Gorillaz - Feel Good Inc.

 前夜祭含め、4泊5日にもわたるFUJI ROCK FESTIVAL '23遠征を終えて参りました。読者の皆様、大変長らくお待たせ致しまして、申し訳ございません……!


 いやはや、今回は初日から凄まじいラインナップでした。RATMに通ずるヘヴィなサウンドとメッセージ、そして迫力あるパフォーマンスで聴衆のテンションを一気にぶち上げたFEVER 333に始まり、ジャジーでクールなブラック・ミュージックを主軸として壮大な世界観を作り上げ、観客を虜にしたキーボードマスター・Cory Henryに魅了され、The White Stripesに立ち並びガレージロック・リバイバルの旗手として2000年代におけるロックシーンの最前線をひた走り、後続のロックバンドに多大なる影響を与え続けてきたThe Strokesなどなど──。


 2日目の目玉は何と言っても、享年50歳のドラマー・Taylor Hawkinsの古巣でもあるAlanis Morissetteと、Foo Fightersの同時出演でした。それぞれが自らの晴れ舞台にて、偉大なるミュージシャンであるTaylorへの追悼の意を表するトリビュートを用意していた訳ですが、何と両者はステージ上にて、長年にわたるメンタル面の問題により56歳という若さで7月26日にこの世を去ったアイルランド出身の歌手・Sinead O’Connorによるシングル『Mandinka』のライブカバーを披露するというサプライズを見せてくれました。Taylor同様に、無念にも天寿を全うすることなく逝去してしまった異才に対し、思うところも多かったかと心中察するに余りあります。しかしながら、そんな悲しみに暮れるばかりではなく、"For Fuji"の掛け声と共に明るくユーモラスにバンドの新顔を紹介し、今後ますますの活躍の期待を感じさせてくれたDave及びFoo Fightersの面々による偉人らへのリスペクト、確と見届けさせて頂きました!


 3日目の個人的MVPは絶対的にFKJですね。詰めかけた大勢の聴衆の目前にて度重なるアクシデントにも見舞われましたが、キーボードを始め、ギター、ベース、サックスなどの多種多様な楽器を担いでは意のままに美しいメロディーを奏で、見るもの全てを感動の渦に巻き込んだ圧巻のパフォーマンスは、絶え間なく進化し続ける現代ジャズ・シーンの豊かな土壌に新緑の息吹を呼び込んでくれたような気がします……!


 ──ただひとつだけ、注文をつけさせてください。今回のタイムテーブルは意地悪が過ぎると!


 FFの裏にCory Wongを被せ、Lizzoの後半からWeezerだなんて。こんなの、どちらかを選べという方が酷です。とはいえ、換言すれば今年はそれだけラインナップが豪華だったということですから、良い傾向かもしれません。コロナに揺れた音楽フェス業界も、すっかり完全復活の兆しが見えてきたかなと感じています。皆様はこの夏、如何お過ごしですか……?


 おっと、このままでは第66回目が夏フェス参戦レポートで全て埋め尽くされてしまいますね。語りたいことは山ほどありますが、以上のお話の続きは、需要がありそうならまた別の機会にでも。そろそろ本題に移らなくてはなりませんからね。


 さて、そんなこんなで改めまして、お久しぶりです。今回の題材は、以前も紹介したイギリスを代表するロックバンド・BlurのフロントマンであるDamon Albarnが、同国のコミッククリエーターであるJamie Christopher Hewlettと共に主宰するバーチャル・バンド──Gorillazから『Feel Good Inc.』でございますー。


 Blurは1990年代のイギリスにて、Oasisと双璧を成したブリットポップ・ムーブメントの立役者であり、言わずと知れたロックバンド。SUMMER SONIC 2023のヘッドライナーとして、2003年以来20年ぶりの出演が決まっているなど、注目度も高いです。そんな大御所バンドのフロントマンであるDamonとJamieはBlur結成初期の1990年、Jamieの作品のファンだったギタリスト・Graham Coxonが彼にインタビューの依頼をしたことがきっかけで知り合います。


