*第112話 文明開化

帝都パーリゾンから沿岸沿いに南へ10日程を下った所に、

ウラガンの港は在る。


川の中流から運ばれて来た木材が貯木場ちょぼくじょうに浮かび、

子供達の良い遊び場と成っている。

追い駆けっこや、落としっこなどで疲れ果てるまで遊ぶ。


「おいっ!早く上がれ!変な奴らが来た!」


貯木場の管理をしている主任の男が叫ぶ。

子供達とは大の仲良しで、時には一緒に遊ぶ。


「変な奴らって?」

「良くわからん!でもなんかヤベェ。」


ウラガン港の沖に4隻の巨大な船が現れた。

真っ黒な船体に突き出した筒から、

同じく真っ黒な煙が吐き出されている。


蒸気船である。


開放されたムーランティスと最初に出会ったのは、

バルドー帝国であった。


封印が解かれてから2年が過ぎていた。


「ほぉ!言葉が通じるのか。」

カヒは驚きつつも好奇心がまさった。

未知の大陸から来た者達との間に、会話が成立すると言うのだ。


「はい、かなりの訛りが有りますが、

意思の疎通に問題は御座いません。」


「陛下との謁見を段取りせよ、それまでは我が屋敷で歓待する。」


文明のレベルは明らかに彼方あちらの方が高い。

あの船は何だ?

彼らの目的が通商であるのか、それとも侵略であるのかを見極めねば成らない。

通商で有るなら儲けさせてやる、侵略ならば手引きをしてやろう。


船が大きければ、乗員もまた大勢居る。

たった4隻で1万を超える。


上級士官は白雲殿に招き、下士官以下は軍港の一角を歓迎村として

急遽にしつらえた。

接待の酒も女も、そして男も充足じゅうそくに用意した。


「いやぁ~ココは天国たいね!」

「もうココに住みたかぁ~」

「そげなこつ言うたら、母ぁちゃんにどやされると。」


「酒も女も上もんばい、しょげんなかとよ。」

「男も愛らしかぁ~」


彼らは外洋調査隊であった。


「こげん豪勢なもてなしばしてもろうて嬉しかたい。」


船団を指揮するピーリー提督が満足げな笑みを浮かべる。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330663256475310


「いやいや、これでも足りないくらいですよ。」


もっと気を許して呉れないと困るのだ。

ずぶずぶに取り込んでやる積りなのだから。


「それにしても立派な船ですな、

どうやって動かして居るのですかな?」


そう簡単には教えては呉れないだろうが、

聞くだけ聞いてみる。


「蒸気機関ばい。」

あっさり答えた。


「ジョーキキカン?それはどの様なものでしょうや?」


それこそ軍事機密であろうから、

そう簡単には教えては呉れないだろうが、

聞くだけ聞いてみる。


「石炭で湯ば沸かすとよ、

そいで蒸気ん力ば使うて外輪ば廻しちょるけんね。」


あっさり教えた。


「魔法は使わないので?」

そんな事が出来るのか!


「こんくらい魔法っちゃいらんたい。

そげんこつに法師ば使うたらもったいなか。」


あぁ・・・

これこそ我が求める力。

人の知恵の力。

魔法を打ち破る科学の力。


「貴国との同盟を希望致しますぞ。

橋渡し役をお願い致す。

何卒、引き受けて貰いたい。」


宝物庫を開放しても構わない。


「良かばい。」

あっさり引き受けた。


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