51-60

Train - 50 Ways to Say Goodbye

 特別編を経て第51回──今回は予告通り、アメリカ・カリフォルニア州発のルーツ・ロックバンドであるTrainから『50 Ways to Say Goodbye』を紹介して行きたいと思いますー!


 Trainは、ペンシルベニア州にてLed Zeppelinのカバーバンド──Rogues Galleryで活動していたPat Monahanがバンドの解散を契機にカリフォルニア州へと再移住して、コーヒーハウスや地元のクラブで細々と演奏活動をしていた名門・バークリー音楽大学の卒業生・Rob Hotchkissと邂逅を果たしたことをきっかけに、1993年より発足します。2人は共にボーカルを担当する傍ら、Robはギターやハーモニカ、Patはキックドラムペダルを取り付けるなどの改造を加えたキューバ発祥の打楽器・コンガなどのパーカッションで、早い段階から独自のスタイルを確立しました!


 後にフルバンドを結成することに決めた彼らは、LAを拠点として活動しており、かつてRobも参加していたバンド──The Apostles(イギリスのパンク・ロックバンドとは別です)からギタリスト・Jimmy Staffordを、ベースにCharlie Colin、ドラムスにScott Underwoodを招聘しょうへいして、1994年にオリジナルメンバーが出揃います。


 バンドはColumbiaを始めとする主要レコード会社との契約を拒否されるなど苦境に立たされるものの、大御所バンドの前座を務めるなどして徐々に名声を得る中で、1998年に満を持してリリースされたセルフタイトルのデビューアルバム『Train』でメインストリームにおける成功を収め、後にプラチナ認定を受けます。


 バンドの人気は昇竜の勢いで軌道に乗り、2001年の2ndアルバム『Drops of Jupiter』は、Pearl JamやBob Dylanとのコラボレーションでも知られるプロデューサー・Brendan O' Brienによる後押しを受けたこともあり、成功は確約されていたも同然でした。現にTrainは、同アルバムのリードシングル『Drops of Jupiter (Tell Me)』で来たる翌年のグラミー賞にて2冠を達成……! アルバムはダブルプラチナに認定され、Trainは絶頂期を迎えました!


 2003年、立て続けにリリースされた3rdアルバム『My Private Nation』からも『Calling All Angels』を筆頭に数々のヒットが生まれ、Trainはバンド発足以降3作連続のプラチナ認定を受け、米国屈指のロックバンドとしてその地位を確固たるものに──しかし、この時既に盟主・Rob Hotchkissは音楽性の違いを理由に喧嘩別れのような形でバンドを去っており、ベーシストのCharlie Colinも薬物乱用により脱退を余儀なくされました……。


 オリジナルメンバーの抜けた穴は大きく、Brandon BushとJohnny Coltを招いて挑んだ2006年の4thアルバム『For Me, It's You』は、批評家から一定の支持を受けたものの、商業的には失敗に終わっています。これをきっかけとして、Trainは2008年までの活動休止を決断しました。


 「2年後に、シャ〇ン〇ィ諸島で!」的なノリでパワーアップして帰ってきたTrainは、2010年『Save Me, San Francisco』から『Hey, Soul Sister』『If It's Love』『Marry Me』など、2012年『California 37』から『Drive By』といったヒット曲を連発して一世を風靡──鮮烈なカムバックを果たしたという訳ですね。以後は紆余曲折をを経て、現在はリードボーカリストのPat Monahanを筆頭に、ギタリスト・Taylor Locke、ベーシスト・Hector Maldonado、キーボディスト・Jerry Becker、ドラマー・Matt Mustyに加え、バックボーカルSakai SmithとNikita Houstonの計7人体制です……!


 Trainも僕の大好きなバンドのひとつなので、話の止め時が分からなくなってしまいます(笑)。いい加減に話題を楽曲の方へとフォーカスしましょう。今回紹介する『50 Ways to Say Goodbye』は、上述の6thアルバム『California 37』のセカンドシングルです。思えば本作も50回の「さようなら」を繰り返してきた訳なので、奇しくも御誂え向きな選曲となりましたね。いやいや、全く狙ってなどいませんよ。今回お届けするテーマは前回の執筆終了時点で僕のプレイリストからランダムに流れていた楽曲になるとお伝えした通り、本当に偶然です。


 どうでも良いですけど『50 Ways to Say Goodbye』を直訳すると「さようならを言う50の方法」ですか。何だかラブコメ作品のタイトルにありそうなタイトルですよね(笑)。当該楽曲についてPat Monahanは「未熟な若者だった男の子が女の子に振られるという物語で、そのことを受け入れるための唯一の方法として『彼女は死んだんだ』と友人に稚拙な冗談を言うんだ」と語っており、何とまたしても失恋ソングであるようです。ここ最近、偶然にも恋愛ソングばかりをテーマとしてきておりますが、中でも失恋ものを取り上げることが多くなってきましたね。でも、今回ばかりは無作為による選曲ですので、あしからず……。


 それでは、大変長らくお待たせ致しました。異国情緒漂うC&Wの波動を存分に感じることのできる朗らかなメロディーで紡がれる皮肉の効いた面白おかしな歌詞と共に、新感覚の失恋ソングをご堪能ください……!


