41-50
Ed Sheeran - Thinking Out Loud
さてさて、本作も遂に第41作目となります! 今回も張り切って洋楽紹介をやっていきたいのですが、何故かここに来てしっくりくるような題材を見つけることができません……。
──え……? お前の引き出しの中身はもう空っぽなのかって?
いいえ違います。その逆なんですよ。頭の中の引き出しに紹介したいアーティストがパンパンに詰まっているせいで、中々引っ張り出すことができなくなってしまいました。語りたいことがあまりにも多いと、何から話して良いのか分からない現象に似ていますね。立て続けに多岐にわたる系統のロックバンドを紹介してきたので、そろそろ他のジャンルの音楽を取り上げたいなーという思いが漠然と脳内を渦巻いてはいるのですが……。
こういう時は気分転換として、ニュースを見るに限ります。アウトプットができないなら、せめてその時間を有効活用するためにインプットするのです。そのようにして得た日常の何気ない気付きが、僕の創作意欲を刺激してくれると信じて!
なーんてことをしているうちに、今回紹介しようと思い立ったのは、英ウェスト・ヨークシャー州出身のシンガーソングライター、21世紀が生んだ稀代の天才・Ed Sheeranの『Thinking Out Loud』です。
──ほー。まずまずのチョイスだな。けど、何故ニュースから着想を得たんだよ。
そう思われた方に、まずは事の次第を説明しなければなりませんね。2014年にリリースされた彼の2ndアルバム『X』に収録されている『Thinking Out Loud』は、本国イギリスにて2010年代における3番目のヒット曲として記録されている伝説的ナンバーで、米・RIAAで自身初のダイアモンド認定を受け、親友・Taylor Swiftの『Blank Space』などを抑え、第58回グラミー賞では年間最優秀楽曲賞を受賞するなど、まさに時代を代表する名曲と言っても何ら過言ではないでしょう……!
しかしながら、当該楽曲は同国出身の人気歌手である故・Marvin Gayeの『Let's Get It On』の共同制作者である故・Ed Townsendの遺族によって、彼の資産管理団体から盗作の嫌疑を掛けられ、両楽曲の間にコード進行やリズムに係る類似点があるとの主張から、2017年に著作権侵害の訴えを提起されていました(奇しくも同年は、Ed Sheeranが晴れて大英帝国勲章第5位を受賞した年でもありました)。Ed Sheeran本人、及び所属レコード会社などに演奏中止や損害賠償などが求められましたが、今般米・ニューヨーク連邦地裁の陪審団は原告の主張を排斥して、盗作による著作権侵害を認めませんでした。
法廷にアコースティック・ギターを持ち込んで自身の楽曲を披露しつつ作曲の経緯を説明するなど、流石は海外というべきか、突拍子もない方法で審議が進んでいったようで、Ed Sheeranは仮に盗作だと認定されて著作権侵害の存在が判断されれば、アーティストとしての活動の場を退くという事実上の引退勧告までしていました。時代の寵児とも呼ぶべき類まれなる才能を持ったアーティストの表現の自由すら奪いかねない当該事件は、果たして天国のMarvin Gayeらが望んでいたことなのかと、甚だ疑問に思わざるを得ません。とにかく、Ed Sheeranが勝訴してくれて良かったと個人的に思います!
『Thinking Out Loud』の制作は、彼が17歳の時に知り合った同郷のシンガーソングライター・Amy Wadgeと共に行われたそう。当時の彼のガールフレンドを想って「永遠の愛」をテーマに、キッチンで深夜2時に書き始められた曲は、僅か20分程度で完成されたとか。YouTube上で35億回再生という天文学的数値を叩き出している公式MVには、Ed Sheeran本人も出演しており、見る者を魅了するダンスを披露しております。
タイムリーな話題とあって、少々前置きが長くなりましたね。一応本作は歌詞紹介が本編という位置付けなので、目的を見失わないうちに和訳へと移って行きましょう! 皆さん、今日もイヤホンなどの準備は出来ていますか……?
