Owl City, Hanson - Unbelievable

 お久しぶりでございます。読者の皆様はお元気でしたでしょうか。僕は所用にて新潟県に2週間ほど滞在しておりましたので、中々まとまった時間を確保することも叶わず、更新が滞ってしまいました。いやしかし、新潟は良いところですねー。水も美味けりゃ米も美味い。そうなれば必然、日本酒がどんどん進んでしまうのも仕方がない……。


 なんて言い訳を盾にしたところで、今日から暫くは口寂しい休肝日。味気ない日常を彩るべく僕が今回紹介する一曲として選ばせて頂いたのは、才能豊かなアメリカ人アーティスト・Adam Randal Youngによる、ドローン、アンビエントに傾倒したシンセポップを基調とするエレクトロニカ色の強い楽曲スタイルが特徴のソロプロジェクト──Owl Cityが、Isaac (Gt, Vo, Ba, Pf.), Taylor (Key, Vo, Perc.), Zachary (Dr, Vo, Pf.)の三兄弟による同国出身のポップ・ロックバンド──Hansonをフィーチャーした『Unbelievable』です。


 ミネソタ州を拠点に活動する革新的マルチ・インストゥルメンタリスト兼ソングライターのAdamは、自身の主宰するエレクトロポップ・プロジェクトのOwl Cityのみならず、 Port Blue, Sky Sailing, Insect Airportなど、多数の別名義で音楽プロジェクトを展開しており、エレクトロニカバンドのSwimming With Dolphinsや、ポストロック系バンドのWindsor Airliftのメンバーとしても活動歴のある多才さの持ち主。また、AquariumやNovelといったスクリーモ・プロジェクトや、Isleというバンドでドラムを担当したこともあるなど、生粋のオールラウンダーとして知られています。


 1986年生まれのAdamは、昨年開催されたFIFAW杯で優勝し、今年サッカー界で最も権威ある個人賞であるバロンドールを史上最多8度目の受賞を果たした1987年生まれの天才・Lionel Messi選手ととてもよく顔が似ています(笑)。彼もまた、サッカー界ではパサー、チャンスメイカー、フィニッシャーなど、何でもできる文句なしのG.O.A.T(史上最高)と称賛される選手ですので、どこかAdamの存在と重なるところがありますね。


 少々話が脱線しました。そんなAdamがOwl Cityとしてプロジェクトを立ち上げたのは、2007年の出来事でした。ミネソタ州公立オワトナ高校を卒業後、コカ・コーラ社の出荷倉庫で働いていた当時のAdamは不眠症に悩まされていました。ぼんやりと働きながら、頭の中で紡がれるメロディーを持ち帰り、眠れぬ夜に実家の地下室でいくつかの楽器とコンピューターの力を借りながら実験に勤しんでいたAdamの気晴らしに過ぎなかったその習慣は、次第に音楽に対する情熱へと変貌を遂げていきます。最終的に彼は、それらの気晴らしをエレクトロニカとエモ・ポップのブレンドとして昇華させレコーディングを行うと、楽曲は完成と同時に2000年代後半の英語圏を中心に大流行した音楽系SNS・MySpace上にアップロードされ、少なくない反響を得ます。


 楽曲に触れた一般聴衆から寄せられたメッセージへのリアクションやブログの投稿など、密な距離感でファンとの交流を欠かさないAdamの親身な態度は初期のファンベースを確立する上で大きく役立ったことは間違いなく、2008年にリリースされたデビュー・アルバム『Maybe I'm Dreaming』は米・Billboardダンス/エレクトロニック・アルバムチャートで13位を記録し、同アルバムに収録されている『The Technicolor Phase』は、かの有名なディズニー映画『Alice in Wonderland』のサウンドトラックにも。この活躍を契機として、2009年に米・Universal Republic(現・Republic Records)と契約したOwl Cityのメジャー・デビュー作『Ocean Eyes』は早速、国内でプラチナヒットを記録するまでに。中でも『Fireflies』に至っては、本国アメリカは勿論のこと、アイルランド、オーストラリア、デンマーク、オランダなど数か国のチャートでトップの座に輝く偉業を達成しました!


