Marshmello, Jonas Brothers - Leave Before You Love Me

 今回は、DNCE(第46回参照)としても活躍している次男・Joseph Adam Jonasがリードボーカルを務める、アメリカ・ニュージャージ州発の三兄弟ポップ・ロックバンド──Jonas Brothersが、ペンシルベニア州出身の覆面トラックメーカー・Marshmelloと共に製作した2021年のポップシングル『Leave Before You Love Me』をお届けします!


 2015年、音声ファイル共有サービスのSoundCloud上に自身初のオリジナル曲『Wavez』を投稿したことを皮切りに活動を開始したMarshmelloは、本物のマシュマロを想起させる大きな白いマスクが特徴的なフューチャーバウンス系最先端DJです。翌年にリリースされた『Alone』の爆発的ヒットにより一気に知名度が高まると、同国のR&B歌手・Khalidとの『Silence』や、女優としても活躍しているSelena Gomezとの『Wolves』が、2017年立て続けにヒット。その翌年にリリースされたBastille(第28回参照)との『Happier』は、世界中のシングルチャートで軒並み首位を獲得(英米では惜しくも2位)し、MVを通じたアメリカ動物虐待防止協会のキャンペーン(#FindYourFido)における、保護犬の譲渡を推進する支援活動に貢献したことも話題となり、キャリアハイのヒットを記録しました。


 そんな21世紀を彩る現代型DJ・Marshmelloの本領は何と言っても、コラボするアーティストの特徴を正確に見極め、多岐にわたる他ジャンルの音楽に対する造詣が深く、他者をリスペクトできる謙虚さを併せ持つことから、楽曲ごとに変幻自在な曲作りをすることができる点にあると思います。先述した『Silence』は、Marshmello本来の楽曲よりもテンポを落としてKhalidの水のように透き通った柔らかな歌声を際立たせているという、謂わば「ダンスバラード」とも形容できる前衛的なスタイルに仕上がっています。また、2018年にリリースされたイギリス人ポップシンガー・Anne-Marieとの『FRIENDS』では、彼女の魅惑的な歌声と楽曲全体のイメージとの調和を図るため、敢えてEDM的な要素を限りなく排したスリム化が実現されていて、如何にMarshmelloという人物がアーティストとして優れているかを知る好事例かと思います!


 誰と組んでもハズレなし、我々日本人にとっての白米にも等しい存在であるMarshmelloと手を結んだのは、長男・Kevin、次男・Joseph、三男・Nicholasの三兄弟から成るJonas Brothersです。父方からはイタリアとドイツ、母方からはアメリカインディアンとアイルランドの血を引く多国籍なルーツを持つ兄弟は、2005年に『Please Be Mine』をレコーディング。すると、これが米・Columbia Recordsの代表であるSteve Greenbergの目に留まり、デビュー・アルバム『It's About Time』の制作が開始されます。


 ところが、これが大波乱を呼ぶことに。アルバムは当初、2006年2月のリリース予定でしたが、Columbia Recordsの親会社である米・Sony Music Entertainmentの幹部交代のタイミングと重なり、あろうことか新幹部による「リードシングルを追加すべし」との意向により、発売は数回にわたって延期。結局『It's About Time』は、2006年8月8日に漸くリリースを迎えますが、Jonas Brothersのマネージャーによると、Sony側がバンドのプロモーションに積極的ではなかったために、アルバムは5万枚の「限定リリース」となり、eBayなどのオークションサイトでは200〜300米ドルの高値がつくなどプレミア化した一方で、その反響は限定的なものに。これきり、Jonas Brothersはレーベルの変更を検討することになり、2007年初め、バンドは最終的にColumbia Recordsから首を斬られる形でレーベルを去りました。


 暫く宙ぶらりんの根無し草として活動を余儀なくされたバンドですが、2007年2月、Disney Music Group傘下の米・Hollywood Recordsと契約します。というのも当時、三兄弟は若年層向けにアニメーション、映画、ドラマが放送されているアメリカ発の有料チャンネル・Disney Channelのオーディションに合格しており、番組のサウンドトラックを歌うなどして若者を中心にファン層を確立していたため、同レーベルとは相性が良かったのです。


 そうして2007年に晴れてリリースされる運びとなった、セルフタイトルの2ndアルバム『Jonas Brothers』は、Billboard Hot 200 chartで初週5位に輝くなど、バンドは一躍有名に。Disney Channelにおいても冠番組を持つようになるなど、メディア露出が圧倒的に増えたことでJonas Brothersの知名度は若い世代を中心として急速に広がっていき、ティーン・ポップのアイコンとして確固たる地位を手にします。それからというもの、三兄弟は楽曲をリリースする度に話題を呼び、有名セレブリティとの熱愛が噂されれば瞬く間に拡散され、公私問わず彼らの動向は注目の的となりました!


