速、鬱屈とした雰囲気を感じませんか……? それでも、当該楽曲はで結成されたというEasy Lifeが、本格的な軌道に乗り始めるきっかけとなったものです。2018年9月にシングルとしてリリースされた『Nightmares』は、ゆったりとしたレゲエとヒップホップが融合したビートに、ジャズ・ギターやホーンが折り重なったフュージョン・ポップで、不眠症や強迫観念をテーマにしながらも、軽やかな高音で噛み締めるように歌われるギャップに新鮮味が感じられます。


 皆さん、歌詞はご用意できましたでしょうか。ここから翻訳と紹介に移っていきます。正直に言って、僕は曲調の明るさと歌詞の意味する内容の暗さが対照的だと感じるのですが、この辺は人それぞれの感性によって意見が分かれそうだなと思います。皆さんはどう思われるのでしょうか――。


「俺の見る悪夢になんて誰が関心を示そうとする?」

「こうしているときだけ何とか集中できる」

「最近は、転寝うたたねすらすごく貴重で」

「俺は自分の悪癖と格闘しているよ」

「でも俺の見る悪夢になんて誰も関心はないから」

「だけどお前には心配事なんて何もないもんな」

「心配事なんてお前にはないのさ」


 ──これは、重たい……。悪夢に悩まされることで不眠症を患っていると思われる主人公が、周囲の心配事がなさそうな人間を羨ましがるあまり、他人の苦悩を知ろうともせずに決め付けに走っている様子が描写されているのでしょうか?


 実はですね、このようなところで言及するのが適切かどうか分かりかねますが、僕が小説の執筆活動を開始してから初めて書いた処女作である『命短し愛せよ己』という作品に登場する主人公・否己影太という人物は、この歌詞を基にして描きました。悪夢に苛まれるあまり睡眠時間が確保できず、心に余裕のない状況から人間的な成長を遂げてヒロインと恋愛に発展していくという物語なのですが、もしご関心ありましたら是非、読んでやってください。処女作ということもあり、長文乱文ご愛嬌の作品となっておりますが、個人的には大好きで、作者として愛を感じている小説でもあります。


 すみません。話が脱線しましたね……。続きをどうぞ――。


「誰かが傷つかないうちは何だって面白可笑しく消化できるさ」

「俺も話半分に聞いておくよ、ひとつの勉強だと思ってね」

「だけど何が真実かなんて俺はこれ以上知りたくないんだ」

「何が真実かなんてこれ以上はうんざりだ」


 たったの4フレーズによって構成されたサビのパートです。なんだか急に曖昧な感じになりましたが、不眠症を拗らせたことで思考が変な方向へと暴走してしまっているのでしょうかね。おいたわしや……。僕が手掛けた先述の作品においても、この歌詞に込められているであろう意味の通りに、主人公の苦悩を赤裸々に綴っております。


 私事で恐縮ですが、僕個人もこういう経験、ありました。人によってはどうでもいいと一蹴されそうなことで延々と悩み続け悪夢を見るようになり、不眠症に発展する。今はそのような機会はめっきりと減りましたが、もともとクソザコメンタルの持ち主なもので、こういった歌詞には物凄く共感できるところがあります……!


 ──執筆者の鼻息が荒くなってきたようなので、先を急ぎましょう。2番に入りたいと思います。


「誰が俺の見る悪夢に興味を示す?」

「奴が傍にいるときは、呻き声なんて何の役にも立たない」

「今夜も特別なことなんてないし枕に顔を埋めていよう」

「どっか行ってくれ。夜勤があるからちょっとだけ寝かせておくれよ」

「誰も俺の悪夢になんて……」


 僕の個人的な意見なんですけど、恐らくここでいう主人公以外を示す代名詞は、全て楽曲の題でもある「ナイトメア」のことですね。擬人化された悪夢が傍に居て、それをこれ以上見ていたくないから枕で視界を覆う。そして悪夢に向かって「どっか行ってくれ」と、悲痛な叫びを繰り返しながらどうにかして眠りに就こうとする。そんな主人公の心情を慮ると、共感で何だか泣けてきました……。実在するかも分からない登場人物に対して、可哀想だなぁと、そう感じてしまう僕は考え過ぎなのでしょうか。


 この後は先程のサビのフレーズが再登場します。ほとんど変わっていませんが、2番のサビは2フレーズ目が「またひとつ橋が焼け落ちた」という言葉にすり替えられています。橋、かぁ……。何を意味しているのでしょうね? 


 サビが終わった後は、次のようなフレーズでクライマックスに向かっていきます。


「そしたら親友が電話してきたんだ、こんな感じでさ」

「今夜はどんな感じだ?」

「気分はどうだ、ちょっと気分転換に付き合えよ」

「そんなに疲れてる訳じゃないのに気分はあまり良くないんだ」

「だけどお前には心配事なんて何もないもんな」

「心配事なんてお前にはないのさ」


 そして最後のサビへと入っていくのです。下2フレーズは先程も翻訳した繰り返しの部分になりますが、敢えて楽曲の歌詞本体を忠実に再現するためここでも改めて書き添えました。どういうことかと言うと、多分電話を掛けてきて体調を気遣ってくれた優しい親友に対して、気分が優れないことが原因で「お前には心配事がなくて良いよな」と口に出してしまったのかな、と僕が勝手に解釈したからです。詳しくは、是非皆さんも一度曲を聴いて、どういう意味合いを感じ取ることができたのか、共有していただければ幸いです。


 お決まりのフレーズでサビを歌い切った後は、最後の曲調変化、クライマックスです。


「皆夜遅くのシフトに、危機の瀬戸際だ」

「誰もがこんな風に感じたくはないよな」

「皆深夜帯の夜勤に、峠を迎えてるんだ」

「誰も俺の悪夢になんて興味ないんだろ」

「お前は何も心配しなくても良いくせに」


 夜はどうせ眠れないのだから、折角だったら働くことで気を紛らわそう。そう考える主人公のような人もいれば、そうでない人もいる。でも、誰もが夜は眠たいものだから、眠気という危機が最高潮に達する深夜に戦っている。そんな感じの意味ですかね。分かりかねますが、曲自体はこれでおしまいです。


 この曲を全く知らないよという人が、この紹介文をきっかけに聞いてみようとしてくれたら、この上ない幸せです。だって恐らく、歌詞を見ただけの印象と曲調とのギャップにきっと驚くと思いますから。


 Easy Lifeは、もともと地元のレゲエ・グループで活動していた者や音楽教師として学校に勤めていた者までが一堂に会した、極めて特殊な成り立ちです。だからこそ、複雑多岐にわたる音楽ジャンルを混ぜ合わせた独特なリズムと、韻や語感を意識した気持ちの良い歌詞が融合することによって築かれる魅惑の世界観が、聴く者全てを惹きつけてやみません!


 色々と沢山のことを語ってきましたが、ここで私が言いたいことは一貫して「まあまずは聞いてみて!」ということに尽きるんですよね。なぜなら、僕のこのエッセイの原点は「皆さんと洋楽の素晴らしさについて語り合いたい」ということなのですから。


 さて。次回は冒頭でも予告した通り、誰もが一度は耳にしたことがあるようなUSロックバンドから取り上げてみようかな。お楽しみに!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はEasy Life - Nightmaresから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る