 ですが、JamieはDamonに対する第一印象について「感じ悪くて嫌なヤツ」だったと語っており、両者の関係性は冷え込んでいました。にもかかわらず、何故か1997年より2人はロンドン内のアパートで共同生活を始めます。本当に謎です(笑)。


 Gorillaz結成の意向が固められたのは、まさにこの時期でした。米音楽専門チャンネル・MTVが放送するポップ・ミュージックの現状に失望し、量産的なボーイズバンドの台頭に危機感を抱いたDamonが発起人となり、1998年に『Ghost Train』をレコーディング。また、Gorillaz名義ではリリースされていないものの、Damonにより実質的なデビュー作だと位置づけられているのはBlurの1997年のシングル『On Your Own』だそうです。いずれにせよ、ここからGorillazは本格的に活動を展開していきます……!


 Gorillazにて、Damonはヒップホップ、ダブ、ラテン・ミュージックなど、Blurとしては探求し得なかったジャンルに触手を伸ばし始めます。そうして2001年にリリースされたセルフタイトルのデビュー・アルバム『Gorillaz』は、先行リリースされていたシングル『Tomorrow Comes Today』を始め『Clint Eastwood』や『Rock the House』『19-2000』が大ヒットを記録──UKアルバム・チャートでは初登場3位、US Billboard 200では初登場14位という上々の滑り出しとなりました。また、各シングルにはJamieが監督し、バーチャル・メンバーが出演したMVが制作されています。


 そもそも、Gorillazを構成するバーチャル・メンバーとやらは、一体何であるのか。音楽の制作や実際の歌声はDamonによるものではないのかといった皆様の疑問にも、ここでお答えしておきましょう。


 バンドのリードボーカルを務めているのは、青髪が特徴的なStuart Harold Tusspotこと2-Dです。彼こそがDamonの歌声と魂が吹き込まれたバンドの顔とも呼ぶべき存在です。1998年、2-Dが19歳の時、叔父の経営する楽器店で働いていた際に強盗に入られ、車に跳ね飛ばされたことで昏睡状態に。左目を損傷してしまいます。しかし、程なくして再び交通事故に見舞われ、右目を損傷。これにより、不幸中の幸いにも2-Dは植物状態から回復します。彼の名は頭に2つの窪み("2 dents")ができたことに由来するそう。本当に可愛そう……。


 なんと、これらの2-Dが受けた壮絶な不幸体験は全て同一人物による犯行でした。そう、ベース担当・Murdoc Niccalsです。新約聖書におけるヨハネの黙示録よろしく、誕生日は1966年6月6日で、根っからの悪魔崇拝者である彼は潰れた鼻が特徴的ですが、それは幼少期から壮絶な虐待を受けてきたことに由来するそうで、それが彼の人格形成に大きな影響を与えてしまったと考えられています。ギャングと結託して盗んだ車で2-Dの働く店に押し入り、彼を昏睡状態にしたMurdocはすぐに逮捕され、30,000時間の社会奉仕活動と、昏睡状態の2-Dを週10時間介護するよう言い渡されます。しかし、反省の色を見せない彼は危険運転により再び2-Dに怪我を負わせますが、これがきっかけで音楽の才に目覚めた2-Dをスカウトし、Gorillaz発足となります。


 続いてはバンドの紅一点、リードギター兼キーボードを担当する日本人メンバー・Noodleです。一部の楽曲ではボーカルを担当することもあり、その際は米・ニューヨークを拠点とするロックバンド・Cibo Mattoの羽鳥美保が声を当てています。その他インタビューなどの場面では、英・ロンドンで活躍する女優・黒田はるか(ツアーでは演奏も担当)、2018年以降は練馬区出身でClean Banditの名曲『Rather Be』のMVにも出演していた女優・安部春香が担当しています。年月が経つにつれて見た目の変化が顕著に現れるのが特徴で、名前の由来は、当時話せる英語がほとんどなく、唯一喋れたのが"noodle"であったためだとか。色々と興味深い裏設定もあり、DamonとJamieのお気に入りのキャラクターだそうなので、気になる方は是非ご自身の手で深掘りしてみてくださいな。