 しかし、その名声が若き彼らの心にある種の隙を生じさせたのか、恩義あるHollywood Recordsからリリースされる予定だった新アルバムの発表を2009年より延期を重ねた結果、レーベルはJonas Brothersとの契約を解除。アルバムは他のインディー・レーベルからリリースされることとなりましたが、少なからずこの失態が原因となって、バンドは予定されていたツアーの直前で解散の意向を表明します。DNCEの回でも少しだけ言及しましたが、この時既に三兄弟の間には深刻な確執が生じていたことが明かされています。


 解散から6年の時を経て、2019年に再結成を果たしたJonas Brothersによる『Sucker』でのバウンスバックは、過去に説明した通り。今年に入ると、これまで積み重ねてきた彼らの功績が讃えられ、エンタテインメント界で活躍した人物・団体の名前が彫られた星型プレートで有名な観光名所・Hollywood Walk of Fameにて、Jonas Brothersの名が刻まれるなど、名実共にアーティストの垣根を越えた最高のエンタテイナーとしての称号を手にしています!


 本日は、時を越えて成熟した、若き才能の融合を楽しんでいくことにしましょう。2021年にリリースされた『Leave Before You Love Me』は、AlessoやDigital Farm Animalsといった国外の有名DJとMarshmelloにより共同プロデュースされ、Richard BoardmanやPablo Bowmanをはじめ、総勢15名にも及ぶ著名アーティストが作曲に関わっている、実に贅沢な一曲です(イギリスのバンド──ButterscotchのメンバーだったChris Arnold, David Martin, Geoff Morrowにより作曲された『Can't Smile Without You』という楽曲から一部のサウンドがインターポレーションされているため、彼らもクレジットに名を連ねるという友情出演を含みます)。


 さて、ここいらで皆様の期待感も相当に高まってきたのではないでしょうか。それでは、甘く、されどどこか切ない、フックの効いたポップバラードが美しい『Leave Before You Love Me』の世界に身を委ねていきましょう……。


[Verse 1: Nick Jonas(0:06~)]

「君が僕を呼んでくれてたのは知ってるよ」

「こんな形で君のもとを離れたくはなかったさ」

「現在時刻は午前5時」

「100マイルの猛スピードで」

「僕の車(運命)はもう止められないから」

「今更アクセルから足を離す(簡単に縒りを戻す)ことはできないんだ」

「一晩で十分だった」

「この関係の終着点を悟るには」

「君の瞳の奥深くを覗き込む、それだけでね」


[Pre-Chorus: Nick Jonas & Joe Jonas(0:39~)]

「苛立ちを持て余すように踊ると、歯止めが利かなくなりそうだ」

「僕の頭はもう滅茶苦茶だけど、君の心もぼろぼろにしてしまうだろうね」

「だって君がベッドの上で目覚めるとき、ひとり暗闇に取り残されるんだから」

「ごめんよ、お別れしなくちゃ」


[Chorus: Nick Jonas & Joe Jonas(0:55~)]

「君が僕を愛してしまう前に」(×4)


[Verse 2: Joe Jonas & Nick Jonas(1:10~)]

「僕は良く知ってる」

「パーティーを後にするタイミングってやつを」

「皆に気付かれたって構いやしない」

「タクシーを捕まえて、孤独に浸りたいのさ」

「君をきつく抱き締めるよりも」

「僕は隠し事はしないタイプだけど」

「叶わぬ恋と知ってなお心を許すことはできないよ」

「後戻りできないところまで来てしまったから」


[Pre-Chorus: Nick Jonas & Joe Jonas(1:43~)]

繰り返し


[Chorus: Nick Jonas & Joe Jonas(2:00~)]

繰り返し


[Outro: Nick Jonas & Joe Jonas(2:15~)]

「苛立ちを持て余すように踊ると、歯止めが利かなくなりそうだ」

「僕の頭はもう滅茶苦茶だけど、君の心もぼろぼろにしてしまうだろうね」

「ごめんよ、君を暗闇に置き去って」

「ごめんよ、お別れしなくちゃ、君が僕を愛してしまう前に」


 ロマンチックな悲恋物語って感じで、とても心に響きますね。きっと、主人公と彼の想い人は決して実を結ばない禁断の恋に身を投じ、あるいは何か已むにやまれぬ事情を抱えていることで失恋を確信していたからこそ、両想いとなってしまう前に、主人公の方から一方的に別れを告げたと、そんなストーリーだと想像できます。


 前半のフレーズ"'Cause my wheels are rolling"は、おそらく「車輪(車)」と「歯車(運命)」という2つの意味が。そして"Ain't taking my foot off the gas"にも「アクセルから足を離すことはできない(車は止められない)」と「惰性で付き合い続ける訳にはいかない(加速せず慣性だけで地面を転がるように、だらだら関係を続けてもいつか限界が訪れる)」というダブルミーニングが、比喩的に用いられているのではないでしょうか。うーん、深い。そして切ない……。


 こんなところで、今回は締め括らせて頂きたいと思います。どうでしょう。変幻自在のトラックメーカー・Marshmelloと、エンタテインメント界に生ける伝説・Jonas Brothersの良いところが沢山伝えられたかと思います。これを機に、彼らの音楽を好きになってくれる仲間が現れてくれたらこの上ない幸せです。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はMarshmello, Jonas Brothers - Leave Before You Love Meから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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