第三章 思えば遠くへ来たもんだ

*第121話 コスモスの花を揺らして

不条理は美しい人であった。

微笑みをたたえ、今まさに祝福を与えんとする精霊の様であった。


この所業でさえ無ければ。


「貴方がゴリレオ陛下ですの?」

それ程に大きな体躯では無い、むしろ小柄な方だ。

しかし腰が抜けて見下ろされて居ると、

巨大な威圧に押し潰されそうな気がする。


「そ、そーたい。」


不思議だ・・・

怒りよりも、恐怖よりも、何にも増して、

懐かしく愛おしい・・・


「今すぐに降伏して下さいな。

此処で殺しても良いのですけれど、

ほら、戦後賠償とか色々な手続きが御座いますでしょう?

陛下に玉璽ぎょくじを押して頂けると話が早く進みますもの。」


「い、言う通りにするけん、殺さんでつかーさい。」


この人が望むなら何でもしようとゴリレオは思った。

理由など解らない。

それでも確信している。


(我が一族は彼女の為に存在している。)


と。


***


後に“大陸間大戦争”と呼ばれるジンムーラ国際連盟と

ニャートン・バルドー同盟との戦争であるが、

実際には開戦から一週間で終結した。


本国からの停戦命令にニャートン軍は大混乱となっが、

詳しい状況が伝わると、大急ぎで帰国して行った。


取り残されたバルドー帝国は、暫くの間は戦闘を継続していたが、

戦意を喪失した軍隊は枯れ木の様にもろかった。

陽節まで持ち堪える事は出来ずにバルドー帝国は降伏した。


ニャートン帝国は王国に格下げされ、旧帝都を含む国土の3分の1を

オバルト王国に割譲した。


オバルトはその海外領土をカイエント領と名付け、

翌年の1546年の昇節、レイサン家に封じ、

カイエント辺境伯を徐爵した。


地域を安定させて、尚且つムーランティス大陸に、

精霊教会が進出し布教活動をするには、

エルサーシアの存在が不可欠だからである。


バルドー帝国は国境こそ維持されたが、

かなりの領域を租界そかいとして差し出した。

ゲライス家の失脚と引き換えに教会が仲裁に入った。


フリーデルは大公位を徐爵され旧キーレント領を封じられ、

キーレント大公と成った。

元老院の一員としての地位も拝領した。


スカーレットシモーヌは男爵位とカイエント領に接する地域を封じられ、

スカーレット・シモーヌ・カーミヤマン男爵と成った。


戦後の復興が軌道に乗り始め、

旧帝都に活気が戻りつつ有る後陽の終わり。

街道の路傍ろぼうに咲くコスモスの花を揺らして、

エルサーシア一行を乗せた隊列が通り過ぎる。


挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330664086695635

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