 主要メンバー最後のひとりはニューヨーク出身のアメリカ人ドラマー・Russel Hobbsです。なにやら霊的に憑かれやすい体質だそうで、悪魔に憑依されて暴れ狂ったことが原因で学校を退学となり、数年間の昏睡状態となるも悪魔祓いによって意識を取り戻します。復学後は気ままに青春を謳歌しますが、ある雨の日にコンビニの前でたむろしていると、突然にギャングの銃撃を受け、Russelを除く友人らは全員死んでしまいます。あまりの惨劇に気絶してしまったRusselですが、幽霊となった友人らに憑依されたことでドラムテクニックを習得。その後、両親に安住の地を求めるよう勧められたことで渡英──レコード店で働いていたところをMurdocに発掘され、Gorillazのメンバーとなります。


 ここまで紹介してきたバンドの主要メンバーの設定は、実はごくごく一部です! しかも、この他にも個性に富んだキャラクターが新作ごとに登場していて、そのこだわりぬかれた世界観は唯一無二。架空の登場人物にもかかわらず、彼らの生い立ちや性格など、それら全てが詳細に描かれているのみならず、音楽も素晴らしい。Gorillazの作品はもはや、音楽の垣根すら越えているのかもしれません。


 では、実際に聴衆の前で演奏せざるを得ないライブやツアーなどの場面で、Gorillazはどうしているのかという当然の疑問が浮かびますね。とはいえ、見たことがある方にとっては説明不要かもしれませんが、活動初期はDamonを中心としたツアーバンドが、キャラクター・ビジュアルが投影された巨大スクリーンの後ろで完全に隠れた状態で演奏していました。また、バーチャル・バンドメンバーの声優も一部の公演に参加し、架空のバンドがステージにいるような印象を与えるなど、様々な工夫が成されていたそうですが、現在はバーチャル・バンドという体裁を守りつつも、比較的柔軟なやり方が模索されているようで、回を重ねる毎に観客をあっと驚かせるような進化を遂げています。


 話が大きく脱線しました……。本題ですが、今回は2005年にリリースされた2ndアルバム『Demon Days』に収録されたリードシングル『Feel Good Inc.』です。UKアルバム・チャートで初登場1位を記録し、1stアルバムの驚異的なセールスを軽々と上回った名作から生み出されたモンスターヒットソングは、Billboardのオルタナティブソング・チャートで8週連続首位を獲得し、アップルのiPodのCMにも起用されるなど、人気を博しました。聴いたことがないという方も、この機会に是非……!


[Verse1(0:34~)]

「ラクダのこぶの上に築いた街も崩壊寸前」

「なのにお前らは出歩かなくちゃいけない、何が拙いのかも知らないから」

「だから通りを埋め尽くすお前らの滑稽な姿を見るのは、実に愉快だ」

「そんなお前らはここから出て行こうとしない、自由を謳っているにもかかわらず」

「新たな境界線を追い求めようと、それは一過性の衝動だ」

「笑顔の咲かない不毛の街」

「俺が聞きたいのはメッセージの着信音だけ」

「俺の夢、キスしてくれないと眠れないんだよ、なあ」


[Chorus(1:05~)]

「大地に聳える風車よ」

「手を取り合って回り続けろ」

「全てを受け入れてくれ」

「時を刻み、落ちてゆく」

「永遠の愛、愛は自由」

「永遠に回ろう、俺とお前で」

「大地に聳える風車よ」

「皆も一緒か?」


 MVにはお馴染みのメンバーが登場し、2-Dが"Feel Good Inc."と書かれた天まで伸びていくほどの超高層ビルの中で、メガホンを構えて歌うところから始まります。会社の外で生きている人々を皮肉るような歌詞でありながら、2-Dは建物の窓際まで歩いていき両手を突いて外を眺めます。自分が非難していたはずの外の世界を羨ましがるように。


