*第107話 崩楽園

岩山に遮られて街道からは見えない。

しかし僅かに擦り減った地面と、

小石の密度が人の往来を暴露ばくろしている。


岩山を回り込み先に進むとやがて見えて来た。

木の柵に囲まれた小さな隠し村が。


「本当に在った・・・」


「どうしますか?」

サリーちゃんは報告をしたものの、

どう対処するかは伊予の意思に任せる事にした。


申請した管理者権限は受理されたので、

伊予に敵対する場合に限り、ルルベロの無力化が可能だ。


「行くしか無いよ、僕に出来る事をする。」

そうだ、こんな事を許せる筈が無い!


人のクローンを作るだけなら許せる。

魔法に依る情報操作にミスは存在しない。

理論通りに事象が変化する。

不可抗力で発生する事故は起こらない。


なので理論さえ間違っていなければ。

魔法クローンで生まれた個体も、

自然生殖で生まれた子も、

生物学的な差異は無い。


問題は大志の目的である。

ちびっこ伊予ちゃんは材料に過ぎない。

“永遠の伊予ちゃん”を作る為の供物だ。


最初は大志を説得しようかと思ったが、

ルルベロに無駄だと言われた。

そんな段階では無いと。

回復不能な程に彼の精神は狂ってしまったと。


(どうしてこんな事に・・・大志君)


後の事はともかく、ちびっこ伊予ちゃんと、

実験用にされている人達を救出しなければならない。

その思いに駆り立てられて此処まで来た。


「殿下は私が必ずお守り致します!」

ドーモン王国を出る時から傍に仕えている従者のモンテス、

剣士となって伊予の護衛を務めている。


「じゃぁ行くよ、誰も殺さないでね。」

「分かってますよ。」

「承知致しております。」


作戦も何も無い、突入するのみ!


「お前達!抵抗せずに私に従え!」

村に居る信者達に向かって命令する。


「イ、イヨ様!どうして此処に?」


「そんな事はどうでも良い!村長むらおさは何所だ!」


決してひるんではならない、

勢いで押し通るのだ!


直ぐに村長が飛んできた。


「ご、御用で御座いましょうか?イヨ様。」

大導師筆頭の伊予に村長は平身低頭へいしんていとうである。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330663022667373


「子供達と母御の所に案内せよ!」


12人のちびっこ伊予ちゃんと8人の母体、

実験用の被験者5人を救出した。

培養中の伊予ちゃん細胞と培養槽は破壊した。


そのまま伊予の本拠地であるマホの里に退避し、

厳戒態勢を敷いた。


これ以降、教団は分裂し抗争状態となる。

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