Shawn Mendes, Camila Cabello - Señorita

 師走の訪れ、ゆっくりと空気が冷たくなってきたと感じるこの季節。手足に末端冷え性を抱えている僕にとっては、長時間にわたってPCのキーボードを叩く作業も辛くなってきてしまいました……。それでも、PC作業は日常生活において避けて通れないので、泣き言を垂れている場合ではありません。こんな時は音楽の助けを借りつつ、せめて心だけでも温まりたいところ。


 白くなった吐息を両手に吹きかけながら、今回の題材に選んだのは、前回(第88回)JP SaxeとJulia Michaelsの馴れ初めを語った際に名前を挙げた、カナダ・オンタリオ州都のトロントで生まれた甘いマスクの男性シンガー・Shawn Mendesによる、2012~16年までアメリカのガールグループであるFifth Harmonyの一員として、その後はソロアーティストとして活躍の場を広げるキューバの首都・ハバナ出身の女性シンガー・Camila Cabelloとの二度目のコラボ曲『Señorita』です!


 イギリス人の母とポルトガル人の父の間に誕生したShawn Mendesは、学生時代にサッカーとアイスホッケーに打ち込む傍ら、舞台俳優を夢見て演劇の練習に明け暮れる多彩な才能の持ち主でした。ところが、彼にとって最も魅力的だったのは他ならぬアーティストとしての道だったようです。2012年、当時13歳だった彼はYouTubeのチュートリアル動画を見てギターを覚え、それから一年も経たないうちに今度は自身がYouTubeへとカバー動画を投稿するように。ブレイクのきっかけとなったのは、これまた同郷のポップスター・Justin Bieberの『As Long as You Love Me』のカバーを披露したことでした。


 ジャマイカ発の多国籍レーベル・Island Recordsに射止められた2014年、シングル『Life of the Party』で鮮烈なデビューを飾ると、これが全米Billboard Hot 100にて最高24位に到達しますが、これは当該チャートにおいてデビュー曲が25位以内にランクインした最年少記録でした。また翌年には、その『Life of the Party』を収録した自身初のフルアルバム『Handwritten』をリリースすると、何とこれが初週10万枚の大台を突破する売上げを記録してプラチナ認定。Billboard 200でも初登場首位に躍り出ると、これは先輩アーティストであるJustin Bieberが大成功を収めたデビュー作『My World 2.0』以来となる、最年少記録を塗り替える偉業に……!


 まさに順風満帆、米・TIME誌が発表した「2014年の最も影響力のあるティーン25選」にも名を連ね、飛ぶ鳥を落とす勢いで次世代のソーシャルアイコンとしての地位を確立したShawn Mendesと、当時アメリカ・マイアミを中心地にポップシーンを席巻していた五人組ガールグループ──Fifth HarmonyのメンバーだったCamila Cabelloの出会いは2015年、コラボシングル『I Know What You Did Last Summer』がきっかけでした。


 メキシコ人の父の影響で、幼い頃から出生地のキューバ・ハバナと父の故郷であるメキシコシティを行き来していたCamilaは6歳の時、メキシコから国境を越えてアメリカ・フロリダに移り住みます。アメリカの市民権を取得し、現地の高校に通っていた彼女ですが、歌手としてのキャリアを追求するために中退しました。


 Camilaに高校中退という道を決断させたのは、Olly Murs(第85回参照)のブレイクのきっかけとしても知られる、お馴染み『The X Factor』のオーディションを受けたことが始まりでした。アメリカで名を馳せた「ソウルの女王」として呼び声高いAretha Franklinの『Respect』を披露しますが、同番組が当該楽曲の権利を取得していなかったという珍事によりCamilaのオーディションが実際に放送されることはなかったものの、当時個別に番組へ出場していたAlly Brooke, Dinah Jane, Lauren Jauregui, Normani Kordeiと共に、審査員として参加していたDemi Lovato(第85回参照)や番組の企画者であるSimon Cowellらの協力によりグループが結成──何度かの改名を経て、最終的に一般公募によりFifth Harmonyと命名されました!