 メインストリームにおいてOwl Cityの名を轟かせた名曲といえば、たった今話題に上げた『Fireflies』か、あるいはCarly Rae Jepsen(第57回参照)とのコラボ曲『Good Time』かもしれません。Admaの脳内に広がる独特の世界観から繰り出された夏メロの新定番、今年も街中で耳にしたという方は多いのではないでしょうか。ところが、今回は敢えてその辺りは外しつつ、2015年にリリースされた5thアルバム『Mobile Orchestra』から『Unbelievable』なのです。


 というのも、当該楽曲で共演したHansonとの共作は、その豊かな才覚から引く手数多となっているAdamにとっても念願であったというのです。当該楽曲を「夢のコラボレーション」と語るAdamは、Hansonについて「親切で、一緒に仕事をするのに何の苦労もなかった」と印象を述べています。


 Adamから絶賛を受けたオクラホマ州出身の兄弟バンドは、1997年に米・Mercury Recordsからリリースしたデビュー・アルバム『Middle of Nowhere』収録のヒット曲『MMMBop(邦題:キラメキ☆MMMBOP)』で知られています。MVに出演していた兄弟は当時、上から16歳、14歳、11歳と、あどけなさの残る面影が印象的な少年にもかかわらず、当該楽曲は1998年開催の第40回グラミー賞で2部門にノミネートされるなど、若くして類まれな才能を有していた逸材であることは間違いありません……!


 最初は全員がピアニストとして音楽キャリアをスタートさせたHansonですが、長男Isaacはギター、三男Zacharyはドラムなど、それぞれが独自の役割を持ち始めるようになると、現在のバンドスタイルが確立します。若き少年たちのセンセーショナルな活躍の影響は凄まじく、先述のヒット作『Middle of Nowhere』が本国アメリカで発売された1997年5月6日以降、全世界で1,000万枚を売り上げたことを記念して、5月6日は当時のオクラホマ州知事Frank Keatingにより、州東部に位置する都市タルサで"Hanson Day"に制定されるなど、お祭り騒ぎでした。この記念日はもともと年内限りのものでしたが、今もなお世界中の多くのHansonファンが毎年5月6日を"Hanson Day"として認識しています(笑)。


 勢いそのままにメジャー2作目となるアルバム『This Time Around』のための曲を書き、デモを作っていたHansonですが、この時期、バンドのレーベル・Mercury RecordsはIsland Def Jamとの合併により、バンドが新アルバムをリリースした2000年、プロモーション資金不足のためセールスは低迷し、最終的にツアーの資金援助を打ち切るなど大混乱に。バンドは同年夏から秋にかけて、自費でアメリカ大陸ツアーを敢行します。その後も新曲を完成させる度に、商業性に欠けるとの理由でレーベル幹部に小言を並べ立てられたHansonの堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題でした。より自由で創造的な環境を求めた兄弟はレーベルを脱退すると、自身のインディペンデントレーベル・3CG Recordsを設立しました。この辺の事情を詳しく知りたい方は、ドキュメンタリー映画『Strong Enough to Break』をご覧になってみてくださいませ……。


 詳細な説明を既存作品に丸投げしたところで、そろそろ楽曲本体の話題に移りましょうかね。Owl Cityの持ち味であるピュアなエレクトロニカ・サウンドに乗せられたHansonの透き通るようなボーカルにより、90年代ポップカルチャーの影響を多分に吸収したノスタルジックな雰囲気が楽しめる『Unbelievable』の独特の世界観は、きっと貴方の脳裏にも、Hanson兄弟のデビュー時のような若かりし頃の懐かしい記憶を想起させるかもしれません……。


[Chorus: Adam Young & Hanson(0:07~)]

「信じられないよ」

「この上なく素晴らしい」

「信じられないんだ」

「次に何が起こるかなんて分からない」

「信じられないよね」

「君の未来はもっと美しいものかもしれないけど」

「とにかく、信じられない」


[Verse 1: Adam Young(0:23~)]

「僕が子供だった頃、お小遣いを貯めてC-3POを買ったんだ」

「バスの後部座席でダイエットコーラにメントスを入れたりもしたっけ」

「Spaghetti Os(リング状のパスタが入ったトマトソースの缶詰)を食べたり、レーザータグ(光線銃を使ったサバゲ―)とGI ジョー(アクションフィギュアの類)で遊んだりね」

「男の友情を誓えば、クラブに入ることもできたよ」

「土曜日は家でだらだら、任天堂のゲームで遊んでた」

「記憶に新しいのは『ライオンキング』だね、あれは面白かったなあ」


[Chorus: Adam Young & Hanson(0:47~)]

繰り返し


 1977年より始まったアメリカ発祥のスペースオペラシリーズ『Star Wars』に登場するキャラクター・C-3POの玩具を欲しがったり、日本でもYouTubeを中心地に一大流行を築いた所謂「メントスコーラ」だったり、任天堂のゲームで一日中家で過ごしたりなどなど。アメリカの少年も日本人と割と大差ない子供時代を過ごしているものだなあと、結構共感できる部分がありました(笑)。歌い手のAdamも、Hansonのメンバーたちも似たような幼少期を過ごしてきたのかなと思うと、ちょっと面白いですね。


