*第90話 意味の無意味

何か意味が在る筈だと思う。

価値の有る人生は何所かと彷徨さまよう。


何事かを成し遂げた先に、

何某なにがしかの答えが待っていると信じる。


答えてやろう

辿り着いた先にあるのは

虚無きょむだ。


教えてやろう

お前は今

鏡を見ているのだ


***


面疔めんちょうか・・・」

鼻の頭に出来た腫物はれものを指先で軽く触る。

じくじくと痛い。

鏡に映る渋面に赤いしるしがマヌケだ。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330661932793623


「ふぅ~、さすがに笑えぬ。」

デカシーランドが一方的に条約を破棄し、

同盟軍を名乗るオバルトの兵団が駐留軍を駆逐した。


帝国民は難民となって逃げだし、

利権は完全に失われた。


海では聖女が暴れ回っている。

既に二百隻以上が沈められている。

主力艦隊が手も足も出ない。


陸と海からの挟撃きょうげきがバルドー帝国の必勝戦だ。

それを想定した軍編成が為されている。

そこが崩されてしまえば、帝国軍は案外に弱い。


「この私が弱気になるとはな・・・

歳を取ったと言う事か・・・」

皺の増えた顔をもう一度眺める。


「マヌケな顔じゃの。うふっ、うふふふふ。」


何らかの理由があって聖女が誕生したと丞相は考えている。

確かに理由は在る。

この世界を活性化させる為だ。


観測者の目的は情報の質と量の向上であって、

人の幸福では無い。

人の命もミジンコの命も同等なのだ。


人は勝手に期待し、自惚れ、絶望し、憎悪するが、

彼女達にはどうでも良い事なのだ。

滑稽な見世物くらいの価値でしか無い。


人ならざるにすがってはならない。

苦しめ踏みにじるのが人であるのならば、

いつくしみ手を差し伸べるのも、

また人でしかない。


千に一つ、万に一つの出会いにこそ、

涙の報われる時が訪れる。

それは明日かも知れないのだ。


「停戦じゃ、軍を引け。」

戦略の練り直しをしなければならない。

聖女を倒さぬ限り帝国に勝ち目は無い。


「待つのだ、その時が来るのを。

必ずや隙が出来る。

うふふふふふ。

楽しみじゃ。

うふふふふ。」


丞相の考える以上にエルサーシアは隙だらけだ。

今までも、そして此れからも。

しかしルルナに隙は存在しない。


今までも、そして此れからも。


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