*第59話 野生の王国

無数の河川と生い茂る大木が極相きょくそうを成し熱帯雨林を形成する。

ハイラムは野生の王国である。


小父貴おじき

ワシら舐められとるざんすよ!」

舎弟頭しゃていがしらのキーロヒー・マトールカートが息巻いきまく。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330660524063762


「落ち着くざんす、今クリステルの姉御あねごが取り持ちよるざんす。」

顧問のブントス・ガーワラーがなだめる。


「ワレは姉御の顔を潰す気ざんすか?」

相談役のケーンサン・トアーカクラがキーロヒーを睨みつける。


「そがぁな事は思うてないざんす!

でも何が悲しゅうてコイントのケツ見らにゃならんのざんすかい?」


聖女の訪問がコイントよりも後回しにされた事が気に食わない。


国王クロビー・ハイラムは叔母であるオバルト王后おうごうクリステルに

根回しを依頼しているが、<時期を待て>と返事が来ているだけだ。


パチンと極彩色ごくさいしき扇子せんすを閉じて

王后パオパールが口を開く。

「使者を送るざます。シシーオンとヒバリーヌを行かせるざます。」


若頭わかがしらシシーオンと、お嬢ヒバリーヌを使者にすると言う。


「それが良い!さすがあねさんざんすね!」

キーロヒーが手を打って話に乗る。


「じゃけんど、それじゃぁ叔母御おばごの顔が・・・」

クロビーの表情は渋い。


ねえさんのご機嫌伺いの使者ざます。問題ないざます。」

そのついでに督促とくそくをするだけだとパオパールは涼しげだ。


「ワシもそれで良かろうと思うざんす。」

本部長のタッツィーオ・ロメミーヤが同意する。


「タッツィーオの兄貴は話が分かるから助かるざんす!」

「おいこらキーロヒー!ワシらは頭が固いち言いよるざんすか?」


ブントスは普段は物静かだが怒ると手が付けられなくなる

金筋きんすじの極道である。


「そがぁに青筋立てらんでもええざんすよブントスの、

ワレも気ぃ付けてさえずらんなヘタ打つざんすよキーロヒー。」


ブントスを抑えられるのはケーンサンしかいない。


「へぇ・・・御免なすってざんす。」

ここは素直に頭を下げた。


「話は決まったざんす。」

異論が無い事を確認してクロビーは会議を閉めた。


帰ろうとするケーンサンをクロビーが呼び止めた。


「何ざんすか?」

先代の時には若頭だったケーンサンにとってクロビーは我が子の様なものだ。


小父貴おじきも使者として行くざんすよ。」

「ワシが?いや・・・それは・・・」

戸惑いを隠せない。


「叔母御に会えるのは、これが最後かも知れないざんすから。」

「・・・」


帰りの馬車の中でケーンサンはそっと懐からハンカチを出す。

古びた黄色いハンカチは若き日にクリステルから貰ったものだ。


あの日ヤンギーリの川べりで

「連れて逃げてよ」と泣くクリステルに、

無理に背を向けて立ち去った。


その背に極楽鳥が糞をした。

滴り落ちる白い糞がまるで涙の雫の様だ。


「あぁ・・・ワシの背中が泣いている・・・ざんす・・・」


ケーンサンは独身を貫いている。

愛する人は生涯に只一人。


男ケーンサン・トアーカクラは任侠にんきょうであった。

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