[Verse1(0:14~)]

「僕の心は麻痺してしまったんだ」

「頭の中はパンク寸前」

「これが僕の辿るべき正しい道だと信じて」

「君も言ってたよね『こうなる運命だ』」

「『貴方のせいじゃない、私が悪いの』って」

「君は僕の幸せのためだとかこつけて今にも去って行ってしまうんだ」


[Pre-Chorus(0:41~)]

「別にいいさ、でも僕の友達が君について尋ねてきたらこう答えるしかない」


[Chorus(0:44~)]

「あの子は飛行機事故に巻き込まれたよ」

「日焼けのし過ぎで焦げちゃったんだよ」

「満杯のセメントミキサーに落っこちたんだよって」

「助けて、助けてよ」

「さようならは苦手なんだ」

「あの子は海中でサメに遭遇して」

「引き摺り込まれていく彼女を助けてくれる人は居なかったんだ」

「あの子に買い与えてきたものは全て取り返してやったけどね」

「もうたくさんだよ」

「嘘を吐くにもとっくにネタ切れなんだ」

「君が死んだことにするための口実すら」


 なんだか、ストーリーとして非常に面白いんですよね。失恋の傷に耐えられない主人公が、おそらく何も事情を知らない友人から「あれ、カノジョとはどうなったんだよ」と何食わぬ顔で尋ねられた時に出て来た言葉が「あの子は飛行機で墜落して~」とか「サメに食われて~」とか(笑)。そんな苦し紛れの言い訳を並べ立てて、呆気なくフラれてしまった自分の甲斐性のなさを誤魔化すように、これ以上傷付きたくないと必死に体裁を取り繕おうとしている様子が目に浮かぶようです。この曲をテーマに小説が一本書けそうな気がしてきます。その際のタイトルは、やはり「さようならを言う50の方法」でしょうか。


 Patは当該楽曲の歌詞について「面目を保つために、彼女が自分を振ったことを認める代わりに、突飛な方法でガールフレンドが死んだことを主張するという皮肉な物語」と言っているので、僕の翻訳は間違っていないようです。また、既にタイトルからピンときている方も居るかもしれませんが、この曲は同国のシンガーソングライター・Paul Simonの『50 Ways to Leave Your Lover』から着想を得ているようで、題の原案は『50 Ways to Kill Your Lover』だったようですが、倫理的に危ないという理由で採用されなかったようです。──僕は良いと思うんですけどね……。主人公の苦悩と現実的な人間関係を皮肉っている感じがして。では、もし僕がこの楽曲からインスピレーションを得てラブコメ作品を書き上げる際のタイトルは「キミを殺す50の方法」にしましょうかね(笑)。


[Verse2(1:26~)]

「僕のプライドは傷つけられた」

「君は僕の全てだったのに」

「いつか君と同じくらい愛せる人を見つけてみせるさ」

「僕をスーパーマンのように思ってくれる子を」

「都合の良いミニバンなんかじゃなく」

「選りによって贖罪の日(Yom Kippur)に僕を置いていくなんて」


[Pre-Chorus(1:53~)]

繰り返し


[Chorus(1:56~)]

「あの子は土砂崩れに巻き込まれたんだ」

「ライオンに喰われちゃったんだ」

「ダサい紫のScion(トヨタの自動車)に轢かれたんだ」

「助けて、助けてよ」

「さようならは苦手なんだ」

「あの子は砂漠で干乾びたんだよ」

「浴槽で溺れたんだよ」

「イーストサイドのナイトクラブで死ぬまで踊り狂ったんだよ」

「もうたくさんだよ」

「嘘を吐くにもとっくにネタ切れなんだ」

「君が死んだことにするための口実すら」


[Bridge(2:38~)]

「君と千回だって人生を繰り返したい」

「君が一生を預けるのに相応しい人になりたい」

「でもそう望むのは僕だけなんだ」


[Pre-Chorus(2:51~)]

繰り返し


[Chorus(2:58~)]

繰り返し


 恋人に捨てられたという現実に向き合うのではなく、敢えて道化を演じることによって心に負った深い傷をひた隠すように振舞う主人公のリアリティある苦悩が描かれた、ユニークでエッジの利いた素敵な曲でしたね! 後半に向かって行くにつれ段々と言い訳が苦しくなっていくのも、面白いなと感じました(笑)。


 ただ1つだけ、いちゃもんを付けるとしたら『50 Ways to Say Goodbye』と銘打っているのに実際の歌詞中に登場する主人公の言い訳は10個しかないということですね──本当にどうでも良いですが(笑)。


 今回もお付き合い頂きありがとうございました。次回予告は特にありませんので、一体何のアーティストが登場するのか、期待に胸を膨らませてお待ちくだされば幸いです!


 それでは……!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はTrain - 50 Ways to Say Goodbyeから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る