[Verse1(0:01~)]
「君の両足がいつか思うように動かなくなった時」
「僕が君を支えてあげられなくなっても」
「君の唇は僕の愛情の味を覚えていてくれるのかな?」
「君の双眸はまた笑い掛けてくれるのかな?」
[Pre-Chorus(0:23~)]
「ダーリン、70歳になったって変わらず君を愛し続けるよ」
「ベイビー、僕の心は23歳だったあの時のまま恋に落ちてる」
「ふと考えるんだ」
「人々が恋に落ちる魔法について」
「もしかしたら手が触れただけで」
「僕は日を追う毎に君に夢中になっていく」
「君に伝えたいんだ、僕は」
[Chorus(1:10~)]
「だから今こそ、ハニー」
「愛しい君の腕の中に僕を閉じ込めてくれ」
「満天の星空の下でキスをしてくれ」
「頭を押し当てて僕の鼓動を聞いてみてほしい」
「心の声が漏れてるみたいだ」
「まさにここで僕らは愛を掴んだんだね」
──あまーーーい! 思わずそう叫びたくなるような、ゆったりとしたギターサウンドに「永遠の愛」を語る甘美な歌詞の響き、僕が連載している長編小説にて主人公の恋模様を描写する際には、インスピレーションを得るため『Thinking Out Loud』には、いつもお世話になっております。
直情的に有りっ丈の愛を囁くこの歌詞に、僕の拙い考察を添えるのは
まず、冒頭に登場した"I can’t sweep off of your feet(僕が君を支えてあげられなくなっても)"ですが、これは直訳すると「足払いする」となり、「(足元がおぼつかなくなるほど)相手を夢中にさせる」という意味が込められたイディオムです。とはいえ、最初のフレーズが「君が両足で立てなくなるほど衰弱した時」を意味しているので、それに続く言葉は「君を支えられないほどに僕も衰弱してしまった時」、つまり登場人物の2人が老衰によって身体が動かなくなった将来に想いを馳せているのでしょう。「僕は70歳になっても愛しているけど、君はどうなの?」と互いの愛を確かめるように囁く歌詞のワードセンスに、日本人ながら脱帽です。
そして当該楽曲の題名ともなっている"I'm thinking out loud"は、「心の声が漏れている」と訳しました。手と手の触れ合いやキスの1つ、はたまた相手の心臓の鼓動から、言葉には出していないはずの内心で考えていることも相手にバレてしまう。そんな2人の関係性を端的に表したロマンチックな一文で、何とも素敵ですね……!
[Verse2(1:44~)]
「僕の髪が抜け落ちて記憶もぼやけ出した時」
「人々が僕の名前を忘れていく中で」
「僕の両手が今と同じようにギターを奏でられなくなったとして」
「君は変わらず愛してくれるって分かってるよ」
[Pre-Chorus(2:06~)]
「だってさ、ハニー、君の魂は永遠に年を取らない、瑞々しさを保ったままだ」
「ベイビー、君の笑顔は僕の心と記憶に永遠に刻まれてるよ」
「ふと考えるんだ」
「人々が恋に落ちる魔法について」
「意外と打算的だったりして」
「僕は似たような間違いばかりだけれど」
「いつか君にも理解してもらえるって願ってるんだ」
[Chorus(2:54~)]
「だけど今こそ、ベイビー」
「愛しい君の腕の中に僕を閉じ込めてくれ」
「満天の星空の下でキスをしてくれ」
「頭を押し当てて僕の鼓動を聞いてみてほしい」
「心の声が漏れてるみたいだ」
「まさにここで僕らは愛を掴んだんだね」
[Chorus(3:49~)]
繰り返し
今まで多くのラブソングを紹介してきましたが、ここまで純粋に歌詞中の登場人物が相思相愛の楽曲は珍しいですね。一切の虚構を交えず、理想的な愛を思いのままに歌ったこの音楽が2015年の覇権を握った理由が何となく分かります。当該楽曲は欧州各国をはじめ、非常に多くの国のシングルチャートで1位を独占しました。──そう、たった1つ、US Billboardを除いて……!
はい、今回の歌詞紹介もこれにて終了であると共に、唐突な次回予告です。久しぶりのヒント付き予告ですが、名実共に年間最優秀楽曲となった『Thinking Out Loud』は、アメリカのチャートでは惜しくも8週連続2位となっていました。次回は、各国のチャート1位を総嘗めにしたEd SheeranからUS1位の座を簒奪した大人気シンガーから1曲、ご紹介致しましょう!
それでは……!
†††
※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はEd Sheeran - Thinking Out Loudから引用しております。
※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。
※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。
※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。
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