 Fifth Harmonyの一員として、ラテン系の出自を生かしたエキゾチックなソプラノボイスで全米を虜にしたCamilaは、2015年に行われたTaylor SwiftのThe 1989 World Tourにサプライズゲストとして参加していましたが、当時、このツアーでオープニングアクトを務めていたのがShawn Mendesです。初対面だったにもかかわらず、二人は余程波長が合っていたのか、騒然とした楽屋の中で僅かな時間ジャムセッションに興じただけで、いつの間にか出来上がっていたというのが先述の『I Know What You Did Last Summer』だそう。僕の感覚が普通だったら、Taylor Swiftほどの大御所の晴れ舞台を彩る演者として過ごす待機時間なんて、緊張と不安で五臓六腑が爆発四散しそうになると思うのですが、あろうことかその舞台袖で初対面の異性と即興で音楽製作だなんて……。メンタリティとコミュ力がハンパないです(笑)。


 若き才能の融合は当たり前のように衆目を惹き集め、言うまでもなくシングルは大ヒット。順当に名声を獲得していたCamilaもまたShawnの後を追うように最高のキャリアを歩み続け、米・TIME誌による「2016年の最も影響力のあるティーン25選」に今度はCamilaの名が刻まれます。絶頂の時を迎えた2016年、彼女は単身Fifth Harmonyを脱退することになるのですが、ここでちょっとした一悶着が……。でも、それはまた別の機会にお話しすることに致しましょう。


 そして、来たる2019年6月、再開したShawnとCamilaが二度目のコラボ曲として発表したのが今回の『Señorita』なのです。前回取り上げたJP SaxeとJulia Michaelsの関係性という文脈で既にお察しか、あるいはご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、当該楽曲がリリースされた翌7月、二人は交際をスタートさせたことを発表しています……!


 というのも、当初より『I Know What You Did Last Summer』でのコラボを機に、ShawnとCamila両名の熱愛は実しやかに噂されていました。にもかかわらず、いざ二人が交際を認めるや否や、その関係を温かく見守っていたファンも居た一方で、その関係は売名行為の一環ではないかと邪推する的外れな意見も少なくなかったのです。しかし、8月に開催された世界最大級の音楽イベント・MTV Video Music Awardsにてカップルとして出席して『Señorita』を披露すれば、その後もSNSを通じて仲睦まじい様子をアピールし、コロナ禍においても長い隔離生活を共に過ごすなど、心無い批判の声など何処吹く風と言わんばかり。


 そんな二人が、まさに幸せの絶頂を迎えていた時期に作られた楽曲であるという背景も相俟って、この『Señorita』は2023年4月の時点で、Spotify上で最もストリーミングされた楽曲の12番目に位置しています。また批評家からの評価も高く、アメリカ含む、世界40か国のチャートで首位を独占すると、2020年第62回グラミー賞の最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞にノミネート。その年を代表するラテンポップとして、今なお人気の高い作品です!


 ちなみに、楽曲の題にもなっている"Señorita"という単語は、スペイン語で未婚女性への呼びかけとして使われる言葉。イスパノアメリカ圏内の国なのでスペイン語が公用語として扱われるキューバ生まれのCamilaは、コロナ禍での自粛生活中、Shawnからギターを教わる代わりに彼へスペイン語を教えていたそう。となれば、これは愛しの彼女からスペイン語を学んだShawnからCamilaへ宛てた、愛の囁きのような意味合いが含まれていそうですね……。


 さて今回は、そんな両者の関係性にも注目しながら、歌詞の内容を見ていくことに致しましょう──。


[Chorus: Camila Cabello(0:14~)]

「貴方が『お嬢さん』って呼んでくれる瞬間がたまらないの」

「貴方なんて要らないってフリができれば良いのだけれど」

「でも幾度と触れられるたびにもう……」

「本当に、もう……」

「ああ、走り去るべきなんでしょうね」

「なのに、貴方が私を惹きつけてやまないの」


[Verse 1: Shawn Mendes(0:32~)]

「マイアミの地にて」

「夏場の雨に蒸し温められた空気のせいで」

「じっとりと汗が滴る」

「彼女の名前を知るよりも前から、もう……」

「とっくに感じていたこの気持ちは、ああ」

「サファイアのような月明かり」

「何時間も砂浜の上を踊り狂った僕らは」

「テキーラサンライズを一口、彼女の身体が僕の両手に収まって、もう……」

「この気持ちは、ああ」


[Chorus: Camila Cabello & Shawn Mendes(1:04~)]

