Sam Smith - I’m Not The Only One

 眠れぬ夜がまたひとつ、こんな時はお酒片手に筆を走らせるに尽きますね。それに今回は第50回目。感慨も一入ひとしおでございます……。


 今朝(5月29日)は災難でした。スマホを壊してしまったので音楽を聴くこともできず、しとしとと雨が舞い落ちる曇天の下、じめじめとした満員電車に押し込められ、鬱屈とした虚無の中を耐え忍ぶこと1時間弱──文字通り色褪せた世界を生きていました(笑)。


 力漲るロック・ミュージックを目覚ましに、スコッチウイスキーのロックを睡眠導入剤として生きている僕にとって、やはり音楽のない日常などつまらないと確信した一日でしたね。今はこうして本稿を執筆しながら、生きる糧を同時に摂取しております。


 はい。どうでも良い近況報告はさておいて、今回紹介致しますのは、その圧倒的歌唱力とシンガーソングライターとしての資質から「男性版Adele」とも評される、イギリス・ロンドン出身アーティスト・Sam Smithから『I’m Not The Only One』でございます……!


 所謂「男性」と表記しましたが、誤解のないように書き添えておくと、Sam Smithは2014年に自身がゲイであることを公表しており、ジェンダー・アイデンティティーはノンバイナリー(Xジェンダー)に属することを公にしております。そこで、Samを表す代名詞は"they/them"を使用すべきところなのですが、代名詞"they/them"に相当する日本語はないので、本稿では一貫してSam Smithと表記させて頂きます。


 同国出身の人気ダンスミュージックデュオ・Disclosureの2012年のシングル『Latch』のゲストボーカルとして参加したことを契機に、Disclosureと共に名を轟かせていったSam Smithは翌年、Naughty BoyことShahid Khanのシングル『La La La』にて自身初の全英1位に輝き、その知名度を確固たるものに。──申し訳ないのですが、僕にとってはラララといえば大分前に紹介したThe Cabの『La La』か、bbno$の『Lalala』という曲のイメージが強いですね……。いずれも良曲であることは確かです(笑)。


 2013年12月には、英レコード協会主催のBrit AwardsにおけるCritics’ Choice Award(現・The Rising Star Award)を受賞。2014年1月には恒例、英国放送協会BBCが選ぶ有望株が評されるSound ofにて首位に。惜しい! 上記ふたつの賞を同時受賞したことがあるのは、今までにAdeleとEllie Gouldingの両名のみであることは散々紹介してきた通りですが、1か月の差がなければSam Smithもここに名を連ねていたことになりますね……!


 Sam Smithは、2014年にデビュー・アルバム『In the Lonely Hour』をリリースすると、同アルバム及びその収録曲は、2015年開催の第57回グラミー賞6部門にノミネートされ『Stay with Me』『In the Lonely Hour』といった名曲などにつき、最優秀新人賞・年間最優秀レコード賞・年間最優秀楽曲賞・最優秀ポップヴォーカルアルバム賞の4部門が授与されました。そんな名盤『In the Lonely Hour』はなんと、69週連続でUKチャートトップ10にランクインしたことによりギネス世界記録に認定されるなど、Sam Smithはデビュー当初から旭日昇天の勢いでその名声を世界に広めていきました!


 Sam Smithはその作詞テーマからも分かる通り、Adeleから強いインスピレーションを受けていることを公言しており、シングル『Who We Love』を共に手掛けたEd Sheeranとは友人関係にあるようです。OasisのNoel GallagherやBlurのStephen Alexander Jamesと幼馴染で、その影響を受けてか歯に衣着せぬ毒舌家として知られる同国出身シンガー・Lily Allenとは従兄妹の関係にあるとか。今まで紹介してきた多数のイギリス人アーティストと様々な繋がりを持っていて、何だか面白いですね。


 さてさて、そんなSam Smithから紹介する曲に選んだのは、デビュー・アルバムに収録された原点にして頂点『I’m Not The Only One』です。また無難な選曲だと思われるかもしれませんが、Sam Smithの真価はやはりこのようなピアノバラード調の楽曲でこそ発揮されていると個人的には考えております……。『Stay With Me』とかもね(それもベタか)。