[Verse 2: Hanson(1:12~)]

「僕が子供だった頃、Power Wheels(幼児向け電動乗用玩具)に憧れてたっけ」

「夜更かししてはアクション映画を見漁ってさ」

「正直、友達も僕も、それがカッコ良いと思ってやめられなかったんだよね」

「木登りとドクターペッパーのジェリービーンズ(グミ状の菓子)だけが生き甲斐だった」

「『ジュラシックパーク』のお気に入りは、ラプトル(肉食恐竜)のリアルな姿」

「まだVHS(家庭用ビデオ規格)を持ってた頃、DJ Jazzy Jeff & the Fresh Prince(アメリカの人気ヒップホップ・デュオ)には釘付けだった」

「Zack Morris(イギリスの俳優)は最初の携帯電話を持ってたし、あれは傑作だったね」


[Chorus: Adam Young & Hanson(1:36~)]

繰り返し


 実際、Zack Morrisは90年代、テレビ上で携帯電話を使用した最初のひとりとして、当時の人々は少なからず衝撃を受けたようです。夜更かしというか「俺は昨日、〇時間しか寝てないんだよねー」みたいなのがカッコ良いと思うのは万国共通なのかと考えると、これまたちょっと面白い……。


[Bridge: Adam Young(2:01~)]

「ギャク(スライムのような玩具)、ポグス(ジュース瓶の蓋を使ったメンコのような遊び)、フローム(粘土状の玩具)、ホームアローン(1990年公開の米コメディ映画)、ベレンステインベアーズ(児童文学)、ビーンバッグチェア(今でいうYogiboのような人をダメにする椅子)」

「ロサンゼルスかぶれのファッションにグースバンプス(児童向けホラー小説)、ああ、エッチアスケッチ(ダイヤルを駆使して絵を描いて振ると消える描画玩具)もね」

「次は何が起こるんだろう?」

「ブドウ味のジューシージュース(ジュースの銘柄)とドクタースース(米絵本作家)、おんぶしてもらいながらスリップアンドスライド(家庭用ウォータースライダー)、マクドナルドのフライドポテト、最高だったよね」

「次は何が起こるのかな?」


[Chorus: Adam Young & Hanson(2:19~)]

繰り返し


[Outro: Hanson(2:55~)]

「驚きの連続だ!」

「あの頃は最高だったね!」


 土着的なポップカルチャーを懐かしむ単語の嵐、全て括弧書きで意味を解説しましたが、詳しくはご自分の手で調べてみてください。我らが日本でも馴染み深い玩具や菓子、創作物がヒットすると「あー、これね!」「あったなーこんなの」とノスタルジーに浸れます。2015年、当該楽曲の作詞作曲に携わったOwl City及びHanson兄弟の年齢が三十路前後だったことを考えれば、同世代の方には特におすすめです……!


 はい。それでは、今回はこの辺で締めにしたいと思います。最近、寒暖差の激しい季節となって参りましたね。本作をお楽しみくださっている読者の皆様も、時には音楽の助けを借りながら体調には十分お気をつけて、引き続き次回も当ページを再訪して頂けると幸いです!



 †††



 ※本作における改行後の連続する「」内は主に作品タイトルとなっている楽曲の歌詞の一部分又はその翻訳です。今回はOwl City, Hanson - Unbelievableから引用しております。


 ※本作品は、著作権法32条1項に依拠して公正な慣行のもと批評に必要な範囲で「引用」するという形で楽曲の歌詞を一部和訳しております。文化庁は引用における注意事項として、他人の著作物を引用する必然性があること、かぎ括弧をつけるなどして自分の著作物と引用部分とが区別されていること、自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること、出所の明示がなされていることの4要件を提示しておりますが、本作品はいずれの要件も充足していると執筆者は考えております。


 ※カクヨム運営様からも「カクヨム上で他者が権利を有する創作物の引用をすることは可能ですが、その場合は、著作権の引用の要件に従って行ってください。また、外国語の翻訳は書き方にもよりますが、引用にならないと存じます。」という旨の回答によってお墨付きを得たものと解釈しております。


 ※ただし、歌詞原文の全てを掲載することは引用の範疇を越えると思われますので、読者の皆様は紹介する楽曲の歌詞をお手元の端末などで表示しながら、執筆者による独自の解釈を楽しんでいただけると幸いです。

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