*第0話 プロローグ

ベージュ色のカーテンが夏の日差しを和らげて、

程よく室内を照明している。

ホテルの一室の様だが介護ベッドを囲む医療器具や、

時折に来る看護師の足音が病室ですよと告げる。


個室は広くても見舞い品の一つも無い。


昏睡状態に陥って三日目。

今日この時、

彼の人生は静かに閉じようとしていた。


挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330656306657030

***


(大した苦労も・・・

努力もしなかったな・・・

手ごたえも充実感も・・・

無いな・・・)


『そうですか?それは残念ですね』


(あぁごめんね・・・

君は少しも悪くないよ・・・

君がいてくれなかったら・・・

とっくに死んでいたよ・・・

君に頼り切った僕が・・・

ダメ人間だった・・・

それだけだよ・・・)


『それにしても早過ぎましたね』


(仕方ないさ・・・

脳腫瘍なら・・・

諦めもつくよ・・・

それに・・・

幸せだったよ・・・

とても・・・)


『手ごたえも充実感も無いのに?』


(うん・・・

自分では何も・・・

成し遂げたものは・・・

無いけどね・・・

楽しかったんだ・・・

君と一緒に居る事が・・・)


『まるで愛の告白のようですね』


(そうだよ・・・

告白だよ・・・

愛のね・・・)


『あの人と、どっちが上ですか?』


(ふふ・・・

比べる事は出来ないな・・・

どっちも愛してる・・・)


『二股ですか?』


(そうだね・・・)


『生命活動が低下してきました、

数分後に停止すると思われます』


(あぁ・・・

死ぬのか・・・

もう痛みも感じない・・・

君がいてくれたのに・・・

こんな結果で・・・

ごめんね・・・)


『いえ大丈夫ですよ、転生先では

充実した人生になる筈ですから』


(え・・・転生するの?)


『はい、そうですよ。

その為に私が居るのですから』


(そんな話・・・

初めて聞いた・・・

それならそうと・・・

早く言ってよ・・・)

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