 現在時刻は2a.m.となっております(別に先日紹介したFoalsの『2am』とかけている訳ではないのですが)。それにしても、深夜に酔っ払った状態で切ない失恋ソングは2倍沁みますね……。文章が崩壊して翻訳作業に支障が出る前に、早速(?)曲の内容を見て行きましょうか。皆さんもお手元の端末でSam Smithによる圧巻の歌声を聴きながら、今まで通り僕の拙い歌詞和訳と解釈をお楽しみ頂ければと思います。


[Verse1(0:24~)]

「君と僕、誓いを立てたね」

「病める時も健やかなる時も──って」

「君が僕を裏切るなんてあり得ないよ」

「でもこの痛みこそが動かぬ証拠さ」

「何か月もの間ずっと、疑念を抱え続けた」

「涙が零れ落ちる度に否定して」

「いっそ終わらせられれば良いのに」

「この期に及んで君を求め続けてる自分が居る」


[Chorus(1:09~)]

「僕が狂ってるんだって君は言う」

「君のしてきたことを僕が知らないとでも思い込んでさ」

「でも君が僕を『ベイビー』って呼んでくれる度に」

「『僕だけじゃない』って痛感するんだ」


 ──あぁ、切ない……。先日紹介したAdeleの『Rolling in the Deep』が恋人に対するをテーマとしたものだとするなら、Sam Smithの『I’m Not The Only One』はと言ったところでしょうか。


 おそらく、当該楽曲に登場する主人公と交際相手は結婚しています。「病める時も健やかなる時も」と訳した"For better or for worse"は結婚礼拝の所謂決まり文句みたいなものですよね。相思相愛だったからこそ、主人公はパートナーの裏切りをあり得ないことだと断じている。しかし、心の何処かでずっと疑念を抱え続け、いつか痛みを感じたことで確信に変わったのです。


 裏切られていることを知った主人公は、それでもパートナーを愛し続けます。当該楽曲の題でもある"I’m not the only one"を「僕だけじゃない」と訳したのは、これがダブルミーニングとなっているのではないかと思ったからです。要するに、君(パートナー)が僕(主人公)を「ベイビー」と呼ぶ度に、①僕ひとりじゃない(やっぱり君が居てくれる)と感じていると同時に、②僕以外にも言っている(不倫相手が居る)と気付いていることを暗示しているのではないかと。あまりにも悲し過ぎるので、僕の邪推は外れていることを願うと共に、そう考えさせられるほどの深いストーリーを描いているSam Smithの作曲センスに感服致します。


[Verse2(1:34~)]

「君はもう手の届かない所へ」

「たった今、悲しいけど、その理由が分かったんだ」

「君の心はもう僕の傍にはないんだ」

「神は僕の心は君に囚われたままだと知っているのに」


[Chorus(1:56~)]

繰り返し


[Bridge(2:20~)]

「数え切れない年月を君を愛し続けてきた」

「多分僕では満足させられなかったんだね」

「君は僕に最も恐れていたことを気付かせてくれた」

「嘘で僕たちを引き裂くことで」


[Chorus(2:42~)]

繰り返し


[Outro(3:29~)]

「『僕だけじゃない』って痛感したよ」(×2)

「分かったんだ……」

「『僕だけじゃない』んだって」


 神の御前において愛を誓ったふたりですが、主人公は真実の愛を感じていたため、パートナーの存在に心が囚われたままです。しかし、その相手は嘘によって主人公を騙していたため、何にも縛られることなく主人公のもとを去って行ってしまった。主人公にとって、それこそが最も恐れていたことであり、諦念の境地に達して深い悲しみに打ちひしがれています。──もう、ただただ切なくて辛いですね。シンガーソングライターとしてSam Smithの歌唱力及び表現力には、畏敬の念すら抱きます。


 それでは、今回も歌詞紹介は以上となります。毎度お付き合いくださいまして、誠にありがとうございます……!


 次回は恒例の邦楽紹介──ではなく、前回の番外編で予告した通り、小噺を語らせていただければと思っています。何を話すかはまだ決めていないので、もしよろしければ話題提供がてら執筆者である僕自身に対する質問やおすすめアーティストなど、中々聞くに聞けないこと的なものがありましたら、ここらで一挙に募集したいと思います。所謂質問コーナーみたいな奴ですが「いや、聞くことなんて何もないよ」という方がほとんどだと思いますので、多分僕が自由気ままに一人語りをする回になると思います(笑)。それでも良いよと言ってくださる方は、次回もよろしくお願いしますね。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はSam Smith - I’m Not The Only Oneから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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