*第68話 夢の中へ

エルサーシアがその最後を知らされたのは、

王都に帰還する馬車の中であった。


手紙を読んですぐにゲートを開いて戻りたかったが、

予定通りに帰還せよとのパトラシアからの指示がしるされていた。

フリーデルが落ち着くまで待てとの事であった。


王都では乱心したマルキスの無理心中として決着を付ける事になった。

王家の醜聞しゅうぶんを明るみには出せない。


国王の血液を採取して再鑑定が実施された。

結果は“偽”であった。


フリーデルの父親は誰か?


正常な成人男性の精液中には一回の射精で約五千万から一億個の精子がある。

二千万個を下回ると自然妊娠は難しくなる。

運動率や奇形率も大きく影響する。


マルキスは先天的に精子が少なかった。

恐らくは五百万個くらいであろう。

その数で自然妊娠させるのは、ほぼ不可能である。

それでもアナマリアは身籠みごもり、フリーデルは生まれた。


アナマリアの執念が手繰たぐり寄せた、

フリーデルは奇跡の子である。


***


「エ・・・エルサーシア・・・母上が・・・母上が・・・」


あぁ殿下・・・殿下・・・お可哀そうに・・・

「さぁ殿下、此方こなたにおいでなされませ。」


王都に着いて直ぐダモンのお城に参りましたの。

帰還のご報告も略式でご勘弁して頂きました。


殿下はお部屋で泣いて居られましたの。

もう言葉は邪魔ですわね。

私の胸でお泣きなされませ。


泣いて泣いて、ひとしきり泣いて。

泣き疲れるまで泣いて、

お眠りなされませ。


目が覚めたら炭火で焼いた時鮭を御馳走して差し上げますわ。

シャケと涙と男と女ですわ・・・


一緒にお話しを致しましょうね。

一緒に明日を探しましょうね。

悲しくてどうしようも無い時は、

一緒に泣きましょうね。


もしも殿下が望むのであれば、

私がバルドーを滅ぼして差し上げますわ。


失ったものが戻る事はありませんけれど、

前を向くのにそれが必要なのであれば

私がお手伝い致しますわ。


ですから今は、

お休みなさいませ・・・


挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330661009742441


第一部 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る