*第108話 新大陸へ

沢山の人が死んだ。

信者同士の抗争でおびただしい血が流された。

ルルベロは無効化したが、それ以外の精霊は従来通りだ。

“永遠の伊予ちゃん”計画に賛同した真司は大志側に付いた。

幸いにも光一は伊予に味方して呉れた。


「大志の奴、国を動かす積りらしい。」


どんな取引を持ち掛けたのかは分からないが、

北の王国デーデルンから軍隊が派遣されるとの情報がもたらされた。


「そんな!戦争になっちゃうよ!」


故郷であるドーモン王国からの支援を伊予は断って来たが、

他国の軍が動けばドーモンは黙っては居ない。


大志と真司の勢力にデーデルン軍が加われば勝ち目が無い。

かと言ってドーモン軍に助けを求めれば大規模な戦争に発展する。

負ければ忌まわしい実験が再開されてしまう。

伊予は追い詰められてしまった。


「どうしよう・・・」

気持ちが焦るばかりで考えがまとまらない。


「伊予ちゃん、此処を捨てよう。」

光一が思い詰めた顔で言った。


「捨てる?」

良く意味が分からない。


「あぁ、この大陸を出て行こう。

もしもの事を考えて船を用意して有るんだ。」


光一の一番弟子ゲラスが、東の港町パシパで段取りを付けている。


「大陸を出る・・・」

出て何所へ行くと言うのか?


「海へ出て東へ行けば、別の大陸が在るってミサが言ってるんだよ。」


ファ・ジンムーラ・デアル大陸の事である。


「本当なの?サリーちゃん!」

「えぇ本当ですよ。」


「どれくらの人が乗れるの?」


「大型船だけど200人が限度だ、2隻だから400人。」

少ない・・・

側近の高弟達だけで満杯だ。


「しょうがないよ、もう余裕は無いんだ。

決断してよ、伊予ちゃん。」

迷っている場合では無い。


「分かったよ、行こう!新大陸へ!」


「10日以内に人選と準備を整えよう。

伊予ちゃんのグループから先に出発してね。

俺は殿しんがりを受け持って後から行くよ。」


こうして大陸脱出作戦は開始された。


信者達は伊予の脱出に理解を示した。

我らが大導師様を守れ!

新大陸に精霊の声を届けるんだ!


「僕達が出航したら、直ぐに降参してね。

生き延びる事を考えるんだよ。」

そう言い残して伊予達は出発した。


パシパの港に着いたのは40日後。

追撃を受けながらの苦しい道のりであった。


「さぁ!早く乗船して下さい!」

ゲラスが準備万端整えていた。

優秀である。


5日遅れて光一達のグループも到着した。

追手が攻めて来るまでには半日程の猶予しか無い。

今直ぐにでも出航しなければ成らない。


「沖に出たら、この大陸を封鎖します。

彼らが追って来る事は有りませんが、

二度と此処に戻る事も出来なくなります。」


サリーちゃんの管理者権限はこの為に有る。


今生の故郷との決別に伊予は万感の思いで振り返る。

そしてちびっこ伊予ちゃん達を見る。

やがて水平線を見つめて言った。


「行こう!冒険の始まりだ!」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330663066572691


外伝 完


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