「貴方が『お嬢さん』って呼んでくれる瞬間がたまらないの」

「貴方なんて要らないってフリができれば良いのだけれど」

「でも幾度と触れられるたびにもう……」

「本当に、もう……」

「ああ、走り去るべきなんでしょうね」

「ねえ分かるでしょ、貴方が『お嬢さん』って呼んでくれる瞬間が大好きなの」

「簡単に貴方のもとを去れたら良いのだけれど」

「でも幾度と触れられるたびにもう……」

「本当に、もう……」

「ああ、走り去るべきなんでしょうね」

「なのに、貴方が私を惹きつけてやまないのよ」


 素晴らしい──その一言に尽きますね。刹那的に愛し合う男女のアツい気持ちがじんわりと伝わってきます……。


 既にお分かりかもしれませんが、当該楽曲の歌詞中にはShawn MendesがCamila Cabelloを想って書いたのであろうフレーズが散見されます。例えば「マイアミの地」というのは、先述した通りフロリダ州に移住してからFifth Harmonyのメンバーとして活躍していたCamilaにとって、第二の故郷とも呼ぶべき場所。そこで運命的な出会いを果たした二人は、テキーラサンライズを片手に身を寄せ合うと。


 テキーラサンライズといえば、メキシコで誕生したカクテルとして知られ、渡米以前の幼少期を父の故郷であるメキシコで過ごしたCamilaにとっても所縁のある酒。英・The Rolling Stonesのボーカリスト・MickことMichael Philip Jaggerが1972年のコンサートツアーでメキシコへ赴いた際、偶然訪れた地元のバーで飲んだテキーラサンライズに一目(一飲?)惚れしたことがきっかけで広まったカクテルとしての逸話もありますから、Shawn MendesがCamilaへ遠回しに溺愛のメッセージを贈ったものだと解釈するのは、飛躍し過ぎという訳でもないかも……?


[Verse 2: Camila Cabello & Shawn Mendes(1:38~)]

「ホテルの一室にて」

「決して変わらないものもいくつかあるわ」

「貴方は私たちをただの友達だって言うけど」

「友達なら貴方の味わい方を知らないはずでしょ……」

「だってずっと待ち遠しかったのよ」

「離さないでよね」

「ああ、貴方の唇に脱がされては、貴方の舌に夢中になるの」

「ああ、愛してる、貴方のキスに溺れそう、でも止めないで」


[Chorus: Camila Cabello & Shawn Mendes(2:01~)]

繰り返し


[Outro: Shawn Mendes & Camila Cabello(2:37~)]

「始めから、ずっと貴方を追い求めてきたの」

「それが貴方との運命だと願って」

「私の名前を呼んで、貴方のもとへ駆けつけるから」

「駆けつけるから」

「貴方のもとへ」

「貴方のもとへ(ああ、彼女は僕の呼ぶ声が好きなんだ)」

「貴方のもとへ」

「ああ、走り去るべきなんでしょうね」

「なのに、貴方が私を惹きつけてやまないのよ」


 Camila視点で歌われた「貴方は私たちをただの友達だって言うけど」というフレーズもまた、二人の関係を良く知るファンとしては感慨深いものがありますね!


 というのも、最初のコラボ曲『I Know What You Did Last Summer』が発表されてから、何とかしての熱愛の証拠を掴むべく、言質を取ろうと躍起になっていたメディアから連日にわたって質問攻めに晒されていたShawnとCamilaは、互いのプライベートを尊重するあまり、恋愛関係を否定する代わりに「友達同士」だと言い張っていた過去があるからです。それが公に関係性を認め、逃げ隠れすることもなく堂々と愛し合える瞬間をずっと待ち遠しく感じていた。Shawn視点で歌われたヴァースへのアンサーとも言うべき歌詞ではないでしょうか……!?


 なんて、純粋無垢な若者の恋路にときめいた心に冷水をぶっかけるようで恐縮ですが、前回同様、2021年に両者はSNS上に破局を公表する共同声明を投稿。テキーラサンライズのように甘くうっとりするような関係性も、酔いが醒めていくが如く、立ち消えになってしまったのです。しかしその後、アメリカを代表する野外音楽フェスCoachella Festivalにて人目を憚らずイチャついている様子をパパラッチに激写され、度々デートシーンが目撃されていたことから復縁が確定的となっていましたが、どうやら今年4月までに再破局へ至ったそう。付かず離れずの腐れ縁にはならないでほしいところですね……。


 後味のよろしくない締め方で毎度恐縮ですが、今回はこれにておしまいとなります。お付き合いくださいまして、誠にありがとうございます!


 いやあ、最近は定期的な更新ペースを維持することもできず、大変申し訳ありません。また、大変有難いことに、拙作までリクエストを寄せてくださった方もいらっしゃいますので何とか筆を遅らせないよう頑張って取り組んで参りますが、次回、次々回の題材は既に決まっておりますので少々お時間を頂戴することになるかと思います。ですので、まったりと気長にお待ちくだされば幸いです。よろしくお願いします。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はShawn Mendes, Camila Cabello - Señoritaから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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