 察するに、2-DはどうやらFeel Good Inc.を代表して人々に世界の終末論を説いて洗脳し、勢力を拡大するための手先として利用されているようです。しかしながら、その実、外の世界の自由に憧れているのは2-Dで、その葛藤に苛まれているといったところでしょうか。


[Verse2(1:35~)]

「笑気ガス、正気じゃない、猫も逃がさない」

「ケツの割れ目のように整列させては」

「トラックでポニーを駆けっこさせよう」

「これが俺流の飴と鞭ってやつだ」

「おっと、深入りしすぎたか」

「ケアベアも今年は難儀なこった」

「ただ道だけを眺めてな、俺が導いてやる」

「よお、このままじゃこのモータウンには誰も居なくなっちまうな」

「お前がボケっとしてるうちにな」

「壊れるまで働け、決して逆らおうと思うなよ」

「お前のそのサウンドで、我が社を潰そうとでも」

「なら止まるなよ、やれ、やってみろ」

「チーズみたいに溶け消えるまでな」

「そんでもう一度支配してやるから」


[Chorus(2:39~)]

繰り返し


[Outro(3:10~)]

「止まるな、やれ、やってみろ」(×2)

「お前のキャプテンのやり方を見てみろ」(×2)

「何も変わらない、俺の指示に従え」(×2)


 2番は主にアメリカのヒップホップ・グループであるDe La Soulが参加して歌っています。Feel Good Inc.の社内のモニターに表示された映像と共に、ポニーやケアベア(アメリカを中心に世界中に普及している可愛らしい熊のキャラクター)といった幼稚な言葉で挑発し、2-Dもそれに洗脳されているかのように踊り狂います。


 ここで思い出してみてください。もともとGorillazは、昨今のポップ・シーンで巻き起こっている潮流に反旗を翻すため立ち上げられたプロジェクトであるということを。その陳腐化されたポップ・ミュージック全体をFeel Good Inc.(人々にとって都合の良い存在)だと見立てているのだとすれば、2-Dを始め、Gorillazが目指す外の世界には無限の世界が広がっていることでしょう。


 実際に、曲の終盤に現れる風車(『天空の城ラピュタ』のオマージュだそう)には、何者にも縛られず自由に音楽を奏でるNoodleの姿があります。消費者のニーズに応じてより良い製品を生み出す会社のように、ファンの要求により「作りたい音楽」よりも「売れる音楽」を優先しなくてはならない現状に疑問を呈し、昨今の音楽業界に一石を投じる作品であると同時に、Gorillazは決してそうはならないというアイデンティティを明確に表現しているような素晴らしい一曲だと、僕は受け止めました!


 今回は久しぶりだということもあり、色々と語りたいことも多く、またしても長くなってしまいましたが、ここまでお付き合いくださった方々は、毎度どうもありがとうございます。次回更新はなるべく早くしたいと思いますので、よろしくお願いします。


 言い訳がましいですが、ここまで更新が滞ってしまった理由は他にもありまして……。なんと、本稿は執筆におよそ4日間かかっております(笑)。というのも、フェス帰還後、原因不明の高熱と尋常ではない喉の痛みに襲われ、暫く動けませんでして。今は順調に回復に向かっておりますので、御心配には及びません。ちなみに、コロナでもありませんでした。なんなんでしょうねこれ。


 扁桃腺が平常時の5倍ほどに膨れ上がり、某狩猟系アクションゲームに登場する砂漠の魚みたいになってましたが、何とか助かりました。皆様はくれぐれも、お体に気をつけてくださいね。



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はGorillaz - Feel Good Inc.から引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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