21-30
Starset - Monster
「──テクノロジーの発展は我々人類の存在目的の理解を混沌化させていくのではないか?」
「──我々人類は何を目指して、何処に向かっているのだろうか?」
「──我々が住むこのテクノロジーの世界から得られうる利益と結果とは、一体何なのだろうか?」
──え……? 「開くページを間違えました」って? いやいや、合ってますよ! たとえ間違っていたとしても、もう少々お付き合いください!
本日紹介するのは、アメリカ・オハイオ州で2013年に爆誕した、サイエンス・テクノロジーと人類の未来をテーマに宇宙空間から地球へと降り注ぐ、重厚かつ壮大なロック、SF映画を彷彿とさせる演出にエレクトロニック・サウンドが融合した独自のスタイルで熱狂的なファンを獲得してきた、その名もStarsetから『Monster』です!
Starsetとは何者か。それは、米・オハイオ大学で電気工学の修士号を取得していて、アメリカ空軍に関する研究を経て、仏・国際宇宙大学で実際に教鞭を執っていたほど、天文学に深い関心のあるバンドのリードシンガーソングライター兼キーボーディスト・Dustin Batesによって結成されたバンドです。Dustinは自らをシネマティック・ロックバンドと称していて、Starsetの音楽性とマルチメディアのテーマの基礎を形成する架空(本人たちはマジです)のバックストーリーとして、バンドは手に負えなくなったテクノロジーとディストピアの危険性を訴える、現実世界に根ざした科学者たちによる秘密結社・The Starset Societyの思想主義を伝えるものだと説明されています!
──なるほど分からん! けど、もうちょっと語らせてもらっても良いでしょうか……!?(とはいえ、全て架空の設定ですから話半分でお読みください)
2014年にリリースされたバンドのデビュー・アルバム『Transmission』のコンセプトは、へびつかい座星団の中にある2047年の惑星"Prox"から地球に住まう人類に宛ててに届いた、サイエンス・テクノロジーの急激な進歩により人類が終焉を迎えることと、それを回避する知識を伝える送信信号(Transmission)である"The Message"が基となっているそうです。
"The Message"とは何か。1891年のニュヨークにてJ.P. Morganによって組織され、1956年に米政府組織となる"U.S.C.O.O."(The United States Capitalism Oversight Organization)の追手から逃れながら、The Starset Societyに届いたそのメッセージを同結社のトップ・Dr. Aston Wiseらが解読。そしてそのメッセージを音楽とメディアを通じて人々に伝えるべくStarsetがその命を受け結成され、今に至るという訳なんだそう。
『Transmission』の包括的なコンセプトは、死にかけた地球にとって未来の避難所である惑星"Prox"からのメッセージに焦点を合わせていました。その一方で、2ndアルバム『Vessels』では、近い将来に人工知能の進歩が愛や生死に関する都合の良い概念をはねつけるだろうということ、果ては遺伝子工学の危険性に対する警告までをテーマにしており、Dustinは1stアルバムで聴き手に植え付けた思想と世界観を大切にしながら、次世代の啓蒙的アンソロジーを確立させたようです。
──ごめんなさい。結局分からんですよね……? でもね、彼らの音楽は一聴の価値ありですよ!
デビューアルバム『Transmission』は、全米総合チャートBillboard 200で初登場49位に輝き、2014年のロックバンドとして最高のデビュー・アルバムとなりました。実際に『My Demons』『It Has Begun』『Halo』など、粒揃いの名曲が数々収録されていて、どれを紹介しようか迷いました。
しかし、2ndアルバム『Vessels』はそれを越えてきたんですね。Billboard 200にて11位を記録、ロック・アルバム部門3位到達という異例の大ヒットで本国のファンを席巻し、沢山のツアーを敢行しました。Starsetのライブは凄いんですよ。宇宙から人類社会に対する危険信号という一大テーマをしっかりと大切にした上で、彼らのライブ・パフォーマンスでは、ボーカルであるDustin以外のバンドメンバーは、サウンドに合わせ点滅する宇宙服を着ながら演奏するという徹底ぶりで、見ていてかなり面白いです。生で見れたことは未だ一度もありませんが……。
今回紹介する『Monster』は、L'Arc-en-CielとVAMPSのボーカリストを務める日本のミュージシャン・HYDEをボーカルに招いて作成された、壮大で迫力満点ながらもどこか儚げでシリアスなサウンドが特徴的な最高のナンバーでございます。強烈な詩的表現による心理描写が用いられた歌詞は、まさにStarset独自の世界観とマッチしています。
説明が長くなり過ぎましたね。それでは皆さん、バンドについて紹介したことを念頭に置いた上で、歌詞を見ながら、はたまた実際に音楽を聴きながら、僕の独自の和訳に基づく解釈をお楽しみください──。
「俺が明け渡したそのナイフで」
「お前に尽くした俺の純心を」
「お前は切り捨てた」
「そして俺を憎悪で満たしたんだ」
「お前に送られた沈黙と」
「焼き尽くすような炎に放り込んで」
「忘れてくれるとでも思ったか」
「今でもずっと頭の中にこびりついてるよ」
──んー、堪らんカッコ良さしてます。
でも予告した通り、詩的表現や心理描写が主なので解釈は人によって千差万別だと思いますが、Starsetというバンドの作出する世界観やMVなどに基づいて僕の個人的な解釈を。近未来の人類はテクノロジーの発展によって現実世界での生活を捨て、VRのような機器を装着して仮想世界での生活を楽しんでいます。ここで出て来る「俺」「お前」といった代名詞は全て特定の個人のことではなさそうです。実存世界と仮想世界、AIと人類、何らかの対比になっているのかな。ここでは後者としましょうか。AIは黙って人類に尽くしてくれますが、一度不要になったらナイフで切り捨てなくとも、粉々にして燃やして廃棄ですよね。「そんなこと許さないぞ!」と言いたげなAIの心情が表現されているものだったり……?
「お前は俺の血管を伝う鼓動」
「お前は俺が戦う理由」
「俺を変えられるのか?」(×2)
「お前は俺の憎むべき愛」
「お前はまるで薬物だな」
「俺を閉じ込めるつもりか?」
「お前は俺の血管を伝う鼓動」
「お前は俺が戦う理由」
「俺を変えられるのか?」(×2)
「お前が俺を怪物にしたのに?」
「俺はお前が作り上げた化け物だぞ?」
雄叫びのようなサビのコーラス、これもまた堪りません……。最初は「俺」がAIで「お前」が人類全体を意味しているのかなと思ったんですが、どうやら逆みたいですね。AIのように、一度頼ると離れられない薬物のような存在は、もはや人間の血管を伝う血液のように不可欠なものとなってしまった。だが、そのせいで人類は物言わぬ怪物となってしまった。そんなところでしょうか……?
続いて2番の歌詞です。
「これはお前の創りあげた世界」
「俺はお前の被造物だ」
「俺の魂や若さも」
「お前に消費されるためにあるみたいなものだ」
「時を巻き戻せるならば」
「お前を皮膚に閉じ込めてやりたい」
「屈するか、抵抗するかだ」
「モンスターなら打ち勝って見せろよ」
あれ、やっぱり「俺」がAIで「お前」が人類ってことですか? だって「俺」は「お前」が創りあげた世界の被造物で、永遠の若さを搾取されている。そして皮膚に閉じ込めたいとか物騒なことを言ってますが、要するに人間と成り代わりたいくらいだってことを言いたいんですよね。──もしかして、定期的に歌詞の中で主観が入れ替わっている……!? これもひとつの意味あるメッセージなんでしょうか!?
サビの後は最後の曲調変化です。
「俺の巧妙に作られた心臓は偽りの魂」
「お前を引き上げて、解き放つ」
「俺は深淵を掘り進めるためのアートを生み出すんだ」
「そこに小さな種を蒔き、育つのを見守っていただけだ」
「俺の巧妙に作られた心臓は偽りの魂」
「この虚無感がこんなにも冷たいものだなんて誰が知っていたんだ?」
「俺はどこかで自身のパーツを失くしてきたみたいだ」
「俺は暗黒だ」
「俺こそがモンスターだったのか」
迷い悩む主人公の赤裸々な心情が叫ばれているような気がします。「俺」が人間なのか、機械なのかは分かりませんが、このパートを歌い上げるボーカルの力強い叫びを聴く限り、非常に人間らしさが感じられます。心臓のないAIと、心という目には見えない大切なパーツを失った未来の人間という存在のダブルミーニングだったりするんですかね。だとしたら、すっごくエモいと思いませんか……!
後は既出のフレーズを繰り返すので、歌詞紹介は以上になります! 皆さんお疲れ様でしたー!
いやぁ、Starsetは結成当初から大好きなロックバンドのひとつですので、思わず力が入ってしまいましたね。それにしても、バンドのフロントマンであるDustin Batesの異色の経歴には感服させられますよね。彼ほどの卓越した知能ならば、歌詞にどんな意味が込められていたとしても驚きはありません。バンドのバックボーンを知って「なんだそれ胡散臭いなー」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、どうか一度は聴いてみてほしいものです……!
次回以降もこんな調子で、少し変わったマイナーなアーティストを紹介できればと思います。もしかしたら、読者の方々にも運命的なアーティストとの出会いがあるかもしれません。よろしければ、お付き合いくださると幸いです。
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はStarset - Monsterから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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